REVIEWS : 097 ダブ、テクノ(2025年5月)──河村祐介

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューするコーナー。今回の更新は、OTOTOY編集長でもあり、昨年、監修本『DUB入門』刊行した河村祐介が「『DUB入門』その後」的な新作+テクノ〜ハウスなどの気になる作品を、そしてリイシューを隔月で紹介します。
OTOTOY REVIEWS 097
『097 ダブ、テクノ(2025年5月)』
選・文 : 河村祐介
Mark Ernestus’ Ndagga Rhythm Force 『Khadim』
Ndagga / Dub, Afro
モーリッツ・フォン・オズワルドとともにベーシック・チャンネル / リズム&サウンドにて、ダブ・テクノの礎を築いたマーク・エルネスタス。彼の、セネガルのアーティストたちをフィーチャーしたンダガ・リズム・フォースの約9年ぶり、2枚目のアルバム(前身のジェリ・ジェリを入れると3枚目)。今回はギターを排し、ヴォーカリストのムベネ・ディアッタ・セックのチャントのようなスピリチュアルな歌声と、リズムの循環を見失う、ポリメトリックなアフロ・パーカッションのアンサブルにエルネスタスによる電子音+ダブ・ミックス。地鳴りのようなサブ・ベースの上をパーカッションが変幻自在に転げ回り、サイケデリックなグルーヴを作り出していく。まさに「黒い大西洋」の最前線として、奴隷貿易の拠点のひとつとなっていた地域ということを考えると、アフロ・ディアスポラ以前から途切れなく続く音楽と、その後に生まれたある種の歴史との断絶から生まれたレゲエ、ダブの邂逅と考えるとなんとも示唆的でもある。
Cloud Management『Unfinished Business』
Digital Sting / Dub, Electronic
ハンブルグのエレクトロニック・ダブ・トリオの新作。京都のG-Version IIIのリリースでも知られるミネソタのレーベル〈Digital Sting〉から。レーベルのコメントにも言及されてますが、たしかにクラスターのダブ・ヴァージョンとも言いたくなるような電子音響+ダブ。リズム&サウンドをスクリューしたような冒頭から、チャカポコとしたドラムマシンのチープな響きと、ヘビーなレゲエ・ベースをガイドに、エコーにのってさまざまな電子音が去来する沼のようなダブワイズ・サウンド。この虚無感、コンラッド・シュニッツラーのダブ・ヴァージョンとか、ムスリムガーゼも思い出したり。
Keith Hudson & Soul Syndicate 「Nuh Skin Up Dub」
Week-End / Reissue(1979), Dub, Reggae
ダブ再発のなかでも重要度高めの逸品を。『Pick A Dub』などダブ名盤も多い、1960年代末から1980年代初頭(1984年に病没)に活動したジャマイカ人プロデューサー、シンガー、キース・ハドソンが1979年に残したサイケデリック&ブルージーなダブの名盤がNYの〈Week-End〉から再発。オリジナルはかなりのレア盤ながら2006年に英〈Pressure Sounds〉再発していますが、今回の再発ではエンジニアのステファン・マシューによる手腕で驚くような音像に。全ての音が立体的に立ち上がり、ギターの艶めかしいフレーズの響きひとつひとつの鮮度たるや……アルバムに内包されていたサイケデリアがダイレクトに伝わってきます。ちなみに配信では24bit / 96kHzの配信も(OTOTOYで売りたい!)。限定LPには7インチ付きもあり(目が飛び出る値段なのでスルーした)。
Om Unit & Soreab 「Pressure 3D」
Baroque Sunburst / Dub, Bass Music
ビッグ・ハンズ&ソリアブ(Soreab)による革新的なベース・ミュージックをリリースする〈Baroque Sunburst〉から、ブリストルのベテラン、オム・ユニットとソリアブのコラボ・シングル。ヘヴィーウェイトなテクノ・ダンスホールの1、リズムの魔術師たるソリアブらしいスネア使いが印象的なレイヴィーな2。Bサイドはリミックスで、おなじみアル・ウートンが1をテクノというよりもスライのステッパーを彷彿とさせるエレクトロニックなロッカーズ・ダブへ。もういっぽうのリミキサー、Ottomani Parkerはビッグ・ハンズを中心に、そのアルバムにも参加しているエレクトロニック・ジャズ・ユニット(高橋勇人も参加)、ドライブしそうでしない焦らしのダブワイズ・ジャズへとリビルド。