2024/05/24 19:00

高橋健太郎x山本浩司 対談連載

『音の良いロック名盤はコレだ!』 : 第9回

お題 : ボズ・スキャッグス 『Middle Man』(1980年リリース)

オーディオ評論家、山本浩司と、音楽評論家でサウンド・エンジニア、そしてOTOTOYプロデューサーでもある高橋健太郎の対談連載。本連載では、音楽、そしてオーディオ機器にもディープに精通するふたりが、ハイレゾ(一部ロスレス)音源と最新オーディオ環境を通して、改めて“音の良さ”をキーワードにロックの名盤を掘り下げてみようという連載です。毎回ロックの名盤のなかから「音の良さ」で作品を選び、解説、さらにはそのアーティストの他の作品、レコーディングされたスタジオや制作したプロデューサー / エンジニア、参加ミュージシャンなどの関連作品など、1枚のアルバムを媒介にさまざまな作品を紹介していきます。

第9回は1980年リリースのボズ・スキャッグス 『Middle Man』、この2023年にリリースされたリマスター作をメインにとりあげます。そして今回フィーチャーするオーディオ機器は、スピーカー、Polk Audio Reserve R200。ここ数年、ここ日本でもその圧倒的なコスト・パフォーマンスの良さで話題になっているPolk Audioの「プレミアム品質のスピーカーを手の届く価格で」という信念を具現化したブックシェルフ・タイプのスピーカーです。

本連載9枚目の音の良い“名盤”

1976年『シルク・ディグリーズ』から1980年代のボズ・スキャッグスへ

本記事でフィーチャーされている楽曲のプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください

高橋 : この連載は振り返ってみると、これまでワーナーやユニヴァーサル系の作品を取り上げることが多かったんです。その理由はひとつにはワーナーとユニヴァーサルは過去の名盤のハイレゾ・リイシューが充実している。ライノ・レーベルと組んだリイシュー企画などもたくさんあるからなんですが、最近になって、ソニーの配信にも変化がありました。以前は、ソニーの配信、ハイレゾはあるものの、ハイレゾのないタイトルは圧縮音源のAACしかなかったんです。ワーナーやユニヴァーサルはハイレゾがない場合、非圧縮のロスレスが基本です。でも、ソニーはハイレゾか圧縮かという二択だったんですね。それが今年の1月中旬くらいから、ロスレスの配信が始まり、圧縮からロスレスへの移行がだいぶ進んできました。

山本 : そうですね。

高橋 : まだまだAACも多いんですけども。そんなソニーの音源の中で、この連載でできるものがないかなと考えたら、ボズ・スキャッグスという大定番が思い当たりました。

山本 : ボズ・キャッグスのアルバムは2023年にリマスターされたハイレゾ版がたくさんでましたね。

高橋 : はい、全部のアルバムじゃないですけれど。

山本 : 調べてみると、『シルク・ディグリーズ』、『ミドル・マン』、『スロー・ダンサー』あたりは192kHz / 24bitのハイレゾが出ていますね。でも、なぜか『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』はまだですね。

高橋 : そうなんですよね。1976年の『シルク・ディグリーズ』と1980年の『ミドル・マン』は2023年にリマスターのハイレゾが出ているのに、その間の1977年の『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』はまだ圧縮のみなんです。リマスターが済んでいなくて、これからリマスター〜ハイレゾに進むんだろうと思いますが。

山本 : 健太郎さんは以前、『ステレオ・サウンド』誌の連載で『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』について書いていたじゃないですか。でも、今回、健太郎さんさんが作ってきたプレイリストも『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』の曲が入ってない。何でかな?と思って調べたら、そういうことだったんですね。で、今回メインになるアルバムは『ミドル・マン』ということですね。1980年。

高橋:1976年の『シルク・ディグリーズ』が最も人気が高いアルバムですが、80年代に入った『ミドル・マン』までの流れを振り返るのが面白いかなと思ったんですよね。『ミドル・マン』の曲もサウンドもとても魅力的ですし。

山本 : そうですね、80年代に入った感がすごくあるアルバムで、健太郎さん、これが出た時には大学生?

高橋 : 大学に籍はあったかな? でも、もう音楽ライターの仕事はしてます。

山本 : そうですか、僕は大学3年だったんですけれど、その頃は狭い下宿にダイヤトーンの30cmウーハーのでかいスピーカー置いてたんですけど、この『ミドル・マン』はその頃に買った、すごく鮮烈に覚えてるアルバムの1枚ですね。買ってね。それまでにない抜けの良さを感じたというか。すごく洗練されたソウル・ミュージック的なロックみたいな感じで。それで当時、音楽仲間の友達がJBLの2wayのスピーカー、L26だったかな、それで聴かせてもらった音がまた素晴らしくて、 次はJBLにしようと心に決めたきっかけのアルバムなんですよ、これは。

高橋 : 何と、山本さんのJBLとの人生を決定づけたアルバムだった!

山本 : JBL独特のパルプコーンならではの音、スネアの抜けの良さとかね、軽やかなベースとかの聞かせ方とか、そのへんがすごくいいなと思った記憶があります。オーディオにのめり込み始めた頃だったんで、そんな感じでよく覚えてますね。

高橋 : 今回1曲目に選んだのが、その『ミドル・マン』の最初に入ってる「JoJo」とういう曲。これは名曲だと思います。ボズの名曲、たくさんありますが、これは『シルク・ディグリーズ』の「Lowdown」と並ぶくらいの名曲。近年のライヴでも1曲目に演奏されたりする。すごく洗練されたジャジーな感覚もある曲です。

山本 : でも、サックス・ソロとかは結構、泥臭い。

高橋 : ああ、そうですね。ボズは洗練された都会性もあるけれど、もともとはブルーズの人だから、常に泥臭さがある。『ミドル・マン』は2曲目の「Breakdown Dead Ahead」がもろのブルーズロックで、スティーブ・ルカサーがギンギンのソロ弾いてます。僕は当時、ギター雑誌で仕事していて、このギター・ソロのタブ譜は書いた記憶があります。

TOTO、そしてライヴァル、スティーリー・ダンの存在

山本 : 健太郎さんはあれですよね、前作『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』の「A Clue」という曲でルカサーを発見して。

高橋 : いや、そこで発見した訳じゃなくて、最初はウェスト・コーストのセッションでたくさん弾いてる上手いギタリストの一人だと思ってただけなんですが、ボズの『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』参加で注目されて、そこで19歳くらいの、自分より年下のギタリストだと知ったんですよ。

山本 : ああ、それまではそんなメジャーな作品で弾いてないですもんね。

高橋 : 最初に意識したのはテレンス・ボイランのアルバムだったかな。ルカサーはまずボズのツアー・バンドに入って、それから『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』のセッションに呼ばれて、「A Clue」という曲で弾いたソロで大注目されるんですよね。

山本 : あと、この『ミドル・マン』はジェフ・ポーカロのドラミングですね、抜けの良さととグルーヴが、これは聴いたことないなっていう感じがしましたね、当時は。

高橋 : 1978年にTOTOがデビューしましたが、TOTOのデヴィッド・ペイチやジェフ・ポーカロ、デヴィッド・ハンゲイトらはもともとはボズ・スキャッグスのバンド・メンバーで、『シルク・ディグリーズ』から貢献しています。そこにさらにスティーヴ・ルカサーが加わった。ルカサーが抜擢された理由は、それ以前のボズのバンドのギタリストだったレス・デューデックは基本がブルーズ・ギタリストだった。

山本 : オールマン・ブラザーズの『ブラザーズ&シスターズ』でも弾いてますよね。

高橋 : 最近、亡くなったディッキー・ベッツとの素晴らしいツイン・ギターでした。でも、ボズ・スキャッグスが『シルク・ディグリーズ』の路線に進んだ時、レス・デュデックとはちょっと志向が合わなくなった。

山本 : うんうん、間違いないですよね。

高橋 : それで代わりに呼ばれたのがルカサーで、ルカサーはラリー:カールトンみたいなギターも弾けるから。そこでペイチやポーカロやハンゲイトと意気投合して、TOTOの結成に繋がった。『ミドル・マン』はその後のアルバムなので、TOTOのハード・ロック的なサウンドも入ってますよね。

山本 : 今回の健太郎さんのプレイリストにTOTOのセカンド・アルバム『ハイドラ』から「Mama」って曲が入ってます。これ僕、久々に聴いたんですけど、めちゃくちゃ良いですね。実を言うと、当時はね、何となく産業ロック、なんか商業主義みたいなイメージがあって、あんまり聴いてなかったんですけど、

高橋 : セッション・ミュージシャンとしては洗練されたことやってる人達なのに、TOTOというバンドになると何でこんなハード・ロック?みたいな疑問は当時ありましたね。

山本 : そうなんですよね、ハード・ロック感がなんかちょっと古く感じられちゃって。でも、今回聴いて、演奏の凄さに、あ、こんな凄かったんだなって改めて思いました。やっぱりハイレゾで聴いたのが大きいかもしれない。

高橋 : 「Mama」という曲を選んだのは、当時のボズ・スキャッグスやスティーリー・ダンとも繋がった感覚があるTOTOの曲ということで選びました。TOTOのメンバー、あるいはボズも含めて、スティーリー・ダンへのライヴァル意識は凄くあったんじゃないでしょうか。スティーリー・ダンのアルバム『ガウチョ』が出たのが同じ1980年で、プレイリストに選んだ「Babylon Sisters」はその冒頭の曲です。振り返ってみると、1980年代に突入したこの頃って、西海岸の音楽はあんまり元気がないんですよね。僕が好きだった1970年代のアメリカン・ロック・バンドやシンガー・ソングライターの多くが失速していった。

山本 : うん、それはそんな感じでしたね。

[連載] Boz Scaggs

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