REVIEWS : 076 ポップ・ミュージック(2023年3月)──高岡洋詞

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。高岡洋詞による“ポップ・ミュージック”と題して、1月から3月までの、SSW、バンド、アイドル、そしてあの“歌怪獣”の注目のカヴァー・プロジェクトなどなど、国内のここ3ヶ月ほどのエッセンシャルな12作品をお届けします。
OTOTOY REVIEWS 076
『ポップ・ミュージック(2024年3月)』
文 : 高岡洋詞
離婚伝説 『離婚伝説』
昨年、話題を集めた “愛が一層メロウ” と気の利いたグループ名で、ある層(僕を含む)の信頼を一瞬にして得てしまった二人組の初アルバム。柿沼大地、土井徳人、山本連、田中匠郎、菅野颯らをサポートに迎え、1970~80年代の風を吹かせまくっている。あえて言うなら音はソウル/アダルト・コンテンポラリー、歌詞とメロディはシティ・ポップという感じだろうか。シンガーの松田歩は地声もファルセットもそれぞれに魅力的で、ジェンダーの揺れが古くて新しい “萌” “また旅に誘われて” “You Should Know Your Love” などは舌津智之教授に聴かせたい。別府純がラリー・カールトンのようなギター・ソロを披露する “追憶のフロマージュ” からラヴ・アンリミテッド心炸裂の “眩しい、眩しすぎる” への流れにとりわけグッときた。
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やなぎなぎ 『ホワイトキューブ』
アニメに詳しくなく作品との関連はわからないがずっと聴いているアーティスト。作編曲を委ねた曲がやや多めで、コラボレーターは新鋭Mizoreからベテラン新居昭乃まで極めて多彩。プロデューサーとしての辣腕を発揮している。北川勝利と共作した “ユキハルアメ” やフレデリックの二人を迎えた “ルーキーシーフ” のポップから、照井順政と組んだ “標火” “命火” やVan de Shopの二人との “picky about you” のドラマチックまで曲調は多種多様。それをつなぐのがヴァーサタイルな歌唱と、インタールード的な2曲のインスト、そして創作に向き合う姿勢をあらためて表明したようなラストの “Blank” だ。アルバム・タイトル(美術館やギャラリーで展示作品に集中させるため一切の装飾を排した真っ白な空間)の辻褄を合わせて余りある。
アヤ・シマヅ “Think”
4年半前に新宿ロフトで、マキタスポーツの主催イヴェントにサプライズ出演した島津亜矢を見た。ライヴハウスで聴く「歌怪獣」の風圧はすごかった。その超絶的歌唱力を生かして洋楽を含む非演歌曲のカヴァーも多数リリースしてきた彼女が、松尾潔と中田亮(オーサカ=モノレール)のバックアップを得て、アリサ・フランクリンの代名詞的名曲に体当たり。英語には必ずしも聞こえないが英語の歌には聞こえるという絶妙の塩梅、そして総体的なかっこよさは、持ち前の聴覚の鋭さとリズム感、完璧な喉のコントロールの産物だろう。美空ひばりの名盤『ナット・キング・コールをしのんで』を想起させる。52歳にして26歳のアリサの声に負けていないのも驚異的。夏に予定されているというアルバムも楽しみだ。
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