REVIEWS : 046 ポップ・ミュージック(2022年6月)──高岡洋詞
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による“ポップ・ミュージック”。SSWからベテラン・プロデューサーによるプロジェクト、さらにはラップ / ヒップホップ、そして気鋭のトラックメイカー、はてはクラウドファンディングでなんと1300万円もの予算を集めたあのバブリーなユニットまで、もりだくさんの12枚をお届けします。
OTOTOY REVIEWS 046
『ポップ・ミュージック(2022年6月)』
文 : 高岡洋詞
Kabanagu 『ほぼゆめ』
神奈川県横須賀市出身のシンガー・ソングライター / トラック・メーカーのセカンド・アルバム。話題になった前作『泳ぐ真似』は未チェックで初めて聴いたが、 “しくみ” のフィールド・レコーディング的な音像(とその切り替え)に惹かれ、続く “いつもより” の後半の展開に引き込まれて、そのまま一気に聴けた。隙間が多く、柔和から尖鋭まで音色に幅のある電子音のなかから、明暗の対照が効いた歌が立ち上がってくるさまが美しい。事前の想像以上にシンガー・ソングライター然としていて、 “着いたら” “それでは” あたりには邦ロックっぽい感触さえある。リアルタイムでリミックスしていくような “熱気” にはワクワクした。メロディもすばらしいし、叙景的な歌詞を言葉少なにつぶやくような歌声も魅力いっぱい。
OTOTOYでの配信購入(ハイレゾ版)はコチラへ
OTOTOYでの配信購入(ロスレス版)はコチラへ
冨田ラボ 『7+』
ジャズのブラジル録音LPっぽいジャケットから浮かぶイメージ通り、ソウル、R&B、フュージョン、AOR、ヒップホップ、ボサ・ノヴァ、南米の前衛音楽などなど、ジャズにルーツを持つ各種ポップ・ミュージックのエッセンスを2022年ならではの日本語歌謡に収斂させたような傑作(ラテン語のインタールードもまたすごい)。ぷにぷに電機から細野晴臣までシンガー選びも例によって絶妙。 “ディストピア” のめくるめく展開は圧巻だ。シングルとして出ていた最後の2曲はボーナス・トラック的な位置づけと思われるが、 “さあ話そう” のSlowed & ReverbedはDJスクリューみたいで驚かせるし、 “MIXTAPE” はメロディやフレーズの断片をメガミックスした長尺のインスト。この壮大なイマジネーションはアルバム単位で、いい音で味わいたい。
Rude-α “うむい”
ソニーから独立して沖縄に戻ったラッパーの第3弾シングルは、故郷の歴史と向き合った渾身の作。思いのほどは前に聞いていたが(https://freenance.net/media/interview/14702/)、言葉遣いもメロディもどこまでも素直で、Rudeの人柄をこれまででいちばんリアルに感じられる気がする。「大和の世(ゆ)からアメリカ世/アメリカ世から大和の世/全て乗り越え ミーファイユー/人が人を愛する世」のフックは、彼自身の音楽歴と重なるように聞こえる。島袋優(BEGIN)との新旧世代コラボも温かく力強い。いつ会ってもエネルギーの塊のような人だが、MVのなかで摩文仁の丘をバックに歌う姿は、東京にいたころよりもいきいきとのびやかに見えた。7月13日にリリースされるというEP『Independent』が待ち遠しい。