BATROICA METAL SUMMER JACKETがファーストALで見せる夢の世界──彼らが産み出すNEO POPサウンドの正体を探る
「すべての世代が楽しめるNEO POP」をコンセプトに活動するバンド、BATROICA METAL SUMMER JACKETがファースト・アルバム『MUNYA MUNYA』をリリース。今回のインタヴューでは、前身のバンドからいまの活動を行うに至った経緯から、この不思議なバンド名になった理由、そして今作に込めた想いを聞きました。(※ベーシストの松田ナオトは所用により欠席)
BATROICA METAL SUMMER JACKETのニュー・アルバム『MUNYA MUNYA』
INTERVIEW : BATROICA METAL SUMMER JACKET
2019年、同時期に解散したThe Taupe、午前3時と退屈、Manhole New Worldのメンバーが集まって結成された4ピースバンド・BATROICA METAL SUMMER JACKET(以下BMSJ)。「各々の音楽の原点である“楽しむこと”を重点においたバンド」であり、「すべての世代が楽しめるNEO POP」を生み出していくことをコンセプトに始動した。
だが初音源の“GOODBYE”と“TIME TIME TIME”を2週連続でデジタルリリースしてすぐに世の中はコロナ禍へ突入。予定されていたカナダツアーも中止になり、バンドは曲作りに専念するようになる。
そうして生まれたのが2022年1月にリリースされたファースト・アルバム『MUNYA MUNYA』。タイトルからも想像できるように、「夢」をテーマにした不思議で前衛的な、だがユニークで、なのにそこはかとなく狂気や深い陰を感じさせるポップな楽曲が並ぶ。まさにどんなことでもアリになってしまう、理屈では説明できない夢のなかの世界のようだ。
彼らが考えるNEO POPの正体を探るべく、メンバーにインタビューを敢行。インタビューも作品同様、ふわふわと漂うような、いつの間にか話が移り変わっているような、感覚的な空気感で包まれた。
インタヴュー&文 : 沖さやこ
写真 : 西村満
直感的に「この人なら自分と合うんじゃないか」
──やっぱりどうしても、まずはバンド名が気になってしまうのですが。
かわもトゆうき(Vo/Gt)(以下、かわもト) : 長いですよね(笑)。海外の大きなフェスでライヴをしている夢を見て……そこから起きた瞬間に“BATROICA METAL SUMMER JACKET”という名前がパッと思い浮かんだんです。
航星(Gt/Syn) : バンド名の候補はいくつかあったんですけど、インパクトがいちばん大きかったのがこれで。そしたらふかい(ふかいりさ◎)が急に「こういう名前のバンドやりたかった」と言い出して(笑)。
ふかいりさ◎(Dr)(以下、ふかい) : そう言ったらそれに決まっちゃいました(笑)。
航星 : 僕らも“りーちゃん(ふかい)が言うならこれだよね~”って(笑)。でも長いから予定書き込むときに面倒くさいんですよ。
かわもト : そうそう(笑)。だから僕らは「BMSJ」と略したりしてます。
──BMSJは2019年に結成。かわもトさんの在籍していたThe Taupe、航星さんとふかいさんが在籍していた午前3時と退屈、ベースの松田ナオトさんが在籍していたManhole New Worldが解散した年でもあります。
航星 : The Taupeはアルバムを出してすぐに、午前3時と退屈はEPを作ったあとに解散して。Manhole New Worldもバンドのキーになるメンバーが抜けるから今までと同じかたちでは続けられなくなってSEQUOiAとして組み直して──それがたまたまちょうど同時期だったんですよね。
かわもト : The Taupeの解散が決まって、まず新しいバンドを組むためにメンバー探しを始めて、最初に声を掛けたのが航星でした。直感的に「この人なら自分と合うんじゃないか」と思ったんですよね。The Taupeと午前3時と退屈はお互いの自主企画ライヴに出たりとライヴハウスで会う仲ではあったけど、連絡先を知らなかったからTwitter経由で「大事な話がある」とDMして(笑)。
航星 : この時点でだいたい「大事な話」の察しはついていたんですけど(笑)。そこから新宿の日高屋に呼び出されて、新バンドの話をしてもらって二つ返事でOKしました。The Taupeのことは好きだったし、なんなら午前3時と退屈が解散する前から、りーちゃんと一緒に「The Taupeに加入したい」と話していたんです(笑)。
ふかい : 「The Taupe入りたいけどギターもドラムもいるから入れないね」と話してたんだよね(笑)。でもゆうくんもわたしたちも人見知りだったし、ライヴハウスで会っても深い話をする機会がなくて。それで日高屋でふたりが話しているときかな? わたしのところに「ドラム叩かない?」と電話が来たんです。
──おふたりの念がかわもトさんの元へ届いていたのかもしれませんね。そしてその後松田さんの加入が決まると。
航星 : ベースの松田とゆうくん(かわもト)は関係性がなかったんですけど、午前3時と退屈はManhole New Worldと一緒にツアーを回ったこともあって、僕から松田に声を掛けました。松田はプレイヤーとして参加できるバンドをやりたい気持ちが強かったみたいで、BMSJへの加入を快く受け入れてくれて。
かわもト : みんなまだまだバンドを続けたいと思っていたところに、自分のバンドが解散することになっちゃって。それもあってすぐに新バンドの結成に動き出したんですよね。本当にたまたま、4人のタイミングが合ったんです。
──BMSJの掲げる「各々の音楽の原点である“楽しむこと”を重点に、すべての世代が楽しめるNEO POPを生み出していく」というバンドコンセプトは、当初から決まっていたのでしょうか。
かわもト : ぼんやりとありましたね。The Taupeはもともと攻撃的で、反骨精神をエネルギーにしていたバンドで。でも年齢を重ねていくなかで音楽の好みも変わってきたこともあってか、原点回帰して音楽を楽しむことを大事にしたい欲求が少しずつ湧いてきていたんです。だからThe Taupeのラストアルバム『サイケデリックシネマ』も、従来に比べると柔らかい質感になって。その雰囲気をBMSJにも引き継いで、ピースフルな要素を大事にしたい──そう思っていたところに、松田も同じようなことを言ってくれたんですよね。
航星 : 『サイケデリックシネマ』に収録されている“ビバリーヒルズシネマ倶楽部”を当時聴いたとき、「The Taupeからこんな曲が出てくるんだ!」と衝撃的だったんですよね。これをさらに拡張させたい気持ちがあって、最初に4人で音合わせをするときに“ビバリーヒルズシネマ倶楽部”を演奏してみたんです。ゆうくんはThe Taupeのときと同じように演奏しているのに、松田が原曲のアレンジを聴いていなかったから自分のオリジナルのフレーズで弾いたのもあって、The Taupeの“ビバリーヒルズ~”とは全然違うものになって……その感触がすごく良くて。
かわもト : 松田とはそれまでに交流がなかったんですけど、テンションの上がる変態的なフレーズをめちゃくちゃ弾いてくれて。
航星 : 松田はメンバーがやりたいことをベースで導いてくれる。このメンバーはこの方向性がしっくりくると実感して、よりバンドのコンセプトが固まりました。