MVから読み解く、注目の映像作家、lilsom
オトトイのキーワード Vol.2
選・文 : 松島広人(AIZ)
今回のお題
映像作家、lilsom
https://www.instagram.com/_lilsom
https://twitter.com/_lilsom
ジャンルやムーヴメント、さらに「人」などなど、さまざまな注目するべしなコト、モノを紹介する“オトトイのキーワード”。今回はTohjiのMVなどをてがける、注目のフォトグラファー/映像作家のlilsomを取り上げます。 (編)
融解するゼロ年代へのパースペクティヴ
「デジタル」「スケルトンカラー」「サイバー感」「CG」「VHS」「インターネット」「蛍光」「Lo-Fi」「ギャル」「プレイステーション」「ドリームキャスト」 以上のキーワードにピンと来た方はいるだろうか。平成が終わりを告げてもう1年半にもなる昨今、1990年代後半から2000年代前半のトレンド、いわゆる”Y2K”的なカルチャーへの熱が各地で静かに再燃している。
その動きの一端を担うクリエイターとして紹介したいのが、東京インディーズ・シーンの最前線を支えるのが映像作家・lilsom(リルソム)だ。 ヒップホップはおろか、国内のポップ・ミュージックのある部分を牽引する存在と言っても過言ではないTohjiを筆頭に、さまざまなカッティング・アーティストたちのMVやライヴ映像の監督・撮影を行い、VHSカメラのアナログな質感を活かした独特の作風で注目されている。
今回はそんなlilsom氏の手掛けた作品をチェックしつつ、毛色の異なるアーティストに共通項としてそこに存在する「ゼロ年代」の香りを嗅ぎ分けていきたい。
新鋭の映像作家・lilsom(リルソム)とは
フォトグラファー/映像作家。1995年生まれ。
"Go Back to 2000"をステートメントに、90年代~ゼロ年代の空気感を帯びた映像作品・アーティストMVなどを制作。VHS/miniDVなど旧世代の機材を主軸とした独>特の質感を活かし、インディーズシーンの若手ラッパー/SSW/バンドより確かな信頼を得る。
Twitter:https://twitter.com/_lilsom
Instagram:https://www.instagram.com/_lilsom
SNSアカウントを中心に、多数のMVの監督・撮影を手掛ける気鋭の新人映像作家。インディーズ・シーンに点在する多種多様なアーティストはもちろん、ユース・カルチャーの旗手として駆け上がったtohji、RYUCHELL(りゅうちぇる)など著名なアーティストの作品もこれまで担当してきた。VHS特有のフレームレートの低さ、映像の粗さといったラフな質感は、1990年代以降に生を受けた彼らの原体験とも言える。Vaporwaveが内包する80年代以降の大量消費時代に向けた冷笑的な視線の先に位置するような、ピュアな憧れとノスタルジーは、今や新たなリバイバル・ムーヴメントを水面下で着実に推し進めているのでは無いだろうか。
lilsomの作品世界を知るMV集
1. Mall Boyz (Tohji, gummyboy) “Cool running feat. SEEDA”
今や押しも押されぬカリスマとなったTohji率いるMall Boyzの出世作、「Mall Tape」からMVカットされた1曲。ホームビデオのようなザラついた映像に、かつてどこかで見かけたようなフォントの字幕が添えられる。
としまえんの閉館も記憶に新しい今、もはや実在しない楽園のようなロケ地からはどこと無く物寂しさも感じられるような気配も。
マライア・キャリーのサンプリングやラフなジャージの上下、ヒップホップ・レジェンド、SEEDAの客演など、2000年代初頭への回帰を促す同曲の雰囲気と見事にマッチした一作と言える。
Mall Boyz (Tohji, gummyboy) “Cool running feat. SEEDA”はOTOTOYでも配信中
2. Waater “Mistaken (LIVE)”
コレクティブ〈SPEED〉の中核として、東京アンダーグラウンド・シーンを全く新たなアプローチで更新し続ける複数のグループの中核に位置するWaaterのライヴ映像。 先日OTOTOYでも特集されたWOOMANの自主レーベル・コンピにまつわるインタヴュー記事にもたびたび登場するWaaterは、トレンドや時代の流れを汲み取った上で全く異なるスタンスの表現活動を行う「速さ」を持ったバンドだ。
そんな彼らにリルソムは、ゼロ年代初頭のエッセンスを随所に散りばめたプロモーション映像のようなテイスト、そんな作品を提供している。テレビ企画調のイントロダクションから素直にライブへ移行したかと思いきや、Waaterのアーティスト・イメージを全面に押し出すカットや音楽番組風のテロップを配置し、単なるライヴアーカイヴには無い魅力を演出している。
11月にはWaater主宰のレイヴ・パーティーの開催も開催され成功を収めるなど間違いなくシーンに一石を投じる存在として躍進すると思われる。
Waater “Mistaken (LIVE)”はOTOTOYでも配信中
3. とがる “散瞳不良”
"モダン・グランジ"を標榜する東京のソロ・ミュージシャン「とがる」の1stシングルのMV。ギターのアンサンブルと静謐な歌声のコントラストが聴きどころだ。 こちらも"深夜にふと目にするテレビの放送"のような風合いの映像に仕立てられており、そこに乗る歪んだ音像がヤニ臭かった頃のライブハウスを思い出させる。
VHSとは4:3という絶妙な黄金比と、CRTモニタ(ブラウン管)の走査線が織り成す「ゆらぎ」」を楽しむメディアだが、当作品はスマホ時代のデファクト・スタンダードである縦長のレイアウトが特徴的。
4. Mega Shinnosuke “Midnight Routine”
音楽のみならず映像・アートワーク等もDIYでプロデュースする2000年生まれのマルチクリエイター、Mega Shinnosukeの楽曲。アニメーションの起用など新たな表現への挑戦がなされている。 2000年生まれということは、すなわち当時のカルチャーとは物理的な距離を置いた全く新しい世代の人物である。にもかかわらず、昨年大きな話題を呼んだ「桃源郷とタクシー」から本作まで一貫してLo-Fi志向のビジュアルイメージを採用している。その様相は、ノスタルジー抜きに当時のトレンドを「ユースカルチャーの現在地」を示しているようにも受け取れるだろう。
ユースカルチャーとゼロ年代の近接、その先は?
ヒップホップからオルタナティヴ、ポップスとジャンルレスに様々なアーティストのMVディレクションを手掛けるlilsomの仕事に迫った。ジャンルが異なれど、共通してゼロ年代初頭のムードを斬新なものとして再評価し、アーティストイメージへと変換している様子が見受けられる。 雑踏の中で数年前は「ナシ」とされていたラフなファッションに身を包む人々の姿を目にする2020年現在。今後もますます"Y2K”的なエッセンスを随所で再発見する機会が増えていくことだろう。