だからいま、自分たちで音楽を届ける——fula、2ndミニ・アルバム『Summery Summary』配信
自身初のフル・アルバム『THE KING』のリリース、RISING SUN ROCK FESTIVALなど各フェスへの出演、そして代官山UNITでのワンマンライヴの成功。それから少しの空白があり、2016年1月、2枚目のミニ・アルバムとなる新作がfulaから届いた。ツイン・ギターの軽やかなアンサンブルと随所に散らばる遊び心にニヤリとするリード曲をはじめ、熱気、開放感、ひとたびの寂寥感、そういった"夏"の記憶を呼び覚ます全5曲。そしてOTOTOYの配信ではボーナストラックに「natsu no mushi」のアコースティックver.が6曲目に収録された。
「それから少しの空白があり」——実はワンマンライヴを終えた2015年2月から今作を発売する2016年1月まで、fulaは解散の危機を迎えていた。そして、そこに覆いかぶさるように訪れた"所属事務所の調整不備による、発売日に店頭にCDが並ばない"という事態。その経緯から、彼らが起こした"発明"まで、順を追って話を訊いた。
fula / Summery Summary
【Track List】
01. natsu no mushi
02. paraiso long beach
03. as a shoryu
04. circle of flame
05. titty island
06. natsu no mushi -hi-ace ver.- (Bonus track)
アルバム購入特典として、ボーナストラック「natsu no mushi -hi-ace ver.- 」(M1のアコースティック ver.)と歌詞ブックレットが付属します。
【配信形態】
16bit/44.1kHz(WAV / FLAC / ALAC) / AAC / MP3
【配信価格】
単曲 270円(税込) / アルバム 1,350円(税込)
INTERVIEW : fula
まさに、ピンチをチャンスに変えた! 予期せぬ事態が彼らを襲ったが、屈することはなかった。下も向かずに、ただ前だけを見て走り続ける彼らの言葉から、強い信念を感じた。誰かに頼る前に、自分たちの力でなんとかしようと動き出したその行動力と、継続力は容易いことではない。解散の文字も浮かんだ… でもそんな苦難があったからこそ、今の彼らがいると言える。まさに逆境を乗り越えようともがく彼らの姿を追い、そして本音に迫る。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文&構成 : 木本日菜乃
写真 : 関口史彦
UNITのワンマンが終わって「辞める」「解散」の話まで出た
——今作の制作自体はいつから動いていたんですか?
字引佑麿(以下、字引) : 去年の春ぐらいから動いていました。
——おお、結構早い!
字引 : 完パケも2015年の6月には終わっていましたね。
——なんかいきなり不穏な空気が…(笑)。
字引 : 本来は2015年の8月にはリリースする予定でしたが、僕らの都合で発売を延期させてもらいました。包み隠さないことが礼儀だと思うので、当時のことを話すと、そのころ、自分たちがバンドを続けるかどうか、俺と石川(ユウイチ)が喧嘩したり、それぞれが辞める辞めないの話になったり、いろいろあって、すごく微妙な空気になってたんですよね。
——なんでここで揉めちゃったの?
高木健(以下、高木) : 1番は、UNITのワンマン(2015年2月15日)が終わって、そこではなんとか成功って形で収めたんですけど、「いよいよここから」ってなったときには、メンバー個々も、メンバー同士の関係性もギリギリだったんです。良い結果が出たタイミングで、ちょっと無理してた部分も出ちゃったのかなって。次の作品をリリースしたらきっと良くなるとも思っていたんですけど、うまくいかないことの方が多くて。
安本佑治(以下、安本) : サイゼリアで話し合ったよね、渋谷の(笑)。
——その"運命のサイゼリア"ではどんな話をされたんですか?
安本 : まず、イシくん(石川)が辞めるって言い出してたので、説得して。それでちょっと時間が必要だってことで待っていて、回答を聞くことになったのが"運命のサイゼリア"なんですよ(笑)。
——石川くんは、なんで辞めようと思ったの?
石川ユウイチ(以下、石川) : 生活リズムの違いというか、仕事を持っているので、追いつけないっていうか、気持ちにズレがあるなっていうのは感じていたんですよね。
——それはUNITのワンマン以降ってことですか?
石川 : ワンマン以降ですね。辞めたいって話をしたのが、7月前半くらいの時で、そのころ立て続きにライヴがあったんですけど、「OCEAN PEOPLES」っていうイベントの時は溶連菌にかかって3人だけでライヴに出てもらった時もあった。精神的にも体力的にも落ちていたんです。でも3人からは、エールをもらってたんですよ。お前がいないとダメ的なやつ(苦笑)。
安本 : リハが終わって、飯食ったりするじゃないですか。その時に、「何名様ですか?」って聞かれると無意識に「4人です… あっ!」みたいな(笑)。なんか寂しいね… みたいな。
——1人辞めるっていうのはそういうことですよね。
高木 : サイゼリアでは、「じゃあもうバンドをやめるしかないんじゃない」って話までしたんですよ。でも"解散"って言葉を出した瞬間に、これが終わっちゃうと思うと、結構辛い空気になって、すごく長い間、沈黙が続いたんですよね。
——”運命のサイゼリア”では、話は平行線で終わったの?
石川 : いや、「じゃあ解散だね」って言葉が出た時に、安本が「今、時期が悪いだけじゃねぇ?」って言ったんですよ。「ここ1週間くらいみんな落ち込んでいるのが重なっただけだから。あと1週間先、2週間先したら気持ちは変わってるよ」って言ったんです。確かにって思って、そこで軽く4人で結束して、「やっていこうよ」ってなって店を出たのを覚えてる。
安本 : そこで「解散」って出したのは高木なんですけど、高木は結構すぐエモくなっちゃうんですよ。極論に走りたがるから「1回待てよ」と(笑)。
——なるほど。でも、そこでそれぞれの考えを統制しなくても、やっていこうぜって前に進んだわけですよね?
全員 : そうですね。
字引 : 歩み寄るってわけでもなくて、お互いのことを深く理解した上で、そう思っているんだったら、石川のためにやらなくちゃいけないこともあるし、石川が俺らのためにやらなくちゃいけないこともあるし。
発売日にCDが並ばない。じゃあどうするってときに「ロードバイクで届けに周る」と。でもそれはトラブルがなくてもやろうとしていたこと
——そんななかで、今作のリリースを進めたんですね。
字引 : 6月に完成していて、リリースを1度延期したとはいえ、作品5曲にはそれぞれのキャラ付けがしっかりできていたし、なにより自信があったんです。早くみんなに聴いてほしいって気持ちはあって、だからこそちゃんと準備できるように延期をしたし、やっぱり万全の態勢で、自分たちが「聴いてよ!」って思えるときに出したかったので。それでうまいこと話がついたのが、2016年の1月27日…
——…のはずが。1月27日にリリースが出来なかったと。これは何が起こったんですか?
字引 : 実は1月25日のライヴでも俺らはまだCDが並ばないことを知らされてなくて。当たり前に、27日にはお店にCDが並ぶだろうと思っていたから、前日の26日に担当の人に連絡したんですよ。「明日なんですけど、渋谷のタワレコさんに挨拶に行きたいってことを前に言ったと思うんですけど、アポイントメントって伝わっていますか?」って聞いたら、「いや。というかすみません、お店に並ばないです」って言われて。
全員 : …(笑)。
字引 : その後は激昂しちゃってよく覚えてないけど…。「お前俺の人生なめてるだろ」とか言っちゃって、一応マネージャー代わりの人なんで、「ちょっと話にならないから、社長を出してくれ」って言って。社長にも「どういうことですか?」って言って、「こんなことをされたら僕らのバンド人生終わっちゃうし、4人の人生を終わりにさせた罪は重いですよ」って。
全員 : (笑)。
高木 : うちらも、ちゃんと資本のある事務所さんに「(仕事内容が)本当にちゃんとできますか?」って聞くのは、ある意味失礼だから、そこは任せていたんです。1回延期もして、うちらの要望も伝えてたし、お店には並ぶだろうと。でもプロモーション周りの連絡が全くこなかったから、不安ではあったんですけど。
石川 : それで俺らも、27日はタワレコ渋谷店に挨拶回りに行く予定だったから、空けてはいたので、とりあえず4人で朝から集まって…(笑)。
字引 : でもそこで4人で会えたからよかった。いろいろ話したけど、愚痴だけ言ったって、CDが並ばないって事実は変わらないから、じゃあどうしようってなったときに、「俺はロードバイクで届けに周る」って。こういうことがなくても、もとから企画はあったんですけど、それならみんなもやってみようかなって話になって。
高木 : 幸運なことに1月25日のライヴの会場先行発売分にプラスして、いくらかは事務所から在庫を預かっていたから手元にはCDがあった。じゃあ自分たちで届けようってことで、綺麗に足並みが揃いました。
——こういった経緯がなくても、もともと佑麿くんが自分の手で届けようと思っていたのは何でなんですか?
字引 : 自分のInstagramにも書いたんですけど、SOURのベースのSoheyさんとSenkawosのタケさん(大島武宜)が、仕事と生活を両立するためにどういうバランスを取っているかを議題に話をしている対談記事を見たんですよ。
Sohey(SOUR)&大島武宜(Senkawos)対談「音楽も仕事も、大切な ”中身” を届ける方法 」(2015年10月18日)——WEBマガジン『earth garden』
http://www.earth-garden.jp/culture/46243/
そこで「音楽と生活を両立させる為に"公私混同"をモットーに」というSoheyさんの言葉に感銘を受けたんです。彼は”せんべい屋『銀座 松﨑煎餅』”の8代目なんですね。自分たちの物販でSOURデザインの煎餅を売ったり、友達のバンドがリリースした時には、その特別デザインの煎餅を作っていたり。お店の2階のカフェを使って、アコースティック・ライヴをして、そこでも新しい繋がりを作っている。それを聞いて、僕の場合は公私じゃなくて両方"私"なんですけど、自分の好きなことを掛け合わせたら、何かできるかなって思った時に、「ロードバイクだ」と。メンバーに提案したら「その場合は幾つか懸念がある」って言われて、高木は配達業をやってるから、いろいろ教えてくれてましたね。だから僕だけの独断で決めたというよりは、4人でしっかり考えて決めたことなんです。
自分がバンドを続けてきたことが、1人1人の人生にどう絡んでいるのかを見届ける
——実際に届けてみてどうですか?
字引 : この前、ある方に届けに行ったら、大学の先輩で。大学では挨拶ぐらいしかしてなかった人とここから繋がることができるし、普通にそうじゃなくても色んな人に会って話して、みんな「応援してます」って言ってくれるんです。Twitterとかで何となく「応援してます」って言われても、どの程度の「応援してます」なのかってわからないじゃないですか。だけど会えば、CDを手にとって聴いてくれるっていう確信に変わるし、fulaを知ってくれたきっかけを聞くと「フェスを見てとか「友達の紹介で」とか、自分がバンドを続けてきたことって、こうやって繋がっているんだなってわかるんです。ライヴをやっているだけでは1人1人の生活にどう絡んでいるのかってところまでは見届けられないけど、そこに触れられるのはすごいことだし、嬉しいですね。
高木 : 僕は電車で届けに行ったんですけど、東京駅に行った時は、大阪から来た方が、たまたま東京に遊びに来ていたみたいで。そのあと「ここから渋谷ってどう行けばいいんですか?」って聞かれたから、「じゃあ一緒に乗って行きましょう」って電車に乗って(笑)。発注数などの数字だけでは見えてこないリアルさを感じとれたのはすごく嬉しかった。何万枚売ろうが、1枚を買ってくれる人って、そのために働いて買ってくれてるし、俺たちの音を聴いて買いたいって思ってくれてるから、ちゃんと音楽が届いているんだなって。
安本 : 動いてくれていることが目に見えるのは重みが違うよね。
高木 : それで感謝されるからね。俺たちが感謝したいのに。本当にありがとうございますですよ。
安本 : 時代を逆行する感じがいいよね。
——僕は時代に逆行してないと思うんですよ。いまは、クラムボンが全国でライヴ・ツアーをして手渡しでCDを売ろうとしていたり、それこそアイドルもそう。みんな、もはやCD屋は場所として使ってるじゃないですか? インストアライヴして、サインするとか。今回のfulaの「自分たちで届けるって試みは、もう1個先にいってることだと思うから、実はすごいことなんですよね。しかもそれがこういうトラブルがなくても企画していたこと自体が発明だと思う!
高木 : 「怪我の功名」って言ったら言葉が良すぎるけど、
字引 : でも本当にそんな感じだよね。
——では最後に、今作はどんな作品になりましたか?
安本 : 夏のアルバムなんですけど、出してみたら意外と受け入れられるなって思いましたね。これを聴いて、「夏が待ち遠しくなった」って言ってくれる人とかもいて。やっぱりごたごたがあった分、作品には思い入れがあって、出来自体も気に入っていて、結果いい方向に向かって良かったなって思います。
石川 : 前回の『The KING』よりも、お客さんのことを意識したような楽曲が多いかなって。ライヴで一緒に歌ったり、手拍子してくれたり、ラップとかもやってたりするんで。"夏とお客さんへの共和・調和"を意識して作れてるかなと。ライヴだと本当に迫力のある仕上がりになっています。
高木 : 『The KING』以前の時と変えたところが、クリックをちょっと使ったっていうのと、それに加えて、メンバーの楽器の熟練度というか、一音一音が前作とはクリアさが違った聞こえになっているとは思いますね。あとはネクストフェーズというか、新曲はコーラスが多いんですね。今までにない試みが入った作品になってます。それを経ていい作品ができたと自分たちで胸をはって言える作品です。
字引 : 「natsu no mushi」でもサビで歌詞を入れずに、「〜ラララ」だけにして、シンガロングを意識したり、4曲目の「circle of flame」はライヴではまだやってないですけど、男臭い「オー!」ってところは、ライヴでお客さんにもやってもらえたらいいなって思います。あとは、いわゆるクールなだけというか、何となくすかしてるだけの音楽って結構あると思うんですけど、そういうのをやっていてもかっこ悪いなって思うので、むちゃくちゃ熱い曲を作ろうと思って作りました。この歳になって、熱くなることとか、さらけ出すことに対して抵抗が少なくなってきたっていうか、だからこそそのまま曲にフィードバックしたいなって思って。そういう要素がこのミニ・アルバムには入ってます。
fula 過去作品
Pick Up!
2015年2月15日に行われた代官山UNITでのワンマンライヴを収録し、12曲の演奏を収めたライヴ音源が配信限定でリリース。ライヴの熱気や空気感まで再現された全12曲。ライヴや舞台裏写真を載せたフォトブックレットに、メンバー4人直筆の「fulaの履歴書」、あのゆるいMCを彷彿とさせるメンバー・トークが収録されたpodcastが特典に付属。
fula / The KING
fulaにとって初のフル・アルバム。キング・カズの背番号11番にかけて、11曲入り。すでに音源化されている楽曲も再録した本作は、fulaの持ち味であるプレイヤビリティとポップ・センスの絶妙なバランス、“歌”として優しく耳に入ってくる歌声とがすべて詰まった一作。
【特集】
>>『Apology Man/Night Adventure』特集ページ
>>『Safari!』特集
>>『三日月色の海と夕凪かえり道』『この小さな部屋が銀河にかわるまで』特集
>>『森の王様』特集
LIVE INFORMATION
fula LIVE TOUR 2016 spring "Tour of Summery Summary"
2016年3月6日(日)@愛知 栄CLUB ROCK'N'ROLL
出演 : fula / はいざらこうかん / DENIMS / トレモノ / Synchronized Rockers
OPEN(DJ START)17:30 / START 18:00
前売 2,500 円 / 当日 3,000 円 (税込/ドリンク別)
2016年3月13日(日)@大阪 南堀江knave
出演 : fula / トレモノ / craft rhythm temple / Easycome
OPEN 17:30 / START 18:00
前売 2,500 円 / 当日 3,000 円 (税込/ドリンク別)
Tour final 2man LIVE
2016年4月17日(日)@渋谷 TSUTAYA O-WEST
出演 : fula / Senkawos
OPEN 18:00 / START 18:30
前売 3,000 円 / 当日 3,500 円 (税込/ドリンク別)
PROFILE
fula
fula(ふら)は日本の4人組バンド。サッカー・チーム所属時に意気投合し、2010年頃結成。
様々なジャンルをルーツとした野外で聴きたくなるジャム・サウンドと、一度聞くとどこか耳に残る温かい歌声。それがfulaの“地球温暖化ジャムポップスタイル”。あなたの耳元に夏フェスサウンドをお届けします。
2014年は「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO」をはじめ、「GFB つくばロックフェス」「牛窓ナチュラルキャンプ」「BEATRAM MUSIC FESTIVAL」など多くの野外ロックフェスに出演。2014年9月24日に初のフル・アルバム『The KING』をリリースし、2015年2月15日に代官山UNITにて行われたツアー・ファイナル・ワンマンライヴは見事、満員御礼。
そして2016年1月27日に待望の2ndミニ・アルバム『Summery Summary』をリリース。
唄おう。笑おう。躍ろう。踊ろう。いつまでも夏は終わらない。