REVIEWS : 032 ポップ・ミュージック(2021年9月)──高岡洋詞
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(今回は7月〜9月)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による9枚+1枚(大和田慧『LIFE』は6月リリースということで)な10枚。あのSSWが主演をつとめた話題のアニメ映画の豪華アーティスト陣によるサントラから、注目のバンド、エッジの効いたアイドル、はたまたSSWまでさまざまなスタイルのポップ・ミュージック9選。とさまざまなスタイルの現在進行形のポップ・ミュージックをテーマにセレクト&レヴュー。
OTOTOY REVIEWS 031
『ポップ・ミュージック(2021年9月)』
文 : 高岡洋詞
V.A. 『「竜とそばかすの姫」オリジナル・サウンドトラック』
細田守監督の映画はyoasobiファンの友人に見ろ見ろと言われていまだに見られていないのだが、このサントラ盤はよく聴いている。音楽監督を務めた岩崎太整の采配のもと、主人公のBelleこと中村佳穂、常田大希率いるmillenium parade、ermhoi、狭間美帆、坂東祐大とEnsemble FOVE、Ludvig Forssell、HANAなどいまをときめく若き精鋭が集い、美しくかつ刺激的な音楽で楽しませてくれる。総勢80名のフルオケからビッグ・バンド・ジャズに電子音楽、歌もの(ア・カペラも)ありコラボあり。劇場の音響で聴いてみたい気にもなるが、映画のサントラという機能性を離れて2021年現在の日本のポップ・ミュージックの精髄のドキュメントとしても鑑賞できる強度を備えている。
鈴木真海子 『ms』
2017年の『Deep green』以来4年ぶりのソロ作が登場。ポップでトリッキーなchelmicoとは対照的にBPMゆっくりめ、声は低めでチリーかつブルージー。やるせなさ全開でも決して陰鬱にならないのは、「ブラジルっぽい曲作らね?」とポルトガル語風のジバリッシュで歌った仮歌をそのまま採用したかのような“空耳”をはじめ、ちゃかぽこビートの“山芍薬”やサイケデリックなサウンドにポエトリー的なラップが乗る“R”に象徴される自由な空気。脱力しつつしっかりと聴き応えを残すのはあっぱれな非凡さ。ギターのストロークだけで作ったと思しき“untitled”の「今ごろどうしてるかな/むずかしいことは歌にする/この気持ちはどこへゆく」と答えを出さない問いも心地よい。
hy4_4yh 『十五執念漂流記』
結成15周年記念の15か月連続配信曲を集成。ラップ・ユニットを標榜して7年、本当にかっこよくなった。発声はパンチがあって濶舌バッチリ歯切れもよく、ふたりの個性の違いも明快。似合うビートはブーンバップ系だが、トラップありバラードあり、特に後者ではアイドルのキャリアがモノを言う。先達へのリスペクトに満ちた故・江崎マサル氏のマニアックな仕事にハイパヨふたりのエネルギーがかけ合わさって大きな力を生む様子の、なんと魅力的なことか。いつも仲よしで楽しそうな3人の雰囲気も大好きだった。今後も「ありがたみが形見」(“Dear”)としてマイペースで歩み続けてくれるとうれしい。この後にリリースした竹中ピストルのカヴァー「石ころみたいにひとりぼっちで命の底から駆け抜けるんだ」もすばらしい出来。