2025/08/26 18:00

Smoke Supreme 『No Drums, No Adlibs』

タイトル通りの作品である。フロリダのラッパーのスモーク・スプリームは、本作でドラムとアドリブ(※ラップにおけるガヤ)を排した大胆なアプローチに挑む。ヒップホップにおけるドラムを入れない試みは近年ブーンバップのシーンで盛んに行われているが、本作はフロリダ発のスムースなスタイル「モーション」の文脈。メロウでリラックスしたシンセ主体のサウンドで、ブーンバップのタフさとは異なる美学を追求している。ラップは力みすぎないスタイルで音に溶け込み、フックらしいフックを作らずシンプルでラフな魅力を獲得。かなり特異な作品だが、トレンドと無縁というよりは汲む中で生まれた突然変異のような面白さのある一枚だ。

YGTUT 『I NEED $』

TDEのアイザイア・ラシャドとの共演で知られる、テネシー州チャタヌーガ出身のYGタット。太い声から繰り出すタイトで時にメロディアスなラップ、随所で覗かせる王道からズラすようなセンスにアウトキャストからの影響が感じられるラッパーだ。しかし、アウトキャストのアンドレ・3000の才気がジャンル外に向かうのとは違い、YGタットの音楽性はあくまでも南部ヒップホップに根差したもの。本作ではアウトキャストと同じダンジョン・ファミリーに所属するビッグ・ルーベや、テネシーの硬派なベテランラッパーのスターリートらを迎えてその文脈を示している。遊びを入れつつも、ソウルフルでファンキー&メロウな芯の通った1枚だ。

81355 『Bad Dogs』

81355で“BLESS”、「ブレス」と読む。インディアナ出身の三人組で、現在はディアフーフやスワンプ・ドッグなどのリリースで知られるジョイフル・ノイズ・レコーディングスに所属している。リリース元が非ヒップホップ系レーベルということからも伺えるように、本作は非常にインディロック色の強い作品だ。歪んだギターをループ感薄めに使い、ラップが乗らなければ違うジャンルに聞こえそうなほどのクロスオーバー感覚で魅せる。ラップは程良いゆるさを持った現代的なスタイル。そこでヒップホップの快楽を保ちつつ、フックではインディロック的なメロディを歌い上げる。いわば「ものすごく自然なマッシュアップ」のような面白さの1枚だ。

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