【In search of lost night】2022年の印象に残ったパーティ【後編】 : 〈Keep Hush Tokyo〉、〈みんなのきもち〉、〈AVYSS Circle〉、〈SLICK〉──帰ってきた!?座談会
In search of lost night vol.03
In search of lost night vol.03
座談会
クラブにライブハウス、果てはSNS上に至るまで、散在されゆく音楽の「現場」。タイムラインや喫煙所での語りのような、忘れ去られていく現場の音楽にまつわるあれこれを、パーティーレポート、ミックス・レビュー、インタビューなど、さまざまな方向からアーカイブするための連載【In search of lost night】がスタート……したハズなのですが、どうやら現場が楽しかったようで……ということでやっとこさ9ヶ月ぶりに帰ってきました連載【In search of lost night】。2023年はきっと頻繁に更新される……ハズです。
NordOst(松島広人)、山本輝洋、yukinoise、TUDAの4人による座談会の後半戦いってみましょう!(編集部)
前編はコチラ
バンドとクラブを接続してる存在として
山本 : TUDAさんはこの間どんな現場に行ってたんですか?
TUDA : クラブでやってるライブ・イベントに良く行ってた。
yukinoise : そういえば〈Contact〉もライブ・イベントが映えるクラブではあったよね。今そういう場所ってどこがあるんだろう?
山本 : 大きい場所だと〈CIRCUS〉とか〈WWW〉ですかね?もう少し小さい箱だと〈SPREAD〉、〈LIVEHAUS〉、とか……。
TUDA : 夏ごろに〈WWW X〉でbedを観たんですよ。今年観た中でもかなり良かったですね。ディスコパンクっぽい感じもあるポストパンクなバンドなんだけど、いわゆるUKポストパンクのノリを受け継いで彩度高くやってる人は増えてるんじゃないかな。〈forestlimit〉でもイベントをやってて、Lobster、Sugar Houseとか出てたんだけど、下北沢周辺で活動してるイメージのあるバンドが90年代のオルタナのエッセンスも加えたりして、オリジナリティ出てきてるなって久しぶりに見て思った。
TOPIC
bed × SUPERFUZZ presents SLEEPWELL
9月22日(火)
会場 : WWW X
出演 : Bed / DYGL / No Buses(出演キャンセル) / BROTHER SUN SISTER MOON / SUPERFUZZ(DJ) ※メンバーのコロナ陽性によりキャンセルとなったNo Busesに代わりBROTHER SUN SISTER MOONが出演
TOPIC
Chapter 1
11月12日(土) 18:30〜
会場 : 幡ヶ谷forestlimit
出演 : LIVE : Sugar House, LOBSTER, Blue Curve, Homie Homicide / DJ : Cwondo, naggnya / SHOP : Onyxx, used clothes
yukinoise : バンドシーンもめっちゃ盛り上がってるんだね、bedは今観てみたいバンドのひとつだな。
TUDA : 〈forestlimit〉のイベントはコンドミニマムやってた時にきてた人たちも遊びに来てたみたいで。Homie Homicideっていう小山田米呂くんがドラムやってるバンドも出てたんだけど、そっちはKレコーズを感じさせるローファイさでよかったな。
NordOst : その繋がりで言うと、バンドとクラブを接続してる存在として〈Discipline〉はデカいんじゃないかなと思います。
yukinoise : V系にある日本の音楽におけるゴス・シーンが今また電子音楽に移行してるような流れをここ最近感じてたんだけど、V系っぽい闇の文化はパーティーだと〈Discipline〉にあると思った。「ぴえん」じゃない方の闇文化ね。
NordOst : 耽美性の追求としてのビジュアル系っていうかね。「ぴえん」は闇っていうかさ、なんか疲れてる感じだから……。社会の歪みがモロに表出してるような。
yukinoise : KLONNSのメンバーに90年代の王道V系をルーツにある人もいるからより説得力もあるというか。
NordOst : 「ハイパー以降」の流れで、ラフな態度でいることが良しとされたり、ルッキズムからの解放があったから表現を取り巻く環境は非常にカジュアルになったけど、その中でも耽美とか美意識の追求を守ってる人たちはすごいし、そこに学ぶべきものっていうのはめちゃくちゃあると思う。自身が美しくあるために人と人との接し方とかを大切にしたりするし、凄く尊い存在だなと。
yukinoise : 〈Discipline〉も暴れたりしてもベースは安全だよね。音だけが激しい。
NordOst : 耽美と言えば、この間〈SPACE〉で開催された〈Dark Jinja〉の復活もトピックとして繋がってきますよね。おそらく。
yukinoise : あのパーティーは〈AVYSS Circle〉にも出てたMilkyさんみたい新しいアーティストをフックしてたり、Chav周りのhanoiくんも呼んでたりでブッキングが面白かった。ダークな文脈に囚われずに美を追求してて。演者も全部シークレットで、インターネットの匿名性みたいなものを大事にしてたね。〈Dark Jinja〉にはポスト・インターネットの文脈がきちんと音楽性や美学の背景にあるって現代でも伝わってきた。
「失礼」と「スカム」は違う
NordOst : 今はかつてインターネットの中で美学を追求してた人があまり顧みられてないよね。
山本 : 単なるネットミームレベルの話に終始しちゃうっていうか。
NordOst : 「逆張りでハジけてて、ちょいオタクで」っていうのが今の「インターネット」的なイメージになってるけど、それはぶっちゃけ歴史修正一歩手前の認識だと思う。それだけじゃないですよ。
yukinoise : 「インターネット」と「ポスト・インターネット」を同じ意味で捉えちゃいけないね。ポスト・インターネットはまだ「リバイバル」っていうより2010年代後半から今でも地続きにあって、音楽ジャンルでいうとゴルジェみたいに続けてる人はずっと続けてるし、あまりにも消費的な人口が増えれば増えるほど本質が見えなくなってしまうのかなって。ハイパーも言葉だけを掬って消費的なリスナーが増えちゃったり、メディアが消費的な見方をしてる部分はあるなと。若い世代の音楽を「ハイパー」って一括りにされちゃうのは可哀想。
NordOst : そう!可哀想だし、ネタ以外ではなるべく使わないようにしてる。(hyperpopを取り巻く文化が)大好きだからこそ、その扱いは考えるべきだと思う。際限の無い消費サイクルの加速が行き着くところまで行くと、誰も音楽作らなくなるんじゃない?しかも、今は加速しすぎてもう何をやっても”早くない”から。逆に言うと全てが並列になっていくから、「遅い」と「速い」みたいな速度のベクトルは来年ぐらいから失われていくと思うんですけど。
山本 : すべてが細分化されすぎて、「今はこれが来てる」みたいなことは成立しない領域に入っていますよね。しかも、「インターネット発のもの」っていう枕言葉がつくと何故か「どうせ一過性のものだろう」っていう舐めの姿勢と共に受容されがちなところがあるけど、一度盛り上がった後に落ち着きを見せたり忘れられたムーブメントでもパイオニアの人たちは水面下で長く続けていただろうし。ゴルジェなんかはまさにそうだったと思うんですけど。
NordOst : 最近のウェブっぽい質感のブレイクコアがトラッドなブレイクコアをやっている人にシカトされてるのは正にそういうことで。それは我々リスナーの消費の態度が悪いからなんだけど、作る側もサンプルパック貼り付けただけみたいな作り方してる人は掃いて捨てるほどいるし。あ、作り手が増えること自体は最高だなと思います。
山本 : 個人的には(ダンスミュージック的に)プロパーなものとインターネット的なものが接続される場が面白いと思うし、そういう機会が今以上に増えてもいいと思いますね。
yukinoise : あと、昔行ったブレイクコアのパーティーは現場でお客さんというかオタクの悪いノリみたいなのも出ちゃってしんどいこともあった。テンション上がったら服脱いで踊りたくなっちゃう気持ちは分からなくもないけど、音楽を楽しみに来たのに他人の汗を肌で浴びさせられるってはちょっとキツかったかも。エロゲの過激なサンプリングやフライヤーにちょっとエッチなイラストが使われてるってのも足が遠のいちゃった理由にあったし、アンダーグラウンドな表現の自由は守りたくてもゾーニングって難しいよね。
NordOst : それを見て「うわ、嫌だなあ…」って思う人のことを考えてなさすぎるんだよね。そこに対しては懐疑的だったアーティストも当然いたわけだし。
山本 : この間公開されたyanagamiyukiさんのインタビューにもそういう内容がありましたけど、ナードなシーンにいた人たちの自己批判のムードが始まってるような気がします。
yukinoise : そうだね、作り手サイドから言わないとダメだし意識されずらいと思う。yanagamiyukiさんみたいな人が「あの頃はああいう流行りがあったけど、今はダメなものはダメって言わなきゃでしょ」って言ったら納得しやすいはずだし。「失礼」と「スカム」は違うんだよ。
NordOst : 自分はオタクではあるし、好きだけど、オタクを取り巻くあれこれを手放しに称揚しすぎないように気をつけてる。
山本 : オタクなシーンもそうじゃないシーンも、規模の大小は問わず参加する人が持つべき問題意識や当事者意識はありますよね。そこにめちゃくちゃ繊細にならなきゃいけないっていうのを再認識させられる。
NordOst : そこがまず一番引き締めないといけないことじゃないですかね、やっぱ?
TUDA : 私はもう、合わないノリに入れないなって時はクラブ行かないようにしてる。ライブハウスで対人関係でもやつくこともあんまりないし。本当に「客」みたいな感じで行く方が楽だなっていうフェーズ。
山本 : ライブの現場はお客さん同士のトラブルがクラブに比べると少ないですもんね。ライブの途中ってお客さん同士が喋ったりすることもあまり無いから、当然といえば当然なんだけど。
yukinoise : クラブの方が距離感はなぜか近くなるよね。
NordOst : クラブの社交の場としての良さが心無い人たちのせいで汚れてるよね。ライブハウスに来る人は全員自分のことを、ある種透明な存在として振る舞うわけじゃん。観客Aとして。
山本 : そうですね。「だからライブハウスの方が安全で良い」とは言いたくないけど。
TUDA : 「だから良い」わけじゃないんだけど、それが良い時もある。
NordOst : 自分はライブハウス文化にステージとフロアの上下関係を感じて、その壁がしんどくなったからクラブにハマったっていうのもあるかもです。
「クローズド」なセーフスペースと、敷居が高い「オープンスペース」
NordOst : 〈SLICK〉の日は神戸のハウス・パーティに出てたんだけど、そっちは極端にクローズドな中で遊ぶ面白さがあって。そこに合流して、入っていくのが楽しそうだなと。プライベートレイヴみたいな遊び方。
山本 : 「家」の流れありましたね(笑)。今年は普段クラブで遊んでいる人の中で自宅に音を出せる環境がある人が家にDJを呼んでパーティを開催する動きが、局所的ではあるけどかなり頻繁に起こっていたような気がする。
NordOst : 「家」の流れは結構大事だと思う。それってセーフスペースをどう確保していくかっていう話と繋がるというか。
yukinoise : デカい箱ってセーフスペースもしかり逃げ場が見つけにくいからね。
NordOst : 例えば〈みんなのきもち〉が素晴らしい自治を取っていたにも関わらず、その中で被害を受けてしまう人もいたわけで。どれだけ素晴らしい場を作ってもそういうことが起きてしまうって中で、「友達ん家」みたいな絶対的な安全性がある場所の意味が発生してきますよね。ハウスレイヴも、レイヴの原型みたいなところに先祖帰りするような流れで、それを体験しておきたいと思って結構友達とやりました。楽しいし!
yukinoise : ローカルな場とか家に行くのって、やっぱり逃げ場があるからじゃない?小箱の方が何かあったときに目は届きやすいし、身内感も逆に言えばみんなが見張ってるって部分もあるから、心理的安全性を求めてそうなるのはいいことだと思う。
NordOst : ハラスメントが従来安全だとばかり思い込んでた場所でも起きてしまうことを知らなかったのは、自分がシスヘテロの男性だからだろうし、そこに関しては今年ずっと喰らい続けたし、考えさせられ続けてます。しんどい話。
yukinoise : 「クラブなんだから危ないことがあって当然」みたいな話とか、「男女で値段が違うのが嫌なら行かなきゃいい」みたいな暴論もあるけど、なんで「クラブなら悪いことが起きて当然」って思われる文化が続いてるんだろう?「そういう文化だから」って言っても、クラブではない場所で同じことをやったら普通に犯罪行為なのに、クラブだと容認されてしまうってのは大きな問題だよね。
NordOst : 正直ちょっとリスキーというか、危なっかしい感じの人も最近増えてきてる気がしますね。それは多分コロナ禍で諸々が断絶されて、遊び方の歯止めが効かなくなった部分、接し方とかを知らない側面なんかもあると思うし。「先輩後輩」みたいなダルい要素が失われたのは良いことだけど。
TUDA : 佐藤遥さんっていう北海道のライターの方が、ハラスメントを受けた人のエピソードをただただ喋っていくスペースを一回やってた時があったんだけど、オープンな雰囲気で凄く良かったな。どこかに行って「〇〇やってる人です、よろしく」みたいなところからしか会話が始まらないことが多いじゃん。そういう肩書きを抜きにしてオープンに話せる場所がもっとあったらいいのに。
山本 : オープンスペースと銘打ってはいるけど、何かしらの活動をしている人じゃないと発言権が無いような空気の場所ってありますよね。
NordOst : 何の表現もやってなかった頃に遊びに行く中で、その壁を感じる瞬間が結構キツくて。階級の再生産にしかならないよね。それは絶対に良くない。そういう場所で繋がりを求めてInstagramのストーリーのメンションに命を賭けてるような人もいるし……(笑)。
yukinoise : 結局何かの肩書があるかないかで人を見ていたり、そうじゃなきゃフラットなコミュニケーションにすら辿り着けないこともあるっていう。
関係性の網の目とフラットに遊ぶこと
山本 : 「東京のクリエイティブな若者」でいなきゃいけない雰囲気……。クローズドな場は見知った人しかいない分安全性は保証されてるし、来る人もちゃんと熱を持った人が来るからパーティとして良いものになるっていう確証は得られるけど、反面そういった遊び方に比重が偏りすぎるとコミュニティが排他的になっていくリスクもあると思う。
NordOst : クローズドな安心感って素晴らしいんだけど、階級社会の再生産になりかねないから。あくまで外部に向けて統率とか心理的安全性を保てるような空間をどうやって作っていくかが、これからのパーティの最大の課題だと思うDJ始めてからいろんな人とお話させてもらえる機会が増えたんだけど、自分がただフラッと言って帰るだけって寂しさも知ってるから、なるべく全員としっかり向き合おうとはしてます。
山本 : でも、クラブでの遊び方なんて本来それでいいはずなんですけどね。それでいいはずなのに、なんでそれだけじゃ居づらい雰囲気になっちゃうんだろう。
NordOst : 何かをやってるとか友達が多いとか、繋がりが多い人がSNSのせいで過剰に眩しく見えちゃうんだよね。いわゆる「ヒロミやフミヤの後輩なんかも合流して朝まで大変だった」みたいなボースティングがデジタルの世界で復活しちゃってる……(笑)、
山本 : しかも、それが東京のごく小さい、芸能界でも何でもないようなコミュニティの中ですら起こってしまうのが悲しいところですよね。
yukinoise : ちょっと敷居が高いっていうか、オープンなはずなのに凄くクローズドな場所はある。
山本 : それに関しては、最初の志はそういうものじゃなかったはずなのに、続けていくうちにそうなってしまうような部分もあるような気がしていて。だから自分たちにとっても全く他人事じゃないと思うんですよね。
yukinoise : 本当にフラットな場ってどこにあるんでしょうね。肩書きでしか見られないのって本当に嫌だし流動的なコミュニケーションしか生まれないんじゃないかな。私も“ライターのyukinoise”で見られ続けるはたまにしんどい(笑)。
NordOst : たとえば〈CHAVURL〉とかが今Discordをファンダムとして使ってるんだけど、それはフラットな場所づくりにかなり寄与してると思う。サーバーの中で、アーティストでも無ければDJをやっているわけでもない人が何かを始めるきっかけが生まれたり、何もしてなくても対等にアーティストと通話で雑談したりとか。 (CHAVのサーバーに)「ラジオ」って文化があるんだけど、これはDiscordの通話機能を使ってみんなで雑談するカルチャーで。そこにはアーティストとファンの垣根が全く無くて、たとえばeijinくんとかJeterくんに若いファンがタメ口で話しかけたりしてて、それをアーティスト側も良しとしてて。アーティストとファンの垣根を壊してただ遊んでくノリは、Circusで開催された〈CHAVPROM2016〉なんかでも形になってる感じがして良かったです。あくまで軸足は現場にあるんだけど、そこで生まれる壁を取り払うために上手くインターネットを活用してる世代だと思う。だから、敷居を高くしたいのであれば最初からそのつもりでやればいいけど、「オープンな場」を銘打っているのに結局敷居が高くなるような状態は問題視すべきだと思う。
TOPIC
CHAV PROM 2016
2022年6月9日(木)
会場 : 渋谷CIRCUS TOKYO
出演 : Peterparker69, Yoyou, 𓆙iyu, chelipsy, 宇宙チンチラ, NowLedge, efeewma, eijin, dj chavboi, E.O.U, DV cheap keeper, NordOst, and more
yukinoise : そうなると霊臨くんが”東京”を今年リリースしたのは重要だと思うな。
山本 : 「これからって奴集めてパーティしようぜ」……….。
NordOst : 霊臨くんは、ひん曲がった笑いが好きな人は全員好きですよね(笑)。今は諸々あってストリーミングサービス上で聴けなくなってるけど、これからの動きも楽しみです。えぐい集まり♪
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