これはギターインスト最終形態であるーーdowny・青木裕による初ソロ・アルバムを先行ハイレゾ配信

downyのギタリスト青木裕が初のソロ・アルバム『Lost in Forest』を完成させた。楽音とノイズの境を超え、すべての音で構築されるオーケストレーション。OTOTOYでは今作の先行ハイレゾ配信を行い、本作について青木裕にインタヴューを行った。今回なぜソロ・アルバムを作ることになったのか? そしてどのようにしてこの超大作が完成したのか。音楽を表現することについての考えを訊いた。
青木裕の初のソロ・アルバムを先行ハイレゾ配信
青木裕 / Lost in Forest
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/96kHz) / AAC
>>ハイレゾとは?
【価格】
WAV / ALAC / FLAC(24bit/48kHz)
単曲 200円(税込) アルバム 2,100円(税込)
AAC / MP3
単曲 150円(税込) アルバム 1,900円(税込)
【収録曲】
1. I am Lost (feat. MORRIE)
2. Open the Gate (feat. MORRIE)
3. 851
4. Waltz of the Bugs
5. Fury
6. Missing
7. Witch Hunt (feat. 薫)
8. Im Wald
9. Ghosts in the Mist
10. Gryphon / Burn the Tree
11. Cave
12. ”B"
13. Colling (feat. MORRIE)
14. Shape of Death (feat. SUGIZO)
INTERVIEW : 青木裕
制作期間10年をかけられたという青木裕の初のソロ・アルバム『Lost in Forest』。ゲストにMORRIE、LUNA SEA,、X JAPANのSUGIZO、DIR EN GREYの薫が参加した今作。誰もいない深い森の中でも蠢くような光と闇を描く圧倒的音楽が、数千トラックのギターで構築したサウンドによって感じ取ることができる。楽音とノイズの境を超え、すべての音で構築される楽曲はギター・インスト最終形態であるとも言えるだろう。10年という長い構想期間の中で理想とした表現はなんだったのだろうか。青木裕に話を訊いた。
インタビュー : 飯田仁一郎
構成 : 岩澤春香
記憶の断片のような、くすんだフィルムのような世界が浮かぶんです
──今回のアルバムではMORRIEさん、SUGIZOさん(LUNA SEA、X JAPAN)、薫さん(DIR EN GREY)といった豪華な面々をゲストに迎えていますが、どういった流れで一緒にやることになったのですか?
Aoki : 僕がソロを作っていると知ったMORRIEさんが、「何かやらせて」って言ってくれたのが最初です。光栄な話ですよね。発売もレーベルも白紙の状態だったので、何の保証もできないし、恐れ多いことなんですけど。後日SUGIZOくんも「僕も参加させて」って。薫くんは飲みの席で僕から誘ったら快諾してくれました。こうなったらアルバム完成に向けて背水の陣で臨もうかなと。
──MORRIEさんが最初に言ってくれたんですね。
Aoki : はい。 MORRIEさんは早い段階で参加が決まっていたので楽曲に時間がかけられたんですよね。SUGIZOくんの場合、やりたいって言ってくれて光栄だし嬉しかったけど、僕の編集作業が長引いて、締め切りも目前だし時間的に無理かなと思っていたんです。で、一応確認で「どうする? また別の機会でもいいし」と伝えたら「いやいや、やるよー」って言ってくれたので、SUGIZOくん用に楽曲を急遽書き下ろしたんですよ。
──SUGIZOさんが参加している「Shape of Death」は、何でSUGIZOさんは参加しているのでしょうか?
Aoki : バイオリンなんですよ。このアルバムはギターで構築されていて、音域がかたよりがちなんです。レンジを広げるためにも楽器指定でお願いしました。
──青木さんは今回、アルバムを作るにあたって結構な時間をかけたそうですね?
Aoki : ソロの作品を作ろうと思い始めたのがちょうど10年くらい前なんですけど、おぼろげな夢が具体的な目標に変わっていくプロセスに時間がかかったんです。もともと僕は機械音痴なのですが、downyが2013年に再始動するにあたってDAWを導入しまして。downyはメンバーが離れたところに住んでいるので、曲作りはデータのやり取りが中心なんです。デモのクオリティが低いと自分のアイデアが明確に伝わらないんですよね。そこで1から録音機材の勉強をし始めたんです。徐々に機材が使えるようになって、デモのソロ楽曲も形になっていった。だから結局、本格的なソロの制作に取り掛かったのはこの4、5年なんです。その間にもミキシングやマスタリングの仕事も少しずつやるようになりましたね。
──仕事の幅も広がったんですね。
Aoki : そうですね。あとは並行してイラスト仕事とか。Webサイト、CDのアート・ワークとかもやっています。それから、プラモデルは中学生の頃に挫折して完成したことがなかったんですけど、大人になった今、気まぐれで作ったんですよ。完成記念でコンテストに出したら、大賞をとりまして(笑)。その記事が仕事につながったりもしました。
──ええ!? 何をしてるんですか、青木さん(笑)。プラモデルはどのくらいかけて作ったんですか?
Aoki : 朝から晩までずーっとやって、1ヶ月くらいかかりました。その後も名誉な賞を2つほどいただきました。
——ええ(笑)!?
Aoki : でも、本気ではなく腕試しという気持ちが強かったし、すぐ後に音楽活動も控えていたので、プラモデル制作のための工具はすべて捨てたんです。僕の性格上、2つのものを並行してできないので。昨年は絵の個展となる青木裕展をやらせていただいたんですけど、そのときも最初で最後のつもりでしたね。
——この絵は今回のPVに使われているものですか?
Aoki : そう。個展の絵をソロのアートワークに使うアイディアは元々あったので、スキャンしたデータを元に今回のジャケットを作りました。
——プラモデルであったり絵であったり音楽であったり、アウトプットは一人の人間が出すには多岐にわたっているように思えるんですが。
Aoki : 僕にはそのどれもが共通して見えるんです。どれも埃っぽいというか、テイストがアナログっぽいんですよね。つまり結局は一つのことしかできていないんです。ただツールを変えているだけで。
──その大元には、青木裕として表現したいものがあるんですか?
Aoki : 僕の理想の表現っていうのは一本の映画のようなものなんです。視覚や聴覚だけではなく、五感を刺激するような作品でありたいんですけど、それはひとりではできないかも。記憶の断片のような、くすんだフィルムのような世界が浮かぶんです。そこにストーリーがあるかどうかも分からないんですけど、それは間違いなく自分の感情を揺さぶるもので。それらを伝えるのは音楽でも、絵でも造形でもいいんです。僕の頭の中の世界を別の形で表したものが、その個々の作品たちなんですよね。
「作品を通じて自分を見せること」に関心があったんです
──青木さんがいわゆる表現をしようと思い始めたのはいつ頃なんですか?
Aoki : 幼少期からありました。僕は本当に鉛筆を離さないような子どもで。幼稚園のときに、好きな動物というテーマのもとで絵を描いたことがあって、皆犬とか猫を選ぶじゃないですか。その中で僕は、アフリカのヌーのけい動脈に噛み付くチーターを、骨だけの姿で描いたんですよ。
──骨だけ!?
Aoki : 骨格のみで(笑)。そしたらちょっとざわつかれたというか。
──そりゃそうですよ(笑)。幼少期に絵から入って、表現が音楽に変わっていくのは?
Aoki : 小学校に入ってクラシック音楽が好きになったんです。オーケストラとか、その集合体としての音にすごく感銘を受けて。でもバイオリンだったり個々の楽器には目がいかなくて、それを自分でどう表現していいのか分からなかったんですよね。それが高校生のときにメロディーを追える楽器の一つとしてギターが浮上して、そこで初めて音楽をやろうと思ったんです。
──その頃もクラシックを聴いていたんですか?
Aoki : 高校の頃は何でも聴いてました。小学生の頃はロックが騒音に聞こえていたんですけどね。そういえば当時、サイモン&ガーファンクルの静かな曲も好きだったんですけど「サウンド・オブ・サイレンス」には少し不満があって。あの曲って途中からリズムインするじゃないですか。それによってそれまでの美しさがぶち壊しだと思う子どもだったんですよね。でもあの曲は元々ドラムがなかったらしくて、弾き語りだったものに音楽プロデューサーがドラムをつけた。そしたらバカ売れしたんです。だから僕は世の中の需要と反するようなものに目がいくような、皮肉な性格が昔からあったんじゃないかなと自己分析しちゃいますけど。
──何でも聴くようになったきっかけはあったんですか?
Aoki : 僕が中学に入学した頃、アメリカのMTVが大流行したんです。音楽と映像の融合が新鮮でビルボードチャートは常にチェックしてました。当時、ホラー映画監督のジョン・ランディス監督が、マイケル・ジャクソンと組んで「スリラー」を作ったりしたじゃないですか。僕は映画オタクでもあったから、互いのジャンルが歩み寄ることに興奮しました。MTVはハードロックも結構流れたし、いつしか騒音と感じなくなっていました。
──大学等で芸術について学んだりは?
Aoki : ないです。全部我流ですね。夢を叶えたいっていう想いもあったので高校卒業とともに上京して。
──夢っていうのは?
Aoki : 夢というか、もともと子供の頃から、絵でも音楽でも線引きなく「作品を通じて自分を見せること」に関心があったんです。でもそれは言葉にすらできない漠然としたものでして。そのまま大人になって。ギターを担いで上京したけど何をどうすればいいのかわからず、結局は行動に移すことなく諦めるんですよね。そして流されるまま就職の道に進みました。
──アーティストをもう一度志したきっかけは何だったんでしょう?
Aoki : 25歳のとき、友人や知人の活躍を目の当たりにするんです。CDを発売してたり、雑誌の表紙を飾ってたりして。僕ならもっと違う形で表現できるっていう根拠のない自信とともに、封印していた情熱がそこで再燃したんです。だけどスタートに出遅れたことは明白で。それ故にバンドでギターを弾くのであれば、皆と違うアプローチでやらないとダメだと思ったんです。ロックで使われる奏法は極力排除。だからdownyでは、ギターソロはおろか、ギターのビブラートすら入れない。「これは果たしてギターの音か」と思わせるようなエフェクティブで不思議な音で、とにかく変わったことをやろうと。そういう特化したギタリストになろうと思ったんです。25歳の再燃から4年間、ギター個練とバンドのメン募に明け暮れ、29歳で会社に辞表を出しました。社会的に保障されている身分を捨てるっていうので周囲から猛反対されましたけど、もう止まらなかったですね。
──downyを始めた頃はギターも弾ける状態だったんですか?
Aoki : 僕がギターを始めたときは、ソロ風に高音でピロピロ弾くような感じで、別のパートに合わせるっていうことを知らなかったんです。まぁその延長線上ですね。downyを組んでミュージシャンとしての自分の下手さ加減に、メンバーもだけど僕自身が呆れて傷ついていたんです。とにかく練習漬けの日々でした。後に組んだバンドunkieはdownyと音楽性が真逆でロック一色なんですけど、ギターソロもその頃から勉強しました。unkieのファーストを聴くとたどたどしいソロが入っているんですけど、それが3枚目、4枚目とリリースを重ねるごとに少しずつ弾けるようになってくるのがCDでわかります。そのまま僕の練習の成果が見えて面白いですよ。
──自分が表現するっていうことを、ちゃんと自分で実践してそこに立ち向かっていったんですね。
Aoki : 昔は迷わず挫折を選ぶようなやつだったから。痛い目にあって学習したということですかね。
──音楽活動を始めた当初はどんなコンセプトを掲げていたんですか?
Aoki : 当時はバンド中心でしたが、 僕が映画音楽とかクラシックを聴いたときの高揚感を誰かに伝えたいとは考えていました。そういったジャンルの音楽を聴かない人たちに、僕と同じ気持ちになってもらえるようなものを提示したかった。ソロも最初は、モーツァルトだったりバッハだったりを解体してアレンジしたものばかりだったんです。今回のアルバムにもそういうモチーフの曲は入っているんですけど。僕がギターでアレンジすることで、クラシックに興味がない人でも面白いなって思ってくれるものが作りたかったんです。
10年間の僕のささくれた記録なんです
──今作を出そうと思ったのは、何かきっかけがあるんですか?
Aoki : 散逸していた昔のアイディアをまとめることができたからです。10年前に音楽関係者の方が、ソロのコンセプトを気に入ってくれて、当時の音源を渡したらすごく乗り気になってくれたんです。そのとき、これって世に出せるものなのかっていう希望の光みたいなものが生まれました。だけど所詮デモというか完成度が低くて。この状態では誰にも聴かせたくないと思い始めて、そのアルバムの制作を忘れるかのごとく他の制作に没頭してしまったんです。それでその話はもう流れてしまって。紆余曲折を経てやっと形になったんです。
──アルバムとして形になったのはいつぐらいだったんですか?
Aoki : アルバムとしては最近ですね。昔にハードディスクレコーダーで録ったフレーズをデジタルに移行してブラッシュアップしていくっていう作業もあったので、全部新しいというよりは古いテイストも入れてあるんです。だから10年間の僕のささくれた記録なんです。
──古いテイストを入れている?
Aoki : 全て弾き直してしまうと、なんとなく嘘をついたような気持ちになる気がして。でも僕の音とかアイディアって、今と昔を比べてもそんな変化がないんです。正直言うと新しく録って並べたら一緒だったんでやめたんです(笑)。経験を積むことは演奏や制作において大切だけど、ひらめきや根っこの部分はどうやっても変わらないんだなと思って。完成を先延ばししても同じならアルバムを出してもいいかなと思ったんですよね。
──この『Lost in Forest』っていうアルバムを紐解くキーワードはあるんですか?
Aoki : もちろん。このアルバムは森にさまようお話ですが、心の奥にある森、という意味合いです。人間誰しもが持つ迷い、逃れられない運命のようなものを描くつもりで作りました。この作品は等身大の僕でもあるんです。僕が人生という森の中を迷っているようなものなので(笑)。
──音楽を表現することは、青木さんにとってどういう意味を持つんでしょう?
Aoki : 例えば、やり方を教わらずとも呼吸をするようなものであって、僕から楽器を取り上げても何か他の形で僕なりの表現をする。そういう、自然に湧いてくるものだと思います。
──その表現っていうのは青木さんの中でイコール芸術、もしくはアートと言ってもいいものですか?
Aoki : 芸術と考えたことはないかな。昔は妄想ばかりしている子どもだったけど、今も大して変わりはないです。ただ、今はそれを形に残せる環境がある。それをアートと呼ぶのはどうなんでしょうね。ゴッホでもベートーベンでも名だたる先人たちは、芸術残します、なんて気持ちで作っていないんじゃないかな。自分から溢れ出るエネルギーを表現しているだけだと思います。それは僕にとって自然な行為ですね。
──青木裕のソロとしては、これからも続けていきたいなっていう感じですか?
Aoki : 聴きたいって人がいるならやりたいな。今回は「すみません、ソロ作っちゃいました」って感じなんです。だからそういう声があったら頑張れるし、やらせていただきたいですね。
──青木さんの表現においては今回ソロっていう部分で一つ完成したと思うんですけど、そうすると次はどのフェイズに行くんですか?
Aoki : 形はどうあれ音楽は続けたいです。素直に自分が表せられるので。
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world's end girlfriend / LAST WALTZ(24bit/48kHz)
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PROFILE
青木裕
ギタリスト、プロデューサー、エンジニア、イラストレーター。 downyのギターを担当する他、様々なプロジェクトに参加。 2017年1月18日に初のソロ・アルバム『Lost in Forest』を[Virgin Babylon Records]からリリース。