2013年kilk recordsの新連載、第3回目はOTOTOYの代表取締役、竹中直純!
新進気鋭のレーベル、kilk recordsの主宰者、森大地が、様々なゲストとともに音楽業界に疑問を投げかけてきた「kilk records session」。2011年から1年に渡りお届けしてきた本企画だったが、森の野心は留まることを知らず、2013年も連載することが決定!! テーマはより明確に。音楽業界で新しい方法でサヴァイヴしていこうとしている人たちに焦点をあて、森が毎月体当たりで対談に臨んでいく。
第3回目となる今回の対談相手は、OTOTOY代表の竹中直純。本サイトの最高責任者であり、システム開発も自ら行うプログラマーでもある。OTOTOYが、HQD配信、DSD配信、TV♭、ニュース配信など、サービスとコンテンツの充実を進めてきたように、森も大宮に自らのライヴ・スペース「ヒソミネ」をオープンさせるなど成長を遂げてきた。既存のシステムにとらわれない方法を模索してきた同志として、対談は2時間を越える盛り上がりをみせた。OTOTOYの経営理念から、音質のこと、コンテンツのあり方まで、深く切り込んだ内容から、お互いが見ている音楽のあり方を読み取ってほしい。
進行&文 : 西澤裕郎
2013年のkilk recordsを担う新人アーティストをいち早く紹介するコンピ
7人の新人アーティストが集結したフリー・サンプラー
VA / kilk Sampler 2013 New Artists
【参加アーティスト】
Ajysytz / urbansole / Glaschelim / AUDIO BOXING / kottur / Marrybelle / arai tasuku
artwork : kiloglams
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新音楽時代 vol.3 対談 : 森大地(kilk records)×竹中直純
森 : 僕のやっているバンド、Aureoleが1stアルバムを発売した年と、(recommuniから)OTOTOYに名前が変わった年(※2009年10月改名)が、実は同じなんですよ。
竹中 : まさに今話してるこの場所(編注:会議室)で「recommuniどうする?」って会議をしていたんですよ。そのときは音源販売が一日に2、3アルバムとかの状況で、着うたフル全盛期だったのでPCでの売上なんてほとんど期待もされていませんでした。そもそも、当時のタワレコなんかの実店舗みたいに店頭で新しいものが一目で見えて、なんか楽しそうだなっていう体験は、PC配信ではほぼなかったんです。iTunes Storeのトップページにはクールな看板が入れ替わりで表示される以外は自分でサーチするしかないわけで。
森 : そうですね。
竹中 : サーチした先に目的の音源があっても、その音源に対する思い入れというのはほとんどなくて。ユーザーのつけた星があるとか、「インストみたいでつまんなかったです」みたいなコメントが書いてあって、これでどうやって売れるんだよっていう(笑)。今までの音楽の売れ方って、自分との関わりがはっきりした上で、そのときの気持ちを追体験するってことが必要だったと思うんです。本当にそのアーティストが好きだったら、「なんでこんなギターなんだろう? 」とか「なんでフィーチャリング・カヒミ・カリィになったのか?」とか、知りたいじゃないですか?
森 : はい。
竹中 : でも、それを説明してくれる媒体はほぼなくなっていて。今でこそ国内の音楽に関する番組は増えてますけど、ちゃんと音楽を紹介できるテレビ番組も当時は一週間に1つか2つしかなかったんじゃないかな。そして、紙(媒体)は死にかけている。あったとしても、ミュージック・マガジンとかSNOOZERはものすごく編集がちゃんとしているけど、一つ一つが丁寧すぎて読むのがしんどい。もっと軽く読めるものがないかなと思って、「新譜出ました~! 」という楽しい感じが伝わるような媒体を目指して始めたんです。
森 : なるほど。
竹中 : だから、最初はじっくり読める記事が週に1回か2回更新があればいいやって低いレベルで考えていたんですよ。編集部もそんなに人がいないので、あまり無理せずにいい記事を書けば自然に売り上げが上がっていくからって言ってたんですけど、編集長の飯田(仁一郎)君がかなり熱かったというのもあって、あっという間に毎日の更新になって。で、そっち側での可能性というか、紹介すること自体がビジネスになるということを追体験したというか、再発見したような気分でしたね。
森 : 要するに、街のレコード屋さんが音楽を紹介してくれるような感じですね。そういう役割をやろうというのは、recommuni時代から一貫してますよね。
竹中 : そうですね。SNSバブルというかブームに乗っかろうとしたんだけど、乗れなかったというのもあります(笑)。その当時から技術とかサービスの目新しさという点で、インターネット媒体は注目だけはされるんですけど、それだけなんですよね。例えば、mixiが流行っているとか、GREEがゲームを始めましたとかだけで、その後うまく転がるかどうかはほったらかしなわけですよ。サービスが蟻地獄みたいなものだとしましょう。そこに足を踏み入れれば、どんどん深みにはまっていって、どんどんお金を使うという、サービスの虜になることがあるんですよ。でも、その図式をOTOTOYに当てはめても、そもそも穴を開けてる所に人が来ない。
森 : ああ~。
竹中 : まとまった音楽情報というのが、ナタリー以前はなかったんです。海外にはPitchforkのような音楽批評媒体はあったし、個人ブログにはあったんですけど、個人でやれる範囲は狭いわけだし。英語を読むのは大変だし、日本ではインターネットで気軽に読める情報がなかった気がしていて。で、そこに大きな穴を空けても、そもそもそこに流通がなかった。それが初期の段階ですね。でも頑張って、臆面もなくフライヤーを配るとか、やれることは全部やってきた気がします。お金がないので、テレビCMを打つとか、グーグルに大量にバナー広告を出すとか、アドセンスで頑張るみたいなことは出来ていないんですけど、自分たちの背丈の範囲でやってきた感じですね。
森 : 例えば今、CINRAもオンライン・ストアを始めたりしているじゃないですか。その中で、OTOTOYの売りはどういったところなんでしょうか?
竹中 : コンテンツとシステムの二面あると思っています。コンテンツというのは高音質配信のことで、それがOTOTOYを救ったと言っても過言ではないんです。iTunesで買わずにOTOTOYで買う理由ってなんだろうって考えたときに、簡単に思いつくのは、iTunesにないもの、なんです。だから最初はそれこそインディーズと言われる、編集長の飯田君が強い分野でもあったオルタナティヴ・ロックで、CD化されていないものを開拓しにいったんですけど、限られているんですよね。ちゃんと録音しているライヴなんてあんまりなかったり。それから、録音してあっても昔の作品や演奏だから権利者が出したくないってこともある。すぐに出ちゃってたら諦められるけど、出す前に何年もストックしてるから、「う~ん、これなぁ~」という判断にすごく時間がかかるんですよ。
森 : なるほど、わかります。
竹中 : で、オファーして何ヶ月も待ってからNGでした、みたいなことが結構あって。でも出せば確かに売れるんですよ。レーベルなりアーティストが喜んでもらえる結果は少しずつ出せてたんですけど、とにかく大変だったんです(笑)。
森 : それで会社をまわしていけるほどの数はリリース出来なかったってことですね。
竹中 : そうなんです(笑)。で、アーティストはリリースする音源の高音質版をマスタリング段階で必ず作っていることに気がついたので、それをそのまま出してみたら、やっぱり売れる。CDよりも音が良いということは普通の人にわかりやすい条件だったんですね、我々にとっては音源配信がCDを超えられる要素を一つ発見できた。
森 : DSDもOTOTOYをきっかけに知ったという人が多いと思うんですけど。
竹中 : そうですね。
森 : DSDの反響は大きいですか?
竹中 : 反響は大きいですね。「とにかく音がよい」ことを、DSDという記号で押し出すことに成功したように思います。WAV配信のときには"HQD"という略号がわかりやすいと思って同様に押したんですけど、言葉が普及する速度も遅かったです。まあ、造語ですから。
森 : ええ、そうですね。
竹中 : DSDというのは、なんといっても他人(SONY)が決めてくれた、かっこいい名前ですよね(笑)。「ダイレクト・ストリーミング・デジタル」。なんかめっちゃかっこいいじゃないですか。
森 : (笑)。
竹中 : そんなタイミングで、去年の秋ごろにハードウェア・メーカーさんから、DSDフォーマットを再生する機械が出始めたので、OTOTOYが取りまとめましょう、と。おこがましいかもしれないんですけど、そういうことをやっている人や会社はなかったんで、昨年末に実際にどうですか? って声を掛けてみたんです。メーカーさんも困っていたのか、ブランディングをどうするのか考えていたタイミングだったのか、意外なほど乗ってきてくれたんです。
森 : 僕も以前「DSDって音がいいんですよ」って聴かせてもらったら、びっくりしたんですよ。ライヴ会場で生で聴いてるような音で。思わず、バンドの練習を録音するために、KORGのDSD録音機を買っちゃった位で(笑)。
竹中 : KORG MR-2ですか?
森 : そうです。あれは、すぐに違いがわかりますよね。
竹中 : 藤森沙羅というOTOTOYのインターンの子が、FISHMANS+の「A Piece Of Future」をDSDで聴いて泣いた経験をきっかけにBCCKSで電子書籍にして出版したら、何百人単位の方が読んでくれています。まさにそういうびっくりが伝染していってる最中だと思います。
森 : 昔はその辺りに関して無知だったので、正直CDで十分高音質だと思ってました。少なくとも普通の人にはマスター音源とCDとでほとんど違いの分からないレベルだと。例えばライヴ会場でスピーカーから流れている音と、家の高音質なCDコンポで聞く音との違いは、単純に音量かと思ってたんですね。
竹中 : 確かに音量の面もありますよね。
森 : ですけど、ここでDSDを聴いてびっくりしたのが、確かアコースティックな音だったと思うんですけど、まさにそこで生演奏しているかのように聴こえて。今まで気が付かなかっただけで、「ここまで違うのか!? 」と。
竹中 : (笑)。
森 : みんなCDで不自由してなかったと思うんですけど、それはテレビがアナログ放送でも不自由していなかったのと一緒で、不自由はしてないけど、よりいい音で感動できるならそのほうがいいですもんね。
竹中 : ライヴ会場でアコースティックなんかを聴くと、普通の人は気が付いてない(認識してない)んですけど、空調の音とか、会場の壁があることによる反射音なんかが、臨場感の要素になってるんですね。DSDではそれが録れるんですよ。空調のホワイト・ノイズみたいなものは、圧迫感というか空気感を作るのに一役買ってるんですけど、44.1kHzの16bitでは、それが全部丸められる感じがするんですよね。だから演奏だけが聴こえてくるというのがCDで、DSDはそういうのをひっくるめて全部録れる。スピーカーとかアンプがちゃんとしていれば、ホワイト・ノイズなんかもその通りに入ってくるというのが、恐らく本質的な違いなんじゃないかな。
森 : なるほど、そうですね。
竹中 : 例えは悪いかもしれないけど、コンドームをしてるかしてないか、みたいなことです(笑)。
森 : (笑)。
竹中 : で、DSDで象徴されるようなことがもう一面あって。さっき二面あるっていいましたけど。システムの面でいうと、きっちり作っているシステムではないんですね。実を言うと。
森 : ほう~。
竹中 : 最近のオープン・ソフトウェアは、アジャイルといって、とにかく作って作って、状況に柔軟に対応していく作り方をしていて、OTOTOYは2004年の設立からずっとそうしているんですよ。だから建て増しの部分も増えて、だいぶ汚い部分もあるんですけど、その分DSDを突然配信したいとか言われたときに、素早く対応できるメリットがあるんですね。WAVを始めたときもそうだったんですけど、例えばiTunesだったら配信の手順を変えようと思ったら、アメリカ人の開発者に色々説明して、こんな理由があってこんなビジネスになるからこうしなきゃいけないんだって、当時はたぶんスティーヴ・ジョブズとかも説得して、世界中を対応させる規模でないと変えられなかったはずなんですけど、僕がプログラムを書けるということもあって、OTOTOYは僕を説得できれば変わるんですよね。
森 : なるほど。
竹中 : そこがやっぱり小さい会社でやってるメリットなんじゃないかな。
森 : 今実際に、配信の売り上げとWeb媒体としての売り上げと、売上的にはどちらの比重が高いんですか?
竹中 : ポートフォリオでいえば、配信の方が大きいです。
森 : あ、そうなんですか。
竹中 : はい。まあそれは具体的な数字は出せないんですけど、kilk recordsさんにお返ししている金額からも想像ができるのではないかと思うんですけど。
森 : ええ。はい。
竹中 : 僕らは元々、広告に関するビジネスを積極的にやることは考えてなくて。でもレーベルとかアーティスト側からの要請で、枠を作って欲しいとかバナーを貼って欲しいというのがあって、その場その場でメニューをそこで考えることを繰り返してきたので、割と良心的な、というかバカみたいに安い料金体系なはずなんですよ。
森 : ええ、そうですよね。
竹中 : それでも広告などの広い意味での告知が意味のあるものである以上、「媒体ビジネス」が、恐らく今後は半々ぐらいまで伸びていくんじゃないかと思っています。ただ、僕らは音源販売会社なので、配信が伸びないと広告の効果も伸びないわけですから、媒体価値も含めて成長していかないといけない。だから、音楽販売の伸びが広告を引っ張っていく状態が、しばらくは必然だと思います。