アイナ・ジ・エンドが輝かせる、音楽の宝石箱──アルバム『RUBY POP』完全解説インタヴュー
BiSH解散後、ソロ活動で日本武道館公演を成功させるなど、目覚ましい活躍を続けるアイナ・ジ・エンドが、3年ぶりとなる3枚目のソロアルバム『RUBY POP』をリリース。今作には、自身が作詞・作曲を手掛けた楽曲に加え、多彩なアーティストと共に作り上げた全17曲を収録。
彼女の優しさ、激しさ、楽しさ、悲しみ…様々な面に触れることのできる珠玉の楽曲群。今回、このアルバムについてインタビューを実施できたことを光栄に思います。各楽曲への彼女の思いを堪能してほしい。
インタヴュー : 飯田 仁一郎
文&構成 : 西田 健
写真 : 大橋 祐希
アイナにとっての宝石のようなサード・アルバム
INTERVIEW : アイナ・ジ・エンド
「傷」も「宝物」にしないと前向きになれない
──『RUBY POP』というタイトルに込めた思いを教えてください。
アイナ : 曲のタイトルに“宝者”、“宝石の日々”、“Jewelry Kiss”って「宝物」を意味する言葉が多くて、無意識に曲のことを「宝物」みたいに扱っているんだなって気づいたんです。だから、「この作品は、今の私の宝石箱」みたいな気持ちで『RUBY POP』と名付けました。
──なぜ「宝石」という言葉が思い浮かんだの?
アイナ : ソロとして活動を始めて、改めて楽曲を作ることの大変さに気づいたんです。だから楽曲という「宝物」を作り上げてくれた人たちのことも思って、「宝石」って思い浮かべたんだと思います。
──どんなコンセプトで制作していったんですか?
アイナ : 前半は、ドライブで聴けるような曲たちを詰め込みました。私の曲って、情熱系か、怖いトーンのやつか、まろやかなやつ、のどれかに振り切っちゃってて、ミドルテンポの曲がなかったんです。なので序盤は、車で聴いても聴きやすい曲を意識しました。それからはポップな部分や激しい部分も見せつつ、人の体温が感じられる流れにしようかなと。ライヴのセトリみたいに曲を並べて、最後は「ちゃんと人を愛でていこうね」というメッセージを込めて“はじめての友達”で締めました。
──今作には、タイアップの曲や他のアーティストからの提供曲も含め、全17曲が収録されています。かなりボリューム感のある作品になりましたね。
アイナ : アイナが作詞・作曲した曲だけの案もあったんです。でも前作をリリースしてからの3年間の間にタイアップの曲や、提供してもらった曲が自分を耕してくれたし、むしろそういう曲の方が自分のことを引っ張ってくれたな、と思ったんですよ。石崎ひゅーいさんに提供してもらった“アイコトバ”は、歌っていると自分の血がたぎってくるような思いになるし、TK (凛として時雨)さんに作ってもらった“Red:birthmark”のMVを通して、アオイヤマダちゃんという素敵な出会いもあったんです。だから、外すという選択肢はもともとなかったですね。
──なるほど。では1曲ずつ訊いていきます。
1曲目“風とくちづけと”
──こちらはニベアブランドのCMソングにもなっています。
アイナ : これは「北風のNIVEA」というテーマで書きました。北風みたいなチクチクした世界からも、優しく守ってもらえるような曲を目指しました。みんなで優しい気持ちになりたかったので、サビの後半に歌唱パートを作ってみて工夫をしました。
──制作はどういう進んだんですか?
アイナ : バンドメンバーと顔を突き合わせて、スタジオに2、3日篭りながら制作しました。メンバーみんなが朝早くからスタジオに入って、歌い出しの部分を念入りに作ってくださったんです。その楽曲を紡ぎ上げていく工程が美しかったし、その懐の深さが音に滲んでいると思います。
2曲目 “Poppin' Run”
──この曲はフォルクスワーゲン T-CrossのCMソングですね。
アイナ : この曲はドライブで聴けるように軽快なテンポにしたり、コード進行にもこだわりました。車が走る様子と、人生の歩み方が重なる部分があって、自分の今の心情を赤裸々に書けた曲です。
──自分の心情を反映したのは、どの歌詞ですか?
アイナ : 「つけてきた傷跡だってアクセサリー」という歌詞です。人に傷つけられたり、逆に自分が傷つけたり、そういう「傷」ってなかなか消えないじゃないですか。だけどそれも「宝物」にしないと前向きになれないと気づいたんですよ。どうせ生きるんだったら、その傷跡もアクセサリーみたいに輝かせていこうと思っています。
──TikTokで公開されているダンスも、かなりポップですよね。
アイナ : この曲の振り付けは、“宝者”で手話の振りを考えてくださったRandy Xtravaganza先生にお願いしました。明るさの中に黒い陽だまりがあるような楽曲なので、ポップに振り切りたかったんです。
3曲目“Frail”
──こちらは映画『変な家』の主題歌です。
アイナ : 「変でもいいから自分が思うように動きたい」みたいな、ある意味わがままな生き方をこの曲では書いてみました。“Frail”は、私がBiSHになる前によく一緒にライブで共演していた、Shin Sakiura君と作りました。Shin君がたくさんアイディアをくれたおかげで、『変な家』の台本や映像と上手い具合に化学反応が起きました。
──化学反応が起きたのは、どのあたりですか?
アイナ : 全体的にちょっとチルっぽいリズムなんです。こういうR&Bのニュアンスが漂うような部分が、疾走感あふれるギター・サウンドと上手くマッチしているなと思います。