高橋健太郎のOTO-TOY-LAB ――ハイレゾ/PCオーディオ研究室――【第11回】M2TECH「JOPLIN MKII」
近年、アナログ・レコードの復権という話題がメディアを賑わせるようになった。日本レコード協会によれば、2015年の日本国内のアナログ・レコードの売り上げは前年比165%に増加したという。アメリカやヨーロッパでも同じような増加傾向にあるという。
僕自身、一時期はCDでは手に入らない古い音源を中古レコードで探すだけになっていたのが、最近はまた新譜をアナログ・レコードで買うことが多くなった。すると、アナログ・オーディオ機器への興味も再燃し、レコード・プレイヤーやフォノ・イコライザーをあらたに買ったりもしている。
デジタル・ファイルによる音楽配信ビジネスに関わっている僕が、アナログ・レコードのファンであるというのは矛盾しているように見えるかもしれない。が、16bit/44.1kHzというCDの規格に疑問を抱いたそもそものきっかけは、アナログ・レコードのサウンドの方が良いと思える作品が少なくなかったからだ。
16bit/44.1kHzのPCMもよりも良い音を求めて、ハイレゾのデジタル・ファイルへと向かった。音楽配信ビジネスにおいて、ハイレゾが常識になるように、各方面に働きかけたりもしてきた。が、そのモチベーションは根っこのところでアナログ・レコードの聴取体験に繫がっている。だから、ハイレゾのデジタル・ファイルとアナログ・レコードの両方が盛り上がってきた昨今の状況は、面白くて仕方がない。
フォノ・イコライザー/ADコンバーター JOPLIN MKII
僕のような人間は、たぶん、オーディオ・メーカーの中にも少なくないのだろう。というのも、ハイレゾのデジタル・オーディオを専門しているように見えたメーカーから、突如、アナログ・レコード関連の製品が登場したりもするからだ。M2TECHから登場したJOPLINもまさしく、そんな製品だった。
M2TECHは2009年にhiFaceというDDコンバーターを発表して一躍、注目されるようになったイタリアのオーディオ・メーカーだ。PCのUSBスロットにそのまま刺せる小さなペンシル型のDDコンバーターのhiFaceは世界中でヒット商品になった。僕は翌2010年に発売された据え置き型のDDコンバーター、hiFace Evoを最近まで愛用していた。
同じ2010年に登場したのがUSB DACのYOUNGで、これは2014年にYOUNG DSDに進化した。YOUNG DSDの使用レポートは以前に書いたことがある。
>> M2TECH「YOUNG DSD」のレポートページはこちら(2014年の記事)
JOPLINはそんなM2TECHから2012年に登場した製品で、デザインはUSB DACのYOUNGと同じラインだったが、中身は何とアナログ・レコードのフォノ・イコライザーだったのだ。ただし、このJOPLINにはアナログのオーディオ出力はなかった。かわりにA/Dコンバーターを内蔵していて、アナログのレコード・プレイヤーの出力をデジタル化してDACへと出力する。こういうコンセプトの製品を見たのは、M2TECHのJOPLINが初めてだったように記憶する。
2015年の暮れに発表されたJOPLIN MKIIは、このJOPLINの進化形に当たる。32bit/384kHzまでのデジタル出力を持つADコンバーターという基本は変わらないが、MM型だけでなく、MC型のカートリッジにも対応し、細かいインピーダンス設定ができるようになった。また、JOPLINから引き継がれた数多くのEQカーヴのプリセットを備えていて、そのマニアックな内容は、ちょっと他に例を見ないものだ。あるいは、アナログ・レコードとデジタル・オーディオが融合するとこういうことが出来るのか! という驚きを届けてくれる製品と言ってもいいだろう。
JOPLIN MKIIを単体で使ってみる
外観自体はシンプルでスタイリッシュ。電源を落としていると、筐体が共通するYOUNG DSDなどとほとんど見分けがつかないのが、JOPLIN MKIIだ。電源は付属の15Vのアダプター。入力は2系統。レコード・プレイヤーからの入力を受けるアナログのRCAと、もう一系統はデジタルのCOAXIAL(S/PDIF)だ。出力はUSB、COAXIAL(S/PDIF)、AES/EBU、OPTICALとなる。使い方はPCとのUSB接続を使うか使わないかで異なってくる。
今回はまずは、PCを使わず単体のオーディオ機器として使う場合から試してみた。JOPLIN MKIIはデジタル出力しか持たないから、単体のオーディオ機器として使う場合には、DAコンバーターと組み合わせて使うことになる。組み合わせたのはYOUNG DSD。YOUNG DSDにCOAXIALで入力し、YOUNG DSDのヴォリュームは最大にして、DAコンバーターとしてのみ使い、我が家のリヴィングのオーディオ・セットに接続してみた。
現在のリヴィングのオーディオ・セットはプリアンプにARのLimited2、パワード・スピーカーにATC SCM100ASLというのが基本だ。アナログ・レコードを聴く時には、レコード・プレイヤーにLINN SONDEK LP12、カートリッジにLINN ADIKT、フォノ・イコライザーにJOLIDA JD9を使っている。JOLIDA JD9は米国製の真空管を使ったフォノ・イコライザーだ。
このJD9のかわりに、JOPLIN MKIIとYOUNG DSDを使う形で、アナログ・プレイヤーとプリアンプの間にセットアップ。YOUNG DSDとプリアンプの間はキャノン接続で、YOUNG DSDの出力レベルは10Vを選択した。電源を入れてみると、JOPLIN MKIIのサンプリング・レートの表示が192kHzになっているのに気づく。JOPLIN MKIIのサンプリング・レートは最大384kHzだが、COAXIAL接続やAES/EBU接続ではその規格上、上限は192kHzにとどまるため、JOPLIN MKIIは自動的に192kHzに切り替わるようだ。
さて、まずは聴き慣れたLPを聴いてみることにした。普段のフォノ・イコライザーは完全なアナログ機器だが、現在はアナログのフォノ入力をJOPLIN MKIIとで一度AD変換し、デジタル領域でイコライザー処理してから24bit/192kHzで出力。これをYOUNG DSDでDA変換して、プリアンプにアナログ出力する形になっている。何だか複雑そうだが、一度、接続してまえば、使い勝手はアナログのフォノ・イコライザーと大きくは変わらない。設定が必要なのはカートリッジのインピーダンス。設定はMM型用が3種類、MC型用が5種類ある。LINNのADIKTは47KΩのMM型カートリッジなので、インピーダンス設定は47KΩに。JOPLIN MKIIの設定はこれだけで終了だ。YOUNG DEDの入力選択でRCA(デジタルのCOAXIALがそう表示される)を選び、ヴォリュームを0dbまで上げると、簡単に音が出た。
長年、愛聴しているジェームス・テイラーの『One Man Dog』を聴いてみると、ふわっと陽が差し込むような明るさが感じられるサウンドだ。過去にYOUNG DSDを試用した時にも同じような印象を得ていたので、これはM2TECHのサウンド・カラーと言ってもいいものだろう。
アナログ・レコードの音を一度、デジタル化している訳だが、聴き慣れた『One Man Dog』の再生もごく自然に受け入れられる。ブラインドでこのサウンドを聴いて、デジタルを通っている、と指摘できる人はまずいないだろう。試しにJOPLIN MKIIとの設定でレゾリューションを44.1kHzに下げてみると、なるほど、全体がカッチリして、CDのサウンドに少し近づいたように感じられる。192kHzは滑らかだが、ハードな音圧感が欲しいレコードなどでは、あえて48kHzや88.2kHzあたりを選んでみるという選択もありそうに思われた。
PCを通すとレコードの録音も簡単に
次にJOPLIN MKIIとをPCとともに使って、アナログ・レコードを録音することを試してみる。レコード・プレイヤーとの接続はそのまま。USBケーブルでJOPLIN MKIIととMAC BOOKと接続。この場合はJOPLIN MKIIは32bit/384kHzでの出力が可能になる。
個人的にはアナログ・レコードをデジタル録音することは10年くらい前から行っていた。現在も愛用しているStelloのDP200というプリアンプがフォノ・イコライザーとADコンバーターを内蔵した製品で、アナログ・レコードを24bit/192kHzでデジタル出力してくれるのだ。このDP200のデジタル出力をPC上のPRO TOOLSやコルグのMR-2000Sで録音して、アナログ・レコードからデジタルな音源ライブラリーを作ってきた。しかし、32bit/384kHzでの録音はこれまで経験がなかった。今回はその32bit/384kHzでの録音をMAC BOOK上のフリーソフト、Audacityで行ってみることにした。
サウンドのモニター用には再びYOUNG DSDを使う。MAC BOOKとYOUNG DSDをUSB接続するのだ。アナログ・プレイヤー→JOPLIN MKII→MAC BOOK→YOUNG DSD→プリアンプという先程よりさらに複雑なセットアップになるが、こうすると32bit/384kHzが使えるというのは、何だか不思議な感じだ。
MAC BOOKのサウンド設定で、入力機器にJOPLIN MKIIを、出力機器にYOUNG DSDを設定。さらにアプリケーションのAUDIO MIDI設定で入力出力ともに32bit/384kHzに設定する。この状態でAudacityを立ち上げ、Audacityの録音設定も32bit/384kHzに。フリーソフトでこんなハイスペックなデジタル録音が出来てしまうというのも驚きだ。
さて、セットアップしてしまえば、録音は簡単。YOUNG DSDをUSB DACとしてサウンドをモニターしながら、かけたLPを次々に録音していくことができる。再生も簡単。簡単過ぎて、レポするポイントがないくらいだ。録音時にモニターしているサウンドと32bit/384kHzで録音したファイルを再生したサウンドの差はほとんど分からない。
ただ、32bit/384kHzで録音すると、アルバム一枚が数ギガにも及んでしまう。常に32bit/384kHzで録音するというのは、あまり現実的ではなさそうだ。貴重なレコードの保存を最高スペックで、という時は32bit/384kHzで。普段は24bit/192kHzあるいは24bit/96kHzで録音し、そこからさらにダウンコンバートして、ポータブル・プレイヤー用などの音源ファイルを作っていくというような使い方が賢いかもしれない。
多彩なEQカーヴで古いLPにも対応
さて、フォノ・イコライザー+ADコンバーターとしての基本機能はこれでチェック終了だが、実はJOPLIN MKIIはそれだけではないマニアックな機能をフォノ・イコライザー部に加えている。が、それについて説明するには、アナログ・レコードの歴史を少し振り返ってみる必要がある。
一般のLPレコードは1954年に米レコード協会が定めたRIAAカーヴというイコライザー・カーヴを使って、カッティングされている(レコードのカッティング時には、信号の低音を減らし、高音を増やすカーヴのイコライザーをかけてからカッティング。レコードの再生時にフォノ・イコライザーで逆のカーヴのイコライザーをかけて、フラットなバランスに戻すというのが、アナログ・レコードの仕組みだ。このイコライザー・カーヴの設定をすべてのレコード会社の共通規格にしたのがRIAAカーヴだ)。
ところが、古いLPレコードの中にはこのRIAA以外のEQ(イコライザー)カーヴを使っているものもあるのだ。さらに、LP以前のSP盤の時代には、レコード会社各社が独自のEQカーヴを使っていた。
こうしたRIAA以外のイコライザー・カーヴを使って制作されたアナログ・レコードをRIAAカーヴのフォノ・イコライザーで再生してしまうと、周波数のバランスが本来とは違ってしまう。このことを解消するために、JOPLIN MKIIは何とLP用に16種類、SP用に7種類ものEQカーヴを備えて、ユーザーが必要に応じて、切り替えられるようになっている。さらに、不要な低音をカットするハイパスフィルター、不要な高音をカットするローパス・フィルターなども備えられている。
こうしたEQカーヴの切り替えがあるフォノ・イコライザー内蔵のプリアンプを僕もかつて持っていたことがある。それはLEAK社のVarislope Stereoという真空管のプリアンプで、1950年代半ばのイギリスの製品だった。1954年のRIAAカーヴの制定以前は、VICTOR 、COLUMBIA、DECCAなどが違うEQカーヴのLPレコードを発売していたので、シリアスなオーディオ再生には各社のレコード用にEQカーヴを切り替えるプリアンプが必須だったのだろう。JOPLIN MKIIはそんな半世紀以上前のオーディオ機器の機能をデジタル技術を使って蘇らせたものとも言える訳だ。
とはいえ、EQカーヴの切り替えをしながら、アナログ・レコードを聴くという経験は僕もほとんどしてこなかった。というのも、それが必要なレコードというのはごくごく限られる、と考えてきたからだった。SP盤は我が家にはないので、SP時代のことは考えなくていい。LP盤だけに限れば、LPが最初に発売されたのは1951年であり、RIAAカーヴの制定される1954年まではわずか3年間だ。1950年代のジャズやラテン、ブルーズやリズム&ブルーズなどのレコードも僕は好んで聴いてきたが、僕がレコードを買い始めたのは70年代より後なので、1950年代の音楽は70年代以後のリイシュー盤で買っていることが多い。1951~1954年のオリジナル盤で所有しているものなど、ほとんど見当たらないのだ。だから、EQカーヴが切り替えられるプリアンプを所有し、知識だけは備えていたものの、実際には自分とは無関係なものと考えていたのだった。
ところが、近年、どうもそうではないように思われてきた。きっかけは2014年にイギリスのiFi Audioが発売したiPhonoというフォノ・イコライザーだった。iFi AudioもUSB DACをヒット商品しているデジタル系のオーディオ・メーカーというイメージだったが、このiPhonoは純然たるフォノ・イコライザーで、EQカーヴを6種類備えていた。そして、iFi Audioのウェブサイトを見てみると、ショッキングなことが書かれていたのだ。1954年にRIAAカーヴが制定された後も、すべてのレコード会社がそれを採用するまでには時間がかかった。すべてのレコード会社がそれを採用したのは1980年以後である、とiFi Audioは主張していたのだ。
ということは、1960年代、1970年代のLPにもRIAAカーヴ以外のEQカーヴでカッティングされているLPがあるということになる。言われてみると、思い当たらないでもない。とりわけ、1950年代前半以前の音源のリイシュー盤については、60年代~70年代に発売されたLPの中にEQカーヴが本来のものとは異なっているものが少なからず紛れているのではないか? どうも音に生気がないように感じられるLPは、実は録音のせいではなく、EQカーヴのせいでそう聴こえているのではないか? そう思えてきたのだ。
M2TECHがJOPLIN MKIIのようなフォノ・イコライザーを作ったのも、同様のこだわりゆえに思える。なにしろ、LP用のEQカーヴを16種類もプリセットで備えているのだから。こんな製品は過去にもなく、イコライザー部をデジタル処理にしているからこそ、可能になったものに思われる。
さて、そんなJOPLIN MKIIの機能を使って、古いLPを録音してみることにした。まずは比較的最近に手に入れた1950年代の10インチ盤、『Bing Crosby Sings Victor Herbert』。録音自体は1938年で、オリジナルのレーベルはDECCA。5枚組のSP盤でリリースされていた音源が、50年代にLP化されたものだ。正確なリリース年は分からないが、10インチ盤なので50年代前半の可能性は高いだろう。
LPではレーベルはBrunswickに変わっている。しかも、僕の持っているのはオーストラリア盤で発売元はオーストラリアのEMI。さて、このLPはどのEQカーヴで再生するのが正しいのだろうか? JOPLIN MKIIのマニュアルを見ながら、考えてみたが、これがどうにも分からない。
オリジナルのSP盤はDECCAのカーヴだったに違いないが、リイシューしたBrunswickはColumbia系列なので、LP用のColumbiaカーヴが正しそうでもある。だが、オーストアリアのEMIが製造したのだったら、イギリスのEMIが採用していたNABカーヴあるいはHMVカーヴかもしれない。ネット上にはマニアが作ったEQカーヴの判定表などもあったりするのだが、それを見てもやはり、ハッキリしない。となると、これはもう片端から聴いてみるしかない。JOPLIN MKIIならば、それが可能だ。リモコンでどんどんEQカーヴを切り替えて行けるのだから。
最も可能性の高そうなのはColumbiaカーヴだったが、RIAAカーヴと切り替えて聴いてみると、Columbiaは違うように思えた。ColumbiaはRIAAよりもカッティング時のEQでハイとローが多くなっているので、再生時にColumbiaカーヴを選ぶと、逆にRIAAよりもハイとローが減衰して、ミッドレンジ中心のカマボコ型の周波数バランスになる。ただし、JOPLIN MKIIではハイとローの減衰分のレベルを補って、全体のレベルを上げる処理をしているようで、ミッドレンジあるいはミッドローがぐっと押し出されたサウンドになる。だが、それではビング・クロスビーの声が野太くなり過ぎてしまった。これはColumbiaカーヴではない。
では、他のカーヴは? 次々に切り替えてみると、個人的な印象判断ではあるものの、HMVカーヴが一番しっくりきた。HMVカーヴが正しいと言い切る自信はないものの、僕がJOPLIN MKIIを使って、このLPを録音するならHMVカーヴしかない。ということで、Audacityを使って、HMVカーヴで再生した『Bing Crosby Sings Victor Herbert』を32bit/384kHzでPCに録音した。この10インチ盤はプチノイズなども多いので、24bit/96kHzくらいにダウンコンバートした後、PRO TOOLSに取り込んで、ノイズ取りなどの編集をするのも良いだろう。
次いで、もう一枚、『A Portrait Of Mildred Bailey 1934-1940』というLPもターンテーブルに載せてみた。この録音もSP時代の1934~1940年だが、僕の持っているLPは1970年に日本のCBSソニーから発売されたコンピレーション盤だ。だから、本来はRIAAカーヴであるはずである。
だが、これをColumbiaカーヴで聴いてみると、RIAAカーヴよりも魅力的に思えてきた。歌が太くなり、ぐっと前に出てくる。これはColumbiaカーヴが正解なのだろうか? SP時代のもともとのディスク・マスターから、この70年代の編集盤LPができるまでの間に、どのような過程があったのか分からないので、何とも言えない。
考えてみれば、録音された1930~40年代のSPレコードの再生環境は今よりもはるかにナローレンジだった。そうした時代のカッティング・スタジオで音決めされた音源を現代のワイドレンジなオーディオの再生環境に持ちこむと、カッティング・エンジニアの望まない低音や高音が再生されたり、その分、中域が引っ込んで聴こえたりもするのではないだろうか? このミルドレッド・ベイリーのLPがColumbiaカーヴで魅力的に聴こえる理由は、あるいは、それゆえかもしれない。
同時代のColumbia音源をもう少しチェックしてみようと、1930年代録音のジーン・クルーパの米国盤リイシューLPなどを聴いてみたが、スウィング時代のスーパー・ドラマーであるジーン・クルーパの場合はミッドレンジ中心に聴かせるColumbiaカーヴよりも、キックやシンバルがきちんと聴こえるRIAAカーヴあるいはAESカーヴなどの方が良く聴こえた。というところからしても、古いColumbia盤だからColumbiaカーヴと判断できるほど単純な世界ではないようだ。が、とりあえず、ミルドレッド・ベイリーはColumbiaカーヴを採用して、32bit/384kHzでPCに録音した。
という訳で、最後は恐ろしくマニアックな世界の扉を開けてしまった感じだが、こんな製品を作るM2TECHには、相当のアナログ・レコード・マニアがいるに違いない。今回は触れられなかったが、JOPLIN MKIIはさらにアナログ・テープ・レコーダーのヘッドからの信号を受けて、代表的な2種類のEQカーヴ(NAB及びCCIR)でデジタル出力するモードがあったり、FMラジオの録音時に有用なMPXフィルターを備えていたりもする。使えば使うほどに、20世紀の音楽とオーディオの歴史を覗き込むような体験ができそうな面白い製品だ。そして、こんなオーディオ製品が登場する今の時代も実に面白いと思わずにいられない。
(text by 高橋健太郎)
高橋健太郎のOTO-TOY-LAB アーカイヴス
■第1回 iFi-Audio「nano iDSD」
■第2回 AMI「MUSIK DS5」
■第3回 Astell&Kern「AK240」(前編)
■第4回 Astell&Kern「AK240」(後編)
■第5回 KORG「AudioGate3」+「DS-DAC-100」
■第6回 M2TECH「YOUNG DSD」
■第7回 YAMAHA「A-S801」
■第8回 OPPO Digital「HA-1」
■第9回 Lynx Studio Technology「HILO」
■第10回 exaSound「e-22」
■番外編 Lynx「HILO」で聴く、ECMレコードの世界
JOPLIN MKII仕様
■サンプリング周波数
44.1, 48, 88.2, 96, 176.4, 192, 352.8*, 384kHz* (* USB only)
■ビットレート
16 to 32 bits** (32 bits are provided on USB output only)
■USB
2.0 high speed (USB 2.0 Audio Class compliant)
■クロック精度
+/-10ppm 0 to 60°C, 2ppm typical @ 25°C
■アナログ入力感度
2.55Vrms (0dBFS, gain = 0dB) 1.14mVrms (0dBFS, gain = 65dB)
■アナログ入力インピーダンス
47kR, 47kR||100pF, 47 kR||220pF, 16kR, 1kR, 500R, 200R, 50R, 20R
■アナログ入力ゲイン
0, 10-65dB (1dB steps)
■イコライゼーション数値ゲイン
22dB (RIAA)
■S/PDIF入力感度
0.5Vpp +/-0.1V
■S/PDIF入力インピーダンス
75 Ohms
■S/PDIF出力電圧
0.5Vpp +/-0.1V
■S/PDIF出力インピーダンス
75 Ohms
■AES/EBU出力インピーダンス
2Vpp +/- 0.5V
■AES/EBU出力インピーダンス
110 Ohms
■全高調波歪率
0.0004% (1kHz @ 0dBFS, fs=192kHz, 0-20kHz)
■S/N
122dB (A-weighted, fs=384kHz)
■接続PCの最小構成スペック
1.3GHz CPU clock, 1GB RAM, 2.0 USB port
■回路電圧
15VDC
■消費電力
290mA
■サイズ
200x50x200mm (w x h x d, キャビネット) 200x55x210mm (w x h x d, コネクターと脚を含む)
■重量
1.7kg (本体) 2.5kg (製品パッケージ込)