OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.131
毎週金曜日に編集部がセレクトするプレイリストをお届けする『OTOTOY EDITOR’S CHOICE』。8月は恒例のゲスト月間、今年はOTOTOY Contributorsスペシャルです。ラストの4回目は最近はDJとして話題のスポット〈Forestlimit〉でも活躍中の松島広人(Nord Ost)。インターネットのリアルの隙間を徘徊する、電子音の痙攣を捉える、オタクと現場のせめぎ合い。今後の執筆活動にもご期待あれ!
2021 CONTRIBUTORS SPECIAL
オタクと夏のノスタルジア
オタクの多くはこの時期、ギラつく太陽を空調の効いた空間で回避し、ひぐらしの鳴く夕暮れ時を尻目に液晶画面のブルーライトを浴び、眠れない熱帯夜に頭を抱えながら空想世界のことを懸想します。オタクの大半は、夏のことが好きです。少なくともわたしがそうで、ありもしない架空のノスタルジアに浸りながら日々を過ごしています。それはセカンド・インパクト後の終わらない猛暑のように。
さて、そんな「存在しないノスタルジア」を喚起させる音楽を私見で一揃い選曲してみました。冒頭パートのOPNと~離(ユーリ)は近頃水面下で胎動しつつあるボーカロイド・トラップの先頭に立つような雰囲気で、実に2次元的な表情を見せています。それでいて手の内を晒し切らない謎めきに憧れます。leaf『雫』の月島瑠璃子の姿を重ねつつご一聴を。
中盤には地下パーティと地下インターネットを行き来するユニット・リョウコ2000注目の新譜から、世界一のアーメンブレイク・マスター、Cycheouts Ghostの名曲でレイヴな雰囲気に。続くは同人音楽サークル出身のトランスユニット・モヒカンサンドバッグのlainネタPsyトラックを注入。ようやくTwitchやVRChat等での配信カルチャーもすっかり肌に馴染んできたところに、改めてlain的世界観が丁度良く染み渡るこの頃ですね。
後半部からは夏の匂いを感じるJ-POPの中でもアブストラクト感に溢れたナンバーをピックアップしました。Dub Master XのトラックにはあのYOUさんが参加!これが信じられないぐらいサマー・ダブと相性の良い名演です。坂本龍一ワークスでもあり異常にアブストラクトな音像で一部ディガーから絶大な支持を得る中谷美紀のリミックスと合わせて是非。それと、KONCOSにはコロナ禍の今も変わらず元気を分けてもらっています。特に選出曲はクラブの生々しさを追想でき、ナードな自分もそっと受け入れてくれるキラーチューン。
最後は……もはやジョークとシリアスさの垣根すら読めない覆面ラッパー、Qiezi MaboのZONEアンセムカバーから究極のナードアンセム、SHARPNELSOUNDバージョンの鳥の詩で締めくくる、そうして毎日をウダウダと消費する、そんなオタクのモデルケースでした。
鳥の詩のリミックスだけで2時間ぐらいDJ出来そうだし、AIRのアニメ版は今年2周しています。私事で神尾観鈴や霧島佳乃に共感することが多くて、つい……。 かつて心から共感した乱歩の一言「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」が未だに頭から離れず、ここまで息を吸ったり吐いたり、ついでに配達を受け取ったり、延期されそうな予定に備えたりしながら、今年も夏が過ぎ去っていきます。本当は仮想の空間で「終わらない前夜祭」をループし続けていたかった……けれど、それすら叶わない近頃の現実が立ちふさがりもします。諸々の出来事への疑念を絶やさず、健やかにやっていきましょう。(松島広人)