悲しみも寂しさも乗り越えた旅路の終着点──〈MYTH & ROID One Man Live 2023 Autumn Tour “AZUL”〉
2023年11月12日(日)に渋谷Spotify O-WESTにて『MYTH & ROID One Man Live 2023 Autumn Tour “AZUL”』のツアー千秋楽公演が開催された。10月にリリースされた同名のコンセプトミニアルバムをタイトルに冠したツアーということで、こちらのアルバムの内容とかなり密接にリンクした演出が見どころの1つとなっていた。またこのミニアルバムは2枚で1つの物語を織りなしており、その対となる物語は来春に完結する手筈となっている。次へと続く布石もありつつ、”AZUL”としての物語を彼らはこの夜、描ききった。私は正直、それをどう受け止めていいのか迷った。それほど深く、激しく、悲哀に満ちた叫びに私は聞こえた。
連作ミニアルバム第1弾『AZUL』
REPORT : MYTH & ROID
取材・文:前田勇介
写真:大川晋児
本公演についてレポートするにあたり、先に1点だけ共有しておきたい点がある。公演の最後の方にMCで言及もあったのだが、あくまでAZULの曲だけ”ではなく”MYTH & ROIDの楽曲を楽しんでもらいたいという旨があったように、前半はアルバム外からも定番のタイアップ曲であったりライブナンバーで展開し、後半はAZULの世界観を存分に五感で感じられるような2部構成的な演出になっていた事を、前提として述べておきたい。
開演を待つ場内は青白く照らされており、波音だけがさざめく。時折りイルカの鳴き声のような音も聞こえるだろうか。そこにグッズのLEDリストバンドの青も揺らめき、さながら夜の海辺のような静けさが会場を包み込んでいた。開演前のアナウンスでも、グッズのLEDリストバンド以外のペンライト等は演出上、使用を控えてほしい旨が伝えられており、どんなステージがこれから始まるのか、期待が高まる。
幻想的というよりも神秘的で、アンシエントな日本ぽさも感じる鈴の音や女性のコーラスの中、サポートメンバーの面々、そしてメンバーの2人が姿を現すと、凛とした雰囲気の中に拍手が湧き起こる。そこからノータイムで「theater D」「ANGER/ANGER」の2曲を続けて披露する。まだ2曲だがKIHOWは時に床に膝をついて、燃え上がるような歌声を見せ、ステージを盛り上げる。
「MYTH & ROID One Man Live 2023 Autumn Tour “AZUL” ツアーファイナルへようこそ。今夜は私たちと楽しんでください。」と手短に挨拶をすると、「PANTA RHEI」そして「TIT FOR TAT」へ。コール&レスポンスで「後ろも~!」とフロア全体に熱を入れ、徐々にオーディエンスも肩が慣れてきたように見受けられる。続く「Crazy Scary Holy Fantasy」もメロディアスでノリやすい曲だし、みんなで手拍子を合わせたり、一体感も出てきた。
ここでKIHOWが「ツアーファイナル、ソールドアウトありがとう。何より、今日ここに来ることを選んでくれて本当にありがとう」とまずは謝辞を述べ、「ライブをすると、こうしてみんなの顔が見られる。みんなの幸せそうな表情に私も幸せを貰っている」と語ってくれた。また千秋楽ということで今回のツアーを通して感じた事も話してくれた。 「これまであまり1人でいる事に寂しさを感じたことが無かったんですけど、ツアーで全国を回って、その間にライブがない週もあるじゃないですか。少し時間が空いて、寂しいなって思うことがあったんです。こないだ本を読んで知ったんですけど、誰かと接する時間とか回数とかが増えるほど、1人になった時に寂しさを感じる。つまり「社会性の成熟が人間に寂しさを感じさせる」って書いてあって。私、ツアーと通して社会性が成熟しました(笑)」と自身の成長を感じたエピソードを披露した。「トムさんも喋って~」という声に「いやいや、オレが話すと長くなっちゃうから……」とキチンと前フリをした上で「え、という事はKIHOWちゃん今までオレと会った後に寂しいって思った事は一度もないの?」とキッチリひと言で笑いを作る、さすがのトーク力なのだが、まさかこの言葉が後にフラグになるとは……。
笑いありのトークで会場は完全に温まった所に「Paradisus-Paradoxum」「STRAIGHT BET」「STYX HELIX」と人気の楽曲を惜しげもなく3曲続け、その盛り上がりはあえて記すまでもないのだが、前半戦がここで終了。するとここで「ちょっと喋ってもいいですか!」と再びTom-H@ckがマイクを握る。「この後はボクたちとしてはかなり攻めたセトリになっています」と後半のAZULパートについて説明が入る。この間、実は前半パートで喉を使いすぎてしまったボーカルのKIHOWが少しクールダウンをしていたのだが、そんなことはつゆ知らず「とりあえず喋って繋いで」とトムさんのMC力が試される他愛もないトークコーナーが始まったのだった(笑)。
まず、本番直前に衣装として履くはずだった靴下が無く、急遽KIHOWの予備の靴下を借りて履いてきた話から始まり、突発質問コーナーで、ツアーで巡った岡山のえびめしが美味しかった事、AZULに合わせて購入した青のギターがメンテナンスから間に合わず、使い慣れた白のギターでツアーファイナルに臨んだことなど……。結果「もういい?まだ?」とスタッフに白旗寸前まで喋らされていたのには笑ってしまった。「MYTH & ROIDは世界観とか重視して、こういうトークあんまりしないようにしてたんだけどな」と、ついつい本音が漏れ出ていた。
もちろん、楽曲やAZULについての真面目な話もあったことを忘れてはいけない。「MYTH & ROIDの曲って英詩が多いので歌詞の意味についてまで注目してくださってる人は少ないかもしれないんですが、僕は割と歌詞が好きで。特に「PANTA RHEI」とかお気に入りで、自分の見たものだけを信じて進め!みたいなメッセージが込められていて、実は我々の公式HPの”From M&R”というタブから和訳した歌詞が読めるので、ぜひ覗いてみてくださいね。」といった楽曲についてや「我々は今、激動の時代を生きていると思っていて、立ち直れなくなるような大きな出来事がこの十数年で立て続けに起きていて、AZULではそれを表現したつもり。あまり多くは語りませんが、ボクは地元が宮城県で、そんな想いも込めている」と改めてAZULの底の深さを感じたりもした。
KIHOWの喉も整い「必ず、最後までやり遂げますので!」と本人も気合い十分。ある意味、今夜はここからが本番だ。 コンセプトミニアルバム「AZUL」のトラック1は「<Episode of AZUL>」というKIHOWによる朗読が収録されている。アルバムでは物語の導入として機能していたが、本公演では少し役目が違った。物語のマイルストーンとして、3分割され、展開を大きく動かしていくのだった。
暗転した舞台に、真っ赤な1冊の羊皮紙で出来たような豪華な本がいつの間にか置かれていた。まるで深海に一筋の光が差し込むように、心もとない薄明かりに上から照らし出され、その存在にようやく気付く。KIHOWが本をめくると、ここからAZULの物語が動き出す。
海辺の街の海岸に打ち上げられた謎の少年。彼は絵画や彫刻に才を示し、それは街でも評判となる。そんな彼が絵筆を躍らせるかの如く、KIHOWもくるくるとドレスをはためかせて踊りながら「RAISON D’ETRE」を歌う。それから数年、少年が身を寄せていた老夫婦はあっけなく死に、街の人の態度が冷たく変わっていく。「MOBIUS∞CRISIS 」「Tempest-tost」 「ACHE in PULSE」では、そんな少年の怒りや憎しみを、マイクスタンドを使ったアクションや歌声で表現する様は素晴らしかった。物語の最後、海は上昇し、今まさに街が沈みかけようとしている。しかし少年は街から一歩も出ようとはしない。「.…And REMNANT」はそんな少年の心境をそのまま歌にした曲だ。アルバムとはまた違った構成で、AZULの物語への解像度が一段と上がる経験が出来たのが非常に良かった。
かなりしっとりした雰囲気から、ガラッと表情を変え、ここからはTom-H@ckとサポートメンバーによるジャジーでアダルトなバンドインストとお色直しを挟み、「VORACITY」「L.L.L.」と続く。「みんなラスト2曲、もっと声出せる~?!」の声に今日イチのラウドで応え、会場のボルテージも間違いなく最高潮に達していた。続いて「JINGO JUNGLE」を披露し終えるとふたりは深々と大きなお辞儀をし、KIHOWが語りだす。「ツアーを通して、人としても、アーティストとしても成長を実感できました。皆が生まれ変われるキッカケを私にくれました。もちろん感謝しかないし、もっと大きなステージへ行きたい……私が皆を連れていきます!」と力強い宣言に、負けないくらい力強い拍手がフロアから鳴り響く。
最後に「AZULと次の物語を繋ぐ、架け橋を担う楽曲を聞いてください」と紹介し、「RESIST-IST」へ。まずはこのAZULツアーは当たり前なのだが、ふたりともそれ以上の達成感に満ち溢れた、やりきった表情をしていたのが、私は非常に印象的だった。しかし、2月にはゲストを迎えたツーマンライブに、3月には待望の次作「VERDE(ヴェルデ)」がリリース予定との情報も解禁され、MYTH & ROIDの2024年は成すべき事だらけな気もしているのだが、ひとまず無事にツアーを終えた労をねぎらってもらいたい。
先ほどまで本が置かれていた終演後のステージ上には、代わりにブーケ、そして場内には鳥のさえずりが。こんな細かい所にまで次作を期待させる演出を張り巡らせているのもニクい。冒頭で”AZULの物語をどう受け止めて良いのか、迷った”と記したが、その答えを出すのはVERDEを待ってからでも良いと思っている。だからあえてここには記さないが、結局は人間の芯の強さ、意思の強さなのかなと思った。善悪、損得といった感情は結果として付随するのみで、結局はどうするか、どうしたいか、やるのか、やらないのか、自分の行動を決定するときに必要なものは自分の意思のみだ。それが他人にどう思われるかは、あまり関係ない。けれどもそんなに強く”自分”を持てないのも人間だと思う。とにかく、MYTH & ROIDの世界観は楽曲だけでは拾いきれないことがよく分かった。ライブに行ってまた違う角度から物語の新たな一面を知れるくらい、彼らの世界観は奥深い。春に誘われし”緑”が底知れぬ深い”樹海”ではないことを祈るばかりだ。
『MYTH & ROID One Man Live 2023 Autumn Tour “AZUL”』 セットリスト
2023年11月12日(日) at 渋谷Spotify O-WEST
01.theater D
02.ANGER/ANGER
03.PANTA RHEI
04.TIT FOR TAT
05.Crazy Scary Holy Fantasy
06.Paradisus-Paradoxum
07.STRAIGHT BET
08.STYX HELIX
09.RAISON D’ETRE
10.MOBIUS∞CRISIS
11.Tempest-tost
12.ACHE in PULSE
13.…And REMNANT
〜Band Instrumental〜
14.VORACITY
15.L.L.L.
16.JINGO JUNGLE
17.RESIST-IST
フォトギャラリー
編集 : 西田健
連作ミニアルバム第1弾『AZUL』
LiVE SCHEDULE
MYTH & ROID One Man Live 2024 Spring Tour “VERDE”
【ツアー日時】
4/13(土) 静岡LIVE ROXY SHIZUOKA(シーティング)
開場 17:30 / 開演 18:00
4/14(日) 岡山YEBISU YA PRO
開場 17:00 / 開演 17:30
4/20(土) 仙台 MACANA
開場 17:30 / 開演 18:00
4/27(土) 大阪・心斎橋SUNHALL
開場 17:30 / 開演 18:00
4/28(日) 名古屋 スペードボックス
開場 17:00 / 開演 17:30
5/12(日) 東京・Shinjuku BLAZE
開場 17:00 / 開演 17:30
<チケット価格>
通常チケット(各公演共通価格):¥6,000(税込/1D別)
特典付き限定チケット:¥8,000(税込/1D別)
(特典内容:[Concept Album “AZUL/VERDE” Story Book]を予定)
<チケット受付方法>
オフィシャル先行受付中
【受付期間】12月8日(水)12:00~12月17日(日)23:59
【受付URL】https://w.pia.jp/t/mythandroid24/
MYTH & ROID Two-man Live Series「NEXUS vol.1」
【ツアー日時】
2024年2月10日(土) 心斎橋SUNHALL
開場17:30 / 開演18:00
出演アーティスト:MYTH & ROID、岸田教団&THE明星ロケッツ
2024年2月23日(金・祝) 下北沢シャングリラ
開場17:30 / 開演18:00
出演アーティスト:MYTH & ROID、NANO
<チケット価格>
チケット:¥6,500(税込/1D別)
<チケット受付方法>
オフィシャル先行受付中
【受付期間】12月8日(水)12:00~12月17日(日)23:59
【受付URL】https://w.pia.jp/t/mythandroid-vslive24/
岸田教団&THE明星ロケッツ Official HP:https://kisidakyoudan.jp/
Official X:https://twitter.com/kisida_info
NANO Official HP:https://nanonano.me/
Official X:https://x.com/nanonano_me
PROFILE:MYTH & ROID
「MYTH & ROID」(ミスアンドロイド)は、インターナショナルで本格的なサウンド、鋭角的でキャッチーなメロディ、圧倒的なボーカルパフォーマンスを兼ね備えた日本のアーティスト。
2015年のメジャーデビュー以降、数々の大ヒットアニメの主題歌を手がけ、MV及び関連動画総再生回数は1億5千万回を超える。
「感情の最果て」をテーマに、音楽、映像、ビジュアルなど、あらゆる側面から国籍や時代にとらわれない普遍的な人間の感情を描いて世界的な評価を得ており、これまでに20ヶ国以上でLIVE公演を行なっている。
2016年に発表した3rd Single「STYX HELIX」4th Single「Paradisus-Paradoxum」は2作続けてiTunes Store(JP)総合ランキング1位を記録。
また、2019年に発表した10th Single「TIT FOR TAT」のMVは公開から約1年で500万回再生を超え、2020年に発表した1st Digital Album「Future is Mine」では遂にサブスクリプションを解禁。同アルバムはノルウェーのiTunes Storeアニメトップアルバム1位を記録。他にもニュージーランド、マカオ、イギリス、イタリアなどの世界各国でTOP10にランクインを果たしている。
ユニット名「MYTH & ROID」は、過去を想起させる「Myth」(神話)と未来を想起させる「Android」を組み合わせた造語。
【公式HP】
http://mythandroid.com/
【公式X】
https://twitter.com/myth_and_roid
【公式Youtubeチャンネル】
https://www.youtube.com/@mythroidofficialchannel5625