新津由衣はいかにして、『傑作』を作り上げたのか──苦難の末に辿りついた、「センキュー絶望!」という境地
シンガー・ソング・ライター、新津由衣が、自身の持てる全てを詰め込んだ最新アルバムをリリースした。タイトルは、その名も『傑作』。今作はプロデュースを石崎光が務め、楽曲のポップスとしての純度を極限まで高めた、まさに『傑作』と言える仕上がりに。これまで以上に聴く人に届けることを意識したという歌詞には、自身の婚約破棄や交通事故など、パーソナルな出来事も綴られている。自身のスランプやコロナ禍、RYTHEMの再始動などを経て、新津由衣は、いかにして『傑作』を作り上げたのか。そして、会場全員がワイヤレスヘッドフォンを着用してライヴを行うという、ヘッドフォンライブ2024〈傑作展〉についても話を訊きました。
また、OTOTOYでの『傑作』の音源購入者限定で、新津由衣直筆の手書きの歌詞付きブックレットが特典としてゲットできます。音源と合わせてお楽しみください!
まさに『傑作』な最新アルバム!
特典として、新津由衣直筆の手書きの歌詞付きブックレットが付属します。
INTERVIEW : 新津由衣
取材 : 飯田仁一郎
文 : 西田健
撮影 : 堀内彩香
聴く人に“届ける・発信する”という視点を持って書きたくて
──最新フルアルバム『傑作』が4月10日にリリースされます。今作は本当にタイトルの通り、傑作だと思いました。
新津由衣(以下、新津) : 嬉しいです! 今回のアルバムはプロデューサーとして入ってもらった石崎光さんの力なくしては、ここまで辿り着けなかったと思います。前作を出した後、自分がもう1、2段階レベルを上げないと、新しい作品は世に出せないという思いになっていたので、長い期間もがいていました。
──レベルアップしないといけないと思ったのはなぜですか?
新津 : 18歳からプロとして音楽活動をさせていただき、最近は堀内まり菜ちゃんのプロデュースや音大の講師など経験が広がるなかで、自分の作品作りに対するハードルがどんどん上がっちゃって、「今の自分に満足できない。ワクワクしない!」と、修行のごとく1ヶ月で100曲のデモを作りました。でも・・・全然だめで全部ボツボックスに入れました。
──なぜ自分の曲が気に食わなかったんですか?
新津 : どれも聴き飽きた曲に感じて、おもしろくないというか、とにかくドキドキしなかったんです。私の感性死んじゃったのかな…って。そういう絶望の中で、光さんに相談させていただいたんです。そのときに「由衣ちゃんは、ポップスの技術が身について自分の才能を操れるようになったけど、もっとその先に踏み出したいんじゃないかな。既存のポップスのフォーマットに囚われなくても良いと思うよ。」って言われて、ハッとしました。私自分で作ったルールに縛られていたのかも。それって楽だけど、私の原点ってもっと見たことないものを創る楽しさじゃなかったっけ?って。それで「作曲する」ということを通じてもっと遊んでみようと思いました。
──作曲の方法を変えていったんですね。
新津 : そうなんです。手グセ禁止!ってあえて鍵盤を触らないようにしたり、コラージュするように曲のカケラをくっつけてみたり、ここはミなのかソなのか、一音一音ベートーヴェンみたいに作曲を追求したり、自由な音楽ってなんだろうって向き合い続けました。
──他にも制作環境を変えた部分はありますか?
新津 : コロナ禍でファンクラブを立ち上げて、制作風景を公開していたんです。制作中に遠目からiPadで撮影した動画を撮っているんですけど、作っているときの姿ってすごく変人で笑えて。「この人やっぱおもしろいな」って勇気が出ました(笑)。0から1を産む作業っていつもひとりぼっちだけど、そこが一番楽しくて私が好きな時間なので、ファンの皆さんにそばで見守っていただけて、とても励みになっていました。
──今回石崎さんにプロデュースをお願いしたのはなぜだったんですか?
新津 : 光さんのアレンジは、工夫や遊びがいっぱいで、捻れ方のセンスがすごいな!って元々憧れの方だったんです。ご本人曰く、至極真っ当なポップスをやっている自覚しかないとおっしゃるんですけど、私からすればプロのクオリティでおもちゃ遊びをしている印象があって、そのエッセンスが新津由衣に必要だと思いました。以前Neat’s名義で『MOA』というアルバムをセルフアレンジで出しましたが、その頃から妄想を具現化するパートナーとしていつか光さんと作品作りをご一緒したいと思っていたんです。
──石崎さんはどのような役割を担当されたんですか?
新津 : アレンジ、ミックス、マスタリングまで全工程を引き受けて下さいました。作詞作曲を詰める作業にもかなり時間をかけて、「由衣ちゃん、もっといける!!」ってハードル高くジャッジしてもらいながらずっと信じて励ましてくれて。メンター的な存在でもありました。
──なるほど。歌詞も石崎さんのアドバイスがあって、完成したんですか?
新津 : そうですね。すごく丁寧に見ていただきました。恥ずかしいぐらいパーソナルな想いを露呈しながらも、心の中を“描く”だけではなくて、聴く人に“届ける・発信する”という視点を持って書きたくて。曖昧な言葉に逃げてないか、自分だけがわかる視野の狭いものになってないか何度もチェックをお願いしました。