比喩根(chilldspot)──信念を歌声に乗せて。世の中へ疑問を投げかける若きシンガー

数多くいるアーティストのなかから編集部がグッときたアーティストを取り上げるこのコーナー。第26回は、3月19日に3枚目のシングル「Monster」をリリースしたchilldspotをご紹介します。今回は、作詞作曲を務める比喩根(Vo)に対面インタビューを実施しました。早耳の音楽リスナーの皆さん、ぜひチェックを。
INTERVIEW : 第26回 比喩根(chilldspot)

今回紹介するのは、バンドchilldspotのボーカル比喩根(ヒユネ)。chilldspotは、シンプルで引きのあるグルーヴィなサウンドと軽やかで大人びた歌声が特徴のメンバー全員が今年高校を卒業したばかりの4ピースバンドだ。2019年12月に結成し活動開始。昨年11月には1st EP『the youth night』をリリースし、収録曲“ネオンを消して”や“夜の探検”がバイラルチャートにランクイン。また、毎年Spotifyが注目する次世代アーティスト10組を発表する新人プログラム<RADAR:Early Noise 2021>に選ばれるなど、早くも業界を騒つかせている実力者だ。そして3月19日には3枚目のシングルとなる「Monster」を配信リリース。前作EPのチルで大人びた雰囲気から一転し、鋭利で荒いサウンドが際立つchilldspotの新しい素顔がみれる1枚に仕上がっている。
対面インタヴューをしながら思っていたのは、「自分の意思をハッキリと持っていて、余すことなく伝えてくれている」ということ。比喩根(Vo)の考え方は芯があっておもしろい。今回はそんな彼女のアーティスト性やパーソナルな一面を覗きながら、バンドメンバーとの関係性や新作「Monster」についてお伺いした。
インタヴュー&文 : 梶野有希
INTERVIEW :比喩根(chilldspot)
ー比喩根さんがアーティストを目指したキッカケを教えてください。
元々歌うことが好きで、小学3、4年生ぐらいからボイストレーニングの教室に通っていたんです。まだこのときはただ歌がうまくなりたいって感じだったんですけど、中学校2年生のときに出た歌の発表会で私が歌っていたら泣いてくださったお客さんがいたんです。そのときに「自分にしかできないことって、もしかしたら歌なのかな」と思って、そこから本格的に音楽をやりたいという想いが強くなりました。
ーどうしてソロではなく、バンドを?
高校2年生ぐらいから弾き語りをやっているんですけど、自分で初めて“夜の探検”という曲を作ってみたんですね。そのときに、出来てはいるけど、もっと自分の頭の中にあるものをちゃんと表現したいと思ったんです。ギター1本の弾き語りは0から1までしか出来ないけど、バンドでやれば1が10になって100、1000と次々にブワーッと広がる。本格的にバンド活動を始めたら、「もしかしたら、自分たちはいいところまでいけるんじゃないかな」って予感がしたんです。
ーメンバーとは、どうやって出会ったんですか?
2019年、高校2年生の12月に結成したのですが、小崎(Ba)は小学校からの幼馴染で、ジャスティン(Dr)とは同じ軽音部に所属していたんです。他校の軽音部と交流会があるんですけど、玲山(Gt)はそこで声をかけました。
ー結成されてからまだ1年とちょっとなんですね。バンド名「chilldspot(チルズポット)」は造語ですが、どういう意味が込められているのでしょうか。
英語のスラング「chill spot」が元になっています。「リラックスできる場所」という意味なのですが、それだけだと面白くないので、なにかもう一味加えたいと思って。それで、「子供の気持ちを忘れずに、ずっと続けたい」という意味で、「child」を入れました。あと「pot」は「器」という意味なのですが、器にも、スープ用、ご飯用、魚用と色々な種類があるみたいに、「状況に合わせて形を変えながら、寄り添っていけるような音楽を作っていきたい」という意味があるんです。そういう想いを全部合体させて、chilldspotという名前になりました。
ー楽曲はどのように制作されていますか?
私はまだDTMを勉強中なので、弾き語りの音源をいくつかメンバーに送って、その中からアレンジする曲を一緒にピックアップしています。その後、スタジオなどで一緒に演奏しながら、私がループで永遠と歌って、メンバーそれぞれに入ってきてもらいながら、良いと思ったものは取り入れたり、思うことがあれば別のアイディアも試したりって感じでセッションしながら作ってますね。各楽器部分はほとんど任せていて、プラスで私の要望を入れてもらってるんですけど、瞬発的に生まれたいい音が重なる瞬間はセッションならではだと思います。
ーでは、影響を受けたアーティストを教えてください。
元々アイドルがすごく好きで、AKB48とかアイドルソングばかりカラオケで歌ってました。よく「昔からジャズとか聴いてた?」って言われるんですけど、当時は聴いたことはなくて。小学5、6年生ぐらいからは、ボーカロイドにがっつりハマって、中学校卒業ぐらいまでは歌い手さんやボーカロイドのライブばかり行ってました。
ー意外なルーツですね。
よく言われます(笑)。高校に入ってから、お母さんの影響でジャズとかソウル、ファンクを聴き始めて、「こういう系の音楽もすごく好きだな」ってそこで気づいたんです。

ー今はアイドルやボーカロイドというよりは、R&B寄りの楽曲を?
いや、幅広く聴いてますね。Nulbarichさん、SIRUPさん、藤原さくらさんもよく聞きますし、K-POPやラップもすごく好きで。あとはYOASOBI、ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。など、ネット発のアーティストや変わらずボーカロイドもよく聴きますし。小学校と中学校の頃に好きだったものは変わらず好きで、高校に入ってまた新しく聴く音楽の幅が広がりました。
ー比喩根さんは軽やかだけど厚みがあって、伸びやかな歌声が魅力的ですよね。歌声の観点から影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか。
声の質感としては、Aimerさん、EGOISTさん、GLIM SPANKYのレミさんとか藤原さくらさんのような女性シンガーです。歌っているときの声質が中学と高校とでは、全く違うんですけど、中学の時は声に表情がなくてすごく嫌だったんです。そこから色々なアーティストを聴いていって、声質も変わっていきましたね。
ー色々な音楽を聴いてきたなかで、いまの音楽性がジャズやソウルに寄っているのはどうしてでしょう。
メンバーのアレンジの影響が大きいと思います。EPにも収録されている初めて作った曲「夜の探検」は、個人的にはJ-POP寄りの楽曲になると思っていたんですけど、バンドメンバーがデモに合わせて演奏したら、R&Bというかチル系になって。「あれ?J-POPになると思って作ったけど、意外とノリがタイトでスウィングがあるぞ」と驚きました(笑)。
ーなるほど。メンバーのルーツは、バラバラなんですよね?
そうなんです、本当広すぎて分からないんですけど(笑)。小崎(Ba)は幼馴染っていうのもあって、私と同じでボーカロイドが好きですね。ジャスティン(Dr)は両親の影響もあって洋楽が多かったり。あとは吹奏楽をやっていたのでクラシック系もちょっと通っている気がします。玲山(Gt)がいちばん謎なんですけど、どちらかといえばインストとか、流行りより自分の好きな曲を聴いてるってイメージがすごく強いですね。みんなそれぞれたくさん音楽を聴いていると思います。
ー比喩根さんは、普段から音楽を探す癖はありますか?
探すというよりかは気になった曲を延々ループで聴いちゃうタイプです。歌詞を全部覚えたり、ギターソロも全部口で歌えるようになっちゃうくらい。

ー新曲「Monster」がリリースされましたね。本曲に込めた思いを教えてください。
chilldspotの中では1、2を争うくらいメッセージ性が強い曲です。モンスターペアレントや、相手に自分の意見を強要してしまう人、価値観が固まってる人に「その考えは合ってるの?」、「立場とか経験則で人を測ってはいないか?」と投げかけて、自分を一度見つめ直してほしいというメッセージを込めました。それと裏テーマとして、「この曲を書いた私の価値観はどうなのか」、「私は誰かのモンスターになってないか」って、聴いてくれる人だけではなく自分自身にも問いただしています。
ーSNSが主流となり誰でも意見を発信できる現代に、「自分の考えは本当に正しいか」というを疑問を投げかけることってすごく意味があると思います。
私は色々なことを考えすぎちゃうんですけど、だからこそ私なりに社会に対して、疑問を持つことがすごく多くて。自分の考えを躊躇わず歌詞にできるのは、そういった疑問を親や高校の友達と真面目に話し合える環境が日常的にあるからだと思います。そういう人たちが周りにいるからこそ、未熟な考えかもしれないけど、自分の意見を外に発信できるのかなって。
ーバンドメンバーともそういった話はしますか?
あんまりしないかな。真面目な話をすることもあるんですけど、バンドメンバーは音楽をやる仲間なので、どちらかというと音楽のことを話し合う友達みたいな感じです。でも逆に、真面目に話し合える友達とは、音楽の話をしないんですよね。もちろん活動は応援してくれているんですけど。真面目な話をする人には話すし、そういう間柄でもなければ楽しい話をする。そうやって環境によって自然と切り替わるんです。
ーそうなると、どれが本当の自分なんだろうと迷うことはないですか?
区切りをつけるのはあんまりよくないことだと思っていて。日頃、自分が悩んだり苦しんだりする過程があるからこそ、作品の中でアーティストとしての説得力や人間味が出てくると思うから、区切りをつけてしまうとただの人形になってしまうと思うんですよ。考えすぎる性格だから辛いことも多いけど、考えるのをやめたら表現できなくなっちゃう。私の知人が「生きてるだけで人間は表現している」と言っていたんですけど、それを聞いて、どの自分も何かしらを表現してるんだから、チョキチョキ区切っちゃうとリアリティがなくなっちゃうって思うようになりました。
ーなるほど。では今作のサウンド面はいかがでしょうか。
前作のEPとは打って変わって、強めな音になっています。あっちこっちいったりする10代ならではの不安定な感じが反映されていると思いますね。前作はシンプルで洗練されている感じをイメージしたんですけど、今回はドラムがずっとロールしていたり、ギターがいつもより歪んでたり、ベースラインも荒削りだったり、若いからこそ生まれるサウンドになっていると思います。
ー今回のMVは、初のアニメーションですよね。
ボーカロイドが好きなこともあって、もともとアニメーションのMVが好きなんです。それと「Monster」のMVは人物よりもアニメーションの方が人間の非情さや無情さが出ると思って、今回はアニメーションでお願いしました。
ー双子が主人公のストーリー形式のMVです。双子の1人は自分を見つめながら前に進んでいく一方、もう1人は自分を見失ってしまいます。
嬉しいという感情も、悲しいという感情も、自分の中のものを出すってことだけど、考えや気持ちを強要されたり封印されてしまうと、生き苦しいと思うんです。けど、どんな人でもそういう部分はあると思うし、そう言っている私自身もきっとあると思う。
ー自分の考えを相手に押し付けないために、どうしたらいいと思いますか。
間違っていたとしても、自分が生きてきた環境がその人の当たり前になってしまいがちだと思うんですよね。そうならないためには、自分の認識が間違っているということを誰かに教えてもらわないといけないんじゃないかな。だからまずは他人と話して、様々な世界を知って、固まった価値観を広げるべきだと思います。
ーでは、最後にバンドの目標を教えてください。
具体的にどこでライブしたいとかはあんまりないんですよ。そりゃあ大きい会場やステージでできたら楽しいですけど。でもそれよりも、バンドの由来でもある、「着飾りすぎず自然体で、childな面を忘れずに、自分が今さらけ出せるものを表現する」っていうのが目指すところだと思います。環境が変化した時に、何かが変わっちゃうんじゃなくて、どんな場所でも、芯を持って続けていきたいですね。
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PROFILE
chilldspot
chilldspotとは、chill,child,spot,potを組み合わせた造語。メンバー全員2002年生まれ。東京都出身の4人組みバンド。2019年12月に結成し活動開始。2020年11月1stEP『the youth night』を高校在学中にリリース。高校1年の頃初めて作曲した「夜の探検」を含む全7曲を収録。作詞・作曲も担当する比喩根(Vo)から自然と溢れ出すグルーヴと、異なる音楽ルーツを持つメンバー全員で形造る楽曲は、なぜか中毒性があり、一瞬で彼女らの渦に飲まれる。グルーヴとジャンルレスな感覚で自由に遊ぶネクストエージ。
■chilldspot公式Twitter:https://twitter.com/chilldspot