狂気と矛盾に満ちた世界に放つ10の光ーーabout tess、超絶ポップに疾走する4thアルバムをリリース
カオティックでテクニカルなサウンドを放つインスト・バンド、about tess。4thアルバム『shining』は前作からなんと約3年半ぶりのリリースとなる。そしてその内容に、待ち望んでいたファンはいい意味で裏切られることになるでしょう、確実に。無機質にも感じられた彼らのサウンドは驚くほど彩られ、まるで違うバンドのように。結成10年、ベテラン・バンドの域に達しながら現在進行形でひた走る、彼らの挑戦しまくったサウンドに耳を澄ませていただきたい。
about tess / shining
【配信フォーマット / 価格】
WAV / 1,600円(単曲は各160円)
mp3 / 1,500円(単曲は各150円)
【収録曲】
1. Shine
2. Prism
3. Atom
4. Void
5. Seer
6. Flame
7. Prayer
8. Mirror
9. Dazzling
10. Eyes
INTERVIEW : takuto(about tess)
まさか、about tessがこんな変化を遂げるとは思ってもみなかった。本作に掲げられたキャッチは、歌舞伎町的J-POP(!?)。先行公開された「shine」のMVでは、歌舞伎町一番街をバックに、まるでホストのような格好で黙々とテクニカルできらびやかなサウンドを奏でる彼らがいる。それまでの硬派なインスト・ロックというイメージは一気に吹っ飛んでしまった。しかし、彼らは決してこれまでやってきたことを否定しているわけではない。バンドとしての見せ所をコンパクトにし、圧倒的なまでに集中して繰り広げているのである。過剰とも思えるけれど、侘び寂びが効いており、けっして冗長ということもない。そのポップさの根源を探っていくと、そこには90'sのJ-POPが息づいていた。
about tessは、ツイン・ドラム、ツイン・ベース、ツイン・ギターという特異な6人からなるバンドだ。リーダーのtakutoは、ピエール中野(凛として時雨)とカオティック・スピードキングというユニットで活動したり、world's end girlfriendのサポート・ギターとしても活動している。さらに、新宿のライヴハウス、Motionの店長としても8年間勤務している根っからの音楽人だ。そして本作は、world's end girlfriend主宰のレーベル、Virgin Babylon Recordsからのリリースとなる。前作で1曲100分という大作を作った彼らが、なぜここまで振り切ることができたのか。そこには2年間の苦悩を乗り越えた経緯と、当たり前にいい曲を作るという時代の流れとリンクした足跡があった。リーダーのtakutoに話を訊いた。
インタヴュー & 文 : 西澤裕郎
前は技術を曲に当てはめていたのが、今回は技術をサビとして扱うみたいな感じ
――これは決して変な意味じゃなくて、about tessの新作を聴いたら笑えてきちゃって。
ああ、それは嬉しいです。
――笑うしかないくらい、すごいと思ったんです。
前作までは、ストイックに思われていたり、硬質なイメージがあったと思うんですよ。作品に対するイメージも、恐いとかストイックとかって感じだったんですけど、今作ではそれを裏切りつつ、抽出したものは相当込めたつもりです。自分たちでは、なんら変わったつもりはないんですけど、どポップになっているんじゃないかと。
――歌舞伎町の映像をバックに、黒いスーツを着た6人が凛として演奏を繰り広げる「shine」のMVもすごいですよね。ここまできたら、もう圧巻ですよ。
それはすごく嬉しいです。はっきり技術というか、そこは出したいところではありました。もちろん、いままで出してきた部分もあるんですけど、今回はイントロ、A、B、サビみたいな構成をしているんで。敢えてBメロで「速弾き」するみたいな。
――そう、わかりやすくテクニカルなんですよね。
魅せるための技術というか、順番を変えた感じではありますね。前は技術を曲に当てはめていたのが、今回は技術をサビとして扱うみたいな感じで。
――それは、どういうことですか?
簡単にいうと、これまでは演奏を延々とやっちゃっていた部分があったんですね。初めて聴く人や楽器に長けてない人からしたら、「なんかすごそう」どまりだったと思うんです。今回はコンパクトに、わかりやすく魅せちゃおうって。
――それにしても『shining』が出来たのが不思議で。ここまで変わったのはなんでだったんですか。
大きな点はいくつかあるんですけど、world's end girlfriend(以下、WEG)の立ち上げたレーベル・Virgin Babylon Recordsに所属したことは、すごく象徴的なことでした。僕はWEGのサポートで弾いたりもしているんですけど、そのなかで感じたのは、about tessって、聴く人を限定してしまうところがあって。WEGと出会った5年のなかで、自分の持ち味だとか聴かせどころとかを聴いてもらうには、よりコンパクトにしなきゃいけないし、したくなってきたんです。それが今作にはすごく凝縮されたというか、聴かせどころをはっきりしたい欲が強くなりました。
――具体的に、WEGのどういう部分に感化されたんでしょう。
あの人の曲って、一種の狂気というか、1曲通してポップな印象を与えつつも同じ展開やアレンジは二度と出てこない。ものすごい構築力なんですよ。作品もライヴも、それだけ込めないと作品って言えないんじゃないかって気持ちが僕の中に自然に芽生えてきて。長く延々とやるのはライヴではある種有効ではあると思うんですけど、ぼくは次の次元にいきたかった。
――それこそ、WEGの『SEVEN IDIOTS』はダンテの『神曲』をモチーフにしていましたよね。about tessも前作では鳥の一生というモチーフがあったと思うんですけど、今作にそういうモチーフはあったんでしょうか。
今回はタイトルが『shining』で、光、輝きなんですけど、10曲すべてが光を放つタイトルになっているんですね。その10曲が集まって大きな輝きになっています。
いまだからこそJ-POPって言いたい気持ちがすごく強くなって
――テーマがあるけれど、1曲1曲独立もしていて、聴きやすいですよね。
前作で100分1曲の作品を作り終えて、次のアルバムは短い曲をいっぱい入れるアルバムにしようと頭に浮かんで、すぐデモ作りをはじめたんですよ。そのときは、テーマもなく始めたんですよね。でも、作っても作ってもそのデモがおもしろくないんですよ。で、ある日、マブである赤い公園のギターの津野(米咲)さんにデモを聴かせたんです。その子はまったくお世辞も言わないし、本当のことを言ってくれる子なんですけど、「ほんとつまんないね」って言われて。
――あはははは。
「なにがやりたいのか全然わからない」みたいな感じに言われて。まったくその通りだったんですよね。それを言われて、すっきりしたというか、全部ゴミ箱に捨てたんですよ。いま思うとその2年ははっきりスランプだったと思うんですけど、1からキレイな気持ちで曲を作っていこうと思えたときに、自分のなかで視界が広がったというか。自分が音楽をやってきたこととか、世の中の状況とかいろいろ考えたときに、原点に帰って曲を作れるようになったんです。
――原点ですか?
東京のインスト・バンドがアルバムを出すリアリティってなんだろう? って考えたときに思いついたのが、日本でやっていることを音で現したいっていうことで。日本のバンドだってはっきりわからないまでも、世界中の人が聴いたときに、ちょっとストレンジな印象を与えたかった。でも、太鼓とか琴を入れるのは、僕のなかでのリアリティではなかったんですよ。それと同時に、僕のなかでリアリティがあったのが、90'sのJ-POPだったんですよ。
――原風景というか、日本の音楽シーンが盛り上がっていた時代ですよね。
そのころの音楽を焼き直すつもりはまったくなかったんですけど、いまだからこそJ-POPって言いたい気持ちがすごく強くなって。そしたら、3ヶ月くらいで10曲できたんですよね。1月からデモを作り出して、3ヶ月くらいでできて。メンバーで組み立てて、レコーディングまで、ものすごくスムーズにいきましたね。
――takutoさんは、新宿Motionの店長もされているじゃないですか。つまり、毎日、ライヴを観ている。そこで感じる変化というのも影響しているんじゃないですか。
そこは大きなポイントですね。(Motionには)8年間いるんですけど、2~3年周期で傾向が変わっていて。7、8年前は、とにかくドラム移動だったり、セッティングが変なバンドがいっぱい出た時期だったんですね。5バンド出たら全部ドラムの位置が違うみたいな。
――へえ。
若い子っていつも正しいと思っていて、なにか危機感を感じて理屈じゃなく、そういうことをやっちゃうと思うんですよ。
――なるほど。
5、6年前は、とにかく暴れるバンドが増えました。怪我しちゃうバンドも多かったですし、それが当時のリアルだったと思うんです。3、4年前は、どれだけ変なことをやるか合戦みたいになってきたんですよね。いいイベントでも誰が一番頭おかしいか? みたいになっていて。で、僕が曲作りのスランプから抜けた1、2年前に出てきたシーンっていうのは、どんだけ普通のことをやるかっていうこと。ふくろうずとか赤い公園って象徴的だと思うんですよ。ものすごくクオリティの高いことをしながら、それを掬ってしまうようなライヴを意図的にする。抜けてくるバンドは、いかに普通のことをするかってとこに向いてきた。普通が一番難しいし、普通が一番かっこいいというか。今回も短い曲のなかで普通の構成でどんだけちゃんとしたことをやるのかというところで、はっきり影響を受けていると思います。
叩かれたいつもりでもやったところもあるんです
――ちなみに、takutoさんにとってのJ-POPって、どういうものなんでしょう。
言葉にすると、すごくくさい言い方になってしまうんですけど、夢の象徴みたいなものなんですよね。まだそのころは偉い人が偉いと思えたり、スターがスターだったり、尊敬できる人が尊敬できる人だった。それは音楽だけじゃなく、映画俳優とか、ミュージシャンとかもそうで、そういう象徴であれる時代だった。でも、2000年代になって、大人ってえらくなかったんだなとか、政治家ってひどいこともするんだなとか、企業の大人の人は自分のことばかり考えているんだなとか、全部ばれちゃったんですよね。自分の都合を守るために、大義名分だけで動いていく。すごく恐い時代だなと感じて。今回のアルバム・ジャケットもそれを現しているんです。街はハリボテだし、輝いている光はドット、つまり情報でしかない。
――それでもtakutoさんは絶望しているわけではない。
それがバレちゃったし、混沌としているけど、僕は音楽をやる人間なので、輝きを表現したほうがいいんじゃないかと思って。世の中にカウンターをあてたい気持ちが大きくて、はっきり輝きということを現したかったんです。それで、『shining』というタイトルをつけました。音楽をやっている人ができることは音楽なんです。それ以上でもそれ以下でもない。じゃあ光ろうと思ったのが今回のアルバムです。
――いまって、ガチンコが好まれるというか、特にそう見えるようにしないといけないような風潮がある気がして。
いま、ちょっとしたほころびをみつけて、よってたかっていじめる世の中だから、批判していい対象がみつかると集中砲火をうけますよね。ぼくは今回歌舞伎町的J-POPって書いたのは、叩かれたいつもりでもやったところもあるんです。
――叩かれたい?
さっきのハリボテの世の中じゃないんですけど、とにかくほめることしかない世界と叩く世界が螺旋のように共存しているのが、いまの世界だと思っていて、そこを埋めるという意味で叩かれることも必要なんじゃないかと思って。この構築したポップスを、歌舞伎町的J-POPと呼ぶことによって、なんじゃそれ? って反応もほしいですね。だって… 歌舞伎町J-POPなわけないんですよ(笑)。自分でいうのもナンセンスかもしれないんですけど。
――(笑)。たしかに今作は、音色の部分では過剰なところが多いですけど、音圧もただあげるだけじゃなく、バランスがとてもいいですよね。
今回、三浦カオルさんっていう、最近だとLITEとかregaをやっている友人に、レコーディングから、ミックス、全部やってもらったんです。リスニングにもフロアにも対応した、生っぽさとベタって張り付いた現代的な音のど真ん中をいきたかった。相当、分離のいい音で、生っぽさを残しつつも張り付いた音もある。だから、めっちゃ時間かかったんですよ。本当は去年内に出せる進行でいったんですけど、ミックスで2ヶ月かかったんです。たとえば、2曲目のバスドラの音一個でも、延々違う違うって言って。4つ打ちも、ありきたりな4つ打ちにしたくなくて、生っぽさを残しながらいろんな階層に届く音を目指しました。そういうこだわりが、全楽器、全セクションにあったんですけど、相当望みどおりにしてくれました。カオルちゃんが、とことんつき合ってくれたからできたサウンドです。いまの世の中の音源のなかで、音像としてもおもしろいものになったと思います。
自分たちにとっても光をもたらしてくれた作品だなって思える
――ツイン・ドラム、ツイン・ベース、ツイン・ギターのインストでありながら、ベースは思ったよりも太くなくて、ぼんやりとしていますよね。
ギター、ドラムを前に置きましたね。ベーシックなベースをごりごり出す選択肢もあったんですけど、そうすると普通になるというか。聞き流してしまう感じになると思ったので、ちょっとくぐもった音を意識しました。
――まさに、このアルバムはギター・アルバムですよね。
ギターですね。でも、ソロとかは前作の半分も弾いてないくらいなんですよ。要所要所で弾き倒したんですよね。
――それにしても、すごい情報量ですよね。まるで50分の作品とは思えない(笑)。
多分、セクションの量でいうと前作より全然多いと思います。WEGじゃないですけど、イントロ、A、B、またイントロに来ても、同じイントロはやっていないんですよね。厳密にいうと50分違う展開が最後まで続くんです。今回、ちょっと長くなりそうなパートがあると、半分にしようって言って、どんどん削っていきました。印象はどんどん変わっていくはずなので、コピーしようと思ってくれるとすると、あれ覚えられない?! って感じにはなると思います(笑)。
――ちなみに、ライヴのスタイルも変わりましたか?
それに関して言うと、弊害が出てきて。6人がリフをユニゾンとかで繰り返すライヴを何年もやってきているので、自分たちが面食らっちゃって。レコーディングに入る前から、リズムに対してのアプローチはメンバー全員で立て直しました。毎週深夜にあつまって、1対1ですべてのパートでリフをやらすんですよね。他の4人は見ていて、ズレたところをダメ出しして、できるまでやる。それをリズム裁判って言っていたんですけど、それをやることによって、いままでよれちゃっていたリフが通用しないって共有できて。ここ最近、about tessを観ていない人が見たら、なんてタイトになったんだろうって思うくらい、演奏に自信が出てきました。結成10年目にしてバンドがめちゃくちゃよくなってきているんです。
――作品とともにバンドの状態がよくなっていったんですね。
いま、バンドが相当楽しくて。みんなで集まって、演奏をちゃんとしていく作業が、はじめて楽器を持ったときくらい楽しいんですよね。『shining』ってう輝きが、自分たちにとっても光をもたらしてくれた作品だなって思えるんです。
――だからこそ、聴いている側もワクワクしてくるのかなと思います。
それは嬉しいです。これが、何年か後に、なんらかの形で返ってくることがあればいいなって思います。WEGから連絡が来たのも、前々作を知ってくれたことがきっかけで、参加することに結びついたので。いまの若い子って、23歳でもう遅いって焦ったりしているんですよね。「メジャーにいける最後の年です」って本気で言っている。だけど、音楽ってそんな短いものじゃないよって。これだけ長く続けていても攻めていけるんだって、彼らにとってもある種のお手本になってほしいし。僕もそこそこ年を重ねてきた中で、「(takutoは)特殊だから、お手本にしちゃダメだよ」って言われることもあって。だけど、僕はそうは思わなくて。誰でもいつでも楽しいことできると思うんですよね。
about tessの過去作はこちら
Virgin Babylon Recordsの作品をチェック!
N-qia / Fringe Popcical
Serph(サーフ)名義ではインテリジェンスの高いエレクトロニック・ミュージックを鳴らし、Reliq(レリク)名義ではビートが前面に出た先鋭的かつアグレッシヴなダンス・ミュージックを生み出しているTakma(タクマ)が、女性ヴォーカリストNozomiと組んだユニットN-qia(エヌキア)。Bunkai-Kei Recordsをはじめ、世界各国のネット・レーベルからリリースを続け話題を集めてきた2人組だ。そんなN-qiaが今回作り上げたのが、『Fringe Popcical』という名の作品。アコースティック・サウンドとエレクトロニック・サウンドが交わる上品なポップ・ミュージック。
matryoshka / Laideronnette
2007年にリリースされた1stアルバム『zatracenie』は、まだ無名ながら口コミで広がり驚異的な売上を記録。5年ぶりとなる待望の2ndアルバム『Laideronnette』は荘厳なストリングスと柔らかなピアノ、無機質ながらも有機的なリズムが鳴り、憂いを帯びた唄、綿密に配置されたノイズが響く。
Ryoma Maeda / FANTASTIC SUICIDE
milch of source名義での活動やEeLのプロデュース等で知られるRyoma Maedaが、本名名義でニュー・アルバムをリリース。今作は実兄でもあるworld's end girlfriendがプロデュースを担当。ミックスはCOM.A、リミックスではSerphが参加。これまでの、どの作品よりメロディーはポップに突き抜け、ロック、パンク、テクノなどを取り込みカオスのまま圧縮して暴走するビートが満載。少年のむきだしの欲望と暴力と自由で描く、焦燥のエンターテイメント・エレクトリック・パンク・ミュージック!! 紛うことなき最高傑作をOTOTOYではでHQD(24bit/48kHzのwav)で配信!
LIVE INFORMATION
2014年2月22日(土)@池袋chop
2014年3月16日(日)@渋谷club 乙
2014年3月23日(日)@新宿motion
2014年4月19日(日)@新宿motion
PROFILE
about tess
TAKUTO (G) / KAZUYA (G) / KANZ (Ba) / MIYA-KEN (Ba) / TETSURO (Ds) / DKO (Ds)
ツイン・ドラム+ツイン・ベース+ツイ・ンギターという特異な6人編成バンド。
延々繰り返されるリフと重なり合うリズム、即興と構築を並列に置き、肉体の限界から精神の暴走までを体現するライヴは「観る」「聴く」というよりは「体感する」もの。