2021/03/05 18:00

REVIEWS : 017 インディ・ロック〜SSW(2021年2月)──井草七海

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(基本2~3ヶ月ターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は国内外のインディ・ロック〜SSWの音源を高井草七海が9枚セレクト&レヴュー。

OTOTOY REVIEWS 014
『インディ・ロック〜SSW(2021年2月)』
文 : 井草七海

Ólafur Arnalds 『some kind of peace』

2020年初頭にアイスランドを旅して以来、現地の音楽に関心を寄せてきた。映画『JOKER』の劇伴でアカデミー賞作曲賞を受賞したヒドゥル・グドナドッティルやその師、ヨハン・ヨハンソンに代表されるようにかの地はポスト・クラシカルのコミュニティが根強いようで、現在その中でも旗手と呼べるのが、このオーラヴル・アルナルズ。ニュー・アルバム(劇伴除くソロ作では9枚目)は、これまで以上にミニマルな作風だ。前作『re:member』(2018年)は、弦楽器でたゆたう音の流れを打ち出したクラシック寄りの作品だったが、今作はピアノの単音の響きの淡々とした積み重ねを基軸とし、メロディの動きも最小限。アコースティックな楽器が奏でるエレクトロニカ、と言いたくなるようなこうした挑戦は、本人が「12歳の頃からのファン」と語る坂本龍一の影響も強く感じさせる。Bonoboが参加し、ピアノと電子音が交錯する1曲目“Loom”はそんな今作の象徴的な1曲であるとともに、その挑戦の導入としての役割を果たしている。

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Black Boboi 『SILK』

それぞれがソロアーティストとして活動する、小林うてな、ermhoi、Julia Shortreedの3人によるユニットのファースト・アルバム。結成と同時に自主レーベル〈BINDIVIDUAL〉も立ち上げており、今作はそこからのリリースだ。ダークなムードに包まれているが、サウンドは幻想的でカラフル、メロディはオリエンタルにも聴こえるし、キックやベースのアタック感は強烈で、クラブライクなトラックメイク。コロナ禍のもとデータを送りあいながら制作されたからなのかもしれないが、レーベル名の意味である“個々の集合体”の通り、得意分野が異なる3人が強みをシェアしあうことで、単なる掛け合わせ以上の高揚感を生み出している楽曲たちに、強く惹きつけられた。また今作の楽曲は「メロディを作ってきた人がその箇所を歌う」というルールになっているそうで、メロディの途中でバトンを渡していくようにリード・ヴォーカルが重なりながら歌声が切り変わっていくのもスリリング。ぜひ継続的に作品をリリースしていってほしい。

Rhye 『Home』

約3年ぶりとなるサード・アルバム。静けさの漂うスウィートなソウルという音楽性はこれまでと大きく変わらず、メロディ・ラインもおなじみな節回しが多いものの、どこか新鮮な空気感を覚える作品になっている。デビュー当初のストイックなミニマリズムとは対照的に、軽やかでダイナミックなストリングスによる装飾や、わずかに歪みのかかったシンセから発せられる音のゆらぎやブレが、削ぎ落とすことなく盛り込まれていることで、楽曲に色彩感や人肌の温度感がにじみ出しているのが、その新鮮味の正体だろう。また「Black Rain」などに聴ける、ディスコ / ブギーなビートにも人間味が感じられ、その程よい熱量とマイケル・ミロシュの滑らかな歌声は、ステイ・ホーム中のダンス・ミュージックとしてあまりにフィットしている。今作の楽曲はパンデミック以前に作られたものだそうだが、彼の音楽が本来持つ“ダンサブルな親密さ”という魅力は、ひと気に乏しい生活を続けている我々に、これまで以上に切実なものとして、また心地よいものとして響いてくるようだ。

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Jordana 『Something To Say To You』

米カンザス州を拠点に活動する21歳のシンガーソングライターのセカンド・アルバム。今作は2020年中にリリースした2枚のEPを合体させた内容で、ちょうど真ん中を境に趣きの異なる楽曲を収録。特に前半の収録曲は、ペナペナのリズムトラックと、サウンド・エフェクトのような使い方をしたギターのリフレインが楽曲をかたどっており、歌メロも切れぎれで不明瞭。呼吸するようにヒップホップを聴いている世代が、マック・デマルコのチープなDIYポップを継承しつつ、ニューウェーヴ・サウンドを纏ったような……と表現したくなる。そんなアンバランスさが甘くアンニュイな歌声のもとでなぜか破綻なくまとまっているのもなんとも奇妙であり、心地よくもある。後半に登場するヨsレヨレなピアノ・サウンドやメロウなシンセはそれこそローファイ・ヒップホップ直系だが、ビートがシェイクする「Divine」や四つ打ちの「Decline」といった楽曲はキャッチーさも備え、決してメインストリームを無視しない姿勢にも大いに好感が持てる。

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Nilüfer Yanya 『Feeling Lucky?』

ロンドン出身のシンガーソングライターのEP。2019年のデビューアルバムリリース後初めての新作で、今回は楽曲ごとにそれぞれ違うプロデューサーを迎えた3曲入りEPだ。デビューアルバム『Miss Universe』ではアレンジのバリエーションの広さに驚かされたが、今作は彼女のソングライティングのメインツールであるギターのサウンドをそのまま生かした楽曲が並ぶ。この3曲の中ならば、1曲目の「Crash」が聴きどころだろう。プロデュースはニック・ハキムで、ニルファーの持つ90年代の匂いを感じさせるギター・ロックとしての魅力とネオ・ソウル志向のいずれも汲みとったアレンジングが巧み。リズムはレイド・バックしつつも、深くファズがかったローファイなギターサウンドが太いバスドラムの音とともに、左右から波のように耳に流れ込んでくる。正直、前作アルバムに比べると起伏に乏しく、メロディもキャッチーさに欠け、アレンジサウンドも荒削りだが、彼女のジャンル混交的な魅力は今作にもきちんと生きている。

この記事の筆者
井草 七海

東京都出身。2016年ごろからオトトイの学校「岡村詩野ライター講座」に参加、現在は各所にてディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を行なっています。音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当中。

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