REVIEWS : 105 インディ・ポップ〜ロック (2025年8月)──OTOTOY編集部

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をコンセプトに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューするコーナー。そういえば……ということで前回から隔月でOTOTOY編集部が主に国内のインディ・ポップ〜ロックの分野でのビビッときた作品をレヴューします。日々、大量の音源や頻繁なライブにも接しているOTOTOY編集部のスタッフが「これは聴くべき」という作品たちです。今回ちょっと遅くなりましたが7、8月のリリースからピックアップ。
OTOTOY REVIEWS 105
『105 インディ・ポップ〜ロック(2025年8月)』
選・文 : OTOTOY編集部 / 石川幸穂、菅家拓真、高田敏弘、TUDA、藤田琴音
パターソン 『Hey,』
2024年に結成された、セリザワヒナタ (Vo/Gt) とモリライト (Gt) によるインディーロック・バンドのファーストEP。プロデュースはGateballersの濱野夏耶。収録曲名が順に、remember、微熱、Utopia、セピア。この4つの単語自身が本作の全体像を鮮やかに示している。心地良く微睡みながら、ときに鋭く胸を刺す言葉を響かせるボーカル。ドラム、ベース、2本のギターで構成されたアンサンブルは、各楽器が粒立ちながらも一貫して仄かな感情の起伏を支える。記憶と夢想、現実と郷愁が交錯するサウンドスケープが深い余韻を残す。7月にリリースされた作品だが、まさにこれからの季節にこそ聴いてほしい。(高)
梅井美咲 『Asleep Above Creatures』
梅井美咲、初のソロ名義アルバムとなる今作。彼女のもつジャズ、エレクトロなど素養をしっかり収めた作品となっており、ピアノ・トリオから、テクスチャー感溢れるオルタナティブなトラックまで、欲しい要素を逃さず、高純度で収録されている。全編ウワモノの音が良く、硬いライドに艶やかなストリングス、ピチカートの音がお気に入り。おそらく録音段階から計算されているであろう、鋭利な音と丸い音のバランス感がすばらしく、梅井美咲のもつプロデュース能力の高さがうかがえる。コロコロとしたピアノと泡のようなリバース・エフェクト、ウィンドチャイムのフルコース。こういったジャンルのアーティストに求める理想の構成だなと思いました。(菅)
明日の叙景 『Think of You』
茹だるような真夏日にリリースされたこのアルバムは、その暑さを一瞬で忘れさせるほどに冷たく鋭い空気を纏っていた。真っ先に目に入るジャケットには、しんしんと降る雪と灰色の雲に覆われた街をバックにタバコをふかす天使、そしてそれに寄り添う黒猫が。この時点ですでに、私の心はいつかの冬にタイムスリップしていた。再生を始めるとすぐに鳴り出す轟音の嵐! これでもかと畳み掛けるドラム、押し寄せるシャウトボイス……だが不思議と乱暴さはなく、寒い日におぼえる寂しさのようなものすら感じさせる。これはきっと、メロディアスなギターフレーズや抒情的な歌詞によってもたらされる感情だろう。冬の訪れが待ち遠しくなる1枚、まだまだ残暑の続く毎日のお供にぜひ。(藤)