REVIEWS : 019 オルタナティヴ / レフトフィールド(2021年3月)──津田結衣

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(基本2~3ヶ月ターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回はOTOTOYスタッフ、津田結衣が9枚セレクト&レヴュー。自身がインタヴューした注目のバンド、Ms.Machineなど、バンド、SSWなどなどスタイルを問わずエッジーなサウンドを提示するオルタナティヴ / レフトフィールドなアーティストたちを紹介。
OTOTOY REVIEWS 018
『オルタナティヴ / レフトフィールド(2021年3月)』
文 : 津田結衣
Ms.Machine 『Ms.Machine』
活動6年目にしてファースト・アルバムとなった『Ms.Machine』。2018年のセカンドEP『S.L.D.R』リリース時の4ピース体制から、ドラムレスの3ピースへと変化。音楽性も一変したMs.Machineの今のスタイルを提示するのが今作だ。ギター/シンセ/トラックを、ウィッチハウスを中心としたDJスタイルでも知られるMAKO (DJ名義は1797071) が担っており、全体を通してオカルティックで神秘的なムードが漂う。インダストリアルなトラックに歪みきったギターとウェイトの重いベース、チープなシンセが不協和音を織りなした、厭世的ともいえるサウンドに反して歌詞は当時のパートナーへの感情がファンタジーをないまぜにして描かれている。唯一前体制から持ち越されたという、ラスト“Girls don’t cry, too”にてハードコア・パンクの曲調は取り戻されるが、当初叫ばれていた日本語の歌詞は全て消えて一行”I don’t wanna scream, Slow down...”のみが強烈なギター、シンセに埋もれゆく。詳しくは当サイトのインタヴューに譲るが、歌唱スタイルの変化には社会への態度における苦悩があったという。そうして選ばれた静けさは、むしろ叫ばないことで聴こえてくる叫びもあることを教えてくれる。冷たくメランコリックな世界観のなかに佇む3人の姿からは、Riot Grrrlから受け継いだパンク・アティテュードが垣間見える。
moreru 『粛粛』
頭上から爪先まで埋め尽くすほどの音圧と、過ぎ去っては波のように押し寄せる狂気。つい最近6人組となったらしいmoreru、激情ハードコア、ノイズ・ミュージックをはじめとしたエクストリームな音楽を混ぜこぜにする彼らのニューEP『粛粛』のテーマは、「粛正」=(あるべき姿を取り戻すための行為)だという。だが静と動 / 美しさと醜さ / 正覚と煩悩をノイズ、絶叫、美しいリフをもって捏ね回すような展開からは、一聴して“あるべき姿”を見つけ出すのは困難に思える。『新世紀エヴァンゲリオン』の人類補完計画、『NARUTO』の幻術・無限月詠との訣別、といったEPのモチーフを思えば、そうした展開は殻に閉じこもることである種の“幸福”を見出すフィルターバブルから逃れるための足掻きともとれる。1曲目“世界 (あなたが手に入れたもの、花束、あなたからもらうはずのもの) ”の後半「きらりは死んで如来になった」というリリックからは、自己の内側から外に手を伸ばそうとする様子が想像される。あるべき姿を見失ってしまうほど混沌とした外側の世界に対峙するための混沌さに溢れた作品だと思う。
the hatch 「穏やかな日々」
2020年のラストにドロップされた、北海道の4ピースバンド・the hatchの新曲“穏やかな日々”。狂おしいほどに穏やかさを求めてみるものの、自分で用意した緩やかな生活は途端に情報の渦の中に消えていく…そんな昨年の鬱々とした日々の繰り返しを表すような「あがいたはずが時勢に揺られ間違いに怯えてまた目をそらす」という歌詞が印象的だ。ハードコア・パンクとジャズ、ファンク、エトセトラを強靭的な演奏とヴォーカル山田みどりによるトロンボーンの妙でまぜ合わせた衝撃の前作『Opaque Age』からさらなる覚醒をみせ、清濁が交差する展開、静寂のなかに響くコーラスワークが錯乱する脳に寄り添ってくれる。昨年からのDischarming man、NOT WONKに続き北の地に根を張った視点が描く混沌さはどこか醒めているようで、澄んでいる。“穏やかな日々”は誰にとっての「穏やかさ」なのか? という問いまではらんだ、ボリュームのある一曲。