OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.336 UKダブの牙城〈ON-U SOUND〉、設立から45年の現在地
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
UKダブの牙城〈ON-U SOUND〉、設立から45年の現在地
〈ON-U SOUND〉を率いるUKダブの巨匠、エイドリアン・シャーウッドが13年ぶりの、4枚目のソロ・アルバム『The Collapse Of Everything』を8月22日にリリースする。1980年のレーベル・スタート以来、ジャマイカのレゲエのカルチャー、つまりはサウンドシステムのカルチャーのなかで生まれたダブを他のジャンルに拡張させた張本人でもある。1980年代初頭にはポストパンクへ、1980年代後半にはインダストリアル・ミュージックやEBMへ、そして1990年代に入るとそのリミキサーとしての手腕で数多くのリミックスも手がけ、UKのダンス・ミュージックにおけるダブ成分を一層色濃くしていた存在でもある。もちろん、その傍らで名ドラマー、スタイル・スコットを配したダブ・シンジケートやリー・ペリーとの諸作などで、ジャマイカとは全く違ったレゲエ~ルーツ・ダブのサウンドを作り上げた存在でもある。
そんなUKダブの牙城とも言えるレーベルの設立から45年となるが、ここ数年、リリースに関しては何度目かの充実期に入っている。先日のフジロックに出演したアフリカン・ヘッド・チャージ、まさにレーベルの初期からコンスタントに作品をリリースしている看板アーティストだが、2023年に『A Trip To Bolgatanga』という新作をリリース。サウンド的にこのキャリアにして新たな境地へと進んでいる。また同じくレーベル最初期のハウス・バンドとも言えるクリエイション・レベルは同年に、約40年ぶりのアルバム『Hostile Environment』をリリースしている。またクリエイション・レベルをバックバンドに従えて昨年来日したルーツ・レゲエのレジェンダリーなシンガー、ホレス・アンディ──現代ではマッシヴ・アタックのヴォーカリ──との『Midnight Rockers』、そのダブ盤とも言える『Midnight Scorchers』をリリースし高い評価を受けている。忘れてならないのは、2019年には、故リー・ペリーの遺作とも言える『Rainford』(とこれまたダブ盤『Heavy Rain』) をリリースするなど、これまでのレーベルの歴史をアップデートした新たな作品をリリース。そして少し前になるがブリストル・ダブステップの雄、ピンチとのシャーウッド&ピンチでは、最新のダブステップ・サウンドと〈ON-U〉のダブを見事に接続して見せた。その他ではインディ・ロックのスプーンやパンダ・ベア&ソニック・ブームなどの作品をまるごとダブ化など、エイドリアンらしい異種格闘技なダブ作品もリリースしている。
そんななかでリリースされる新作、すでに2曲が先行配信されているが、どちらもブルージーなトリップホップ~ダウンテンポ的なアプローチとなっている。なんでも長年の友人でもあり、コラボーレーターでもあったマーク・スチュワート、そしてドラマーとしてタックヘッドをはじめ〈ON-U〉のサウンドに欠かせない存在だったマーク・ルブランの死が本作を作り始めるきっかけとなったのだという。前述のように、ここ数年の充実した作品リリースを考えるとエイドリアン・シャーウッドが自らの名前を冠した、ひさびさのアルバム、そのサウンドがどのようになるのか非常に楽しみでならない。11月にはデニス・ボーヴェルとマッド・プロフェッサーと、同じくUKレゲエ~ダブの名プロデューサーふたりとともに来日公演も予定されている。
