野崎りこん 『We Are Alive EP』
“「プールに金魚を放して一緒に泳げば楽しいと思った。」” の曲名を見て思い出した。ちょうど10年前の夏に埼玉県狭山市で起きた、迷惑は迷惑だがやけに趣深かった騒動。短編映画も作られたっけ。あの中学生たち、いまはどうしているだろう……と、そこを扉としてあらぬ方向へと浮遊する想念に寄り添って、8つの完結しないストーリーは聴く者に、経験しなかった「あの夏」へのノスタルジアを喚起する。そう思いながら聴いていたら「ないはずの記憶 思い出すのはどうして」(“MEMORIES”)と聞こえてきて、それがまさに作者の狙いなのだと知る。終曲 “夏の扉” にはスティーヴ・ライヒが谺している。「We Are Alive」とは、少なくとも2022年夏の日本では、こんなふうに小声で発されるのがちょうどいい言葉なのかもしれない。
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アマイワナ “YU・A・MI”
80年代アイドル文化に魅せられて古雑誌や古着を蒐集、腰の入ったレトロ趣味が地上波テレビで取り上げられたこともある22歳のシンガー・ソングライター。『平凡』をパロった『非凡』なるZINEをライヴ会場で販売し、今春には大学の卒業制作としてアイドル雑誌研究の成果をまとめた文庫本を自主制作した熱意は本物だ。ジンジャー・ルートの “Loneliness” のMVで演じたミューズ役は完璧にはまっていた。10か月ぶりのシングルは同曲と気脈を通じたかのような確信犯的時代錯誤エレクトロ・ポップ。ライヴはまだ見たことがないが、サウンド・プロデューサーのアツムワンダフルとの2ショットはとってもキャッチー。10代のころから注目されていた人だが、いよいよ「非凡」な才覚を開花させつつあるようだ。
ゆるふわギャング 『GAMA』
ファースト、セカンドと順調に進化してきたゆるふわギャングだが、4年ぶりのサード・フル・アルバムにはネクスト・ステージ感がある。ナカコー、Estra、KOYANMUSIC、U-LEE、Abelestなどのプロデューサーが参加、Automaticも冴えまくり、バッチバチのビートにゆったりしたラップが乗ってサイケデリックな効果をもたらすトラックはそれぞれ個性的で粒揃い。リフレインで高揚させる “E-CAN-Z” “Step” やレイヴ感のある “MADRAS NIGHT PART 2” 、ロック的な “Drug” など随所にキャッチーな曲を配した構成もすばらしい。 “Golden Night” “Let's Go” “Tomodachi” と続くラスト3曲の流れは、ライヴの場でどう聞こえるかを想像しただけでグッとくる。Ryugo IshidaもNENEも言葉の跳躍力が抜群なのは相変わらず。