The Cabins──新世代の感性が繰りなす、ジャンルレスな音楽の煌めき

数多いるアーティストの中からOTOTOY編集部がライヴハウスやネットで出会い、ビビッときた、 これはもうオススメするしかない! というアーティストを取り上げるこのコーナー。 読んで、聴いて、そして何か感じるものがあれば、できるならライブを観にいってほしい。損はさせません。 そんな絶対の確信とともにお届けする、第8回。
第8回 : The Cabins

今回紹介するのは、着実にムーブメントの片鱗を見せつつある、Waater、NEHANN、Us等サイケ/ポスト・パンクバンド勢の中で輝きを放つ、The Cabins。
The Cabinsのライヴをみた時、DIIV、Slow Dive、Iceage、Yellow Days、Deerhunter、そして踊ってばかりの国、OGRE YOU ASSHOLEとジャンルの異なる様々なバンドが自分の脳裏に浮かんだ。短い持ち時間の中で演奏される曲は曲ごとに、ひいては曲間においてもサイケ、ネオ・ソウル、グラム・ロック、シューゲ、ポストパンクと異なる音楽性を縦横無尽に駆け抜けていき、その様は無敵感すらある。
Waater等に共通しているのはルーツ不明なほどにミックスされた音楽性、そしてその中に感じるアジアの雰囲気。彼らの音楽はどんな感性のもと生まれるのだろうか。インタヴューでは、メンバーそれぞれの音楽ルーツや、音楽制作への姿勢、そして彼らの音楽が生み出しうるシーンについて尋ねた。
ヴォーカルのMasamiがインタビュー中に自ら語るように、The Cabinsはルーツがこれだと断言できるような音楽ではなく、それは最後まで解き明かされない。しかし特定のものを過信して目指すのとは違ったアプローチで、身につけた感性から音楽を生み出す、今の時代ならではとも言える姿勢が垣間見える内容になっている。
5月には新しいEP『I Remember Everything』のリリースも控えているという、彼らのいまの音をぜひライブで体感してほしい。
MAIL INTERVIEW : Masami Makino(Gt/Vo)、seven(Gt)、Issaku Vincent(Ba)、Hibiki Amano(Dr)
Q. これまでの活動の流れを教えてください
結成から音源を作るだけの期間が長かったのですが、2019年3月頃からライヴ活動を本格的にはじめました。“Boy Persona”のリリース・イベントを兼ねた初の自主企画イベント〈P.U.B.〉開催や、No Buses、scenes、踊ってばかりの国などとの対バンを経て、いま年の1月にはKroiとの共同企画〈J.C.T.〉を開催、350人以上の動員を果たしました。
Q. バンド結成の経緯を教えてください
Masami(Gt./Vo.)とseven(Gt.)が同じ高校で、sevenがギターやっていることを知ったMasamiが声をかけたのがきっかけです。それにベースとドラムのできる友人を加えて、アメリカポップスを中心にカヴァーをしていました。その後同じ大学に進み、Vincent(Ba.)、Hibiki(Dr.)と出会いいまの形に至ります。コンセプトらしいコンセプトはありませんでしたが、自分らのセンスに対する、傲慢にも近い信頼でここまでやってきた自負があります。

Q. 音楽をはじめたきっかけは?
Masami :
現実逃避です。いま思うと強要の多い家で育ちました。なので何か好きなことに没頭する必要があったんです、音楽じゃなくても良かったのかもしれません。高校二年生の時にとっさの衝動で、注意散漫な人間が勢いだけで新しいことに手を出すように、いまの形の音楽活動をはじめました。これがここまで続いているのはラッキーとしか言いようがないです。
seven :
幼い頃から音楽に触れていましたが、バンド活動をはじめたのは4年程前です。当時は弾き語りをしたり、ドラムを叩いたりしていました。同じ学校にいたMasamiとバンドを組むにあたり、エレキギターを本格的にはじめました。
Vincent :
中3になる頃合いで運動部を退部してしまったものですからまあ暇で暇で。高校卒業までこの調子はいかんと自分が好きなものを顧みたところ、絵と生物と音楽だな、と。軽音部はなかったので美術部に入り、魚を飼って、ベースをはじめた次第です。 The Cabinsにはサークルの後輩づたいにMasamiとsevenから頼まれサポートでライヴに出たのがきっかけになりますが、そのままズルズルとサポートを続ける間に気がつけば正規メンバーになっておりました。
Hibiki :
小学2年のころにドラムに興味をもちはじめたのがきっかけです。何か好きなアーティストがいてはじめたわけではなく、楽器はじまりでした。
Q.影響を受けている音楽はなんですか
Masami :
いまの活動に影響を与えたアーティストはVan Morrison、Jeff Buckley、Neil Young、Harry Chapin、Radiohead等々です。 ただ結局のところ、音楽、絵画、詩、文学、映画、思想、その他すべての見聞きしたものを等しく純粋なインスピレーションとして眼前にします。(同じ音楽からの影響は知覚しやすいですが)そいつを逃さずキャッチできるかどうかというところにアーティストの手腕が試される。だから、いまの活動に影響を与えたアーティストを明言することは難しいです。ただ、たとえば“The Door of Reminiscence”ではオルバス・ハクスリー著『知覚の扉』やトーマス・メレ著『背後の世界』等から連想される、軽快なパラノイア感、みたいなテーマは自然と出来上がります。ですがやはり、未だ影響前後のプロセスがはっきりとは見えていません。
seven :
ファッションやアート、そして政治等の影響でイギリスという国に元々関心があったため、10代はUKロックを中心に1960年代くらいまで遡って聴いていました。中でも1970年代のシーンは自分にとって面白く、The Clashをはじめとしたパンク・シーン、またBrian Eno、David Bowie、Mick Ronsonなど時代を彩ったアーティスト達の影響はプレイに表れていると感じています。また、日常的に聴くことが多いアンビエント〜エレクトロニカ等も編曲やフレージングに大きく役立っています。自分自身今まで音楽を人から教わる機会があまりなかったため、意図してジャンル、年代、国を跨ぎ音楽を聴いています。
Vincent :
大学でブラックミュージックを演るサークルに入ってからブルース、R&B、ファンクなど幅広く聴くようになったのですが、中でもオルタナジャズとネオソウルとヒップホップが特に好きで、昨年一番よく聴いてたアルバムはカニエ・ウェストの『The Life of Pablo』、次に聴いてたのはプーマ・ブルーの『Swum Baby 』かと。 ふと聴いただけでは伝わらないやもしれませんが、ブラックミュージックのノリが我々のバンドに欠かせない要素になっていると自負しております。
Hibiki :
いまの自分のプレイに影響を与えたアーティストはやはりドラマーが多いです。mabanua、Benny Greb 、Richard Spaven 、Chris Daveなど沢山います。こんなにモンスター級のドラマーをあげて影響をうけているというのは恐れ多いですが、彼らのプレイをみてドラムを叩いているのは確かです。 特にmabanuaさんはアンサンブルとしてのドラムの立ち位置やグルーヴすることについて考えるきっかけになったドラマーです。
Q. 揺らがぬ名盤を1枚
Masami :
Jeff Buckleyの『Grace』が殿堂入りしています。演奏をみられた方が「Jeff Buckleyぽい」と言う部分は、間違いなく彼の影響です。
seven :
Radiohead の『OK Computer』です。このアルバムから、芸術という枠組みの中に存在する音楽の自由な表現を学びました。曲を制作し作品に残すこと、またそれを演奏して表現することの意義を自分なりに見つけられたと感じています。音楽活動を続ける上で指標となる作品です。
Vincent :
ピンク・フロイドの『Animals』ですね。中でも“Dogs”の音はどんな時代に聴いても美しい普遍的なものだと感じております。ベーシストとして影響を受けた訳ではありませんが、バンド全体としての好みの音、というのはこのアルバムで形成されたように思います。
Hibiki :
Oasisの『(What’s The Story)Morning Glory ?』です。高校のときにたくさん聴いて、友達と盛り上がっていました。青春時代に聴いていたというのもありますが、はじめてドラムにフォーカスせずにアーティストとして好きになったバンドでもあるOasisのアルバムをあげました。
Q. これまでに邦楽を聴くことはありましたか?
Masami :
ほとんどありません。 ですが幼いころに母親の歌う松田聖子をよく聴いて、高校生の時、刹那的にONE OK ROCKにハマり、いまは踊ってばかりの国を少し聴きます。どれも素晴らしいですね。
seven :
音楽活動に傾倒するまでは邦楽を中心に聴く生活でした。現在は、「洋楽」「邦楽」という形式的なカテゴライズによって偏見を持たない様にしていますが、邦楽を聴く機会はほとんどなくなりました。
Vincent :
国内で好きなアーティストといわれますとたくさん浮かびますが、お金を支払ってライヴを観に行ったアーティストでいうと、ここ1,2年はSANABAGUN.やAwich、Kid Fresinoなどヒップホップ系ばかりでございます。
Hibiki :
幼少の頃はひたすら邦楽をコピーしていたので、そこから身につけたことは多いのではないかと思います。あとは、さきほども紹介したドラマーのmabanuaさんや、彼がやっているOvallというバンドです。
Q. The Cabinsの音楽はかなり多様なジャンルをクロスオーバーさせていますが、自分たちらしい音を鳴らすことができる要因はなんだと考えていますか?
良くも悪くも各員個性が強いことだと思います。ギターの音作りやベースのフレージング・奏法、ヴォーカルの声やドラマーの手ぐせが各々独特なので、ある程度どんな曲でも一貫して聴いていただけているのかもしれません。その分まとめ上げるのは大変なのですが…

Q. 曲は普段どのように作られてますか?
Masamiがメロディなどを考え弾き語り動画を各メンバーに送るので、それをもとに各々がパートを作りスタジオで摺り合わせる、と言うのが基本的な流れです。
Q. 楽曲を作る際に意識しているアーティストはいますか
Masami :
むしろ何も意識をしない時に純粋な音楽が生まれると考えるので、「しっくりくる」、「しっくりこない」くらいの目安で作ります。ただ、素面だと精度が低いので、黙々とお酒を飲みながら無意識の大海に身を委ねる。そして翌日、網にかかった魚をカメラロールに見ます。大漁だったりボウズだったりしますが、あとはバンドに投げて皆で調理するような流れです。はじめに想定したものとは異なりますが、その再現をThe Cabinsで行う必要はないと最近は感じます。それでも、実際は楽曲のもつ個性に寄り添うような形で曲作りをするところに、メンバーの楽曲に対するリスペクトを感じます。
Q. The Cabinsの音楽を言葉で表すとしたらなんでしょう
子供らしさ。通時的に、いまのThe Cabinsはいま後失われていく(かもしれない)未熟さと純粋さに満ち満ちています。したがって、その意味において、次作のEPは後にも先にもない最高傑作だと言えます。

Q. 〈J.C.T.〉ではジャンルが違いつつも確実に新しい流れを生むであろうアーティストが集っていましたが、自分たちが作り上げているシーンがあると認識していますか?
いま現在ムーブメントが作れているかはまだわかりませんが、NEHANN、Waaterなども中心に、さらに外側まで巻き込んで作ってゆかねばと思っております。
Q. いま後リリースの予定はありますか
5月頃EPをリリース致します。いままでの我々の音を踏襲しながらも、より洗練したものになるか、と。
Q. バンドとして、短期的な目標と長期的な目標を教えてください。
短期的な目標で言いますと、今年はフェスにたくさん出演したいです。そしていずれは国内外問わずに活動して行ければ良いと思っております。
MUSIC VIDEO
PROFILE
The Cabins

Masami(Gt/Vo)とseven(Gt)が高校時代に組んだバンドに、Vincent(Ba)、Hibiki(Dr)が加わり現体制に。
2019年3月から本格的にライブでの活動をはじめると、“Boy Persona”のリリース・イベントを兼ねた初の自主企画イベント〈P.U.B.〉開催や、No Buses、scenes、踊ってばかりの国などとの対バン、2020年1月Kroiとの共同企画〈J.C.T.〉の開催など精力的に活動を行う。
5月には新EP『I Remember Everything』をリリース予定。
Twitter : https://twitter.com/CABINS_band
Instagram : https://instagram.com/cabins_band
Release Info
new EP
『I Remember Everything』
2020/5 発売予定
1. The Edge of Sweetness
2. Mechadog
3. I Remember Everything
4. Ann
5. Like a Shadow
6. More More