変拍子で物語を紡ぐシネマティック・ミュージックーー流れるイオタ、旅をテーマに完成させた1stアルバム

まるで映画を観ているかのように物語が流れる“シネマティック・ミュージック”を奏でるインストゥルメンタル・バンド、流れるイオタ。変拍子を基軸にロック、ジャズ、ミニマル・ミュージックを巧みに取り入れたサウンドは聴き手に情景を想像させる。リーダーで作曲家の前田紗希は、轟音で変拍子を多用したアバンギャルドな歌ものバンドとして話題を集めたシェリーズのドラマーでもあり、本作には混沌とした現代社会においても“それでも世界は美しい”という彼女の強い気持ちが込められている。studio iota labelという自分たちのレーベルを立ち上げ、旅をテーマにしたサイト「イオタビ」を運営するなど、D.I.Yな活動をする彼女たちへのインタヴューとともに1stアルバムをハイレゾ配信する。


流れるイオタの1stアルバムをハイレゾ配信

流れるイオタ / The world is beautiful(24bit/96kHz)

【配信形態】
WAV、ALAC、FLAC(24bit/96kHz) / AAC

【配信価格】
まとめ購入 1,800円

【Track List】
1. AIR GUN TYPE PARTICULATE EJECTOR
2. ルサンチマン
3. 流れるイオタ
4. robot girl
5. 16days
6. Sunrise
7. 裸足のメリー
8. Thumbs up


流れるイオタ CM「The world is beautiful」40秒アルバム フルオーケストラ篇



INTERVIEW : 流れるイオタ

変拍子は特別なものじゃない。インタヴュー内におけるリーダー・前田紗希の発言が印象深く心に残っている。前田が組んでいたバンド、シェリーズは変拍子を多様した歌物の3ピース・ガールズ・バンドだった。それに対し、流れるイオタは基本的にインストゥルメンタル・バンドである。表面上で鳴っているサウンドは違うかもしれないが、どちらも変拍子を基軸にしている点では共通している。そして、流れるイオタが奏でるサウンドはシェリーズよりも広い世界を描き、聴き手の想像力を喚起するものとなっている。おもしろいのは、そのサウンドをより伝えやすくするために「旅」をテーマにしたサイトを運営したり、レーベルを立ち上げていることだ。なぜ、彼女たちはそうした道を選んだのか? インタヴューで迫った。

インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 大橋祐希

たまたま変拍子の味を知ってしまったというか(笑)(前田)

ーーまずは気になるバンド名から訊かせていただきたいのですが(笑)、「流れるイオタ」の由来を教えてもらえますか。

前田紗希(Drums / 以下、前田) : イオタって、「オリオン座イオタ星」とか「りゅう座イオタ星」みたいに呼ばれるちっちゃい三等星の名前なんですよ。流れ星ではないので「流れる」っていうと矛盾があるんですけど、シェリーズの時期くらいに「流れるイオタ」という曲を作ったこともあってバンド名にしたんです。

左から、永松徳文、前田紗希、矢野聖始

ーーそうだったんですね。流れるイオタはどういう経緯で結成されたんでしょう。

矢野聖始(Guitar, 以下、矢野) : 池袋にあるライヴハウス・鈴ん小屋に友人のライヴを観にいった時、対バンでドラムを叩いている前田を観てすごくいいなと思って、終わった時に声をかけたんです。

前田 : それから何度もセッションをしようと声をかけてくれていたんですけど、私が個人的にsoundcloudにアップしていた「robot girl」っていう1番壮大な曲を一緒にやりたいと言ってくれて。それがめっちゃくちゃマニアックな曲なんですよ。そんな曲をやりたいと言ってくれる人がいるんだと思った瞬間、口説かれましたね(笑)。

ーー(笑)。そこからどういう形で具体的に進んでいったんでしょう。

前田 : もともと私は音大の作曲科で勉強していて、先輩には久石譲さんとか伊澤一葉さんとか渡辺シュンスケさんがいた学科でオーケストラの作曲をしていたんです。それもあって、ピアノを据えてのバンドをやりたくて、最初はドラム、ギター、鍵盤ではじめました。

永松徳文(Bass, 以下、永松) : なので、僕が入る前はベースがいなかったんですよ。たまたま僕が大久保のライヴハウスでやっていたセッションに紗希さんがお客さんとして遊びに来ていて、プレイしてくれて会場を一番盛り上げたんです。 すごくファンクなドラムを叩いていて、これは是非つながっておいたほうがいいと思い、連絡先を交換しました(笑)。僕は普段ジャズばかり演奏しているので、ロックもやる人と出会えたのはすごく新鮮でした。


流れるイオタ「流れるイオタ」

ーー前田さんは作曲科でオーケストラを学びながらも、なぜ変拍子を据えたポスト・ロックやエモをミュージックにのめり込んでいったんでしょう。

前田 : 3歳からずっとピアノをやってきたんですけど、練習が嫌いで違和感を持ったまま音大付属中学のピアノ科に入ってしまって…。そこでドラムに出会って、面白くてはまってしまったんです。高校の軽音部までは8ビートのロックをやっていたので、大学では違うことをしたいと思いジャズ研に入ろうと思っていたんですけど、新入生歓迎会で軽音部サークルに声をかけられて。その頃、オルタナ全盛期だったこともあって、マニアックな日本のインディ音楽とかを知っちゃったんですよね。そこで、たまたま変拍子の味を知ってしまったというか(笑)。

ーー大学で学んでいること、サークルでやっていた音楽は大きく違うものだったんじゃないですか?

前田 : まったく別でしたね。ただ、その両方を融合したい気持ちがあって。実は、さっき話した矢野くんが聴いてくれたsoundcloudの曲は大学の卒業試験で作った曲なんですよ。みんながオーケストラを書く中、私はそれを書きたくなかったのとバンドが好きでやってきたので、ジャズ・トリオの曲にしようと思って初めて融合させてみたんです。

巻物みたいな譜面を作るところからはじまるんです(笑)(矢野)

ーー流れるイオタをはじめるにあたって、どういう音楽をやろうと思ったんでしょう。

前田 : 一言でいえば、シネマティック・ミュージックです。それも、映像ありきのバック・ミュージックじゃなくて、音楽で映像のストーリーを作ろうと思って。

ーーそうなると変拍子はある意味聴き手にとってはとっつきにくい部分もあるんじゃないですか?

前田 : それって、女性特有の感覚だと思ってるんですよ。シェリーズもそうだったし、tricotとかもそうだと思うんですけど、変拍子を物ともしないバンドがいっぱいいるじゃないですか? 変拍子って、別に変拍子じゃないんですよと思っている。

ーー変拍子は特殊なものではない?

前田 : そうそう。メロディの1つというか。暴力的に変拍子をやりたいんじゃなくて必ずテーマを入れるようにしています。意図があっての変拍子。例えば、4分の4で出てきたテーマが6拍子になった時にも隠されているとか、そういう仕掛けがあります。さらに最後に8拍子になった時にそれを回収して終わるとか。

ーーそうしたリズムパターンも、最初は譜面に起こすんですか。

前田 : 頭で思い浮かべて、譜面に書いちゃいますね。

永松 : 紗希さんの場合はクラシックの譜面なんですよ。曲はロックだったりするんですけど。

矢野 : 長いから巻物みたいになるんですよ(笑)。例えば、20枚くらいの譜面だったりすることもある。僕らが普段使っている譜面はリピートで戻ってっていう構成なので2枚くらいで収まることが多いんですけど、「robot girl」とかは長いので印刷して巻物みたいな譜面を作るところからはじまるんです(笑)。

ーー(笑)。「robot girl」は、どういうテーマで書かれたんですか?

前田 : 「希望」と「絶望」のストーリーにしようと思って作りました。すごく恥ずかしい話だから、理由を言うのはイヤですけど(笑)。

ーー絶望と希望を感じるような体験をしたんですか?

前田 : 大学生のとき死ぬほど好きな人ができて、背中越しにバイバイって言われるだけで泣いてしまうような恋愛をすることがあって… まあ、ふられたんですよ(笑)。すごく希望を持った時期と、死にたくなるような絶望が訪れる時期あった恋愛で。こんなことがあるんだと知った時に、それをテーマにしてみたいと思ったんです。

ーーでも、なぜ「robot girl」なんですか?

前田 : ありがちな話なんですけど、ロボットは心を持ちたいと願ったり希望側にいきたいと願う存在、女の子の方はロボットみたいに心をなくしてしまったらいいなと思う存在、そんな2者を描いたんです。

ーーそれぞれが自分にないものを求めていく、と。

前田 : そうですね。お互い反対側の気持ちから歩き始めさせて、最後に交錯する世界を曲で作ってみたかった。小説でいうと、村上春樹とか伊坂幸太郎とかの世界が近いかな。

ーーいわゆる、パラレル・ワールドですよね。

前田 : そうそう。違う世界の話が1話ずつ出てきて最後に交錯するっていうことをやりたくて。その繰り返しで曲ができているんですけど、主体となる旋律はちゃんと作っていて。希望はこれです!! って、そこは伝えないとダメだと思ったんです。


流れるイオタ「ルサンチマン」

ーー元も子もない話をしますけど、ヴォーカルを立てることでより具体的にその世界観は伝わるんじゃないですか?

前田 : ヴォーカルを立てると色が見え過ぎちゃうんですよ。それは漫画と小説の違いだと思っていて。小説だと自分の想像内で考えるじゃないですか? そうやって情景を想像してもらうと、映像が見えるんじゃないかと思うんです。

ーー「16days」にはヴォーカルが入っていますよね?

矢野 : ちょっと前のライヴで、フィッシュマンズの「ナイトクルージング」をカヴァーしたとき、こういう曲が流れるイオタにも1曲あったらいいんじゃないかと思ったんです。耳に残るメロディというか、そういうのは中毒性があると思うんですね。それを狙って作りたいなという思いがあってできた曲です。

ーーどういうことを意識して、歌詞は書かれたんですか?

前田 : インストゥルメンタルの延長としての歌詞を意識しました。歌モノで伝えるのはシンガー・ソングライターの作り方だと私は思っていて。私たちはシンガー・ソングライターじゃないので、4文字の言葉を集めて旅の情景に当てはめて作りました。あなたに会いたいとか、そういう歌詞はダメだなって(笑)。

日本でできないことを海外でできるわけないじゃんと思った(前田)

ーー流れるイオタは、旅が1つのキーワードになっています。前田さんは実際に旅をよくされるそうですけど、いつくらいから旅に出るようになったんでしょう。

前田 : 実は遅くて、一人旅は27歳の頃からなんです。シェリーズをやってた時に身体を壊してしまって、メジャーに所属する寸前でダメになってしまったんです。音楽じゃない何かやりたいなと思ったんですけど、乗り物にも乗れなくなっちゃった。そこから4、5年かけてようやく乗り物に乗れるようになったんですけど、最初は近所のポストまで歩く練習からはじめて、近所の川まで歩く、次に電車で隣の駅に行くみたいな感じで徐々に距離を伸ばしていって。次は夜行バスに乗ってみようとか、フェリーに乗ってみようとか本当に少しずつ外に出られるようになっていったんです。

ーー言い換えると、旅は前田さんのリハビリみたいなものであったわけですね。

前田 : 完全にそうです。

ーー遠くに行くことで得たものはありますか。

前田 : 抽象的な話になっちゃうんですけど、ここじゃないどこかに行けば変われるんじゃないか? っていう考えは違うんだなと思いました。日本でできないことを海外でできるわけないじゃんと思った。遠くに行ったら見えるものがあるんじゃないかと思っていたけど、そこにも日常があるんだなって。

ーーどこまで行った時に気がついたんですか?

前田 : ロンドンです(笑)。いきなり海外に行ったんですよ。それまで、1人で海外に行くってすごいことだと思っていたんですよ。でも、別に飛行機乗ればいけるじゃん、気持ち1つで行けちゃうんだなと思って。

ーー前田さんにそうした過去があったとは思いもよらなかったんですけど、実際に2年半近く付き合われてきた2人から見た前田さんはどういう人だと思いますか。

永松 : 不思議な魅力を持っている人です。人と違うものを今でも感じています。光がある場所には影の存在も必要で、僕のベースでその影の部分も表現出来たらと思っています。

矢野 : 音楽性もすごいなと思っています。ただ、宣伝とかは上手な人ではないので、もうちょっと世の中に出てきてもいいんじゃないかなという思いはあります。

ーー流れるイオタは、どういうスタイルで活動するのが理想ですか? それこそ、作曲家として純音楽を目指したいという気持ちもあれば、大衆音楽を作りたいという気持ちもあるとは思うのですが。

前田 : 確かに芸術性と商業性の狭間っていうのは常に悩んでたんですけど、音楽を作るにあたって自分の作りたいものは絶対に曲げるつもりはないです。理論とかを使って噛み砕いてあげる工夫は忘れずにやっていますけど、作りたい音楽を曲げるつもりはない。それをするためにレーベルをやっているところがあるんです。例えば、音楽が難しかったとしても、劇伴だったらOKなわけじゃないですか? 旅のニュース・コンテンツ・サイト(「イオタビ」)も運営しているんですけど、オーロラの映像に難しい音楽がついてたらセットで綺麗じゃんと思ってくれて、曲も自然に受け入れてもらえるかなって。

ーー自分たちの音楽を活かすためのレーベルでありサイトであるわけですね。

矢野 : TwitterとかFacebookでフォロアーを増やすのも1つの手だと思うんですけど、何か違う方法があるかなと考えた時に、彼女がちょっとオタク気質というか旅好きでもあるので、そういうおもしろさを発信したらおもしろいんじゃないかなと思って。そこから音楽に結びつけたりするのもいいのかなと。

ーーCDの制作や流通もやったり、写真も前田さんが撮られているんですよね。それこそ、シェリーズで行けなかったメジャー・レコード会社に所属するという考え方はないですか?

前田 : そこにこだわりはないというか、音楽バカなので1番適したやり方でできたらいいなと思います。

感慨深くなる時がもっとも危うい時だと思うんですよ(前田)

ーーあくまで音楽ありきで、それを活かす方法であればよいわけですね。約2年かけて完成させた1stアルバムをリリースするわけで、感慨深いんじゃないですか?

前田 : それが、意外とそうでもないんですよね(笑)。

矢野 : 紗希ちゃんが1番感慨深いのかと思ってたけど?

前田 : この活動の中で、感慨深くなる時がもっとも危うい時だと思うんですよ。感慨深いというよりは、次に繋げていくための一歩としか思っていなくて。2作目、3作目まで出して、その時に何か見えてくるんじゃないかって。いまは、安心感みたいなものが大きいです。

ーー充実している?

前田 : 充実を与えてもらっています。もちろん、なんとかしなきゃ… っていう焦りもあるんですけど、まずは第一歩だと思っていて。何か出さなきゃ何も始まらないですし。

ーー次のアクションとしてなにか考えているんですか。

前田 : 次はフィーチャリング作品を作ろうと思っています。がらっと思考を変えて、女性ヴォーカルものを1つ、男性ラップものを1つ、インストゥルメンタルものを1つ、それぞれ作っています。

ーーサイト運営や制作・販売などもやっていたら、曲を作る時間もなかなかないんじゃないですか?

前田 : そうなんですよ。内職とか文章ばっかり書いてる毎日なので。あれ曲は? って(笑)。

ーーその時間もちゃんと確保しながらやらないとですね。

前田 : 本末転倒ですからね(笑)。まずは本作のリリースが落ち着いてからですね。

ーーリリースして、ライヴをやり、ちょっと落ち着いた時に次に。

前田 : やっと次にむける余裕ができるかなって。でも、はやく次の作品も作りたいですし、一個一個しっかり伝えていきたいなと思っています。

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LIVE SCHEDULE

流れるイオタ 1st Album Release Party!
2016年5月29日(日)@関内 B.B.STREET
時間 : open 12:00 start 12:30
料金 : 前売 1,800円+1D(500円) 当日 2,100円+1D(500円)
出演 : 流れるイオタ / Delicious Grapefruits Moon
※OneCoin Lunch Plateあります!!!!!

yoncha 2nd Anniversary Event 第10夜
流れるイオタ 1st Album Release Party!
2016年6月12日(日)@四軒茶屋
時間 : open 17:30 start 18:30
料金 : 前売 2,500円 当日 3,000円(リリース記念ウェルカムドリンク付き)
出演 : 流れるイオタ

PROFILE

流れるイオタ

2014年、作曲家 / ドラマーの前田紗希(Jimanica band set、シェリーズ)を中心に結成されたピアノ・インストゥルメンタルバンド・流れるイオタ。

各メンバーそれぞれが違うジャンルで現在も活動している中、流れるイオタが表現するバンド・サウンドは、ロック、ジャズ、ミニマルなどの要素を取り入れ、まるで映画を観ているかのように物語が進んでいく音楽 = シネマティック・ミュージックであり、映像を加えることで、より一層シネマティックに表現するバンド・プロジェクト。

>>流れるイオタ オフィシャル HP

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インタヴュー

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筆者について
西澤 裕郎 (西澤 裕郎)

1982 年生まれ。ファンジン『StoryWriter』編集長。http://storywriter-magazine.com/

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