OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.138
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
街の混沌と閑靜
夏の一ヶ月間札幌駅から真っ直ぐに進んだところにある北18条というところで生活をしていた。札幌駅の周辺は京都の街並みを模倣したような形で碁盤の目のような道が続いている。まっすぐ歩いて直角に曲がれば駅地下の飯屋があって、さらに先を曲がれば銭湯がある、といった塩梅で慣れるのに時間のいらない街だった。
特にこれと言って何かをしに行ったわけでもなく、空いているクラブに行ったり野外のイベントに行ったりしながら、とかく毎日たくさん歩いて二日に一度は銭湯にいっていた。碁盤の目の上を日々歩いていたからか、札幌の街は規則正しく整然とした印象がある。ただ、すすきのまで行くとバブルから改造されていないであろう年季の入った建物がズラーっとならび、無機質な道の印象と風俗街の活気が当然の如くごた混ぜになってそこに存在している。札幌在住のヴェイパーウェーブ・アーティスト、豊平区民は「ヴェイパーウェーブは札幌のためにある」というようなことを言っていただけれど、自分が歪んだ音像やパキッとしていないビートが印象的な音楽ばかりを聴いていたのは街の影響が大きかったと思う。いく先のイベントでは主にBPM120以下のハウス、テクノが流れていたのも、ヴェイパーウェーブの街という視点からはズレるけれど、住んでいくうちに身に付くリズムと合っているように感じた。あと、小さめの箱はどこも誰かの家のような雰囲気で、外からフラッと入った側からすれば面白かった。揺れるように踊っては時たまソファーに座って話をするということを無理なくやっている感じが心地よかった。
札幌には札幌公衆浴場商業協同組合があって、どの銭湯にもサウナがついて均一で450円だったから行ける限り行った。歩いて、音を聴きに行って、たまに喫茶店でぼーっとして、考えがつまったらサウナへの繰り返し。後半には来た初日に頭の中にあったことの半分は消え去りサウナの整い方も質が上がっていくのを感じた。そして一ヶ月ほど経ち整い切った頭で東京に戻ると、その翌日のNOT WONKのワンマンはさらに正気を呼び起こした。自分と交わることのないノイズが少ない環境で表現を突き詰めることの素晴らしさよ。会場はWWW Xで、久々の人混みに気持ちが悪くなった。一昨日はパルコの展示に行ったけどもうなんともない、慣れ切った気味の悪い混沌にはすぐに適応してしまう。正気を保つのはあまりにも難しいので、北18条のワンルームで繰り返し聴いていた曲のプレイリストを置かせてもらいます。