2024/10/09 17:00

高橋健太郎x山本浩司 対談連載

『音の良いロック名盤はコレだ!』 : 第10回

お題 : ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『Catch A Fire』(1973年リリース)

オーディオ評論家、山本浩司と、音楽評論家でサウンド・エンジニア、そしてOTOTOYプロデューサーでもある高橋健太郎の対談連載。本連載では、音楽、そしてオーディオ機器にもディープに精通するふたりが、ハイレゾ(一部ロスレス)音源と最新オーディオ環境を通して、改めて“音の良さ”をキーワードにロックの名盤を掘り下げてみようという連載です。毎回ロックの名盤のなかから「音の良さ」で作品を選び、解説、さらにはそのアーティストの他の作品、レコーディングされたスタジオや制作したプロデューサー / エンジニア、参加ミュージシャンなどの関連作品など、1枚の「音の良い」名盤アルバムを媒介にさまざまな作品を紹介していきます。

第10回は1973年リリースのボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ 『Catch A Fire』。今夏は映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』の公開もありましたが、『Catch A Fire』はそれに先駆け「50th Anniversary」として2023年末に新たなリマスター・ヴァージョンがリリースされました。今回は本作をメインにとりあげます。そして今回フィーチャーするオーディオ機器は、Eversolo DPM-A8。ほぼ全方位と言っていいストリーミング・サーヴィスに対応、各種フォーマットのローカル・ファイルの再生など、まさに全方位デジタル・オーディオに対応したマルチな1台です。

本連載10枚目の音の良い“名盤”

ジャマイカの〈ハリー・J・スタジオ〉

本記事でフィーチャーされている楽曲のプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください

高橋 : 山本さんとのこの対談連載、ちょっと時間が空いてしまいましたが、今回はボブ・マーリーをテーマに話せたらと思います。

山本 : メインのアルバムとしては1973年の『キャッチ・ア・ファイヤー』ということでいいんですかね。

高橋 : はい、山本さんが以前から『キャッチ・ア・ファイヤー』のジャマイカ録音の音の凄さにショックを受けたという話を聞いていたんで、そのへん突っ込んだ話ができたらと思ったんです。

山本 : そうなんですよ。僕はボブ・マーリーというと一番最初に聞いたのが 1975年のロンドン公演のライヴ(『ライヴ!』)で、日本でもこのアルバムでやっぱり急に人気が出ましたよね。

高橋 : そうですね、「No Woman No Cry」がこのライヴ・アルバムからヒットして、ボブ・マーリーの代表曲にもなりました。

山本 : 僕が高校2、3年だったと思うんですけど、これを買って、多分ロック以外で最初に買ったレコードだと思います。それで。そのライヴの物凄い熱気や演奏、ボブ・マーリーのヴォーカルの素晴らしさに衝撃を受けたんですが、その後、凄く熱心にボブ・マーリーのレコードを聴いていたかというと、さほどでもなかったんです。それが 2001年にリリースされた『キャッチ・ア・ファイヤー』のデラックス・エディションのCDが出ていたんですが、それまでリリースされていたロンドン・ミックスとオリジナルのジャマイカン・ミックスとそれぞれのミックスが入った2枚組CDの仕様だったんですね。

高橋 : 1973年のオリジナル・リリースはジャマイカ録音の後、ロンドンでオーヴァーダビング、ミックスという形で完成したものでした。でも、ロンドンに飛ぶ前にジャマイカのスタジオでミックスした曲もデラックス・エディションに収録されたんですね。

山本 : はい、それを聴いて、ジャマイカ録音の音の生々しさというか、鮮度の良さのに凄く驚かされた。だから僕の中ではボブ・マーリーというと、高校生の頃に聴いた聴いたライヴ・アルバムと大人になってから聴いた『キャッチ・ア・ファイヤー』の デラックス・エディション版、そのふたつが衝撃体験として残っていますね。健太郎さんはボブ・マーリーはいつ頃知ったんですか?

高橋 : 1974年にエリック・クラプトンが「I Shot The Sheriff」をカヴァーして、大ヒットさせたのがきっかけですね。そのオリジナルということでラジオで流れたのを聴いたのが最初でした。「うわ〜、変な音楽だなぁ」と思いました。コーラスがとりわけ。それで大学入って、最初に組んだバンドで何かやろうという時に、最初にコピーしたのがクラプトン・ヴァージョンの「I Shot the Sheriff」だった気がします。でも、ボブ・マーリーという存在が自分の中で大きくなったのは、やはり1975年のライヴ・アルバムからですね。周りの音楽ファンやバンド仲間もみんなそうだった。

山本 : うんうんうん、そうですよね。

高橋 : それで大学2年の時かな、冬になるとダンス・パーティー用のバンドをやるんですけれど、その年はボブ・マーリーやろうということで、ライヴの曲をたくさんコピーして、大学の寮のダンス・パーティーで演奏した。

山本 : ええ、その頃にもうレゲエを演ってたんですか? めちゃめちゃ早くないですか。

高橋 : その年の流行りだったから。大学のダンパ用のバンドって、例年、そんな感じだったんですよ。2、3年後にはシックが流行って、シックの曲ばっかり演奏したこともありました。

山本 : 健太郎さんって、若い頃からレゲエやディスコにファミリアだったんですね。

高橋 : ダンス・ミュージック好きだったから。でも、ボブ・マーリーはそんな感じで1975年のライヴ盤から入って、そこから遡って、過去のアルバムを聴いていった感じです。

山本 : 時系列的に言うと、『キャッチ・ア・ファイヤー』が1973年に発売されて、同じ年に『バーニン』というセカンド・アルバムが出て、その中の「I Shot The Sheriff」をクラプトンが1974年に大ヒットさせて、1975年に『ライヴ!』が出る。

高橋 : そうですね、でも、『バーニン』を最後にオリジナル・メンバーが抜けちゃって、『ライヴ!』からは新しい編成のバンドになります。僕はバニー・ウェイラー、ピーター・トッシュのふたりがいた時代のウェイラーズが好きなんですが。

山本 : そのふたりはもうライブにはいないですね。

高橋 : 代わりにアイ・スリーズという女性コーラスが加わります。あと、ジュニア・マーヴィンというロックっぽいプレイをするリード・ギタリストが加わって。ただ、僕も当時はメンバー・チェンジ後のボブ・マーリー&ウェイラーズはそれほど聴かなかったんですよ。レゲエという音楽にどんどんハマっていって、1970年代の終わり頃には輸入盤で買えるレゲエのアルバムを片っ端から買うくらいになっていた。その一方で、世界に向けて、ロックやポップの要素も取り入れた音作りしているボブ・マーリーにはそこまで興味惹かれなくなった。彼の健康状態などもあって、発表されるアルバムの内容もちょっと首を傾げるものになっていったりして。それよりはボブ・マーリー、バニー・ウェイラー、ピーター・トッシュの3人だった時期のザ・ウェイラーズって、『キャッチ・ア・ファイヤー』で世界デビューする以前にも、長いキャリアがあるんですね。1960年代の始め、3人が十代の頃、コーラス・グループとして活動していますから。その後、1970年代の初頭にリー・ペリーのプロデュースでアルバムを作っていた時代もあるし、そういうジャマイカ時代のアルバムの方が良いなと思ってそういった作品を聴いていたりしました。

山本 : 世界進出するに伴って、音の尖った部分が減ってきたというのはありましたね。

映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』で描かれたもの

高橋 : でも、今回、何でボブ・マーリーをやろうと思ったかというと、今年日本公開された映画がありまして。

山本 : 映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』ですね。僕も観に行きました。

高橋 : 僕も実はそんなにこの映画自体には期待していなくて、一応抑えとくか、ぐらいの気持ちで観に行ったんですが、これが凄く面白かった。役者さんの演じるボブがカッコ良過ぎるんだけれど、音楽映画としては本当によく出来ている。少年時代からのボブも抑えているし、ただヒーロー、カリスマ的な描き方をするんじゃなくて、ミュージシャンとして曲作りのストラグルとか、そういう部分もリアルに描きこまれている。

山本 : やっぱり、奥さんのリタ・マーリーがプロデューサーとして入ってるのが大きいんでしょうね。

高橋 : 少年時代からボブの側にいて、アイ・スリーズの一員として、一緒に活動して、そういうリタが見てきたボブの姿が反映されているんでしょうね。

山本 : メインとなるのは、彼が銃撃され、それでジャマイカを離れて、ロンドンに行って、『エクソダス』(1977年リリース)を制作してという時期の話だと思いますが、 あらためて、あの時代のジャマイカのやばさと、そこに巻き込まれていくボブ・マーリーという絵の見せ方や、ストーリーの整理はすごく上手だなと思って見ていました。

高橋 : 実は『エクソダス』というアルバムも僕の中ではそこまで大きくなかったんですが、あの映画見てから聴くと、グッと来るところがあって。タイトル曲はちょっとディスコっぽいんですが、時代的にレゲエとディスコの融合とか考えてたんだなとか、そのへんの機微が見えてきたり。あと、スタジオ・シーンなどもかなり当時のことをリサーチして、再現してあるし、何か当時の現場にいるような気持ちになれるような映画でした。なので、今回のプレイリストは『キャッチ・ア・ファイヤー』からこの映画に描かれた時期のボブ・マーリーを選曲してみたんです。

山本 : 良いですね。あと、僕はボブ・マーリーの音楽の魅力って、曲の素晴らしさもあるけれど、何より彼のヴォーカルが好きなんですよ。

高橋 : ああ、山本さんの好きなタイプのヴォーカリスト。

山本 : 訴えかけてくる力の高さというか、それはやっぱり生々しい音で聴いてみたいなと思いますね。それで『キャッチ・ア・ファイヤー』に話を戻すと、昨年、50周年記念のリマスターということで、 24bit / 96kHzの新しいリマスター・ヴァージョンがリリースされました。

高橋 : さきほど話題に出た2001年のデラックス・ヴァージョンにも入っていたジャマイカン・ヴァージョンを含む20曲入りになっています。

山本 : これは素晴らしく音もいいし、2001年のデラックス・エディションのCDとはまたちょっと音の質感が違って。

高橋 : そうですか。

山本 : うん、さらに生々しくていいなと。プレイリストに入っている「Stir It Up」っていう曲あるじゃないですか。このジャマイカン・ヴァージョンはオルガン入りのヴァージョンで、デラックス・エディションのCDとは違いますね。これは初めて聴きました。サウンドも素晴らしい。鮮度が高くて、本当に目の前で演奏しているかのような。クリス・ブラックウェルがプロデュースしたロンドン・ヴァージョンは何というのかな、製品になった感じがするんですけれど。

高橋 : ロックっぽいアレンジを加えて完成させている。

山本 : ウェルメイドなロンドン・ヴァージョンと生々しいジャマイカン・ヴァージョンの違いが、この50周年のハイレゾ・リリースでは一層鮮明になった気がしますね。

高橋 : ボブは基本、ジャマイカでの録音を好んだようで。

山本 : でも、インタビューを読むと、本人はロンドン・ヴァージョンをすごく気に入ってたみたいですね。。

高橋 : ジャマイカ録音でも音が良いというのは、『キャッチ・ア・ファイヤー』はキングストンのハリー・J・スタジオというところで録っていますが、このスタジオはクリス・ブラックウェルの肝入りのスタジオなんですよ。

山本 : クリス・ブラックウェルって人はジャマイカ出身で。

高橋 : そうです。元々はジャマイカの音楽をイギリスに紹介するっていうビジネスから始めた人で、〈アイランド・レコード〉を立ち上げて。

山本 : 白人ですよね。

高橋 : はい、ミリー・スモールの「My Boy Lollipop」という曲を大ヒットさせて、1964年ぐらいかな、それをきっかけに大成功するんですけれど、彼はオーディオにも造詣が深くて、オリンピック・スタジオにいた天才技術者、ディック・スウェットナムに出資して、ヘリオス・コンソールという名コンソールを作らせます。アイランド・スタジオやアップル・スタジオはこのヘリオス・コンソールを導入していたんですけれど、ブラックウェルはそれをジャマイカにも運んだんですよ。ハリー・J・スタジオにはブルーのヘリオス・コンソールがあった。だから、『キャッチ・ア・ファイヤー』はヘリオス・コンソールの録音で、ジャマイカン・ヴァージョンもロンドン・ヴァージョンもヘリオス・コンソールでミックスしている。

山本 : なるほど。ジャマイカン・ヴァージョンがこんなに生々しい音なのは、エンジニアの腕が良かったのかなと思ってましたけど、機材的にもそういうことだったんですね。

オーディオとジャマイカのサウンド・システム・カルチャー

高橋 : ジャマイカだからスタジオがしょぼいとかいうことはなかった。というより、ジャマイカ人のオーディオへのこだわりって異常なものがあって。最近、ジャマイカの1950年代のことを調べてたんですけれど、その頃からサウンド・システムと呼ばれる路上ディスコで、アンプやスピーカーの質を競い合っていた。ヘッドリー・ジョーンズという伝説的なアンプ・ビルダーがいたり。第二次大戦で英軍のレーダー技師だった人がジャマイカに戻って、サウンド・システムのアンプを作り出したんです。

山本 : レーダー技師ですか?

高橋 : EMIのアラン・ブラムレインもレーダー技師だったし、デッカのアーサー・チャールズ・ハディはソナー探知の技師だったし、イギリス軍はすごいオーディオ・エンジニアを輩出してるんですよね。ヘッドリー・ジョーンズもそのひとりで、ジャマイカではじめたレコード店で、セレッションの18 インチのスピーカーを自分で組み上げたアンプで鳴らして、そういうオーディオ熱からジャマイカのサウンド・システムも始まってるんですよね。

山本 : その頃はまだ僕らが知っているレゲエという音楽はないですよね。

高橋 : はい、まだスカも生まれていない頃。アメリカのリズム&ブルーズでジャマイカ人は踊っていた。でも、その頃からアンプ戦争みたいのがあって、KT88真空管を16本使って、モンスター・アンプとか作っていた。日本人のオーディオ・マニアとは志向が違うとは思いますが、ともかく、ジャマイカ人の音へのこだわりは凄いんですよね、歴史的に。

山本 : 昔、久保田麻琴さんにインタビューした時に、僕のオーディオ機材の先生はジャマイカ人なんだよ、と言ってました。その時はあんまりピンとこなかったんですけど、そういうことなんだ。

高橋 : 僕も麻琴さんからジャマイカのエンジニアはEQフルテンなんだよ、とよく聞かされました。中途半端なことしない。上げたい周波数があったら、フルブーストする。日本人は「0.5db上げましょうか」とか細かい塩梅にこだわりますが。

山本 : ああ、それが『キャッチ・ア・ファイヤー』のジャマイカ版とイギリス版の差なんでしょうね、

高橋 : バランス良く仕上げるとかじゃなくて、もうとことん狙いを定めたところに持っていく。

山本 : 『キャッチ・ア・ファイヤー』のジャマイカン・バージョンはダイナミックレンジが広いし、空間性があるし、それぞれの楽器をこう、手で掴めるみたいな、ホログラフィックと言ってもいいような魅力があります。

高橋 : でも、ボブ・マーリーの音楽をそういう風にオーディオ的に聴く人って、あまりいないのかもしれないけれどね。そうそう、レゲエを聞くためのホーム・オーディオのシステムっていうのは、どうなんでしょう?

山本 : どうですかね、、僕が使ってるような、軽くて早いパルプ・コーン系のウーハーが良いんじゃないかとは思いますけれど。なんなら、むやみに低域を伸ばそうと思ってサブ・ウーハーを足すとかすると、むしろ違っちゃう気がします。低音がダルな感じになるので。

高橋 : ああ、やっぱり大口径ウーハーで、軽い感じで低音が出るのが良さそうですね。

山本 : 15インチのパルプ・コーンとかって、自分の家のシステムのこと言ってますけど、そういうのがいいんじゃないかなと。

高橋 : 一般家庭では難しいですよ。でも、無理した感じで出して低音が歪むのは違うかもしれませんね。

ボブ・マーリーのスウィート&メロウ・サイド

本記事でフィーチャーされている楽曲のプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください

高橋 : プレイリストに戻ると、『キャッチ・ア・ファイヤー』から『エクソダス』にかけてのアルバムからセレクトした曲に加えて、映画『ワン・ラヴ』と関わりのある曲も入れました。「Simmer Down」はティーンエイジャーのグループが最初にコクソン・ドッドのスタジオで録音した曲です。1963年かな。映画でのこの録音シーンも良いんですよ。

山本 : 乾いた感じでいいですね。これはまだレゲエの時代になる前。

高橋 : ジャマイカンR&Bからスカになった頃ですね。

山本 : リタ・マーリーの「Why Should I」は『トロージャン・レゲエ・シスターズ』というコンピレーション収録。

高橋 : これはロックステディの時期の可愛い曲です。同名の曲をのちにボブ・マーリーも歌っていますが、これを改作したのかもしれません。リタ・マーリーもすごく実は実力のある歌手で、ただボブと結婚して、ボブのために人生を捧げたみたいなところもあって、映画の中でもちょっと、そういう口論みたいなシーン出てきますけど

山本 : はいはい、ありましたね。このリタ・マーリーはソウルレッツっていうコーラス・グループを従えてますが、やっぱりアレサとかの影響受けてるんですかね。

高橋 : アレサもダイアナ・ロスも聴いていたでしょうね。リタがボブに音楽を教えたみたいなところも、映画にが描かれていますよね。「Waiting For Vein」や「Turn Your Down Lights」も映画中に出てきますが、「こういうメロウ・ソウル的なラヴ・ソングも忘れちゃダメよ」とリタがボブに諭すシーンもある。

山本 : うんうん、ボブってシンボルになっていって、それで政治的に利用されたりしましたけれど、非常にメロウでスウィートな曲を書きますよね。

高橋 : それは子供時代に聴いてた音楽の影響じゃないかと何となく思いますね。

山本 : あの映画で象徴的に扱われている「Rdemption Song」もそうですよね、シンガー・ソングライター的な魅力があるというか。

高橋 : アパラチアン・フォークみたいな。「Rdemption Song」は1980年の生前最後のアルバム『アップライジング』に収録されていた曲ですが、映画の中では少年時代にキッチンでお母さんと一緒にいる時に歌ってるシーンもあるんですよね。何か謎かけが仕掛けられているような。1960年代に書いた曲だっていう話は今まで聞いたことなかったんですが。

山本 : 不思議な曲ですよね。それがすごく彼の声に合うというか。

今回の視聴機、Eversolo DPM-A8──話題の、オールインワンなネットワーク・オーディオの要

Eversolo DPM-A8

高橋 : いやあ、今回は面白い話が満載ですけど、そろそろ、オーディオの話しましょうか。今話題のEversoloのDPM-A8。これは僕も使ってみたかったんです。

山本 : よく売れてるみたいですよ。何でもできるというすごさがあって、音も良いんですよね。

高橋 : 僕は短期間しか借りられなかったんで、機能を一通り試すだけで、終わっちゃいました。ネットワーク・オーディオを含め、現代のデジタル・オーディオで必要なことは何でもできる。あと、良いなと思ったのは、ストレージを内蔵もできるので、ネットワークを使わなくても良いんですよね。

山本 : そうそう、4テラバイトまでのSSDを本体にスロットインできるので、それだけで完全に完結する。

Eversolo DPM-A8の背面、RCA+バランスのアナログ入出力とともに豊富なデジタル系の入出力。HDMI ARCにも対応し映像機器との接続も。ストリーマーとしてデジタル出力から外部DACで出音することもでき拡張性は申し分ない。また前述のようにSSDの拡張スロットもあり、ストリーミング以外にも内蔵のファイル再生でスタンド・アローンのオーディオとしても使用可能

高橋 : 僕は最近、引っ越したばかりで、リスニング・ルーム周りのLAN環境がまだ整ってないんです。A8を試用するにあたっては、床にLANケーブルを這わせましたが、本気で取り組むとなると、ここは光ケーブルにしたいとか、色々と悩むことが出てくる。でも、音のことだけ考えたら、もうインターネットには繋がないで、ファイル・オーディオに徹するというのもアリですよね。その場合、A8なら一台でできる。配線でごちゃごちゃすることもなく。

山本 : シグナルパスの短縮化ができるというのは、この機材のアドバンテージだと思います。

高橋 : デザインも良いので、ストレージ内蔵のDACプリアンプとしてA8をポンと置いただけのリスニング・ルームもカッコイイなと思いました。

山本 : 確かにポンと置いた時に、すごく綺麗でいいなと思いますね。筐体はたぶんアルミの削り出しです。6インチの液晶はタッチ・スクリーンになっていて、そこで操作もできちゃう。

高橋 : 液晶のジャケット表示が綺麗で、本当に音楽ファンのための機材って感じがします。DACプリアンプとしての音は、リスニング環境変えたばかりだったので、細かいところまで突き詰めて聴いてないんですけれど、最新のチップを使いつつも、解像度を神経質に追求するというよりは、どんなジャンルの音楽でもおおらかに、すっきり聞かせる感じがしました。

Eversolo DPM-A8の前面は6インチ・タッチ・ディスプレイとヴォリューム・ノブのみ。スマートフォンのアプリはもちろん、前面のタッチ・ディスプレイでの操作も可能

山本 : うん、その通りだと思います。Akm(旭化成エレクトロニクス)のDACチップがその傾向だと決めつけるのもアレですが、基本、とんがった音というよりは、ジャンルを選ばない、聴き心地のいい音を作ろうとしてるという感じ。

高橋 : 電源もアナログなんですよね。

山本 : 電源は二系統あって、アナログ回路系はトロイダル・トランスのアナログ電源で、デジタル系はスイッチング電源です。 あとね、これ、僕、中身開けたの見てびっくりしたんですけど、内部もすごく先進的というか、洗練されたデザインなんですよ。基本、全部が基板の表面実装で変なワイヤリングをしてないんですよね。シグナルパスの短縮化みたいなこともすごくよく考えられている。いや、こういうネットワーク・アンプ、今、日本のメーカーはどこも作れないんじゃないかなっていう。

高橋 : 中国のメーカーですよね。

山本:深圳の会社ですね。

高橋 : アプリをテストする時間がなくて、使い慣れた他メーカーのアプリで操作していたんですが、アプリの出来とかはどうですか?

山本 : 使いにくいことはまったくないですね。サブスク系も全部聴けますよ。でも、アンドロイド・ベースなので、他社のアプリでも動きますし、Roon使っている人はRoon Readyだから、Roonで操作してもいい。

高橋 : あれ? Roon Readyになったんですか? 下位機種のA6はRoon Readyだけれど、A8は未対応と聞いていたんですが。

山本 : A8もなったみたいです。

高橋 : そこだけが引っかかりだったんですが。じゃあ、機能的にはA6とA8の差はまったくない。

山本 : そうですね。サイズ的にA6の方がコンパクトなので、それを好む人はA6で良いでしょうが、音質的にはA6とA8では電源の差が効いていると思います。

高橋 : ああ。やっぱりそうでしょうね。

山本 : A8の低域の安定感とか、マッシヴな感じとか。比べると、A6は低域がさっぱりしてしまう。

高橋 : レゲエを聴くなら、断然、A8というチョイスになってしまいますね。

山本 : いやもう、ネットワーク・プリアンプを探している人には、一番のオススメですね。アナログのアンプ部は完全にバランス回路なんで、アクティヴ・スピーカーに繋ぐのは最高だと思います。

高橋 : これはもう僕の新しいリスニング・ルーム用にも購入の第一候補ですね。

本連載10枚目の音の良い“名盤”

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今回の機材──Eversolo DPM-A8

Eversolo DPM-A8
独自開発のAndroid OSベースのシステムを核としたミュージック・ストリーマーであり、DAP、DAC、そしてプリアンプ機能も備えた、まさにオールインワンな1台。Android OSをベースとすることで、多くの音楽ストリーミング・サービスに対応しつつ、独自開発のEOS(Eversoloオリジナルサンプリングレートエンジン)を採用することで、Android由来のオーディオ再生の制限をバイパスし、各ソースのハイレゾ音源をダイレクトに出力し、再生が可能。またCDドライブの接続でCDの再生も可能。また底部にM.2 NVMe SSDスロットを搭載し、最大4TBのSSDを本体に増設可能で、CDからのリッピング音源データや、その他のハイレゾ音源なども本体だけで保存と再生が可能です(USB接続による外部ストレージも使用可能)。DSDなど、市場で入手可能なデジタル音源データのフォーマットをほぼすべて対応するなど、豊富なデジタル入力も会わせて、まさに全方位のデジタル・ミュージックのソースを入力、再生できます。また出力も、HDMI IIS、USB、光、および同軸出力を介した、外部DACへのデジタル出力や、プリアンプ部分から、RCAおよびXLRのアナログ出力で直接、パワードのアクティヴ・スピーカーやパワー・アンプに出力も可能。入出力含めて、まさに現在のデジタル・オーディオにおいて死角なしのオールインワンな1台となります(編集部)。

Eversolo DPM-A8詳細

Eversolo DPM-A8
基本スペック
ディスプレイ : 6インチ タッチスクリーン
内部メモリー : 4GDDR4 +64GeMMC
DAC : AK4191EQ+AK4499EX
オーディオプロセッサ : XMOS XU316
オペアンプチップ : OPA1612
パワーサプライ : ハイクオリティローノイズリニア + デジタル デュアル電源
SSD : M.2 NVME 3.0 2280サポート 4TBまで (SSDは同梱されておりません)
USB Aポート : USB3.0 2ポート
イーサネット : RJ-45(10/100/1000Mbps)
再生周波数 : DSD512 / PCM 768kHz, 32bit ステレオ
ミュージック サービス : Tidal, Qobuz, Highresaudio, Amazon Music, Deezer, Radio Paradise, WebDAV, UPnP
ストリーミング : Air Play, DLNA, Tidal Connect etc.
USB-B オーディオ入力 : Windows (10, 11), Android, IOS対応, DSD512, PCM768kHz, 32bit対応
Optical/Coaxial オーディオ入力 : PCM 192KHz 24Bit, Dop64対応
HDMI ARC : PCM 192KHz 24Bit対応
アナログプリアンプ オーディオ入力 : XLR(Balanced)+RCA(Unbalanced) Maximum Gain +10dB
USBオーディオ出力 : DSD512,PCM 768kHz 32Bit対応
IIS出力 : DSD512, PCM 768KHz 32Bit対応
Optical/Coaxial オーディオ出力 : PCM 192KHz 24Bit, Dop64対応
アナログオーディオ出力 : Preamp Audio Output, XLR(Balanced)+RCA(UnBalanced)
XLR出力音声特性 : 出力レベル: 4.2V / 周波数特性: 20Hz~20KHz(±0. 25dB) / ダイナミックレンジ: > 128dB / SNR: >128dB / THD+N: <0.00009%(-120dB) @No-wt / クロストーク: >-121dB
RCA出力音声特性 : 出力レベル: 2.1V / 周波数特性: 20Hz~20KHz (±0. 25dB) / ダイナミックレンジ: > 125dB / SNR: >125dB / THD+N: <0.00010%(-119dB)@A-WT / クロストーク: >-121dB
操作方法 : モバイルApp,タッチスクリーン,リモコン
電源 : AC 110~240V 50/60Hz
定格出力 : 16W
寸法 : 399mm (W), 248mm (D), 90mm (H)
重量 : 4.98kg
同梱品 : 電源ケーブル、リモコン、スクリュードライバ

『音の良いロック名盤はコレだ!』過去回

第1回ニール・ヤング『ハーヴェスト』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第2回ジャクソン・ブラウン『Late For The Sky』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第3回ポール・サイモン『Still Crazy After All These Years』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第4回ドゥービー・ブラザーズ『Livin' on the Fault Line』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第5回ダニー・ハサウェイ『Everything Is Everything (Mono)』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第6回リンダ・ロンシュタット『Prisoner In Disguise』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第7回 エリック・クラプトン 『461 Ocean Boulevard』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第8回 リトル・フィート『Dixie Chicken』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

第9回 ボズ・スキャッグス 『Middle Man』──高橋健太郎x山本浩司『音の良いロック名盤はコレだ!』

著者プロフィール

高橋健太郎

文章を書いたり、音楽を作ったり。レーベル&スタジオ、Memory Lab主宰。著書に『ヘッドフォン・ガール』(2015)『スタジオの音が聴こえる』(2014)、『ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの』(2010)。

山本浩司

月刊「HiVi」季刊「ホームシアター」(ともにステレオサウンド社刊)の編集長を経て2006年、フリーランスのオーディオ評論家に。自室ではオクターブ(ドイツ)のプリJubilee Preと管球式パワーアンプMRE220の組合せで38cmウーファーを搭載したJBL(米国)のホーン型スピーカーK2S9900を鳴らしている。ハイレゾファイル再生はルーミンのネットワークトランスポートとソウルノートS-3Ver2、またはコードDAVEの組合せで。アナログプレーヤーはリンKLIMAX LP12を愛用中。選曲・監修したSACDに『東京・青山 骨董通りの思い出』(ステレオサウンド社)がある。

[連載] Boz Scaggs

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