注目のブラジル新世代、そして現代ジャズの明確なる交点、アントニオ・ロウレイロ新作『リーヴリ』

ディスクガイド本が刊行されるなど、ここ数年でこの国でも大きく注目を浴びるようになったブラジリアン・ミュージックにおける新世代のアーティストたち。そのなかでもいち早く注目を集めた存在といえるのが、シンガーソングライター/マルチ奏者のアントニオ・ロウレイロだ。2010年のデビュー作で注目され、2013年の初来日の折には、芳垣安洋(ds)、鈴木正人(b)、佐藤芳明(acc)といった腕利きのアーティストたちとのライヴ実況盤『In Tokyo』をレコーディング&リリース、そして2015年、くるり主催のフェスティバル「京都音楽博覧会」にも招聘され幅広いオーディエンスの前でそのサウンドを披露するなど着実にその知名度を広げてきた。そんな彼が6年ぶりにリリースしたソロ・アルバム『Livre』。すでに話題となっている作品だが、改めて、OTOTOYでも高橋健太郎によるライナーノーツ前半部分の転載とともに紹介しよう。またこのライナーノーツの完全版は〈NRT〉のレーベルの公式noteで公開、もしくはOTOTOYの購入特典PDFとして入手することができる(詳細クレジット入り)。本ライナーノーツによって、本作のサウンドが現代ジャズ〜新世代のブラジリアン・ミュージック・シーンにまたがる最注目作のひとつであることがより明確に理解することができるだろう。
購入特典:ライナーノーツPDF(文 : 高橋健太郎)
アントニオ・ロウレイロ『リーヴリ』ライナーノーツ(前半)
文:高橋健太郎
最近ふと気がついたのは、基本はドラマーであるミュージシャンの音楽を聴く、あるいはそれについて書く機会が急に多くなっているということだ。いや、ジャズの世界では歴史的名盤とされるドラマーのリーダー・アルバムは数え切れないほどある。だが、僕が子供の頃から聴いてきたポップ・ミュージックの世界では、ドラマーはどちらというと作曲や歌唱から遠い存在と見られてきた。ビートルズのリンゴ・スターやローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツが象徴的なアイコンだったからかもしれない。
ところが、昨今はドラマーから出発しながら、シンガーとして、ソングライターとして魅力を放つアーティストが増えてきた。今年の夏から秋にかけては、そういうアーティストが立て続けに渾身のアルバムを放った感がある。ライナー・ノーツを執筆したルイス・コールの7年振りのソロ・アルバム『TIME』はこの夏、僕が最もよく聴いたアルバムだった。日本ではmabanuaの6年振りのソロ・アルバム『Blurred』が素晴らしかった。そして、今、僕が手にしているのはアントニオ・ロウレイロの6年振りのソロ・アルバム『Livre』だ。このタイミングの揃い方は偶然なのだろうか。
僕がアントニオ・ロウレイロに出会ったのは2010年。ミナスの音楽大学の卒業時に彼が制作した最初のアルバム『Antonio Loureiro』をインターネット上で見つけた時だった。今聴いても何ひとつ色褪せることのない傑作だ。当時は彼がドラム/パーカッションを本職とすることは知らなかったのだが、考えてみると、それは時代が変わりつつあることを象徴するアルバムだったのかもしれない。
アントニオ・ロウレイロは1986年4月5日生まれ。ブラジルのサンパウロ州サンパウロ出身だが、1歳から6歳まではアメリカで育っている。母親の影響で幼少の頃からピアノを弾くようになり、大学はミナス州のミナス・ジェライス連邦大学に進み、鍵盤打楽器を専攻した。そこで彼はハファエル・マルチニ、クリストフ・シルヴァ、アレシャンドリ・アンドレス、ジョアナ・ケイロスといった盟友に出会う。トニーニョ・オルタ、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバートといった先輩格のミュージシャンとも親交を持った。さらには大学で講義を行っていたアンドレ・メマーリと出会い、大きな影響を受けることになる。
僕が『Antonio Loureiro』を2010年のベスト・アルバムに選んだのを目にしたレコード・ショップがそのCDを推すようになり、本国ブラジルよりも先にアントニオ・ロウレイロは日本で人気を集めて行った。2012年のセカンド・アルバム『Só』は日本のNRTレーベルがリリース。2013年には来日して、日本のミュージシャンとともにライヴを行って、『In Tokyo』というライヴ・アルバムも残すことになった。その間にロウレイロはミナスのベロオリゾンテからサンパウロに居を移している。
2014年にヴァイオリン奏者のヒカルド・ヘルスとのデュオ・アルバムを、2016年にはアンドレ・メマーリとのデュオ・アルバムを発表し、インストゥルメンタル作品は残してきたアントニオ・ロウレイロだが、本格的なソロ・アルバムは2012年の『Só』からこの『Livre』まで6年のブランクを要している。その間、彼の周辺で起こった最も大きな出来事は、カート・ローゼンウィンケルのグループへの参加だろう。 (続く)
カート・ローゼンウィンケルのグループへの参加、そしてその音楽性など、本作の核心に迫るライナーノーツの続きは、OTOTOYでの購入特典PDF。もしくは、国内盤をリリースしているNRTの公式noteへ
上記、ライナーノーツ全文掲載PDF付き
ライナーノーツ全文掲載のNRTの公式note
https://note.mu/nrtofficial/n/n1c8c40fe5a4b
PROFILE
Antonio Loureiro (アントニオ・ロウレイロ)
ブラジル・サンパウロ生まれ。ミナス・ジェライス連邦大学にて作曲と鍵盤打楽器を学ぶ。
2000年よりプロとしてのキャリアを開始。トニーニョ・オルタ、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバートをはじめとした多数の作品やライブに参加、キャリアを重ねる。
2010年に初のソロ・アルバム『Antonio Loureiro』を発表。この作品が日本でもミュージックマガジン誌「ベストアルバム2010」にて高橋健太郎氏(音楽評論家)により1位に選出されるなど、話題となる。多数の楽器を多重録音し、豪華なゲストを加えた2012年の2ndアルバム『ソー』(NKCD1005)の発表でさらにその評価を確立、日本のブラジル音楽における近年最大のヒット作のひとつに。
2013年初来日。芳垣安洋(ds)、鈴木正人(b)、佐藤芳明(acc)が参加したバンド編成による東京公演の録音がアルバム『In Tokyo』(NKCD1010)としてNRTよりリリース。2015年、くるり主催のフェスティバル「京都音楽博覧会」の招聘で再来日、10,000人以上の観衆を前に行ったパフォーマンスは語り草に。ピアニスト林正樹のアルバムやライブへのゲスト参加、菊地成孔との対談も行うなど、日本のインディ・ロック/ジャズ・シーンに至る多様なミュージシャンから信奉を集める存在に。
ヴィブラフォン奏者/作曲家として、ヴァイオリン奏者ヒカルド・ヘルスとの共作『Ricardo Herz & Antonio Loureiro』を2014年にリリース。
2016年にはブラジル最高峰ピアニスト、アンドレ・メマーリとの完全デュオアルバム『MehmariLoureiro duo』(NKCD1016)をリリース。ミナス音楽、ショーロ、クラシック、ジャズ等が混在した唯一無二のインストゥルメンタル作品に結実。
2017年、ジャズギター界の "皇帝" カート・ローゼンウィンケルの代表作的傑作『Caipi』に参加、共作を提供。日本を含む全世界でのツアーを約2年に渡り行った。
マイク・モレーノほかNYジャズの精鋭たちとの共演や交流も盛んで、アート・リンゼイ、ルイス・コール、アカ・セカ・トリオ、ウーゴ・ファットルーソなどに渡る多彩な共演歴は、その音楽のスケールとユニークさをそのまま証明している。