REVIEWS : 014 ポップ・ミュージック(2021年1月)──高岡洋詞
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(基本2~3ヶ月ターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による9枚。エッジの効いたアイドル、SSWなどなどさまざまなスタイルの現在進行形のポップ・ミュージックをテーマにセレクト&レヴュー。
OTOTOY REVIEWS 014
『ポップ・ミュージック(2021年1月)』
文 : 高岡洋詞
アーバンギャルド『アバンデミック』
アーバンギャルドは2020年にアルバムを2枚リリースした。コロナ禍でライヴ活動を制限されて多くの音楽家が苦しんだが、彼らの場合は未曾有の事態にむしろ創作意欲を刺激されたと思われる。マスクを小道具に使った“マスクデリック”“シガーキス”、古風な言葉遣いでSNS語を包囲して時制を混乱させる“映(ば)えるな”、王道的な文化批評ソング“バンクシーの恋人”、令和の殺風景を絵画のように描いた“白鍵と黒鍵のあいだで”と、愚直なまでに時事的であり、明確かつ強靭な意志をもって我が道を邁進する。浜崎容子の無機的な美声と松永天馬のガヤ歌の対照といい、古式ゆかしきテクノ・ポップを中心に多様なスタイルを飲み込んだおおくぼけいの音作りといい“型”は確固としている。ジム・モリソンから尾崎豊まで、27歳で夭逝したスターたちへの憧憬を歌った“クラブ27”は、歴史を踏まえた表現がアーバンギャルドの強みであることを再確認させる。
大森靖子『Kintsugi』
大森靖子は優れたメロディ・メーカーでもあって、曲に惹かれて聴いていると突然飛び出してくる強烈な言葉に毎回、不意打ちを食らってしまう。それこそ「お前に刺さる歌なんか/絶対かきたくないんだ」(“シンガーソングライター”)と言われても。大久保薫、大沢伸一、sugarbeans、鈴木大記らの編曲の貢献もあり、本作も音楽的にはとてもポップ。妻や母といった立場と自分自身の間で揺れる感情を吐露した“夕方ミラージュ”、性を主題にした“えちえちDELETE”、橋本愛と共に教師の人間性を歌う“堕教師”など感情の解像度の高い歌が並ぶが、一見衝撃的でも実は誰もが思っていることのはず。否定と肯定を高速で往復し、時に同居させるのは、その振幅の中に人の居場所を見出しているのだろうか。こんな感情を抱いていてもいいんだ、と解放感を覚える人が多いと思う。伴侶に向かって「大嫌い」を連呼し、最後に「大好き」とつぶやく“KEKKON”は祝歌のようだ。
sooogood!『Strawberry,Gun,St.Bernard』
元カラスは真っ白のシミズコウヘイがすべての作詞・作曲・編曲、歌唱、ギター、打ち込みをこなすソロ・プロジェクトの2ndアルバム。2018年10月のファースト『sooogood!』は客演をたくさん迎えて賑やかだったが、今回は彼ひとり。この2年間に発表してきた数々のシングル曲も収録せず、オール新曲で勝負している。はつらつとしたビートが印象的な“素敵な麗しい別れのために”“Best Youth”をはじめ、エフェクト全開で健康のすすめを説く“KENKO SEIKATSU CLUB”、ミディアム・バラード“おそろしく愛すべき子供たち”“新世界II”“グッドナイトトーキョーロマンス”など曲調は幅広いが、一貫しているのは縦横無尽に活躍するギターと人懐っこいメロディ、そして2~3分のコンパクトなサイズだ。自らの歌唱を扱う手つきも絶妙。オルタナ魂を秘めたsooogood!流ポップは、MASS対COREの構図を止揚する可能性に満ちている。才人としか言いようがない。
眉村ちあき『日本元気女歌手』
ファンからコーラスや生活音を募ってリモートで制作した“手を取り合うからね”をはじめ、“教習所”“偏差値2ダンス feat. 玉屋2060%”“フリフリスイスイニッコニコ”などラップを配した曲が増えたなぁと思っていたら“ニーゼロニーゼロ feat. Creepy Nuts”が流れてきた。兼松衆と組んだ“冒険隊 ~森の勇者~”や“やさいせいかつ”からもわかるように、本作の裏テーマはコラボレーションだ。“弾き語りトラックメーカーアイドル”を標榜し、すべてをひとりでこなしてきた眉村だが、なかなか会えないからこそ他者とのコミュニケーションへの志向が亢進したのかもしれない。“夕顔バラード”や映画主題歌の“36.8℃”など“真顔”の曲のクォリティがとても上がっていて、以前インタヴューしたときに「ライヴの評判に音源が追いつかない」と悩んでいたのを思うと隔世の感がある。トラック・メーカー、レコーディング・アーティストとしても進境著しいのだ。
SAKA-SAMA『君が一番かっこいいじゃん』
3年前にインタヴューしたことがあるが、メンバー交替が多く、当時の4人のうち今も在籍しているのは寿々木ここねだけ。現在はサポート・メンバーとして朝倉みずほを加えた2人で活動するSAKA-SAMAのセカンド・アルバムは、うーちゃん(どついたるねん)、mekakushe、河内宙夢、佐藤優介らによる新曲6曲(80年代のニュー・ウェイヴ・バンド、D-DAYの曲をBorisの演奏でカヴァーした“Heavenly Blue ~ずっと傍にいたい~”を含む)に加え、既発表曲の再録や再ミックスも含む28曲収録の大ヴォリュームだ。“Lo-Fiドリームポップ・アイドル”を標榜するが音楽性はそれにとどまらず、ポスト・パンク、ディスコ、レゲエ、ハイパー・テクノ、ドラムンベース、カントリーなど、80年代以降のポップ・ミュージックを総まくりするかのよう。そこに一本通した筋に何より音楽を大事にした運営ぶりがうかがえ、いろんな音楽に触れられるというアイドルの一特性を追求した感がある。
瑛人『すっからかん』
タイトルは『すっからかん』だが、印象は“あっけらかん”。無防備と言ってもいいかもしれない。「俺はリアルじゃないからさ」(“HIPHOPは歌えない - 韻シスト ver”)、「青い空の下で君と弁当食べたいな」(“僕はバカ”)、「ノリで告ったり フラれて泣いたり」(“ライナウ”)といった数々のパンチ・ラインも、思いついたフレーズをこねくり回さず極力そのまま歌う率直さの産物と思える。工夫していないという意味ではなく、思考や感情が生のまま歌に乗るように心を砕いている感じ。刺身やサラダのような、素材の味を生かしたポップスだ。レゲエのリズムに乗ってDV家庭の風景を底抜けに朗らかに歌った話題作“ハッピーになれよ”が強烈だが、この曲の肝は最後の「もういいべ」。実に力みのない諦念と赦しである。“好きにすればいいさ”や“俺は俺で生きてるよ”では怒りもにじませるが、持ち前の優しさと明るさは決して崩さない。
YONA YONA WEEKENDERS『唄が歩く時』
タイトルがいい。3枚めになるEPのテーマは“これまでとこれから”だそうだが、唄も人も大人になると走ってばかりはいられない。ときどき立ち止まって“これまで”を振り返りつつ、何かあるかもしれないし何もないかもしれない“これから”を仕方なく、かつそれなりに楽しく、歩いていくものだ。全員30代、サラリーマンとして働きながらのバンド活動だといい、音楽性とたたずまいからもその来歴に納得がいく。楽曲も演奏もおしゃれだが適度に土臭く、温かみのある歌声も人情味を感じさせる。“drive"と韻を踏むべく“ない”の否定形で終わる言葉を多用しながらネガティヴに陥ることなく、あくまでのんびり進んでいく“君とdrive”も、喪失感を歌いながら悲壮にならない表題曲も、あっぱれな大人の余裕。“R.M.T.T.”は飲み会後のラーメンへの愛を歌った曲と聞き、どういうこと?と思ったら“ラーメン食べたい”の頭文字(って言うんだろうか)だった。
ATARASHII GAKKO! a.k.a. 新しい学校のリーダーズ「NAINAINAI」
デビュー6年めの新しい学校のリーダーズが ATARASHII GAKKO! 名義で88risingから世界進出。その第1弾がこの曲である。ずっと音楽プロデューサーを務めてきたH ZETT M謹製のピアノ・ロック路線から一転し、yonkeyによる軽快なヒップホップ・ビートに乗って勇壮にステップを踏む姿は非常にかっこいい。ルッキズムを“くだらん くだらん”と切り捨てるリリックも頼もしいし、グローバルな価値観にもキャッチ・アップしている。サビで“いないないないないない”と歌った後にSUZUKAが“ばあ”とおどけて他の3人が“ない!”と続くところと、“また鳴る スマホの音うるさい”の三連フロウが、どちらも一瞬なのだがとにかく爽快。リアル・ダンサーならではのリズム感である。セーラー服は海外の人々の目にもキッチュに映るだろうが、全力ダンスは言語の壁を越えること間違いなし。これから世界でどんな活躍を見せてくれるか、楽しみでならNAI。
崎山蒼志『find fuse in youth』
〆切直前に聴いて急きょ差し替えた。通算3枚めのアルバムにしてメジャー・デビュー作だが、さすが18歳の成長速度である。“Undulation (album ver.)”(立崎優介と田中ユウスケ)や“Heaven”(江口亮)、“回転”(大濱健悟)に“Samidare”(宗本康兵)など外部アレンジャーを迎えた曲でメジャー感を強化する一方、セルフ・プロデュースの“waterfall in me”“目を閉じて、失せるから。”“ただいまと言えば”“Repeat”などではエレクトロニック、エレクトリック、アコースティックを折衷した尖ったサウンドを聴かせる。アコギ弾き語り“鳥になり海を渡る”“Repeat”の演奏は言うまでもなく圧巻。伸びやかなメロディも、それを歌い上げるヴォーカルも、うっかりすると心を刺され切り刻まれそうな鋭さを備えている。エッジを損なわないままのポップ展開は見事で、長谷川白紙からフィッシュマンズ、もしかするとB'zまで内包した傑作だ。