2024/06/07 18:00

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.276 とある日の記録

OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)


とある日の記録

5月31日 (金)

仕事終わりに美容院へ。担当してくださった方がこわかった。外見ではなくて、話す言葉に小さな棘が生えていた。二言あたりから「合わないな」とお互いが思ってる空気がじわっと滲みはじめて早々に地獄。なんというか、磁石のN極とS極が話してるみたい。私と相手の言葉は反発しあっていたけれど、なんとか仕上がりのイメージを理解してもらった。それ以降はしばらく無言。髪をすくシャキッシャキッっという音が異様に目立つ。

だからといってどうにかお喋りしたいとも思えなかった。きっとこれもお互いに。濡れた髪のままここから飛び出る自分を想像したけれど、そんなことできるはずもなかったので席に持っていった文庫本に救いを求めた。ちょっと間があいて後ろから「その作者、好きなんですか?」と声がした。美容師さんのお父さんが好きな作家で、昔よく読んでいたらしい。そこからそれぞれが好きな本の話をした。最初は仲良くなれそうもなかった人がいちばん好きな作品を楽しそうに教えてくれて、それがすごく嬉しかった。私の好きなシンガー・ソング・ライターは「好きなものが一緒よりも、嫌いなものが一緒のほうがいい」と歌っていたけれど、これだけは共感できないや。振り返れば、好きなものが一緒のほうが楽しかったことばかりだよ。今日だってそう。帰り際、あんなにこわかった人が「いくらでも喋れますね」って笑いかけてくれて、また嬉しくなった。

この間も同じようなことがあったな。飲み屋で知り合った人といちばん好きな作家さんが一緒で、それ以外のことはほとんど知らないまま後日またすぐに飲みに行った。最近は好きなものが似ていて、その感じ方が近いってだけでもう充分すぎるくらいな気がしている。「映画が僕に親友をくれた」ってすごくいい言葉だなと今日も思った。

この記事の筆者
梶野 有希

1998年生まれ。誕生日は徳川家康と一緒です。カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』でライター・編集を担当し、2021年1月よりOTOTOYに入社しました。インディーからメジャーまで邦ロックばかり聴いています。

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