須永辰緒に訊く、大野雄二によるルパン音楽の魅力——『LUPIN THE THIRD 「JAZZ」』初ベスト&シリーズ初ハイレゾ配信

「ルパン三世」といえば、世代を越えたファンを持つアニメだが、90年代以後は、その音楽がクラブ・シーンと結びついて、人気を博してきた。テレビでの放映が始まったのは1971年。第1シリーズの音楽は山下毅雄が手掛けたが、第2シリーズ以後、現在に至るまでの音楽を手掛けているのは大野雄二だ。この2015年10月1日には、新しいTVシリーズがスタートするが、そこでも大野雄二が音楽を書き下ろしているという。
今回、OTOTOYから配信される『LUPIN THE BEST “JAZZ"』は、その大野雄二が1999年からバップ・レコードに残してきた『LUPIN THE THIRD 「JAZZ」』シリーズから27曲をセレクトしたもの。2005年に結成された大野雄二率いるジャズ・コンボ、ルパンティック・ファイヴの演奏や、新録音2曲のピアノ・ソロも含まれている。
さらに、このベスト・アルバム発売を記念して、OTOTOYでは『LUPIN THE THIRD 「JAZZ」』シリーズの初期3作をハイレゾ配信する。今後も、シリーズのハイレゾ化は続く予定だ。
「ルパン三世」の音楽が現在のような人気を集め出すきっかけとなったのは、1998年に小西康陽を中心として制作された『PUNCH THE MONKEY!』のヒットだった。その『PUNCH THE MONKEY!』にも参加し、2010年にはEGO-WRAPPIN'やSOIL &“PIMP"SESSIONSらが参加したコンピレーション『クラブ・ジャズ・ディグス・ルパン三世』をプロデュースしているDJ、須永辰緒は、まさしく90年代以後の「ルパン三世」の音楽をめぐる動きのキーパーソンのひとりである。40年を越える歴史を持ち、関連する音源も膨大な数になっている「ルパン三世」だが、なぜ、これほどまでに衰えぬ人気を誇るのか。この機会に、彼にその魅力を語ってもらうことにした。
インタヴュー&文 : 高橋健太郎
大野雄二 with フレンズ / LUPIN THE BEST “JAZZ"
【Track List】
DISC 1
01. ルパン三世のテーマ [Funky & Pop version]
02. Love In Sao Paulo
03. Deep Night Call
04. Manhattan Joke
05. Isn't It More Lupintic?
06. Treasures Of Time 炎のたからもの
07. Theme From Lupin Ⅲ [More Lupintic Version]
08. ルパン三世 愛のテーマ
09. SAUDADES DO RIO
10. Zenigata Rock
11. Adios Santiago (But I'll Never Forget You.)
12. Members Only
13. Theme From Lupin Ⅲ '78 [2002 Version]
14. ラブスコール (ピアノソロ) ※新録
DISC 2
01. FLY ME TO THE MOON
02. Lonely For The Road
03. JUST THE WAY YOU ARE
04. Cool For Joy
05. 犬神家の一族~愛のバラード
06. Going Out On The Town
07. Autumn Leaves [枯葉]
08. Winter Wonderland
09. Hush-A-Bye
10. Cool Wave
11. Rudolph The Red Nosed Reindeer
12. The Gift! [Recado Bossa Nova]
13. 小さな旅 (ピアノソロ) ※新録
【配信形態】
WAV / ALAC / FLAC / AAC / MP3
【価格】
単曲 257円(税込) / アルバム 2,700円(税込)
ルパン・ジャズ・シリーズ、初のハイレゾ化!!
左から
大野雄二トリオ / LUPIN THE THIRD 「JAZZ」
大野雄二トリオ / LUPIN THE THIRD 「JAZZ」 〜the 2nd〜
大野雄二トリオ / LUPIN THE THIRD 「JAZZ」 〜the 3rd〜 Funky &Pop
【配信形態】
24bit/48kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
【価格】
単曲 400円(税込) / アルバム 2,401円(税込)
僕らがフロアでジャズをメインでかけたいなと思いはじめたころって、まだそんなに音源もなくて。そこに『ルパン三世』の音源があった

須永辰緒(以下、須永) : 僕らがフロアで、ジャズをメインにしてかけたいなと思いはじめたころって、まだそんなに音源もなくて。そこに手っ取り早く『ルパン三世』の音源があったという感じなんです。アニメの音楽なのに「夜」とか大人の世界の感じが出ていて、それが強烈に子供のころの記憶としてあったんですよね。それもあって、『ルパン三世』の音源をかけはじめたんですよ。90年代の中頃ですね。すると、みんな当然、世代的に『ルパン三世』を知っていて「おお懐かしい」と、フロアでは飛び道具的に盛り上がるところもあって。そんななかで『PUNCH THE MONKEY!』は、小西(康陽)さんの音頭で企画が立ち上がったんですよね。当時はコロンビア・レコード内にあった小西さんのレーベル、〈READYMADE〉からのリリースで。当時周りのDJたちが持っているレコードをかき集めれば、それこそ全ての『ルパン三世』の音源が集まるんじゃないかというような状態だったので、小西さんが「ルパンをやろう」と。
——すっごい売れましたよね、あのアルバムは。
須永 : 売れるきっかけのひとつに、テレビで藤原紀香さんが「これを気にいって聴いてます」とおしゃってくれて、それでドカンと売れたらしくて。その後、シリーズで3まで出ましたね。
——須永さん自身としても、DJとかを始める以前に、最初に入ってきたジャズ的なものの記憶として、『ルパン三世』があったと。
須永 : そうですね。でも、実は子供のころ、"大人部門"だと思ってたルパン音源って、山下毅雄さんが作られていたものなんですよね。それがテレビの第1シリーズの音源で。劇中歌で伊集加代子さんが歌われてたり。でも、山下毅雄さんの音源は権利元がちらかっていて手がつけられないという話で、それもあって、あの『PUNCH THE MONKEY!』は大野雄二さんの音源だけを使うという形になったんです。
——ああ、そんな縛りがあったんですね。
須永 : セリフの音源も、それぞれ入れていいもの、入れちゃいけないものがあって。サンプリングしても先方に確認して許諾をもらったり、NGをもらったり。あとは映像によって制作会社に権利があったり、声優さん、レコード会社さんにそれぞれ権利があったりとか。整理がついてないバラバラの状況だったんです。ただし、大野雄二さんのものに関してはカヴァーもできて、リミックスもできるという比較的自由に使わせていただける状態だったんです。
——僕がよく憶えているのは、地下鉄サリン事件の直前だったんですけれど、山田康雄(初代ルパンの声優)さんが亡くなられたんですよ。僕はそのころはまだDJをやっていて。その晩、渋谷の〈ROOM〉で回してたら、松浦(敏夫)くんがやってきて、山田康雄さんが亡くなったと。それで、明け方にルパンのレコードをずっとかけて、みんなで追悼した。それが1995年だったんで、そのころにはクラブ・ジャズの中で『ルパン三世』って、重要なアイコンだったんですよね。
須永 : そうですね。例えば大野さんの「サンバ・テンペラード」(『カリオストロの城』収録)はインストの曲で、ほとんどの洋楽と同じ、ジャズ・フュージョンの感覚で扱ってプレイができた。ルパン以外では、あとは『サスケ』(音楽は田中正史が担当)とか。「サスケのテーマ」ですね。最近プロモを送ってもらったんですが『海のトリトン』(音楽は鈴木宏昌が担当)もジャズ・ファンクで「結構かっこいいな」と思ってて。そういう楽曲を僕はヒップホップDJの時代に2枚使いしてたんですよ。アニメに鉱脈があるみたいなことはなんとなく感覚的に分かってた。
——ということは、DJ DOC.HOLIDAY(須永が活動初期に使用していた名義)時代にすでに?
須永 : そうですね。(ドラム)ブレイクがあればなんでも食いつくとか。1995年くらいはまだ僕はヒップホップのDJだったから、2枚使いするためにレコードバックに2枚入ってましたね。でも『ルパン三世』の音源は飛び道具ではなく、もうちょっと大事にとっておくというか。
——須永さんがヒップホップのDJから、ジャズとか和モノであるとかにシフトしたきっかけって何があったんですか?
須永 : 実はDJを1度軽くやめているんですよ。2年か3年ぐらい。付き合いもあって芝浦〈GOLD〉と渋谷の〈CAVE〉だけは続けてたんですけど。それ以外のDJは辞めて、普通の人になろうと思ってた時期があったんです。しかし、そのころに知人から「レコード屋を立ち上げるから、一緒にやらない?」と誘われて。それで中途半端にレコード屋に戻ってきてしまいまして。それまで「ヒップホップだ、ブレイクビーツだ」とこだわってやっていたんですけど、レコード屋にいるといろいろ聴けるじゃないですか? そうすると、とても手を出さなかった棚の無視していたアルバムに、実は琴線に触れるよういい曲が結構入ってることに気づいて。そこでまた音楽の志向が開けていったんです。もともとヒップホップDJをやめる前に、すでにプレイリストのなかにはレア・グルーヴ系の音源が半分ぐらい入ってたんですけど。あとは、フリー・ソウルみたいな方向にもシフトしてまして、その中でジャズ・ファンクからだんだんプレイの幅が広がっていって。すごい難しいんですけど、4ビートのジャズをかけてフロアの人たちを躍らすことが、自分の経験値的に何とかできるようになっていって。ジャズの方向にいくと、知らない音源もたくさんあって、おもしろくておもしろくて。それでジャズにシフトしたのが…… たしか〈Organ Bar〉が始まる前だから、20年くらい前ですね。もともと聴いていたわけじゃないので、ジャズ歴は20年くらいなんですよ。その時に選曲のフックになるのが『ルパン三世』の音源だったり。
——なるほど、やっぱり1995年くらいがひとつのポイントだったんですね。
須永 : ヒップホップに対して、これは「あかんわ」と思ったのはイージー・モー・ビーがトップ・プロデューサーになった時。その音についていけなくて。「この音を追いかけられないとヒップホップDJじゃないんだな」と思った瞬間に「ヒップホップはいいかな」と思ったんですよ。
日本人の音楽観に洋楽を植え付けてくれた偉人って何人かいると思うんですけど、そのなかでも間違いなく大野雄二さんはトップを走られている一人
——1998年に『PUNCH THE MONKEY!』が出て、ヒットして、すると翌年には、大野雄二さん自身もそれに引っ張られたように〈バップ〉で『LUPIN THE THIRD 「JAZZ」』のシリーズを始めます。須永さんにとって、大野雄二さんという人はミュージシャンとしてはどういう存在ですか?
須永 : 『ルパン三世』以外の音源ですと、例えばソニア・ローザさんの音源でサンバをやられてますよね。あのあたりの作品でもクラブでプレイできるものをやられているというのがひとつ。あとはJJazz.Netというウェブメディアで、ラジオ番組を担当してるんですが、そこに一度大野さんにゲストに来ていただいたことがあって。そのときにいろいろ詳しくお話しさせていただいて。僕のなかで大野さんはずっと"ジャズ・ミュージシャン"として捉えていたんですけど、大野さん自身の捉え方は全然違っていて。駆け出しのころにジャズはやってたけど、ジャズの世界に関していうと実は2〜3年で離れちゃったみたいで。確かに、1960年代末の音源で大野さんがクレジットされている作品を確認していくと、そうなんですよね。でも例えばソニア・ローザの音源(1974年の『SPICED WITH BRAZIL/ソニア・ローザ・ウィズ・ユウジ・オオノ』)にしても、ジャズではないじゃないですか?
——そうですね、スタイリスティックスのカヴァーとか、メロウ・ソウル的なものも入っていますし、あの時代にあれをやっていたのは凄いなあと。
須永 : そうですよね。でも、あの時代、大野さんはジャズのミュージシャンという意味ではひとつ区切りをつけて、コマーシャリズムというか職業作家を目指した時期だったようなんです。その話は意外でした。
——そのラジオでの対談が初対面だったんですか?
須永 : そうですね。
——大野雄二さんって、ちょっと筒美京平さん的なところもあるんですよね。筒美さんもフィリー・ソウルなどに影響を受けてて、それをもっと歌謡曲的なところで展開したわけですけれど。大野さんはもうちょっと映画音楽とかジャズに寄って、職人的な仕事をしている感じですよね。
須永 : 自分のDJのことも自虐的に"スキマ産業"なんて言ったりするんですが、自分なんかとは全く格もビジネス的な範囲も全く違うものの、大野さんもスキマといえばスキマなんですよね。アコースティックと商業音楽とどっちにも寄らずに飄々と活動されている1970年代、1980年代があって。1980年代の"時代の音"って、DJ的にやっぱりキツイことがあるじゃないですか? 大野さんの手がけられている音は1980年代でも柔らかいんですよね。違和感なくプレイできる。
——70〜80年代の洋楽研究あるいは海外のアレンジャーの研究という意味では、先頭を切っていたんじゃないですかね。
須永 : そうでしょうね。あとは筒美京平さんとか山下達郎さんとか、日本人の音楽観に洋楽を植え付けてくれた偉人って何人かいると思うんですけど、そのなかでも間違いなく大野雄二さんはトップを走られている一人ですよね。ブラジリアン・フュージョンとかもやられているわけですからね。当時は今みたいに情報が簡単には入らない時代で、本当に洋楽の伝道者というか。

須永 : 実は大野さんの『LUPIN THE THIRD 「JAZZ」』のシリーズは後追いで聴いたんですよね。何年前かエゴのよっちゃん(中納良恵 / EGO-WRAPPIN')がヴォーカルで参加している作品があって、あのジャケットを見て、Yuji Ohno & Lupintic Fiveもルパン音源なんだということで繋がったという感じで。あとは2010年にビクターで『クラブ・ジャズ・ディグス・ルパン三世』というアルバムをプロデュースさせてもらったんですけど、そこでは日本のアーティストと世界各国のアーティストに発注して作ったんです。ファイブ・コーナーズ・クインテットとか、クリスチャン・プロマーズ・ドラムレッスンだったり、ジェラルド・フリジーナに参加してもらったり。日本からはEGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXXに「ルパン三世・愛のテーマ」をカヴァーしてもらって、これは今でもiTunesで上位にくるんですよね。このカヴァー・アルバムの縁で、大野雄二さんにラジオに来てもらったんですが、自分がプロデュースした音源を聴いてもらったのかどうかは…… ちょっと怖くて確かめられなかったですね。
——Sunaga t ExperienceもYuji Ohno & Lupintic Fiveもある意味でライバルというか。
須永 : いやいや。
——でも、須永さんのプロダクションも。もともとサンプリングとかリミックス的な手法だったと思うんですけど、今は生ですよね?
須永 : そうですね。大野さんの話とは別になっちゃうんですけど。自分がDJというのもあって、自分がフロアでかけたい曲を作るのが前提としてあって。さらに言えば踊れないにしても普段の音楽生活反映されているものがいいと思っています。例えばある時はフィンランドとかデンマークのジャズを追ってたんですが、そういうものが制作にも反映されると、生楽器とかアコースティックなものになってしまう。テクノも好きなんでテクノっぽい音源も作りますけど。基本的にはアコースティックが好きになっちゃったので。
今回のベスト盤に入ってるソロ・ピアノとかも、タッチが軽妙で素晴らしい
——今、世界的にもジャズっておもしろいじゃないですか? 須永さんも番組でカマシ・ワシントンをかけていたりしますよね。
須永 : カマシいいですよね。新譜も相変わらず買ってるんですが、全体的に見てると世代が一回り回転して、ジャズの勉強もしつつ、ダンス・ミュージックの影響を受けて自分たちでジャズをクリエイトしてるっていう世代じゃないですか? だからカマシみたいに難しいことをやってても「ああ、わかる、わかる」って共感するような部分があって。ジャズのミュージシャンに関していうと、どこか「親にやらされている」感があって「でも自分はダンス・ミュージックをやりたいんだ」みたいなところがあって、彼らを見てると「なんだかかわいいな」と。実はもう買う(旧譜の)レコードが今はちょうどなくて。というのもほとんど欲しいと思うモノはとっくになくなっていて。それでも新しいリストが手に入ったり、自分でリストを作るんですが、でもそれを埋めたらもうないっていう。今はそういう欲しいものがないという状況がちょうど続いていて。そのぶん、新譜のチェックができるんですけどね。新譜はカマシにしても(ロバート)グラスパーにしてもおもしろいですね。ああいうことをやられると、自分のプロダクションにもいろいろ影響されそうです。
——Sunaga t Experienceでは、大野さんの『犬神家の一族』の「愛のバラード」もカヴァーしていますよね。あの曲をカヴァーしたのはどういう経緯だったんですか?
須永 : あれはもともと、CDや配信用にアルバムを作って、そこに入れようと考えて作ったわけではなくて、アナログ盤だけの企画だったんです。その当時(2012年)、「最近アナログ出してないな」と思って、仮にもレコード番長なんて言われておだてられてるわけですから「アナログ切らなきゃしめしがつかないな」というところあって。とりあえず曲を作ってアナログを切りたいなと。その時になんの曲をやろうかなと考えて、真っ先に思いついたのが『犬神家の一族』。「大野さんはルパン・ジャズをやっておられるけど、犬神ジャズはやってないな、やらないのかな!」とずっと思ってたんです。後から調べたら、ライヴなんかでは実はピアノ・トリオでやられてはいたようなんですが、当時は知らなくて。こちらは2管で、バップでかっ飛ばすようなそんなヴァージョンを勝手に考えていて。「大野さんやらないならやっちゃおうかな」と。あのプロジェクトでおもしろかったことがあって。『犬神家の一族』はロケ地が栃木の日光なんですよ。僕も出身が栃木県佐野市出身で、栃木の新聞社に古い付き合いの編集者がいて。それで「犬神ジャズをやるんだよ」って話をしたら、地元の新聞社が一緒になんかやりたいなって話になりまして。そこで県北の方で繊維用の大麻生産量が日本一の町として有名なところがあると。そこで麻でできたスリップマットを提案されて、それで作ったんですよ。今度は後輩のレコード屋がそれを聞きつけて「木の7インチ用のアダプターを作りましょう」って話になって。「夜ジャズ」っていう木の焼ごてを持っているので、それを焼き付けて。で、これをアナログとセットにして、クラウドファウンディングを募ったんですよね。最初50組限定で、最終的に70組限定になって、それを1万円のセットで売ったんですよ。そうしたら、おかげさまで完売しまして。その時アナログも捨てたもんじゃないなと。あとアナログって基本、赤字覚悟でやるもんだと思ってたんですよ。プロモーションとして。だけどその時は制作費までカヴァーできて。クラウドファウンディングってアナログ作りのリノヴェーションとしてありなんじゃないかなと思ったり。それは副産物としてよかったなという感じなんですけど。
——『犬神家の一族』も大野さんの代表的な作品ですが、『ルパン三世』があまりに大きくなりすぎて、他のものは忘れられている感じすらありますよね。
須永 : そうなんですよね。あと例えば今回のベスト盤に入ってるソロ・ピアノとかも、タッチが軽妙で素晴らしいですよね。今ちょうどハービー・ハンコックの自伝を読んでるんですけど、マイルス・デイヴィスにくっついていたころの話でいっぱいおもしろい話があって。マイルスに最初に抜擢された時に、自分の演奏の出来をマイルスにジャッジして貰おうと思って行ったらしんです。そしたら一言だけ「バター・コードを弾け」と言われたんだとか。ハービーはその言葉から「3rdと7thを抜いてみろってことか?」と勝手に解釈して、2ndだけのインプロヴァイゼーションで展開していったみたいなんです。そうしたら新しいジャズの世界が広がっていったって書いていて。それを「バター・コード」というのかどうかはわからないんですが、大野さんはジャズをやらなくなってから逆に3rdと7thとか、きっちり作り込んでくる曲が多いと思うんです。だけどベスト盤に入っている新録曲とか、番外編的にソロを弾いているところとか「あ、本当にジャズ!」って感じですよね。また振り切って、ジャズに戻ってきたのかなと思いました。
——オリジナルの『ルパン三世』で1番好きなタイトルってなんですか?
須永 : 原体験のイメージとしては、やはり山下毅雄さんのあの強烈な匂い立つような第1シリーズのルパンなのですが、でも、大野さんが担当された1977年からのテレビ第2シリーズの一連の楽曲ももちろん好きで、さっき出た「サンバ・テンペラード」とか、あの辺のディスコティークとワールド・ミュージックをうまくアレンジしたようなスタイルですよね。実は1977年とか1980年はすでに僕はレッド・ツェッペリンとかヴェルヴェット・アンダーグラウンドのロックを聴いていたので、アニメの音楽に心を持ってかれることはなかったんですけどね。それでも「かっこいいな」と思っていたような記憶がありますね。
須永 : そうですね。逆に無知な故に、そういう偏屈なところもあって。でも、どこかで『ルパン三世』の音楽はかっこいいなと思ってましたね。ちなみに『クラブ・ジャズ・ディグス・ルパン三世』をやった時、『カリオストロの城』からのスコアをいちばん使ったんですよ。若いミュージシャンたちと作っていると、彼らが「このコードは危ないです」って言ってましたね。クラシックが土壌にあるからだと思うんですけど、クラシック出身の若手のジャズ・ミュージシャンがスコアを書き起こして、どうやってアレンジしようかと相談している時に、「すげーな」ってみんなボソって言ってますね。テレビ・シリーズのオリジナル・サントラはたしか4枚ぐらい出ているんですけど、全部即戦力になるような曲が入ってて。「もし洋楽だったら、これ1万8千円ぐらいでも買える」って感じのサウンドですね。ニコラ・コンテも全部持ってますよ。僕がもたせました、お土産に。
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Yuji Ohno & Lupintic Five / UP↑ with Yuji Ohno & Lupintic Five
Yuji Ohno & Lupintic Fiveとしての最新作。ゲスト・ヴォーカルには前作に引き続き、これまでも抜群のコラボレーションを展開してきた中納良恵(EGO-WRAPPN')、MISIAのツアー・コーラスでも知られるTIGERが参加。さらにライヴのメンバー紹介でもお馴染みTBSの土井敏之アナウンサーがアルバムにも登場。まるでライヴ・アルバムのような高揚感を味わえる一作。
「ルパン三世 vs 名探偵コナン THE MOVIE」 SPECIAL EP
2013年12月に上映された『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE」の配信限定スペシャルEP。大野雄二が手がける「ルパン三世」のテーマ、そして大野克夫が手がける「名探偵コナン」のテーマが、今作ならではのアレンジに。さらには劇中歌として書き下ろされた99RadioServiceの新曲「wonderland」を収録。
須永辰緒による〈Venus〉レーベルのジャズ音源のミックスCD。艶やかでアダルトな世界観は、その原体験的ルーツとして語る大野雄二音源と通底する美学を感じることもできる。
大野雄二 LIVE INFORMATION
・Yuji Ohno & Lupintic Five
2015年9月11日(金)@四日市市文化会館(with Fujikochan's)
2015年9月26日(土)@シンフォニア岩国
2015年10月15日(木)@東京Billboard LIVE TOKYO
2015年10月17日(土)@鳥取とりぎん文化会館 梨花ホール
・大野雄二トリオ
2015年9月6日(日)@鎌倉ダフネ
2015年9月17日(木)@御茶ノ水NARU
2015年9月25日(金)@新宿J
2015年10月16日(金)@鳥取 カウベルホール

「ルパン三世」新TVシリーズ放送×大野雄二&ルパンティックファイブ結成10周年記念
「ルパン三世コンサート~LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2015~」
2015年12月20日(日)@仙台サンプラザホール
2015年12月24日(木)@中野サンプラザホール
PROFILE
大野雄二
小学校でピアノを始め、高校時代にジャズを独学で学ぶ。慶應大学在学中にライト・ミュージック・ソサエティに在籍。藤家虹二クインテットでJAZZピアニストとして活動を始める。その後、白木秀雄クインテットを経て、自らのトリオを結成。解散後は、作曲家として膨大な数のCM音楽制作の他、「犬神家の一族」「人間の証明」などの映画やテレビの音楽も手がけ、数多くの名曲を生み出している。リリシズムにあふれた、スケールの大きな独特のサウンドは、日本のフュージョン全盛の先駆けとなった。その代表作「ルパン三世」「大追跡」のサウンドトラックは、70年代後半の大きな話題をさらった。近年は毎年放映されている「ルパン三世テレビスペシャル」、現在放送中のNHKテレビ「小さな旅」などの作曲活動のほか、再びプレイヤーとして都内ジャズ・クラブから全国ホール、野外ロックフェスまで積極的にライヴ活動をしている。2015年10月より日本テレビほかで放送される「ルパン三世」新TVシリーズの音楽を担当。
須永辰緒(sunaga t experience)
Sunaga t experience=須永辰緒によるソロ・ユニット含むDJ/プロデューサー。DJプレイでは国内47都道府県を全て踏破。また北欧=日本の音楽交流に尽力、世界各国での海外公演多数。MIX CDシリーズ『World Standard』は12作を数え、ライフ・ワークとも言うべきジャズ・コンピレーションアルバム『須永辰緒の夜ジャズ』は20作以上を継続中。国内や海外レーベルのコンパイルCDも多数制作。国内外の多数のリミックスワークに加え自身のソロ・ユニット"Sunaga t experience"としてアルバムは5作を発表。アナログ啓発活動としてヴァイナルのみのリリース•シングルなども続く。最新作は『VEE JAYの夜ジャズ』(ビクター)『Sunaga t experience DIGS CHIEKO KINBARA~Jazz Remixies~』(CAPOTE)『BETHLEHEMの夜ジャズ』(ULTRA VIVE)『クレイジーケンバンドのィ夜ジャズ』(UNIVERSAL SIGMA)『Sunaga t experiencec/STE』(BLUE NOTE)等。多種コンピレーションの監修やプロデュース・ワークス、海外リミックス作品含め関