REVIEWS : 020 グローバル・ベース (2021年4月)──大石 始

“REVIEWS”は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(基本2〜3ヶ月ターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介してもらうコーナーです(ときには旧譜も)。今回はライター、大石始による9枚。昨年末刊行の著書『盆踊りの戦後史 ――「ふるさと」の喪失と創造』などなど、ここ数年は日本の伝統音楽・芸能から現代を照射する、そんなテーマの著作が多いイメージですが、2011年の共著『GLOCAL BEATS』で展開したような全世界から強力なダンス・ビート〜ベース・ミュージックを発見してくる、そんな目利きでもあります。ということで、今回はそちら方面で音源をセレクト、コロナ禍でもぐいぐいと世界各国から、さまざまなスタイルが生まれているダンス・ビートをお届けします!(河)
OTOTOY REVIEWS 020
『グローバル・ベース(2021年4月)』
文 : 大石 始
QOQEQA 『AxuxA』
ペルーの首都、リマを拠点に活動するダニエル・バジェ・リエストラの別名義QOQEQAのファースト・アルバム。アフロペルーとアンデスのフォルクローレをリズム面から再構築するその方法論は、本作のリリース・レーベルである〈ケブラダ〉を主宰するデンゲ・デンゲ・デンゲとも通じるものだ。ただし、土俗的なデンゲ・デンゲ・デンゲに対し、こちらはよりケミカルでフューチャリスティック。オーガニックな色合いの強いエレクトリック・フォルクローレ系とも異なる質感があり、明らかな新世代感がある。ノンビートのアンビエント“Ama”で幕を開け、後半にはノバ・リマあたりを想起させるダビーな“888”もあったりと、ダンストラック一辺倒ではないところもプロデューサーとしての懐の深さを感じさせる。ベルリンのエック・エコーやリマのテラー・ネグロなど同傾向のレーベルからも作品をリリースしており、今後南米におけるエレクトリック・フォルクローレの新たな潮流を生み出しそうな逸材である。
Kaleema 『Útera』
チャンチャ・ビア・シルクイートやリド・ピミエンタなど〈ZZK〉周辺のデジタル・クンビア勢との繋がりも強いカリーマことハイディ・レヴァンドフスキ。2017年にトロピカル・トゥイスタからリリースした『Nomada』ではヴードゥー・ホップ一派と共通するサイケデリックなスロウ・テクノを展開し、日本でも一部の好事家のあいだで話題を集めていたが、同作に続く2作目がニューヨークの〈ワンダーウィール〉からリリース。クラシックをバックボーンに持ち、ヴァイオリンやサンポーニャを自身で演奏するほか、ヴォーカリストでもあるという多彩な人物だが、本作ではその才気が爆発。南米のフォルクローレとクラシックのエッセンスを南米ダンスミュージックの文脈上で再構築し、なおかつラテン・オルタナティヴ的な歌モノ作品として仕上げるという、かなりアクロバティカルな試みに成功している。これまでは知る人ぞ知る存在だったが、本作によってより広く注目を集めることだろう。
Biota 「Sistema Organico」
ヴードゥー・ホップ以降のアンダーグラウンドなダンス・ミュージックの流れを牽引するレーベル〈トロピカル・トウィスタ〉。ブラジルのサンパウロを拠点にしているものの、リリースするのは世界各地のアンダーグラウンドなアーティストたちだ。レーベルロゴやアートワークでは南米の「トロピカル」な表象を確信犯的に利用しながらも、ある種のニューエイジ趣味も感じさせるトリップ・ミュージックをレーベルカラーとして打ち出している。出身地に紐づけられた各アーティストの民族性を無化し、「トロピカル・トウィスタ族」とでも表現できるであろう新たな民族性・部族性を構築するそのスタンスは極めてオリジナルなものだ。イスラエルのデュオによるこのEPには、フィールドレコーディング音源と各種パーカッションが重なり合った熱帯雨林系ダンストラックを3曲収録。「Liberto」ではアラブの弦楽器、ウードが鳴り響いていたりと、民族性を錯乱・捏造するような作風が実にトロピカル・トウィスタ的で楽しい。