REVIEWS : 067 ベース・ミュージック、テクノ (2023年10月)──草鹿立
“REVIEWS”は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はオトトイ・アルバイト・スタッフで、東京アンダーグラウンドのクラブ・シーンにてDJとしても活動・回遊している草鹿立がテクノ~ベース・ミュージックのシングルをお届け。現場直送の最新のダンスサウンドをぜひ。
OTOTOY REVIEWS 067
『ベース・ミュージック、テクノ (2023年10月)』
文 : 草鹿立
Coral D 『Shock Front』
LABEL : Self Released
〈Klasse Wrecks〉や〈Born Free Records〉からのリリースもある、イギリス・ベースのCoral D。彼のBandcampからのセルフ・リリースが良作揃いで、10月半ばに出た最新シングルも良作ダウンテンポ。A面「Shock Front」は柔らかなキックと絡み合うように、シンセがダブ処理によってしなやかに伸びていくハウス・マナーな1曲。一方B面は、トラック名「Relax Get Down」をおまじないのように囁かれる催眠系デジタル・ダブな仕上がりで、ジャケットが可愛らしいのもお気に入りポイント。このCoral Dの正体は、2013年に解散したデュオバンドMock & ToofのMockの方だが、Mock & Toof諸作や彼のソロ別名義6000 Degreesもおすすめ。Mock & Toofではスペーシーなディスコ、6000 Degrees名義ではローファイなエレクトロを楽しめます。
Cousin 『Rosie // On2』
LABEL : MOONSHOE
オーストラリア拠点のCousinによる、主宰〈Moonshoe〉からのシングル。Cousinといえば、7月に〈Well Street Records〉からリリースしたEPが素晴らしかったが、レーベル周辺アーティスト特有の「浮遊感」に身を預ける感覚を知ってしまったのは、自身のリスニング体験における今年のハイライトだったように思える。そして今シングルも奥行きのあるサウンドデザインで「浮遊感」を演出。ポリリズム・ダンスホールな“Rosie”もなかなかに秀逸だが、ダビーなブロークンビーツの“On2”の方が個人的には好み。繰り返される音のハネとベースの配置がクセになるし、聴いていると音のきめ細やかさ、伸びが際立ってきてさらに没入してしまう。そしてCousin、11月に東京にくるらしい。〈WWWβ〉公演には後述する〈SLINK〉所属のK Wataも来日。興味ある方はぜひ。
rrao 『Hara EP』
LABEL : Worldwide Unlimited
NY発パーティー&レーベル〈Slink〉所属のrraoが、DJ Python主宰の〈Worldwide Unlimited〉より発表したEP。そのDJ PythonとAnthony Naplesがキュレーションを手がけた名コンピ『Air Texture VIII』にもシングルが収録されていたので今作のリリースには納得だが、まさかここまでいいとは。先述のシングルがもつリキッドさは抑えつつ、土着要素、ベースマシマシでのお届け。パーカッション&クラップの応酬で尻上がりにヤバくなるA1、不思議な声(ヒンディー語?)の反復によって妖しさ満点になったフロア対応激ヤバトラック・A2、インドの民族楽器「タブラ」が織りなすグルーヴがたまらないB1、とどれもクセになる3曲。Horsepower Productionsのような初期ダブステップにも通じるような不穏さをも感じてしまうのがすごい。