2025/08/26 18:00

REVIEWS : 104 ヒップホップ(2025年8月)──アボかど

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ3ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。自身のnoteを中心に、その他、各音楽メディアなどでヒップホップ〜R&Bについて執筆中、Lil'Yukichiとの共監修本『サウス・ヒップホップ・ディスクガイド トラップ・ミュージックを生んだ南部のラップ史』も刊行したばかりのアボかど。本コーナーではR&B Lovers Clubの一員としてR&Bの新譜に関しても書いてもらっていますが、今回はもちろんヒップホップの、ここ3ヶ月のエッセンシャルな新譜を9枚レヴューしてもらいました。

OTOTOY REVIEWS 104
『ヒップホップ(2025年7月)』
文 : アボかど

Bas, The Hics「Melanchronica」

J・コールのレーベル〈ドリームヴィル〉に所属するラッパーのバス。本作は以前にも共演経験のあるUKのネオソウル系デュオ、ザ・ヒックスとのコラボ・アルバムだ。ザ・ヒックスのふたりだけではなくバスも歌えるタイプでネオソウルに寄ったスタイルも目立つが、いくつかの曲ではトラップ系のドラムも導入してハードなヒップホップ要素を提示。バスの堅実なラップはボスであるJ・コールとも通じる魅力があり、客演で登場するアブ・ソウルやサバといった猛者たちとも対等に渡り合っている。しかし、本作のキモは二組の音楽性の自然な融和。コラボではなく「そういうグループ」のようにも聞こえるほどの見事なコンビネーションが味わえる。

BONES, grayera 『DUNGEON』

エモ・ラップやトラップ・メタルといった、ロック文脈との接点を持つスタイルで人気を集めるラッパーのボーンズ。プロデューサーのグレイエラとタッグを組んだ本作は、タイトル通りダンジョン・シンセを使ったヒップホップ、いわゆるダンジョン・ラップに挑んだ作品だ。トラップ系の手数の多い808を用いた曲が目立つが、いくつかの曲では2010年以前っぽいタイトなドラムを導入。さらにダンジョン・ラップだけではなく、切ないギターで歌い上げるエモラップ路線も少々取り入れている。発声やフロウの引き出しも多く、客演なしだが別人が現れるようにそのアプローチは多彩。ダークなムードで統一しながらもバラエティ豊かな1枚だ。

Father 『Patricide』

プレイボーイ・カーティやフェイ・ウェブスターらを送り出したレーベル〈オウフル・レコーズ〉を主宰するラッパー兼プロデューサーのファザー。曲者たちの父らしく、アルバムとしては久々のリリースとなる本もやはり一筋縄ではいかない曲が並ぶ作品だ。機械的な音と生々しい音が共存し、ネオソウル~ジャズやテクノなどをヒップホップの形になるまで煮込んだような冒険的なサウンドが詰まっている。アトランタのアーティストなのにどことなくUKっぽいセンスだが、スマートに洗練されているというよりは泥臭さがあるのはかの地ならではか。また、サウンドの面白さだけではなく、ボソボソと呟くようなラップのクールネスも魅力的だ。

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