chilldspotは10代をどう過ごしたのか?──これまでの歩みを映した初アルバム『ingredients』
3月に公開したボーカル比喩根の単独インタヴューでは、アーティストを目指したきっかけなどを探りつつ、メンバーのルーツなども教えてもらった。そのとき、語られたのはボーカロイド、洋楽、クラシックなどから受けた影響について。そして今回、そんな様々なルーツが存分に生かされたという、初のフル・アルバム『ingredients』がリリースされた。「いまやりたいことを全部やった」と断言する今作には、chilldspotの好奇心が詰まっている。好きな音楽のジャンル、思考、楽器の鳴らし方。ひとつひとつに彼女たちの“いま“が表現されているのだ。余すことなく、いまのchilldspotを聴いてほしい。
INTERVIEW : chilldspot
chilldspotの初アルバム『ingredients』最大の魅力は、人としての歩みが丁寧に表現されているところにある。1作品を通して、10代特有の様々な心情を感じることができるのだ。例えば、“未定“では自分自身をじっくりと見つめ、“dinner”ではネガティブな感情との向き合い方を考え、“Weekender”では肩の力が抜けていく様子を描いている。まもなく終わる10代を、彼女たちは「人生のなかで密度が最も濃い年代だった」と語った。二度とない10代を彼女たちはどのように生きたのか。その答えが今作にあるのだと思う。そして聴き終わったあと、20代へと向かってゆくchilldspotの未来が眩しいものであると確信するはずだ。
インタヴュー・文:梶野有希
写真 : 西村満
ジャンルに縛られず、いまやりたいことをやった
──まずはバンド結成の経緯について教えてください。比喩根さんを中心に結成されたとのことですが、比喩根さんとはそれぞれ、小崎さんは幼馴染、ジャスティンさんは同じ軽音部に所属していて、玲山さんとは他校の軽音部の交流会で知り合った、と前回のインタヴューで聞きました。
小崎 : 高校の軽音部にいたときは、ずっとコピーばかりやっていたので、オリジナル曲を作りたいとは元から思っていたんです。それで比喩根から「じゃあやってみる?」って誘われて、ヌルッと始まったよね。
ジャスティン : 僕は高2くらいのときに誘ってもらったんですけど、そのとき別でバンドをやっていたので、一度断ってしまいました。それから時間が経ってもう1回声をかけてくれて、「そこまで言ってくれるんだったら」と思って入りました。
比喩根 : あとギターだけ適任って思う人がいなくて、「誰かいるかな」ってジャスティンに相談したんですよ。そうしたら偶然、玲山と同じバンドをやっていたことがあるって教えてくれて。
前回のインタヴューはこちらから
──別のバンドにふたりとも所属していたんですか?
ジャスティン : 毎年いくつかの高校の軽音部が集まる合同ライブがあるんですけど、そこでそれぞれの高校の幹部でバンドを組むのがお決まりで。僕らも別の高校だった玲山も幹部だったので、それで知り合ったんです。
玲山 : そうそう。僕は高校が違ったので、他校の軽音部とやる合同ライヴが比喩根を知るきっかけでした。そのときから比喩根の歌は飛び抜けてすごかったので、バンドに誘われたときは「おもしろそうだな」と思って、すぐ入りました。
──ただ「玲山さんはバンドをやめようと思ったことがある」というコメントを拝見したのですが。
玲山 : 入った当初は、いろんな人にバンドを知ってもらえたり、こんなに楽曲が再生されたりするとは思ってなかったんです。だからこの先続けていくってなったときに、自分のやる気が弊害にならないか心配で。それで1回脱退しようかなっていう話はしました。
──それでそのときに引き止めてくれたのが、ジャスティンさん?
ジャスティン : 僕だけじゃなくて、みんな引き止めようと頑張ってましたよ!
比喩根 : 性格のバランスも取れているし、みんな穏やかなので喧嘩もないし、それまでの活動がすごく楽しかったのでやめて欲しくなくて。それで、はじめて4人でご飯を食べに行ったとき、「やっぱり玲山にいて欲しい。」って話しをして、最終的にジャスティンが後押ししてくれたんですよ。
──なにか印象的な言葉があったんですか?
比喩根 : 話をしているうちにだんだん熱くなりすぎちゃって。「俺は玲山が大好きなんだよ!」「お前と一緒にバンドやりたいんだよ」ってかなりストレートに言っていました(笑)。「ライヴでの景色とか、この4人で見たいんだよ!」って。そういう姿勢が玲山の胸を打ったんでしょうね。
ジャスティン : やめてやめて!(笑) 恥ずかしい...。
比喩根 : あはは(笑)。でも、いいお話ですよね。
──玲山さんが脱退されなくてよかったです。今回ファースト・アルバム『ingredients』をリリースされましたが、みなさんにとってどのようなアルバムになりましたか?
比喩根 : ジャンルに縛られず、いまやりたいことをやったというのがいちばん大きいですね。今作は前作のEP『the youth night』とは違って、コンセプトをあまり作らなかったんです。とにかくいまの自分たちがやりたいことや、いいと思うものをどんどん作っていたら、いつの間にかアルバムができるくらいの曲数ができていました。
小崎 : やってみたい構成をやったり、色々なジャンルに挑戦したり、本当にやりたいことをやりましたね。最終的に自分たちが納得できる素敵な曲がいっぱいできたし、chilldspotのジャンルの幅も見せることができるアルバムができたって満足しています。
──「状況に合わせて形を変えながら、寄り添っていけるような音楽を作っていきたい」というバンド名に込められた想いにもぴったりなアルバムですよね。
ジャスティン : そうですね。バント名の由来とか色々なものに添っていて、本当に1枚目としてはすごくいい作品ができたと思います。僕らはそれぞれ聴いてきた音楽が全然違うんですけど、そういったみんなのルーツが11曲のなかで分かりやすく出たかなと思います。
──では今作で、自分のルーツがいちばん反映されている収録曲はどの曲ですか?
玲山 : 僕は “Groovynight”ですかね。ギター・ソロを結構こだわっていて。ソロが2回あるんですけど、最初はジャズっぽくて、2回目は激しくなっていって、雰囲気が変わるんですけど、そこがおもしろいかなって。ジャズはまだ勉強中なんですけど、「ジャズ要素を入れたい」ってジャスティンから言われて、挑戦しました。
比喩根 : 私は意外かもしれないんですけど、“dinner”です。結構色々なジャンルを聴いてきたし、チルな楽曲もルーツにはあるんですけど、本能的に好きなジャンルに近いのが“dinner”なんです。ちょっとダークで、ドラムがずっしりしている感じが好きで。私は好きな曲調が全体的にちょっと暗めなんですよね。
ジャスティン : 僕は“ネオンを消して“です。ドラムを教わっている人がいるんですけど、その人の影響をめちゃくちゃ受けていて。その人はヒップホップ系のドラムにすごく詳しくて、この楽曲や “dinner”にもよく表れていると思います。
小崎 : 僕は“Weekender”かな。ルーツは邦ロックなんですけど、chilldspotに入ってから聴く音楽が結構変わって。最近よくファンクを聴くようになったんですけど、その影響が出たかなと思います。“Weekender”は、低音を出しつつ、ファンク寄りのフレーズを入れたり、中音域めなベースラインになっています。