OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.70
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
真に音楽を止めなかったアーティストたち
気づいていたかどうか分かりませんが、4・5月はかなり音源のリリースが少ない月でしたね。ライヴができない状況のなか、初期の頃はライヴ配信があまり浸透していなかったこともあり、リリースの延期はごく自然なことのようでした。それでもアルバムやEP単位でのリリースを行うアーティストがいて、その作品が軒並み素晴らしかったことを私はガッツリ覚えています。口先やハッシュタグで完結するタイプの「音楽を止めるな」ではなく本来通りのリリースをすることで音楽を止めないという選択(しょうがなくということもあるかもしれないですがそれでも)をされたことに敬意を込めて、4月・5月リリースの国内作品を集めたプレイリストを作りました。
プレイリストに入れた作品の中でも、リリースタイミングによって本来とは違う意味をもつものがいくつかあったように思います。全然大丈夫じゃない状況での横沢俊一郎の『絶対大丈夫』は、個人的な悲哀をポップに昇華して「大丈夫だ」と自身に言い聞かせているような作品で一人の時間が増えたあの期間に必要なものであったし、鈴木実貴子ズの『外がうるさい』はこれまでと同じく「おかしいものにおかしいと言う」態度を崩さず、それは様々な価値観が変わりながら分断して行く今に必要なものがそこにはありました。Okada Takuro + duennのアンビエント作品『都市計画(Urban Planning)』に至っては、2020年の都市に流れるはずだった音楽がじっと家にいる期間に流れ出し、それはむしろ記憶が薄れつつある街を思い起こさせるようなもので、意味の流動性を感じさせられました。抜け落ちてしまったような時間の中で新たに発信された作品はそれだけで素晴らしいものでありつつ、明言せずとも文化の流れを止めない役割を持っていたのではないかと思います。そしてそれは行方の知れないこの先も常に必要なものなんじゃないでしょうか。
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