REVIEWS : 079 ベースミュージック、テクノ (2024年5月)──草鹿立
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“REVIEWS”は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はオトトイ・アルバイト・スタッフで、東京アンダーグラウンドのクラブ・シーンにてDJとしても活動・回遊している草鹿立がテクノ~ベース・ミュージックのシングルをお届け。現場直送の最新のダンスサウンドをぜひ。
OTOTOY REVIEWS 079
『ベースミュージック、テクノ (2024年5月)』
文 : 草鹿立
seekersinternational & juwanstockton 『KINTSUGI SOUL STEPPERS』
LABEL:Riddim Chango Records
1TA & Element主宰のレーベル〈Riddim Chango Records〉より、リリース毎に違った世界観を提示するリッチモンド拠点のダブ・コレクティヴseekersinternationalとその朋友・juwanstocktonのアルバム。ヴェイパーウェイヴ的アプローチでもって、80年代のソウル、ポップ、さらにはラガなサンプリングを切り貼りし、有機的なグルーヴを再構築、その作業はまさに「金継ぎ」のよう。あらぬ懐かしさや失われた未来への憧憬を覚えると同時に、強調されたベースとよれたキックに思わず首を振ってしまう。特に“Wind Rider”あたりは新感覚のコラージュ・ダブを味わえるかと。SKRSは、Mars89の新レーベル〈Nocturnal Technology〉の記念すべきファースト・リリースにも参加、本作とは打って変わった世界観ゆえチェック必須です。
Androo, MC Waraba 『Waraba in Dub X Mugul』
LABEL:Poly Dance Theatre
先のseekersinternationalとも共鳴するダブ・アーティスト、Androoが自身のレーベルからリリース、今回はマリ拠点のラッパー、MC WARABAをフィーチャー。A面は、ヨーロッパで人気のサウンドシステム・クルーのO.B.Fの片割れ、ricoがレコーディングに参加し、MC WARABAがバンバラ語(マリで主に使用される言語)とフランス語を巧みに交えて言葉を乗せたもの。トラップ〜ドリルとダブの橋渡しをするような奇妙で最先端のリディムに、Androoの再解釈を加えたヴァージョンも収録されている。MC WARABAのエモーショナルなフロウとステッパー・スタイルのトラックとのマッチングは思わずくせになる。B面“X Mugul (mètavèrçe)”は、ベースやキックの配置や重なりを調整して再録音した4ヴァージョンが聴ける贅沢さ。この音源の一部はサブスク等でも視聴できないので、是非とも音源を購入してその違いを聴き比べてみてほしい。
G Version III『Scenery From Double Glazing』
LABEL:Digital Sting Records
京都拠点、G Version IIIのファースト・ミニ・アルバムが、サウンドシステム・コレクティブFeel Free Hi Fi運営の〈Digital Sting〉より。重い、怪しい、そして煙たい、三拍子揃い踏みバンガー“Ballers”も痺れるが、ステッパー・スタイルに途中からメンフィス的なビート感覚が飛び込んでくる“Chaser”や、突如どこかに迷い込んでしまったかのような不安をも覚える“AM to PM”がとびきりにかっこいい。Feel Free Hi Fiが手がけたヴァージョンも完璧で、重心の低いダブとトラップ的ノリの軽さが見事に融合し、どこか未来的で怪しいムードの中でバランスを保っている新感覚。すごく個人的な話をすると、今年1月に開催されたパーティー〈BADNESS TOP RANKIN〉(4月はいけず......)の感動を未だ超えられていないのだが、そのパーティーのムードとも完全に共鳴するというか、とにかく今の個人的なモードにビシッとハマってしまった次第です。