アメリカのオルタナティブ・バンド達の寿命はそう長くない。分裂、解散、そして結合、復活を繰り返し、常に新しいサウンドを追求し続ける。PINK & BROWNやCoachwhips等のJohn Dwyerが良い例だ。ふっとそのシーンから目を離すと、初めてきくバンド名ばかりが名を連ねていたりするのも珍しくない。逆に同じバンドで活動し、アルバム毎に新しい刺激的なサウンドを放出し続けているバンドもいる。そんなバンドの代表格が、昨年9作目のオリジナル・アルバム『Offend Maggie』をリリースしたと、今回紹介するNYブルックリンのエクスペリメンタル・ロック・バンドだ。 通算10作目となる本作は、2008年の『Preteen Weaponry』に続く、『Thank You Parents』と名付けられた3部作の2作目。なんと全15曲111分 ! アシッドでサイケな波が渦巻く新境地から、ノイズ〜ガレージ・ロックへと繋がり、最後は彼らの醍醐味インプロビゼーションへとなだれ込む。どこを切ってもだけれど、過去作とは全く違った音が鳴っている。この創作意欲はいったいどこからやってくるの? 待望の来日も噂されている彼らに、メール・インタビューを試みた。そんな折に、ライトニングボルトの新作発売のニュースが飛び込んできた。ニューヨーク周辺が更に盛り上がっていきそうだ。
インタビュー&文 : JJ(Limited Express(has gone?))
翻訳 : 川野栄里子
INTERVIEW
—今作『RATED O』の1枚目、2枚目と3枚目では、異なったサウンドのテイストを感じました。それぞれのCDのコンセプトを教えてください。
Kid Millions(以下、K) : 良い質問だね。3枚それぞれが違うフィーリングのものになっている、本当にその通りだよ。僕らがその3枚のディスクを一つの作品にしたのは、とても自然ないきさつなんだ。曲が全部完成した時に、全部の曲を順番に並べてみたんだ。曲と曲がお互いにすごく良さを引き出すことがすぐにわかった。「Brownont in Lagos」という曲から始まるアルバムを作りたかったというのはメンバー全員一致で考えていたんだ。この曲は今までに僕らがやってきた曲とはまた全然違うもので、新鮮なものになるだろうと思っていたからね。コンセプトとしては…2枚目が一番明確なのだろうと思うよ。一番”ロック”なんだ。3枚の中で一番”ノーマル”なのかもしれないね。ほぼ同じ時期に書いた曲が集まっているから、曲同士が引き立てあっているように思うよ。1枚目は、一番過激なサウンドを注入したディスク。3枚目は一番即興が多いから、ホームとも言えるだろうね。それぞれのディスクに対してしっかりとした土台となるコンセプトはないんだよ。ただそこに音楽を残したくて、それを楽しんでほしかった。このアルバムは僕らが出来る事の全てを詰め込んだ作品にしたつもりだよ。いわゆるポピュラーで売れるサウンドではないと全員わかっているけれど、このアルバムをリリースすることは、挑戦することなんだ。
—異なったサウンドの3枚を、一つの作品『RATED O』としてリリースしたのは何故ですか? また、タイトルの由来を教えてください。
K : 仮にこのアルバムの音楽が何らかの理由で2枚になっていたとしても、僕らの音楽を聴く、という一つの経験をする人たちの事を考えると、やはり全く異なった3枚組のアルバムにすることを僕らは望むと思うんだ。僕らの考えは、アルバム全体は、断片として心に根付いてほしくて、その上でかすかに情熱だったり何らかの感情が生まれることが望ましい。僕らはこの1つのアルバムに全てを詰め込んだつもり。「Mody Dick」という小説を知ってるかな? 筆者のメルビルは人間の存在と経験という大きなテーマをこの1冊の本で伝えようとした。 僕はそれと同じ野心が欲しいと思ったんだ。 もちろん、「Mody Dick」は『RATED O』より芸術的な成功だけどね!
『RATED O』という名前は、単純に僕らがスタジオでくだらない遊びのようなものをしてできたものなんだ。僕らはよくばかげたアイディアが浮かんでは、それについて意見を交換し合うんだ。『RATED O』という言葉は、議論がそんなに進まない題材だったけれど、それがアルバムの意味を明確にする方法だったんだ。僕らが意図として伝えたいことは、第3者からしてみればあっさりと誤解されてしまうものだから。過去に僕らがやってきた音楽のうちのいくらかの、飾り立てられた商売主義の作品のようにではなく、もっとリスナーに対して親密な位置で僕らの音楽を聴いてもらいたいんだ。何かが『RATED O』だという事が意味するのは、並みの理解力を超越した決意だったり経験だったりするんだと思う。まぁ、ジョークに過ぎないタイトルなんだ。その意味は慎重に考えなければいけないけれど。
—今作『RATED O』の制作は、どこで、どのようにして行われましたか? また制作期間はどれくらいかかりましたか。
K : 完成までには4・5年間ぐらいかかったよ。スタジオは2つ使った。2005年にリリースした『Happy New Year』というアルバムの曲をレコーディングしている時から取り掛かり始めていたんだ。仕上げようとがんばり始めたのは去年で、レコーディングとミックスをやり終えるのに何ヶ月もかかった。だから僕ら全員、終わった事がとてもうれしいんだ!
—ラスト・ソング「Folk Wisdom」の凄まじい熱量に感極まってしまったのですが、この曲は、本作の制作過程の、どのタイミングで出来た曲なのでしょうか?
K : ありがとう! その曲は僕も大好きな曲なんだ。「Folk Wisdom」をレコーディングしたのは、たぶん4年前だね。古いスタジオでジャム・セッションをしたのをテープに録音して、録った8トラックを全部まわしてつなげてできたもので、実はフル・バージョンはもっと長いんだ。それを編集してコンパクトに興味がわきやすいものに仕上げた。この曲は「書いた」ものではなく、本当に即興だね。即興は僕らにとって音楽のすごく刺激的な部分。こんなこと言っちゃなんだけど、この曲のドラミングは気に入ってるんだ。
—あなた達は12年以上活動し、20タイトル以上のCDを発売していますが、その活動の中で、制作方法に変化はありましたか? またその他に、結成当初から大きく変わったことがあれば、教えてください。
K : 僕らはいつでも同じやり方だよ。それぞれの音を僕ら自身で録って、それをプロ・スタジオに持っていってミックスやマスタリングをする。スタジオで最初からレコーディングをしているアルバムも多少はあるけどね。僕らの1stアルバムの『A Place Called El Shaddai's』は質の悪いマイクで4トラック・カセット・プレイヤーに録音したものなんだよ。いつだって「自らの手でやる」というやり方に魅力を感じている。それによって、できあがった曲が良かろうと悪かろうと、完成するたびに勝手がわかってくるんだ。僕らは作曲に関してはいかなる可能性にも心を閉ざさないよ。だから完成したものをレコーディングに持っていったり、ジャム・セッションして新しい曲を出したり、リハーサルの段階で録った音を元に曲を自分で書いたり、いろんなスタイルをとっているんだ。機材がカセット・テープからコンピュータに変わっても、僕らは基本的にはバンドを始めてすぐの時と同じようにやり続けている。僕らは記憶力がひどく悪いから、できる限りいつも録っておくということが重要なんだよ。
—あなた達は、ブルックリン・シーンに根付いた活動を続けておられますね。あなた達のサウンドと同じように、ブルックリン・シーンも常に変わっていると思いますが、現在のブルックリン・シーンでは、何が起こっていますか? また、最近注目しているアーティストを、教えてください。
K : 今日のブルックリン・シーンについてもっと知識が豊富だったら良かったんだけど。どうなっているのか知るのに一番良いのは『トッド・P』のウェブ・サイトにいってみることだよ。彼はいつも地元で最もクールでおもしろく、そしてツアーをしているバンドを紹介している。 最近のブルックリン・シーンはかっこいいと思うよ。でも、少し自己意識が高いようにも思う。 それ以上のおもしろい音楽がアメリカの別の場所から、あるいは世界のどこかから出てくると僕は確信しているよ。例えば最近のアメリカのポップスはちょっとひどくなってる傾向があるよね。(僕はそれが大好きだけど! )さぁ、どうなっていくと思う? 僕はね、何らかの「ダサい」音楽が、多くの革新の源であると思うんだ。いわゆるブラック・メタル、デスメタル、ダンス・ミュージック… こういうものが奇妙でおもしろい方法で再結合してきている。これはさらに、郊外、都市からはずれたところで起こっているような気がするんだ。もしかしたら、50年代当時みたいに、ほとんどの素敵な音楽が田舎や地方の方から出てくるようになってしまうかもね。
注目しているアーティスト? うーん… 最近のが良いかな? 僕はCaveが大好きだな。ブルックリンのバンドではないけどね。あとは、Pterodactylもチェックしてみる価値あるよ! それから、Sightingsなんかは典型的なブルックリンのバンドだよ。活動期間はほぼ僕らと同じぐらいで、たくさんの素晴らしい曲をリリースしているし、ライブ・パフォーマンスも素晴らしいんだ。The Library is On Fireもかっこいいよ。ちょうどNirvanaとGuided By Voicesを足して2で割った感じかな。でも最近で一番ハマッてるバンドはKrallice。すごくパワフルなんだ。
—あなた達は、来日を考えていると聞きました。日本で楽しみにしていることは何ですか? また日本で注目しているアーティストや、文化を教えてください。
K : 3月に来日したいと思っているよ。できるだけいろんな人に観てほしいから、東京や大阪の他にもたくさんの場所でライブをやりたいんだ。実は、この間2週間位、ボアダムスとDMBQの増子真二と一緒に大阪で過ごしたんだ。ボアダムスとは皆既日食の最中に、一緒に船の上でライブをやったよ。数週間後にはまた『Boadrum 9』っていうイベントで共演することになっているんだ。それから、僕らは日本料理が大好きなので、できるだけたくさんの郷土料理を試したいな! 日本文化については… どこから話せばいいのか良いのかわからないなぁ。そうだな、もちろん音楽の文化は素晴らしい。古典的な歌舞伎座の音楽から、ここ40年のノイズ・サウンドやサイケな音楽への変化 。 僕らが聴いた中で興奮した最も初期の作品の1つはMainlinerのアルバム『Mellow out』だったよ。もちろん、ボアダムスからもすごいインスピレーションをもらった。 アメリカにはたくさんのミュージシャンがいるけど、ボアダムスはそのうちの多くの人たちにとって、世界で最も刺激的なバンドの一つだと言えるよ。
20世紀初頭の日本の作家もすごく好きなんだ。夏目漱石、川端康成、谷崎潤一郎… 彼らの本が大好きで、たくさん集めているよ。他のアメリカ人が僕みたいに好むかどうかはわからないけど、僕にとってはとても新鮮で刺激的! 深く語りかけてくる感じなんだ。大阪にいた時は、川端康成の家や博物館にすごく行きたかったけど、他のドラマー達は全然興味なかったからね! ハハ… 次回は行きたいね 。
—今後あなた達のサウンドは、どこに向かっていくのでしょうか? 次回作は、どのようなサウンドにしようと考えていますか?
K : 現時点では次というものに関してのプランはないかな。ただもっとプレイしたいし、もっと曲を書きたい。限界までプレイすることをずっと続けたい。本当にそれだけだよ。今回のこの3部作のうちの3枚目が、他の2枚のスタイルの組み合わせのようになっているような気がするんだよね。まぁそれをふまえた上で、今後どうなっていくのかはまだ全然わからないよ。
質問をありがとう。myspaceであなたのバンドの曲を聴いたよ。とてもよかった! 先月ぐらいにTzadikのサイトであなたのバンドの名前が挙げられているのを見たのを覚えてる。いつか会えることを僕ら全員楽しみにしているよ!
ブルックリンのミュージック・シーン
Saint Dymphna / Gang Gang Dance
ニューヨーク随一の尖鋭的な音楽集団としての存在感を鮮明に印象付けた彼らのサード・アルバム。エフェクトを駆使したギターやキーボードの歪なサウンドが乱れ飛び、エレクトロニック・ビートやパーカッション、シャーマニックな女性ヴォーカルと絡み合って織り成すポリリズミックでトライバルなグルーヴのめくるめく魅力は、何をおいてもライヴで体感すべし。
Person Pitch+Live At ZDB / Panda Bear
アニマル・コレクティヴのメンバーであるパンダ・ベアの、ソロ3作目。サイケデリック感満載で、開放的で柔らかい音ながら、一度はまったらなかなか抜け出せない中毒性を持っています。日本盤ボーナス・トラックとしてアルマーニ・エクスチェンジによるリミックスとライヴ2曲を収録。特に約30分にも及ぶライヴは圧巻。
Receivers / Parts&Labor
エレクトリック・ノイズとフィードバック・ノイズが渦巻く中、キャッチーなメロディーと疾走感のあるリズムがひた走る。「実験性とポップネス、ノイズとメロディー」、相反するそれぞれの要素を見事なまでに昇華した最高傑作。何と日本語で歌うボーナス・トラックを追加。
PROFILE
Oneida
Kid Millions / Bobby Matador / Baby Hanoi Jane
ブルックリンで活動中の3人組。結成12年目。これまでにepや限定盤を含めると20タイトルをリリース。Liarsとの共作でその名を知った人も多く、クラウト・ロック、'60sガレージ / ストーナー・ロック、(ポスト)パンク、サイケ、アヴァン・ジャズの異種格闘 / 融合劇と、CANの変幻自在性が、あるいはノー・ウェーヴ群の無領域主義が、多様な音楽を折衷しつつ、時代ごとのモディファイを受けながら今に生きているという、つまるところ、究極のフリー・ミュージック。7/22に行なわれたボアダムス主催の「ロシア客船「ルーシー号」で今世紀最大の皆既日食を追う!3泊4日のミラクル・ライブ、ダンス・パーティ・クルーズ」にも参加。
- MOORWORKS web : http://moorworks.com/