2022/02/25 18:00

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.157

OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)


で、結局パニエさんって誰やねん

tricotの出会いは、私が中学生のころに遡る。当時思春期真っ只中だった私は、ドラムを始めたこともあって邦楽ロックに夢中だった。学校では友人とホットなバンド情報を交換し、家に帰ってはパソコンに向かって未知のバンドを探していた。いつものようにMVやライヴ映像を観漁っていたある日、おすすめ欄にtricotというバンドの “爆裂パニエさん” という楽曲のMVを見つけた。「パニエって誰やねん」とつっこみつつ、なんとなくその動画をクリックした。脳みそがぶっ飛んだ。なんだこのバンドは?なんだこのリズムは?そして歌詞がわけわからない。「プランクトンにおかされた感情」ってなんだ?なんでこんなにも中毒性があるんだ?様々な疑問符が頭を飛び交うなか思ったのは、「すごいバンドに出会ったのかもしれない」ということだった。

はじめて彼女たちのライヴを生で見たのは2012年の夏、京都大作戦でのことだ。ついに “爆裂パニエさん” を生で見た光景は、いまでも鮮明に覚えている。

プランクトンにおかされた感情おぼれて消えた
プランクトンにおかされた感情おぼれて消えた
プランクトンにおかされた感情おぼれて消えた
プランクトンにおかされた感情おぼれて消えた

繰り広げられるコールアンドレスポンスに、私も無我夢中になって歌った。ライヴってこんなに楽しかったっけ。

それ以降、新曲が出るたびにCD屋に足を運び、tricotのライブが開催されるたびに駆けつけた。ライブに来るお客さんのなかには、ファン同士の仲良しグループみたいなものがあって、会場の出待ちとかで彼らが楽しそうに会話してるのをよく見かけた。話しかけてみようかなんて一瞬考えたけど、人見知りの私の性に合ってないと思ってやめた。それでも、自分の好きなバンドがたくさんの人を笑顔にしていると思うだけで嬉しかった。

これまで、tricotにはたくさんの思い出をもらってきた。

当時通っていたライヴハウスのスタッフにメンバーとの共通の友人が何人かいたこと、高校最後のライヴで “99.974℃” を披露して、はじめてドーパミンが出る感覚を味わったこと、アメリカの大学進学のために渡米するとき、飛行機で “Break” を聴いて泣いたこと、一年にあるかないかくらいのすごい怒りを感じたとき、“節約家” を聴いたらなんか落ち着いたこと。どれも忘れられない思い出だ。ここまで人生の大切な一部になってくれたバンドに出会えてよかった。ありがとう、tricot。

そうだ、忘れられない思い出がもう一つ。2018年、当時カリフォルニアに留学中の私は、北米ツアー中だった彼女たちのライヴを観にサンフランシスコまで出かけていったことがある。ライヴは言わずもがな最高で、同郷出身のアーティストが異国の地で活躍する姿に胸が熱くなった。公演終了後にメンバーと軽く話しができるタイミングがあり、「日本から来ました!」なんて言ったら喜んでもらえるだろうかとワクワクして話しかけたら、「あ、そうなんですね...」くらいの反応で拍子抜けした記憶がある。そうだ、彼女たちが人見知りなことをすっかり忘れていた。でもそんなところが彼女たちらしい。私はそんなtricotが好きなんだよなと妙に納得した。どこまでも突き進む彼女たちに負けないよう、私も歩み続けよう。

(平石結香莉)

この記事の筆者
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