散在する「現場」を捉える連載【In search of lost night】がスタート──参加ライターによる座談会
In search of lost night vol.00
photo by yukinoise
In search of lost night vol.00
座談会
クラブにライブハウス、果てはSNS上に至るまで、散在されゆく音楽の「現場」。タイムラインや喫煙所での語りのような、忘れ去られていく現場の音楽にまつわるあれこれを、パーティーレポート、ミックス・レビュー、インタビューなど、さまざまな方向からアーカイブするための連載【In search of lost night】がスタートします。
vol.00として、本連載の参加メンバーであり、それぞれ異なるフィールド、メディアで執筆しながら、ともに国内のユースカルチャーに焦点を当てたzine『MISTRUST』を制作したNordOst(松島広人)、山本 輝洋、yukinoise、津田結衣の4人による座談会をお届け。それぞれの最近行ったパーティー話から、インターネットが加速させるリバイバルの行先、現在の現場に漂うムードについて…などなど話しました。
最近行ったパーティー:〈AFTER LIFE〉、〈K/A/T/O MASSACRE〉
山本輝洋:最近どこか遊びに行きました?
yukinoise:渋谷〈翠月〉にShhhhhさんを観に行ったよ。NTSのガムランミックスがすごい良かったのもあって、みたくて。あれはうちらが遊んでる感覚でガムランが翻訳されたというか、いまのダンスミュージックとかトライバルとかを追ってる人も捉えられて、難しくもなく入門編というわけでもなく捉えられるような感じで。
その日のパーティーは〈翠月〉のスタッフのShinsuke GotoとMari Sakuraiさんの共同企画で、〈AFTER LIFE〉って名前が前回からついて、今回はサウンドアートっていうテーマだったんだけど。Mariさんは基本テクノのセットだけど、この回は珍しくチャカポコした四つ打ちを流していて。Shhhhhさんは〈翠月〉で回すことないから、若い客層でも踊れるようなサウンドも混ぜたりしてた。サウンドアートっていってるぶん、普段のテクノ四つ打ちみたいな〈翠月〉ぽさがある意味なかったな。ちょっとトライバルで、野外系のトランスとかレイヴィーな感じで、うまくダンスミュージックの楽しさを攻めてて。〈翠月〉で初めてライヴペイントも見たし。
山本:ほんとだ、reiさんって方がやられてるんですね。
yukinoise:このパーティーは若い世代、25~30くらいの人たちがベテラン勢を呼んで〈翠月〉の若い層にダンスミュージックのベテランのいい音を伝えるものだなと、去年あたりから二人の企画に行ってて思う。Shinsukeが普段〈翠月〉のスタッフなだけあってあって若年層からベテラン勢までちゃんと機能するおとで踊らせてくるんだよね。
山本:〈翠月〉は若いスタッフの方主導のブッキングで良いパーティが更に増えてきているみたいですね。。
yukinoise:2020年で渋谷のクラブシーンを一番に支えた場所だし、そこで上から下までいろんなジャンルの人が集まったから。そのノウハウをいま発揮してる感じはする。
山本:月曜、火曜でも人がめっちゃ入るからすごいですよね。幅広くなってる感じもしますし。そんなにたくさん遊びに行ってるわけではないんですけど。
yukinoise:でも山本くんもこの前DJしてたじゃん。
山本:僕が出た回とかはベースミュージック中心で、良い意味で「こんなの〈翠月〉でやっていいんだ」って思いました。
津田:コロナ前コロナ後的なタームにもつながる話がのっけに来ましたね。
山本:2020年以降でいうと、〈翠月〉、幡ヶ谷〈FORESTLIMIT〉、西麻布〈Traffic Tokyo〉の三本柱っていう感覚ありますもんね。
NordOst(松島広人):僕は20日にK/A/T/O MASSACRE(カトーマサカー)に行きましたね。
津田:uamiさんとのコラボ回、あれよかったですよね。
NordOst:uamiさんのアンテナの張り方が全体に反映されてるような感じがして。uamiさん自体が多作で作風も変化する人だから、そのなかで企画が一つ共同で行われることで、いまこういうものを追ってます、っていうのがタイムスタンプのように示されてて刺激的でしたね。uamiさんはいま、SoundCloud周りの新しい若いラッパーを積極的にフォローしているみたいなんですけど、STACK THE PINKさんってフレッシュなラッパーも出てて。
津田:あとは松丸契さんっていう普段ジャズのフィールドにいる方が出ていて。サックスの独奏会をやってることは知ってたんでその形式かなと思ったけど、サックスにいくつもエフェクトをかけながらインプロをやってた。そういう違うフィールドの人にとっても違う手法を取れる場所という認識があるのかなと思ったり。
NordOst:しかもPAのgrayfield(ナパーム片岡)さんがやることで、100人以下の規模で鳴る音響としては段違いというか。あとは、その他の短編ズっていうインディ・ポップのユニットが遠方から来たりして。ミクスチャー感、全然違う食材をミキサーで混ぜてドリンクにしたみたいな、そのハブを務めるのがuamiさんっていうのがすごくて。 DJでいうと、honninmanさんがオープンでDJをやっていて、メタルコアみたいな曲をアンビエントにして流すっていう。uamiさんの感性で集まってるけどカトーマサカー感もしっかりあって、かなり良かったですね。なかでもnoripiさんのセットがすごくて。
yukinoise:中谷美紀の曲流してた?
NordOst:ラストで流してた! 渋めの“promise”って曲。すごく意識して一本の流れを作ってる感じがして。AVYSSのインタビューで言及されていたことの回収ができてたというか、あれが今回のセットの通訳みたいな感覚に聴こえました。エレクトロニカ期のSUPERCARの“I”をあえて遅回しする、というスタートをして、いまの「過度に激しくいくか鎮静するか」の二極のなかで鎮静という選択肢をとっていたようにも思えますね。 変なアレンジのJ-POPが僕は好きなんで、びっくりしたのが二曲目に流してた声優の釘宮理恵の「How I Feel」。SUPERCARからボイス的にはナイトコアの解釈でも捉えられるようなところから入っていって、múmに繋がり、そこからどんどんメロウな感じになっていって。
山本:múmとかが掛かるのほんといまの感じですよね。
NordOst:見せ方がほんとに素晴らしかったです。『Travel Guide』から繋がる自分のムードをどうやってパッケージするかっていうところで。最後の方にポストロックみたいな壮大な曲をかけてて、それはなんの曲か訊いたらクラムボンだった。亀田誠治が入ってた頃の2001年のアルバム『ドラマチック』から“心象21”っていう尖った曲をかけてて。
yukinoise:クラムボンちゃんと通ってないから、これきっかけに聴こう。
NordOst:クラムボン、有名なのは聴くし好きだけどサブスクでちゃんと全部聞くみたいなことはできてなかったんで、新しい発見ができてすごく良かった。2001年のアルバムですね。ゼロ年代から10年代の感じのまとめ方、このなかにSUGAI KENさんとかも入ってて。憧れる存在だなあと思いながら、もう感動しっぱなしでした。僕も、もっと自分のキュレーションで人になにかを伝えるようなDJしたいな、と思いましたね…。
yukinoise:パーティー行って、楽しかった!だけじゃなくて感動するってなかなかないじゃん。その感動した瞬間を捉えていきたいよね。
NordOst:あとはYNZ VALENTINE君からSTACK THE PINKさんっていうフレッシュなラッパーに行く流れがあったんですけど、YNZ君はuamiさんの質感に合わせるんじゃなくて自分のやりたいことをやってて。ぶち上がるミュージックに少しだけ大ネタを入れてくような。大ネタ最高。