高橋健太郎が執筆したオトトイ限定ライナー・ノーツの単体販売開始
ジム・オルークによる最新作『All kinds of People 〜love Burt Bacharach〜』。ポップス界最高峰の音楽家バート・バカラックが作り出した楽曲を、アヴァン・ポップスの異端児ジム・オルークと、東京、大阪とアメリカのミュージシャン達で解き明かす本作。オトトイでアルバム特典としてプレゼントしていた、高橋健太郎執筆による1万字越えのスペシャル・ライナー・ノーツの単体販売を開始。2010年4月15日にBillboard tokyoで行われたJim O'Rourke x Bacharach Tribute Liveのライヴ・レポートと共にお楽しみください!
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【ライナー・ノーツの単体購入について】
ライナー・ノーツを購入の際に一緒にダウンロードされる音源は、ライナー・ノーツだけ欲しい人のために用意した音源です。たくさんのミュージシャンの声が使用された豪華な音源なので、是非聴いてください。
※このライナー・ノーツはオトトイで『All kinds of People ~love Burt Bacharach~』を買った際に、アルバム特典として付いてくるものと全く同一です。
Jim O'Rourke x Bacharach Tribute Live 2010.04.15@Billboard tokyo
「オール・カインズ・オブ・ピープル」のリリースに合わせて、東京、大阪で三日間、6セットが行なわれたジム・オルーク一座のライヴ。僕が見たのは初日、東京ビルボードでの4月15日のセカンド・セットだった。
バート・バカラックの音楽というのは、本来、ゴージャスなものだ。若き日にはマレーネ・ディートリッヒのオーケストラ・コンダクターを務めていたバカラックは、エンターテインメントの世界の掟をよく知る業界人でもある。作曲家としてはとても繊細な作品を生み出してきたが、ステージ上ではぎらぎらした野心家ぶりも覗かせる。1960年代の後半、ビートルズをはじめとするロックの波が乱暴に世界を覆い尽くそうとする中で、バカラックの音楽は、贅を尽くした極上のエンターテインメントの伝統を守り通そうとする側の、最大の抵抗勢力でもあった。
しかし、この日の一座ときたら、どうだろう。あたかも農民達の楽団が、貴族の音楽を演奏しているかのよう。いや、よく見ると、鍛冶屋も混じっていたり、得体の知れない流浪の民も混じっていたり。おじいさんの学者もいたかな。ともあれ、エンターテイメントの世界の掟には統率されない、てんでばらばらな人々が、バカラックの音楽を演奏する。リーダーは毛玉の浮いたカーディガンを着た小柄なアメリカ人。おどおどしたような様子すら窺えて、どのくらいのリーダー・シップがあるのか、見ていてもよく分からない。ただ、ステージが進むうちに、彼が選んだてんでばらばらの人々が、かけがえのない個性を持ったミュージシャン達であるのが分かってくる。無駄な音は一つもない。無駄のないアレンジということ以上に、優れた即興音楽家の演奏には無駄な音が一つもないのと同じ意味において、一群のミュージシャン達の演奏には何一つ無駄がなかった。
無駄を惜しまないゴージャスさとはまったく別の位相を持ったバカラック・ソング達。それが一つ一つ、ステージの上で花開いていく。過去のたくさんのヴァージョンが耳に馴染み過ぎた大ヒット曲ですら、見たことのない新しい花を咲かせる。時には乱暴だったり、強引だったりもするが、しかし、瑞々しい瞬間が尽きることがない、そんな一時間半だった。
この日のセット・リストは以下の通り。
1. Always Something There To Remind Me (vo:青山陽一)
2. Do You Know The Way To San Jose (vo:カヒミ・カリィ)
3. After The Fox (vo:坂田明、飛び入り:中原昌也vo)
4. Anonymous Phone Call (vo:やくしまるえつこ)
5. You'll Never Get To Heaven (vo:青山陽一)
6. Raindrops Keep Fallin On My Head (vo:小池光子)
7. The Look Of Love (vo:カヒミ・カリィ)
8. Don't Make Me Over (vo:ジム・オルーク)
9. Walk On By (vo:小池光子)
10. Close To You (vo:細野晴臣)
11. My little Red Book (vo:青山陽一、山本達久perc)
アンコール演奏された「My little Red Book」はアルバムには収録されていない曲。アルバムではYoshimiがヴォーカルを取っている「Say A Little Prayer For Me」は東京では演奏されなかった(大阪では演奏)。また、アルバムでジム・オルークがヴォーカルを取っている「Trains And Boats And Planes」は今回のツアーでは演奏されていない。
ミュージシャン達の顔ぶれは以下の通り。
ジム・オルーク(eg,vo)、グレン・コッチェ(dr)、ダーリン・グレイ(b,perc)、須藤俊明(b,perc)、青山陽一 (eg,vo)、坂田明(vo,sax,cl)、クリヤマコト(pf)、石橋英子(org)、佐々木史郎(tp)、小池光子(vo)、カヒミ・カリィ(vo)、やくしまるえつこ(vo)、細野晴臣(vo,b,ag)
細かい見所については、これ以上は書かないが、ウィルコのドラマーであるグレン・コッチェの繊細でいながら、力強いドラミング、さらには響き過ぎないドラム・セットの鳴らし方が、全体のトーンを決定づけていた。また、3人のベーシストのグルーヴがとてつもなかった。あの坂田明が職人的な仕事ぶりでアレンジに貢献している姿も新鮮だった。(text by 高橋健太郎)
PROFILE
Jim O'Rourke
1969年シカゴ生まれ。Derek Bailey(デレク・ベイリー)の音楽と出会い、13才のジム少年はロンドンにDerek Bailey(デレク・ベイリー)を訪ねる。ギターの即興演奏に開眼し実験的要素の強い作品を発表、John Fahey(ジョン・フェイヒー)の作品をプロデュースする一方でGastr Del Sol(ガスター・ デル・ソル)やLoose Fur(ルース・ファー)など地元シカゴのバンドやプロジェクトに参加、「シカゴ音響系」と呼ばれるカテゴリーを確立する。一方で、小杉武久と共にMerce Cunningham(マース・カニンハム)舞踏団の音楽を担当、Tony Conrad(トニー・コンラッド)、Arnold Dreyblatt(アーノルド・ドレイブラット)、Christian Wolff(クリスチャン・ウルフ)などの作曲家との仕事で現代音楽とポストロックの橋渡しをする。1998年超現代的アメリカーナの系譜から『Bad Timing(バッド・タイミング)』、1999年、フォークやミニマル音楽などをミックスしたソロ・アルバム『Eureka(ユリイカ)』を発表、大きく注目される。1999年から2005年にかけてSonic Youth(ソニック・ユース)のメンバー、音楽監督として活動し、広範な支持を得る。2004年には、Wilco(ウィルコ)の『A Ghost Is Born(ゴースト・イズ・ボーン)』のプロデューサーとしてグラミー賞を受賞、現代アメリカ音楽シーンを代表するクリエーターとして高く評価され、ヨーロッパでも数々のアーティストをプロデュースする。また、日本文化への造詣が深く、近年は東京に活動拠点を置く。日本でのプロデュース・ワークとしては、くるり、カヒミ・カリィなど多数。坂田明、大友良英、山本精一、ボアダムスなどとの共同作業や、武満徹作品『コロナ東京リアリゼーション』(2006)など現代音楽に至る多彩な作品をリリースしている。映像作家とのコラボレーションとしてWerner Herzog(ヴェルナー・ヘルツォーク)、Olivier Assayas(オリヴィエ・アサイヤス)、青山真治、若松考二などの監督作品のサウンドトラックを担当。ジム自身も映画監督として活動しており、彼の作品は、2004年と2006年にはホイットニー・ビエンナーレ、2005年にはロッテルダム映画祭で「重要作品」として上映されている。ソロとしての最近作『The Visitor(ザ・ヴィジター)』(2009)は『Bad Timing(バッド・タイミング)』の現代版と言える密室的ワンマン・アルバムの極致と言える。新しい「知」の探求者としてオルタナティヴ、ポストロック、エクスペリメンタル・ポップ、映画音楽、フリー・ミュージック、ジャズ、アメリカーナ、現代音楽など様々なジャンルの極北を切り開く越境的活動を行ない「現代東京カルチャー」の先導者となりつつある。
高橋健太郎
過去の職歴は音楽評論家、DJ、音楽プロデューサー、インディー・レーベル・オーナー、レコーディング・エンジニアなど。レコミュニ〜オトトイにも創設時から関わる。音楽評論集に「音楽の未来に蘇るもの」(2010年に復刊予定)。初の小説も出版準備中。