3776が紡いだ神話の世界を追体験できる──〈閏日神舞〉〜富士山神話 LINK MIX〜遂に音源化!
富士山のご当地アイドル、3776(みななろ)の主催イベント〈閏日神舞〉のライヴ音源が遂に音源化!編集部伊達の渾身のライヴレポートと共にお楽しみください。
3776の神話世界を追体験できるライヴ音源!
2月29日のイベント〈閏日神舞〉で観るもの全てを驚かせた、第二部富士山神話 LINK MIXの音源を完全収録。3776プロデューサーの石田彰が全ての作詞・作曲・脚本・演出・プロデュースを手掛け、今回参加した全てのアイドルがその全てを表現しきった富士山神話の世界にどっぷり浸かることができます。ストーリー説明の浄瑠璃や、一つのステージで別の楽曲の同時歌唱などをはじめ、仕込まれた仕掛けの数々に、聴くたびに驚かされる今回のワンマン・ライヴ〈閏日神舞〉。ぜひともハイレゾ音源で隅から隅まで味わってください。
出演者 : 3776(井出ちよの) / 963 / 彼女のサーブ&レシーブ / XOXO EXTREME / O'CHAWANZ / 広瀬愛菜
トータル・プロデュース:石田彰
会場: 東京キネマ倶楽部
録音・ミックス・マスタリング: 高橋健太郎
写真 : 大橋祐希
デザイン : ナガタミキ (digitiminimi Inc.)
プロジェクト・ディレクター:Jinichiro Iida (OTOTOY) / 伊達 恭平 (OTOTOY) / 西田 健 (OTOTOY)
3776 × OTOTOY 企画vol.8〈閏日神舞〉とは!?
2月29日、4年に1度の閏日に東京キネマ倶楽部にて行われた、富士山ご当地アイドル3776による主催イベント。
出演アイドルがそれぞれ対バン形式でライヴを行う第1部の宵宮(よいのみや)と、富士山神話を全出演者で演じる第2部の富士山神話 LINK MIXのふたつで構成されていた。
LIVE REPORT : 3776 × OTOTOY 企画vol.8〈閏日神舞〉
文 : 伊達恭平
写真 : 大橋祐希
富士山ご当地アイドル3776が、2020年2月29日(土)東京キネマ倶楽部にて2部制の主催イベント〈閏日神舞〉を開催した。これまで斬新なコンセプトを見事にパフォーマンスへ昇華し、観客を驚かせて来た3776のワンマン・ライヴ。今回の〈閏日神舞〉は、963、彼女のサーブ&レシーブ、XOXO EXTREME、O'CHAWANZ、広瀬愛菜といった5組のアイドル達を迎え入れて開催されたが、この日はまさに壮大な“祭”だった。
昼よりスタートした第1部〈宵宮〉(よいのみや)は、各出演者による対バン形式のライヴ。パンフレットを片手にざわつくオーディエンスの前に、この祭りのトップバッターを飾ったのは、広瀬愛菜だ。3776プロデューサー石田彰がアレンジした、レベッカ“フレンズ”カバーを透明感のある歌声で歌い上げた後は、「最初から盛り上がってもらいたいので、懐かしいあの曲をやります!」と一言を添えて、3776LINKモードの楽曲“私のものです!”を披露。3776LINKモードで、山梨側を担当していた彼女からのこの曲紹介で、フロアからは歓声が上がる。曲中の「富士山は山梨のものですよね?」という広瀬から問いかけに、オーディエンスは手を挙げて応えるなど、フロアとの一体感、そして観客の心を確かに掴む実力を見せつけた。最後は、自身のオリジナル曲“サマーレイン”へ。青い照明がステージを照らす中、雨音に乗る彼女の優しい歌声は会場を優しく包み、確かな余韻を残していった。
3曲の間に様々な表情を見せた広瀬の歌声で、すでにこのイベントへの期待感が高まる中、続いて登場したのは彼女のサーブ&レシーブ。軽快なカッティング・ギターのイントロと共に、キネマ倶楽部のサブステージから登場したあおぎとえりのふたりは“Racket Love”を披露。時折ふたりで目を合わせ、笑顔を見せながら歌うふたりの姿に、自然と体が横に揺れてしまう。「どうしてもあそこ(キネマ倶楽部のサブステージ)を使いたくて、直前にお願いした」というふたりのゆるいMCに会場からも笑いが溢れる。そんな空気感を悠々と楽しむように“スキッ~Love Magic~”、“Cheerio!”を続けて歌いあげた。フロアへ目線を向けながら、揃って体を揺らし、ジャンプする。ポップかつキャッチーな楽曲とあおぎ、えりの柔らかなパフォーマンスが、確かな世界観を生み出していた。「みんなの視線が暖かくて優しいです」とMCで伝えていたが、このふたりのステージを見れば誰もが自然とそうなってしまうのだろう。「2部もめっちゃ良いので楽しみにしていてください!」と宣言したあとは最後の曲“One”へ。最後には観客と合わせて腕を振り、どこか哀愁を感じる風景を作り上げて、ステージをあとにした。
メロウなトラックと共に「こんばん……あ、間違えた! おはようございまーす!」という、しゅがーしゅららの少し気が抜けるようなMCで登場したのは、文化系アイドルヒップホップユニット、O'CHAWANZの3人。リラックスした空気感をそのままに“Night City”を披露。りるはかせがリードしつつ、随所でふたりの声を被せるコーラスワークが心地良く響く。続く“After Five”では、ステージを大きく使用し、観客へ目線を配る型にもアイドルらしさを感じた。「閏日神舞盛り上がってますか?」というMCの後には、“Question?”、“DADA”、“IITABI”という観客を一気に盛り上げるナンバーをたたみかけ、さきほどまでの緩やかな空気を一変させた。クラップを煽りつつ、矢継ぎ早なリリックをしっかりフロウに乗せる3人の実力で、視線を引き込む。「O'CHAWANZ、ラストスパートです! 最後まで盛り上がっていきましょう!」という宣言の後には“O'CHAFUNK”へ。立ち位置を次々に入れ替え、ジャンプする3人に会場も歓声で応え、観客も縦ノリへ。全員がサブステージへ上がったあとは、最後に“HARUKAZE”にて全7曲、ノンストップのステージを締めた。
少しの間を置き、SEとともにサブステージへ姿を現したのは、プログレッシヴ・アイドル、XOXO EXTREMEだ。ハードなサウンドと共に、めくるめく曲調を変える、壮大な世界観の“Birth”からスタートした彼女たちのパフォーマンスは、頭からキネマ倶楽部全体を飲み込むような勢いだった。その後、「みなさん盛りがっていきましょう!」という一色萌の挨拶と共に“Progressive Be-Bop”へ。息継ぎを許さないような怒涛のメロディ、休みのないヴォーカルワークを、躍動するダンスとともに繰り広げる3人のパフォーマンスに思わず息を飲んだ。そんな曲の中でも観客へ「せーの!」「いくよ!」といった煽りを忘れない彼女たちは、アイドルとしての魅力をしっかりと放つ。続いては、曲中の展開がめまぐるしい“キグルミ惑星”へ。セリフも取り入れたスペース・オペラのような世界観のなかでは、3人並んでヘッドバンギングも見せつけ、それに呼応して観客からも熱いコールが起こる。最後には、フランスのプログレ・バンドMAGMAの公認カバー“The Last Seven Minutes”で熱気に満ちた会場をさらに沸かせて、ステージを後にした。
1部も後半に差し掛かり、次は福岡県のローカル・アイドル963のふたりが登場。まずは“夢?幻?ドロップス”で切なく緩やかなラップを見せると、先ほどで熱気に満ちていた会場は穏やかな空気感に包まれる。続く“ストロー”では、同じ衣装に身を包んだふたりがアシンメトリーなダンスを見せる。淡い照明の中で伸びるファルセット・ヴォーカルと相乗し、幻想的な景色を描き出していた。そのまま“坂”、“ホシノフルマチ”の2曲を続けて披露したふたりは、ステージの上で時折手を繋ぎながら、そして視線を交えながら、緩くも切ないラップを歌い上げる。浮遊感のある楽曲たちで観客の気分も緩み、最後に披露された“再逢”では、心地よくテンポよく切り替わるふたりの歌声と、深い残響音が響いた。サビの要所で重なるふたりのコーラスにも心を揺さぶられる。もう少しだけ先を見たいとも思わせる絶妙な幕引きで、963はステージを後にした。
第一部も残すは井出ちよのとなったが、ステージにちよのが現れる前に、“Introduction”が会場に流れる。「今日が高校生最後のライヴとなる予定だったんですが、急遽昨日卒業式をやってきましたー!」とステージ袖からのMCで宣言。卒業記念の“井出ちよのお気に入りセレクト”として組まれたセットリストの1曲目は、「欲しいーーー!!!」というちよのの絶叫から“欲しい”でスタート。頭から全速力で、ダイナミックなパフォーマンスが披露される。「閏日神舞、宵宮へようこそ!」というMCで観客を迎えたあとは、爽やかなクランチギターが響くロック・ナンバー“台風一過”へ。軽やかなステップを踏みながら、晴々とした景色を彷彿させるように伸びやかに歌い上げたあとには、“バイト初日”を披露。少し落ちついた様子で、ステージの端から端をゆっくりと歩みながら歌いつつ、時折フロアへ笑顔を向ける。最後は激しいビートに合わせてダンスを見せる“ぼんくら先生”へ。どの曲も、ちよのの歌声がしっかりとフロアに伸び、響いていたのが印象的な4曲だった。
それぞれが確固たる個性を炸裂させた第一部は、アイドルというアーティストの可能性、そして楽曲の幅の広さを突きつけるような内容であった。3776(井出ちよの)を中心として集められたこの5組が、強い親和性を持っていることは確かだが、各アイドルが次のアイドルへと繋がることに違和感が全くと言っていいほど無く、シームレスに紡がれた6組のステージは、単体の公演として見ても高いクオリティだった。そして、2部への期待を感じさせるには、あまりにも強烈すぎる“前祭”だったと言える。
LINKするふたつの神話体験
これまで3776のワンマン・ライヴには何度も驚かされてきたが、今回の〈富士山神話 LINK MIX〉は、とりわけこれまでとは比較できない、究極の“体験型公演”であったと思う。1部〈宵宮〉においてのパフォーマンス、各出演者の2部への期待感を煽るMC、会場と同時に販売された本公演のパンフレット。この日の観客と出演者の、一挙手一投足が、2部開催前の少し緊張感を交えた空気を作り上げていた。
第2部〈富士山神話 LINK MIX〉では、キネマ倶楽部のステージは下手の「静岡側」と上手の「山梨側」に分けられ、各ステージにはこの日の出演者が「静岡側の神」と「山梨側の神」を担当している。山梨側のステージ袖には、浄瑠璃役の広瀬愛菜、曲師役の小嶋りん(XOXO EXTREME)が楽師として座る。小嶋によるヴァイオリン、広瀬による語りのふたつが「山梨側」の物語の進行を担っているのだが、静岡側には楽師の姿はない。静岡側の物語は、静岡側の出演者が、入れ替わりでステージ裏から影囃子となってMCのみで進行させる。静岡側で語られる〈駿河國富士山紀〉と山梨側で語られる〈甲斐國富士山記〉は全四楽章となっており、これを軸に各々で異なるストーリーが語られるという流れだ。
会場が暗転すると、場内には導入曲が流れる。〈山には神が、宿っています。だから人は安心して足を、踏み入れることができる〉という詞の静岡側、〈山には神が、宿っています。だから人はそこに、足を踏み入れてはいけないのです〉という詞の山梨側。この楽曲とともに各ステージの出演者が、二礼二拍手一礼で参拝するような仕草を見せながら登場するのだが、導入で「流れている楽曲が微妙に違う」「出演者が明確にステージで分けられる」といった、このステージの根本的な仕組みと違和感を感覚的に把握する。
本公演のストーリー理解に必要なことは、全てステージの上で語られているのだが、最も注目するべき点は、このふたつの異なるストーリー(楽曲)が、ときにその空白を埋めながら、ときに重なりながら、まるでDNAの二重螺旋のように〈富士山神話〉というひとつの形を成している点だ。
〈駿河國富士山紀〉と〈甲斐國富士山記〉の導入である第一楽章はどちらも「天地創造」というタイトルで、〈地面っていうのはどんなもの? そこに立てれば地面だよ〉という歌詞の楽曲が両ステージ同時で歌われる。静岡側では、国之常立神(井出ちよの from 3776)が、山梨側では、天之御中主(れーゆる from 963)が、それぞれこの曲を歌うが、メロディ、ダンスが若干異なっている。この“若干”という部分が大きなポイントで、絶妙なタイミングで両者の振り付けや、メロディとメロディの間が、重なることで、同時にパフォーマンスが繰り広げられても大きな違和感を感じない。
しかし、このふたつを常に見続けられるのはかなりの苦労を強いられるのでは……。と思っていると、3776井出ちよのが「これじゃ何がなんだかわかんないよ! 静岡側をクローズアップして、巻き戻しー!」と一言。すると逆再生したオケとともに、ステージの上の出演者も巻き戻しの動作を見せる。呆気にとられている間に「巻き戻し」が終わると、ステージ上のパフォーマンスは再度冒頭からのスタート。しかし、最初とは違い照明は主に静岡側を照らし、フロアへモニターされる音も静岡側の音声が主となる。この際、山梨側のステージでは同じようにパフォーマンスが進んでいるのだが、照明と音声が表に出てこないため観客席からは、まるで口パクのようなパフォーマンスが見える。
しばらく国之常立神(井出ちよの from 3776)を中心に静岡側の話が進むが、山梨側でパフォーマンスを続けていた正鹿山津見神(浅水るり from XOXO EXTREME)が「山梨の方も見てちょうだい! 巻き戻し!」とのMC。ここで再度「巻き戻し」が起こり、次は先ほどまで焦点があたっていなかった山梨側へフォーカス。口パクのように聞こえていた山梨側のパフォーマンス繰り広げられ、浄瑠璃の語りとともにストーリーが進む。このように、静岡、山梨、両ステージの上では常に“何かが起きて”おり、それが“何だったのか”ということが、交互に色を変えて再現されていくのである。
こうして山梨側のストーリーが進み、伊邪那岐命(あおぎ from 彼女のサーブ&レシーブ)とイザナミ(いちこにこ from O'CHAWANZ)が、地面をかきまぜるようなパフォーマンスで「初めての島ができた」ということを再現。一方の静岡側サブステージではちよのが、3776の楽曲「富士山の成り立ち概要」を歌っているのがうっすらと聞こえてくる。3776のワンマン・ライヴという名目で開催されている第2部。この両ステージで繰り広げられるストーリーと3776楽曲のリンクという点も大きな注目部分だった。
たとえば、山梨側に登場する伊邪那岐命は、ストーリーの中で恋人であるイザナミを連れ戻すため、黄泉の国へ行く。黄泉の国で変わり果てたイザナミの姿を見た伊邪那岐命は、驚いて逃げてしまうのだが、これをきっかけに怒ったイザナミが鬼(しゅがーしゅらら、りるはかせ from O'CHAWANZ)を放って伊邪那岐命を追いかける。このシーンでは、ちよのは「逃げるなー!」「待てー!」という掛け合いが印象的な“観覧逃げ”を披露。小嶋りんといちこにこによるヴァイオリンの協奏も、非常に切迫した雰囲気を出しており、世界観はより深いものになっていた。また、天照大神(えり from 彼女のサーブ&レシーブ)が富士山に引きこもってしまうシーンで、「だから出てこいよ」と歌う“在京完結型及び全ての在宅に捧げるバラード”を歌うなど、場面に合わせた3776の楽曲が、ストーリーとの親和性を強く感じさせる。
八岐大蛇(いちこにこ)に困る足名椎命(しゅがーしゅらら)、手名椎命(りるはかせ)のラップの掛け合いや、ちよの演じるスサノオに大量のお酒を振舞われ恥ずかしいラップを披露する八岐大蛇(いちこにこ)の姿、今晩泊めてくれとお願いするオオクニヌシ(井出ちよの)と、それを嘘で拒否し続ける大山津見神(ぴーぴる from 963)のパフォーマンスなどは、皆アイドルらしさを押し出したキュートな振る舞いであり、壮大な脚本でもより身近に感じることができた。また、山梨側の木花咲耶姫 (一色萌 from XOXO EXTREME)は火山に身を投げ、その中で子を産むという物語終盤を締めくくる大役を演じたが、印象的だったのは曲師、小嶋のヴァイオリンとともにステージの上でダイナミックなダンスをひとりで見せたシーンだった。真っ赤な照明の中で大きく手足を伸ばして踊る姿には、力強い神々しさを感じずにはいられなかった。このように、個々のアイドルの個性が2部でも強く感じられたのは、1部のステージを見ていたからだと思っている。
ストーリーの壮大さも勿論だが、配役、楽曲の魅力、セリフ、といった第2部を構成するその全てが、絶妙に互いを相乗し、絡み合っているのだ。その中でなによりも、要所で3776がポップアイコンとしての強烈な光を放っていたのは言うまでもない。これらが全て石田彰というプロデューサーの上で、計算されていると考えるとすこし恐ろしくもなる。
目で見えるもの、耳で聞こえるもの、それは目の前のパフォーマンスであったり、各出演アイドルの仕草であったり、照明であったり、あの日の1部からの会場の空気といった全てである。ステージ上だけではない、あの日の“全て”がリンクされた空間が、第2部では会場を包んでいたと、自分は強くそう思う。このような体験を生み出すことができるのは、やはり3776のワンマン・ライヴだけなのではないだろうか。再演があるとすれば、ぜひとも自身の体で、この公演を体験してほしいと強く思う。
text by 伊達恭平
〈閏日神舞〉〜富士山神話 LINK MIX〜ハイレゾ配信中!
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PROFILE
3776
富士山ご当地アイドル3776。3776の読み方は、「みななろ」。3776は、富士山の標高。2013年6月22日、富士山世界遺産登録と同時にオリジナル曲『私の世界遺産』で本格デビュー。活動拠点は富士山のふもと静岡県富士宮市。
季節ごとにその姿を変える富士山を、画像で切り取っていくかのように、いくつかのスタイルが共存する3776。最もポピュラーなスタイルは、井出ちよののソロ・ユニット・スタイル。
【公式HPはこちら】
https://m3776.com/