踊ってばかりの国、アルバム『moana』までのジャーニー ──サイケデリック・バンドのエスケーピズムの行方

踊ってばかりの国が、またしても最高傑作を更新する素晴らしいアルバム『moana』をリリースした。ツアー中止の影響から、約1年をかけて作られたという今作は、これまででもっとも生み出すのが難しく、だからこそこの作品がなければ次はなかったというほどに魂の込められた作品である。試行錯誤と対話を繰り返したのちにうまれた『moana』、インタビューでは本作にたどり着くまでの道のりを探っていく。
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インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 津田結衣
写真 : 大橋祐希
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INTERVIEW : 踊ってばかりの国

こんなにメンバーのことを考えて過ごした1年はなかった
──今回のアルバムは生み出すのにとても苦労したと聞きました。
下津光史(Gt, Vo) : コロナと関係ないところで苦労しましたね。特に丸山(康太)が探求しすぎて。「ジャズって追求したら文学になるんや」って(笑)。いろいろ勘ぐり散らかしはったんで、彼の勘ぐりをみんなでどうにか音楽に消化しようとした1年でした。アレンジャーと作曲家のバトルというか、僕も作曲家として言及されて言及し返してっていうのを繰り返して。珍しくちゃんと揉めて。
──それは前作『私は月にはいかないだろう』のときにもあったことですか?
谷山竜志(Ba) : いや、前まではむしろすげえスムーズだったよね。
下津 : これまではドカーンと音を鳴らしていけてたんですけど、ちょっと一旦整理しないといけないなと思って、引き算でやっていきたいという話をして。そうなると音の選択って、無限にあるものから答えを出していくことだから、特にギタリストが悩んでいました。そういう葛藤を見ていたら、うかうかしょうもない曲も書けないなと思って、いままででいちばん緊迫しました。メンバーみんながちょっと老けたと思う(笑)。
──そのきっかけになった曲は?
下津 : “メーデー”、“Hello good-bye”あたりですかね。下津のポップ性と丸山のアンダーグラウンド性をバランスよく置いていくのが、踊ってばかりの国の理想像だと思っているんですけど、そこが見事に喧嘩して(笑)。でもそれを経て、最後にできた“Twilight”では彼のジャジーな部分を僕が受け入れることができるようになったなと。とにかく、こんなにメンバーのことを考えて過ごした1年はなかったです。

──前回取材したときはまだメンバーが変わりたてでしたが、いつ頃から彼がサウンドのキーになりはじめたんでしょう?
谷山 : 元から存在は強いけど、今作からより強くなりましたね。いままでは時間がなかったからね。ツアーの合間に曲を作って、またツアーが始まって… の流れだった。それが今回はツアーの予定が流れたことで制作に長く時間が取れるようになって。
──今日は寝坊してますが(笑)、また後で話を聞けたら。
谷山 : 朝はダメなんですよ(笑)。
──ツアーがなくなるという事態は全てのバンドが影響を受けたことですけど、踊ってばかりの国としてはどう動こうとしましたか?
下津 : もう焦らずにいようって思いました。ただ他にやり方とかないのかなとは思っていたので、野外とかを使っていきたくて。今回のことで、いままで社会とカウンター・カルチャーの間にはうっすらとした半透明な壁があって、グレーな部分があったと思うんですけど、それがくっきり分かれてむしろやりやすくなったと思いました。ニヒルはニヒルで、シュールはシュールでいられる。

──コロナの影響はそこまで受けずに、制作にいけた?
下津 : そうですね、いいチャンスではありました。
谷山 : じっくり話し合って作る機会ってあんまりなかったからね。
下津 : これまでは、移動の合間にみんなで和音分解とかをしていたんですけど、今回はちゃんとスタジオに毎日集まって話し合いながら作ったものを伊豆スタジオに持って行って、そこで合宿で録るという流れで。だから、すでに練り上げたものを、さらに録る段階でも練る形で、「実はアルバムってこうやって作るものだったんじゃないの?」と思いましたね。
──スタジオはいつもどこで?
下津 : 吉祥寺です。でも今回の曲は、ほとんど沖縄で書いてます。“Lemuria”、“Hey human”も沖縄で。“I was dead”は、BO GUMBOSのどんとさんの家にあるお墓の前で書きました。みんなでラキタくんの家に行ったんですよ。
──ラキタくんはいまどこに住んでるの?
下津 : 南城市の八角堂っていうところです。そこは御堂の真ん中に隕石が埋まっている、日本のスピリチュアルの最高峰みたいなところなんですけど、御堂からはひらけた海が見える。どんとさんの奥さんである元ZELDAのさちほさんがそこを切り盛りしていて、ヨガとか瞑想会とかもできるし、クリスタルも売ってて。で、僕はメンバーみんなが帰った後にもそこに残って、ラキタと自然のなか、曲や詩を集めてきました。
──ラキタくんのところでそうやって作ったのは初めて?
下津 : 八角堂自体は3年前からよく行っていたんですけど、がっつり泊まったのははじめてだった。全然普通の営みをしてはる人らでよかったです。
──じゃあ沖縄でできた曲の原型を吉祥寺のスタジオに持っていったということですね。
下津 : そのままだとポップすぎるんで、丸山の「ジャズ熱」にぶつけてみました。いままでの踊ってばかりの国のカラーは基本的に下津が作ってきたから、それを打開するための時間でした。下津破壊みたいな(笑)。
──丸山さんにはどういうことを言われるの?
下津 : 「もうありきたりなコードはやめてくれー」って、その度に「すんません! アホで申し訳ない!」となりましたね。でも途中から「おい、メロディ聴いてる?」っていうときもあって、どんどんジャズのコードをぶち込もうとしてくるんですよ。その響き自体はかっこいいんですけど、この不協和音の上では絶対歌えないぞっていう。
谷山 : よくまとまったよね。なかなか丸山が言っていることが伝わらなくて、それを理解するのに相当時間がかかりました。
──彼にとっては最初の時点で不協和音ではなかったんでしょうね。
下津 : 捉え方も全然違うと思うんで。丸山は音楽のベーシックな部分を理解して、それをまず破壊するっていうプレイスタイルやから、音感をしっかり持たないと彼の横には居れないなと思います。彼はヒップホップのアーティストとやることが多くて、だから音が関係ないところであればいけるんだけど、歌ものとなると… 彼もだいぶ歩み寄ってくれているんだと思います。
俺らの音源をかける時ぐらいは夢見て欲しい

──ジャズの要素が持ち込まれたということなんですけど、アルバム全体に漂うサイケデリックな印象も丸山さんが持ち込んだものなのでしょうか?
下津 : マンチェスター的なサイケっていうのは僕の書く曲に昔からあるものなんです。インドっぽい音階があって、硬いビートがあってっていう。で、ギターの仁の特性であるデッド… デッドって基本ジャズなんですよ。そういうところに丸山のジャズが入ってきて親和性が生まれた。だから今まででいちばんメンバー全員のルーツの美味しいとこどりができたと思います。
──歌詞の部分でもかなりスピリチュアルな側面がありますが、これはどうやって作っていったんですか?
下津 : 先人たちがやってきた教えをそのままやっているというか。やっぱりサイケデリックって、飛んで勘ぐって悟って、そうやってワードにするものなんで。そこのギミックは僕の糧だなと。
──ロック界では珍しい存在になってきたかもしれませんね。
下津 : 正直そこは面白がっています。ただサイケデリック・カルチャーって、ビートルズとかもそうだけど、「悪さ」で売っているわけじゃない。音の気持ちよさを追求するエスケーピズムだったりが根元にあって。だから平和的やしサグい感じは全く無い、大自然が大好きなだけです(笑)。
──“Lemuria”はそういう部分がより出てきているように感じました。そこは意図的なんですか?
下津 : ちっちゃい頃から「人間ってこうなんやろな」「世界ってこうなんやろな」って思っていたことがコロナになって以降「心のこの動きって多分人間の本質からきているんだな」ということを思って。だから、先祖がえりすることも悪いことじゃ無いよねっていうメッセージはあった。
──元来考えてきたことがコロナでより実感を持つようになったと。
下津 : やっぱり部屋の中に閉じこもることが増えるじゃないですか。そのなかで、どれだけ音楽を聴いて、耳から得たものだけで大自然を見せられるかなというのはテーマとしてあって。俺らの音源をかける時ぐらいは夢見て欲しいなと思うので。それは“Mantra song”とかもそう。これも八角堂から帰ってきた次の日に書きました。
──八角堂と都内では、曲を書くのに違いはありますか?
下津 : 全然違いますね。向こうにいる間は、東京の見え方も変わる。八角堂はすごく隔離された場所で、別世界なんで。でも人間ってもともとそういう場所にいる生き物やから…踊ってばかりの国はそういうメッセージを伝えていきたいなと思いました。それは「この世界が当たり前では無いんだ」ということ。生まれた時から目の前にあるからみんな信用するけど、それを受け入れて生きていくのもひとつの幸せかとは思うけど、僕らサイケデリック・バンドと名乗らせてもらっている以上は、カウンター的なメッセージは一個一個置いていきたいなと思って詩を書いています。
(ここで、丸山康太が到着。)
──丸山さんが来られたので聞きたいのですが。アルバムは結構難産だったということだけど、このアルバムに持ち込みたかったものや表現したかったことってどんなものだったんでしょう?
丸山康太(Gt) : いままではアルバムを録ってライヴをして、曲が出来上がっていく流れだったけど。ライブができないから、曲の段階で完成させようとはしてた。
──それは詳しくいうとどういう流れでしょう?
谷山 : 録音をしてツアーがはじまって、またツアーをやる中でも練っていって、ファイナルのライヴ音源があったらそれが完成形みたいな。
丸山 : でもライヴができなくなって、その時にもっと丁寧にじっくり作りたいなという気持ちが強くなって。何年かかってもいいからゆっくりやりたいということをメンバーに話しました。全部やったことのないことをやりたくて。
──それは踊ってばかりの国としてやったことがないことなのか、丸山さんとしてやったことがないことなのか、どっちでしょう。
丸山 : 全員がやったことがないことだったらおもしろいなって。
下津 : 実際そうなったしね。使ったことないコードを使いまくってるから今回は。
──プロデューサー的な立ち位置ですね。なぜそう思ったんでしょう。
丸山 : 自分にアイデアがなくて悩んでた。もうパターン化してきて行き詰まって…。
下津 : でも行き詰まったことによって、やっと方法が増えて、やりやすくなった。この1年悩んで進めることができたし、この作品がなかったらこの先がなかったんじゃないかなと思いますね。
──バンドは形式化してくると、改革するかメンバーを変えるかしかなくなってくるからね。
下津 : でもこれ以上メンバーを変えることはなくて。だから今回のことは、風邪を引いた時の発熱みたいなもので、熱が出ることによって治るというか、次に進めるような。こういう現象は僕らこれまでなかったんですよ。だから嬉しくもあり、大変でもありました。
安心して歌詞とコードだけ考えてたらいいんや、って

──曲作りでの苦労がありつつ、レコーディングはどうだったんですか? どれくらいかけて録ったんでしょう。
下津 : ミックス合わせて合計で一週間くらい、2回に分けてやりました。
谷山 : 1回丸山が燃え尽きたよね(笑)。
──というと?
丸山 : 考えてきたことが弾けなくて…。
下津 : 一度録ってから1回東京に戻って、冷静に聴いた時に丸山が「これじゃないんや」ってなってしまって。もう1回録りに行ったら、ちっちゃいカパカパするアンプを… あれなんていうやつだっけ?
丸山 : ピグノーズ。
下津 : それをパカっと開けることによって、レゲエっぽい曲の時に、ギターのトーンだけをちょっとずつ変えれて、うっすいワウをかけた感じになるんですよ。それを丸山が考えてきて、一回ずつやっていったり。仁のノイズを選んでいく作業にも結構時間を使いましたね。
──そうやってギター2人が主に実験性を持ち込むんですね。
下津 : そうですね、僕はコントロール・ルームでギター2人が実験しているのを聴きながら「いまのやろうや!」とかいう(笑)。いつもちゃんと考えてきてくれるから全部ちゃんと乗っかるんですけどね。単純にすごいなと思う。いまのメンバーの姿勢を見てて安心して歌詞とコードだけ考えてたらいいんや、って思えた。
──ピグノーズはどこで使ってるんですか?
下津 : “Notorious”のサビかな。
丸山 : 全部やってなかったっけ。
谷山 : やってたわ、あ、もっかい曲行くんですねって。
下津 : あとは、“Mantra song”でSmall Facesみたいなギターがバーンと飛んでくるところがあるんですけどそこ。それとかマジで聴いて欲しいです。初期のモッズみたいな、group sounds全開みたいな。これ2021年に出す音かよって思うけど、めちゃくちゃかっけえ(笑)。
──丸山さん的に、実はここがこだわりポイントだっていうところはありますか?
丸山 : ジャジーな音… エロさっていうか。“Twilight” 、“凪を待つ”とかのなんか…。
下津 : アダルティ?
──“Twilight”のAメロ、下津くんがつぶやくように歌う部分は誰が考えたんですか?
下津 : ルートは下津が考えてきたんですけど、ルートだけをなぞっていくのは芸がないなってことで、丸山が谷に「ずっとDを鳴らし続けてくれ。それと、高音でルートを変えていってくれ」というので、谷がフレーズを弾きだして。「はい!ハマった~」ってなった。あれがこの1年間の俺たちのディスカッションの集大成だったね。
──歌に対するコードとかメロディをどう違う風に聴かせるかっていうのに1年間を費やしたんですね。
下津 : そうですね。あとは“Orion”のイントロまでの部分とか。スタジオの練習で急に誰かがイントロを弾きだして曲にバンって入るときあるじゃないですか、その空気を入れたくて。関係ないコード進行を作って、ドラムも全くそれにそぐわないビートを叩かせて、急に曲がはじまるっていうのをつけてみたり。“ひまわりの種”は逆にイントロをぶち切って歌から入ってみたり、そういう自分のなかでも実験した部分がありました。どれもストレートにやってなくて。ほんまに、いままででいちばん好きなアルバムですね、安っぽい言葉になっちゃいますけど。
──ここからまたツアーがありますが、これまではアルバムを出してから改良していくツアーだったわけじゃないですか。今回は、曲たちはどうなっていくんでしょう。
下津 : 土台が組み上がっているだけで、結局曲は一人歩きしていくんで、熱量が足されていくだろうと思います。
丸山 : ちらっと思っているのは、完成したものがいまできている状態だから、そのハシゴを外していくのがおもしろそうだなと。
下津 : またルールブック変わっちゃいますよ(笑)。

編集 : 津田結衣
編集補助 : 安達瀬莉、吉田逸人
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LIVE INFORMATION
Laid-back TOUR
2021/7/16 (金) 東京都 恵比寿LIQUIDROOM
2021/7/23 (金/祝) 宮城県 仙台CLUB JUNK BOX
2021/7/29 (木) 福岡県 福岡the voodoo lounge
2021/7/31 (土) 広島県 広島4.14
2021/8/6 (金) 北海道 札幌SPiCE
2021/8/13 (金) 大阪府 大阪Music Club JANUS
2021/8/14 (土) 兵庫県 神戸太陽と虎
2021/8/26 (木) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2021/9/2 (木) 東京都 恵比寿LIQUIDROOM
PROFILE
踊ってばかりの国

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