50歳にして日比谷野音に挑むクリトリック・リスとは?「野音は僕のなかではライヴハウスの最高域なんです」

ハゲ頭に黒パンツ一丁で年間200本以上のライヴを行う、スギムによるソロ・プロジェクト、クリトリック・リス。音楽経験のなかったサラリーマン時代、行きつけのバーの常連客達と酔った勢いでバンドを組み、他メンバー全員からライヴ当日ドタキャンされたことではじまったこのプロジェクトも早10年以上。そんなスギムが2019年、50歳を迎える。そして4月20日、日比谷野外音楽堂にてワンマン・ライヴを行う。クリトリック・リスとは一体何者なのか。現在制作中のアルバムより超先行で1曲フリー配信するとともに、ロング・インタヴューでその真髄に迫った。
現在制作中のアルバムよりdemo楽曲を超先行フリー配信
スギム50歳を祝うワンマンライヴ!!!
クリトリック・リス 50th 生誕ワンマン
2019年4月20日(土)@日比谷野音
時間 : 開場 17時00分 / 開演 18時00分
チケット料金 : 前売り 3,000円 / 当日 3,500円
※雨天決行
※3歳以上要チケット
お問い合わせ
エイティーフィールド 03-5712-5227
■Ticket info
>日比谷野音ワンマン特設サイト
INTERVIEW : クリトリック・リス

クリトリック・リスが出て来たときは、スカムな人だなと楽しませてもらっていた。今は、音楽という芸の道を追求したミュージシャンとして楽しませてもらっている。彼は、2019年に野音でワンマンを行うそうだ。不精な僕もこの日(2019.4.20)だけはあけている。ミュージシャンがやりたくてもなかなかやれない日比谷の野外音楽堂! ここでのライヴは、シャボン玉が舞い、桃源郷のような景色が広がる。はたしてクリトリック・リス的桃源郷の世界はどんなだ? 考えただけでもニヤニヤするぜ! そしてインタビューしてわかったことがある。こんな「最高」のミュージシャンはそうそういないぜ!
インタヴュー : 飯田仁一郎
写真 : 大橋祐希
野音の先行申し込みも3分の1くらいは地方からなんです
──5年前に出てもらった〈ボロフェスタ〉の「桐島、バンドやめるってよ」の映像、今観ても最高ですよね。泣いている人もいて。
スギム : 泣かしにいっているわけではないんですけど、ダイレクトに目の前のお客さんに伝わるスタイルが認められたのは〈ボロフェスタ〉の影響が大きいですね。あれ以降、クリトリック・リスが“サブステージの王様”になっていった(笑)。「桐島」が拡散されてから、クリトリック・リスがサブステージにブッキングされることが増えて、そこで結果を残してきたのが今に繋がっているのかなって。
──現在のクリトリック・リスのスタイルは“サブステージの王様”だと。
スギム :〈見放題〉や〈TOKYO CALLING〉、〈SOUND CRUSING〉で、過酷なサブステージを任されたり、90分枠を入れられたりしているうちに、一部のコアな人たちにウケちゃったというか。主催者側もどんどん過激になっていって、半分「またか」と思いながら、心の中では「おいしいな」と思っています(笑)。
──スギム的には、そこから大きいステージにステップアップしていきたい?
スギム : 来年4月に行う野音の話に多少繋がってくると思うんですけど、クリトリック・リスだって大きいステージに立てるんじゃないかと思っていて。過去に豊洲PiTに出たときもダメだった感覚はなかったですし、ただオファーが来ないだけの話で。とはいえ、僕自身がどうやったらチケットが売れるか想像つかないし、そこまで売れることに執着しているわけでもなくて。200~300人規模のライヴが1番楽しいし、その感じで多少収入を増やせていけたらなとは思います。大きいステージに行ってから苦労してきたいろんな人をみているから。

──いま、収入は増えてはいないんですか?
スギム : サラリーマンを辞めてクリトリック・リス1本になってから7年目になるんですけど、はじめの1~2年は貯金を食いつぶしていました。いまは増えてはいないけど食べれていて、減ってはいないという感じですね。
──ライヴのギャラがほとんど?
スギム : そうですね。年間200本ライヴをしているので、そこから交通費や経費を引いてギリギリなんとか食っていけるくらいですね。
──ライヴ本数を減らして、1回あたりのギャラを増やそうとは思わない?
スギム : ギャラを高くすると、お客さんもたくさん呼ばないといけないじゃないですか。いまの自分の集客数はわかっているし、クリトリック・リスはライヴハウスが好きでやってきたから、そこに身を置いて活動はしていきたいんです。
──チェキとかはやらないんですね?
スギム : チェキはたまにやることもあるんですけど、お金のためというよりは、お客さんとの接点をもつためですね。ずっと話をして顔を覚えてあげると、お客さんも固定していくんです。最近は、糸魚川のゲストハウスを借り切って、50人くらいのお客さんと泊まりの宴会ライヴを年に2回行っています。そこに来たお客さんがよくライヴに来てくれていますね。僕も顔見知りになって、むこうも親近感をもって応援しようって気持ちになってくれているのが嬉しいですね。

──それはアイドルのやり方をみて学んだこと?
スギム : 高知の中村(http://star.ap.teacup.com/clitorick/1056.html)っていう町の音楽のスタイルがきっかけです。週末になるとどんなイベントでもライヴハウスに100人くらい集まってきて、テーブルに飲んだ酒瓶が積み上がっていく。音はあまりでかくなくて、疲れたらそこで寝るみたいな宴会のような感じが新しいなと思って。ライヴハウスで気持ち良くお酒を飲んでも、電車に乗って家に帰らないといけないし、疲れたらそこで寝るような環境でライヴをしてみたらどうなるのかなってやったら意外と面白かった。みんな喜んでくれたので、そこはアイドルというよりも、地域のいろんな音楽の関わり方をみて考えたことですね。
──年間200本というペースがクリトリック・リスのスタイルなんですね。
スギム : いまは人間関係が地域にもできていて、野音の先行申し込みも3分の1くらいは地方からなんです。僕は日本のどこに行っても中1日空いていたらすぐ大阪に帰るし、長旅がしんどいと思ったことはなくて。打ち上げが毎日続くのはしんどいですけど(笑)。もともと僕は"下ネタのナポレオン"と名乗っていて、下ネタの曲が少なくなってきたから"酒相撲"に変えたんですけど、いまだに初期のキャッチフレーズが地方で生きていて、酒でもてなそうっていう人が多いので、ついつい飲んじゃいますよね。
毎日客と戦いながら、客と作り上げるライヴが好き

──この3年間で『あなたのあな』『HAGECORE』をリリースしてきましたが、クリトリック・リスにとって、どういう心境の変化がありましたか?
スギム : 僕がクリトリック・リスを始めて仕事を辞めるまでは、関西ゼロ世代が盛り上がっていたし対バンしていたんですけど、東京でHave a Nice Day! やNATURE DANGER GANGといったスカム・パンクのバンド出てきて、そこにクリトリック・リスのはちゃめちゃなライヴ・スタイルがリンクしていった。ネイチャーが活動休止になって、いよいよクリトリック・リスはどうなるんだって思ってきたときに、ネイチャー・ロスのオタクがクリトリック・リスに流れてきたんですね。アイドル現場では物足りないやつとか、出禁になったやつらが、「クリトリック・リスの現場は事件が起きる」って来るようになって。だから、リリースでの変化というより、お客さんの環境の変化がすごくあって、良い意味でも悪い意味でも順応してきた感じですね。ネイチャー解散以降はアイドルのイベントにガンガン呼ばれるようになったり。未成年のアイドルと絡んでも誰も怒らないのは、下ネタが少なくなったというのもあるかもしれないし、僕が意外とちゃんとした普通の人だってことも伝わってきたんじゃないですかね。
──いまでも「現場ははちゃめちゃ」を求められ続けるんですね?
スギム : そうですね。僕は1990年代〜2000年代初頭の関西の事件の起こるライヴハウスをずっと見てきていて、あのころSNSがあったら炎上するようなことが毎日あったので。僕もややこしい客だったんですけど、今は俯瞰してちゃんと見てくれている人を相手しないといけないと思っているので、そこは極端になりすぎないようにしたくて。先日もトークイベントで暴徒化した客に飛び蹴りしたんですけど、本気でやっていることをアピールしたいし、ナメられたくない面もある。血が上っていながら冷静にライヴをしています。
──ライヴが怖いかもって敬遠してしまう人もいたりするのはもったいないですよね。
スギム : たしかに、エゴサーチをすると「クリトリック・リスのライヴは怖い」っていう人もいたりして。来年4月の野音は指定席なんですけど、何も起こせないなかで、もがき悩みながら戦ってそこでゴタゴタしながらライヴをしていくスタイルしかないのかなと思っていて。僕は毎日客と戦いながら、客と作り上げるライヴが好きなんです。ほぼ同じスタイルでライヴをやっているので、ライヴの良し悪しって客がどんな感じで盛り上がってくれたかで変わるんですよ。ちゃんと聴いてくれる客のときも良いライヴもあるし、アホみたいなやつらで一体感出て盛り上がって良いときもある。1人でやっているから曲順もその場で変えられるので、うまいことコントロールできればいいですけどね。
──この3年で、音楽性という意味では変化はありますか?
スギム : よく「クリトリック・リスの曲って実話なの?」って聞かれるんですけど、確かに5~6年前は自分のことばかり歌っていたんです。はじめのころはスキルがなくて曲が作れなかったというのもあってなんですけど、活動を積み重ねる中で下手なりにメロディーをつけて歌と呼べるものになってきた。あと、トラック制作を手伝ってくれる人ができたんです。いままでずっと断ってきたんですけど、飲み会の席で「トラックを作らせてください」って言われて、社交辞令で「いいよ~」って言ったら、彼が翌日に3曲くらい送ってきたんですね。

──ええー!
スギム : その曲はクリトリック・リスっぽくなかったんですけど、とにかく作業が早くて、翌日には仕上げてくる。僕の知らない音楽的な知識も持っているし、『HAGECORE』以降の去年の末くらいからは、僕の作りたい曲のイメージを伝えて作るようになったから制作スピードがめちゃくちゃ上がっています。高井真くん(https://twitter.com/mamas_guitar)っていうんですけど、彼はギター弾きなので生音のギターを入れるのが得意で、それによってトラックにも人間味と厚みが出ているし、いままで自分では絶対に作れなかったような曲ができていますね。
──じゃあ、これからの作品は高井くんとの共作になっていくんですね。
スギム : 僕がディレクションしているうえで、高井くんなりのフレーズを出して動いてくれているので、僕が本当に作りたい音に近づいてきていますね。
ダイレクトに評価が個人にくるのが気持ちいい

──野音の話に戻りますが、さすがに無謀じゃないですか?
スギム : 無謀というか、いいタイミングだと思っていて。2019年は僕の50歳の年でもあるし、次はメジャーから出す考えもないんです。世間体からみると、メジャーから離れた落ち目と見られるおそれもあるけど、野音を一つの目的地に、いいアルバムを作って注目してもらって、いままで以上に次のステップに繋がる要素はあるのかなと思っていて。先日のトークイベントでマキタスポーツさんから「みんな応援しながら、どこかでクリトリック・リスが失敗してあちゃーってなって笑うところを求めている」って言われたんですよ。そう言ってもらって肩の荷が降りるような気持ちになって。むしろ、僕が100~200人のライヴハウスでやっているパフォーマンスが、席も固定の中で通用するのかっていう不安のほうが大きいんですよね。客席に飛び込むこともできないし、お客さんも両隣りは知らない人がくるわけで、自由にヤジも飛ばせないだろうし。そのときのライヴのスタイルは考えて臨まないとなって思いますね。
──そこまでして野音でやりたかったのはなぜですか?
スギム : 2009年にミドリのクロージング・アクトで立ってからも僕は精力的に活動をしているけど、あの規模のステージ以上に立てていないのは、僕にとっても「何をしているんだ」という感じでもあるし、1番立ちたかった場所なんです。
──そのときのライヴはどうだったんですか?
スギム : ミドリが最高のアクトをして、みんながアンコールを求めているなかパッと出たから、スベった感というか力不足感を感じましたね。まだ自分がそこのステージに立てる人間じゃないなっていう悔しい思いがずっとあって、いつか、もう1回戻りたいという気持ちがあった。野音という場所自体、ゆら帝を観に大阪からわざわざ行ったりしていたところだったし、いろんなロックの伝説を残してきた場所なので、僕のなかではライヴハウスの最高域なんです。座席は固定だけど、いろんな思いはぶつけられるなとも思います。
──いまから野音までの7ヶ月、どんなロードを進んでいきますか?
スギム : 僕らの出ているライヴハウス界隈の人には、クリトリック・リスが野音でやることは伝わっていると思うんですね。ただ、クリトリック・リスの名前を知っているくらいの人には、まだ伝わっていないと思うので、ちゃんと音源を出して、ライヴハウス以外の人にも興味を持ってもらえるようにしたいですね。
──野音の前にアルバムを出すんですか?
スギム : 出します!

──スギムさんは話していてもクレバーだし、会社を辞めていなかったら安定していたと思うんですけど、それでも音楽一筋の道を選んでよかったと思いますか?
スギム : それはもちろんです。自分の力で、人から認められるのが気持ちいいんですよね。会社では手柄を上司が持っていったり、妙な関係のなかで回っていて、いやな上司にペコペコしてストレスが溜まることも多かった。いまの僕がやっていることは、特定の誰かに認められることではなくて、万人にアピールして、より多くの人に好きになってもらう活動で、ダイレクトに評価が個人にくるのが気持ちいいんです。同じくがんばってきたミュージシャンが売れたら純粋に喜べるし、それぞれ向かっているところが違って、年齢や性別関係なしに対等にやれることは全然ストレスがないですね。収入は減っているけど、あのころと比べたら人間的な生活ができているなって。
──野音はどんなライヴにしたいですか?
スギム : 般若の野音のDVDを借りて観たんですけど、はじめ数曲やったあとゲストをどんどん出してきて、THEエンターテインメント・ショーみたいに組んでいて。そこまでいかなくとも、いままで通りのライヴをするわけにはいかないだろうから、ここは時間をかけて考えていきたいなと思います。チケットは3000円なのでスベっても許してや(笑)っていう気楽さで来てほしいなって。逆にそれくらいのことを許してくれるお客さんだと思っていますし、僕のお客さんはそこで野次ることが気持ちよかったりするので (笑)。
LIVE INFORMATION
スギム49歳を祝うトークイベント開催決定!!!
クリトリック・リス日比谷野音 決起集会Vol.2 〜スギム49歳誕生日〜
2018年10月29日(月)@LOFT9
時間:開場 19:30 / 開演 20:00
価格:前売り 1,500円 / 当日 2,000円
出演:クリトリック・リス、他
司会進行:西澤裕郎(株式会社SW)
チケット : LOFT9 HPより
毎年恒例のクリスマスライヴも開催決定!!!
クリトリック・リス クリスマス・ワンマン
2018年12月19日(水)@東京・新代田FEVER
2018年12月21日(金)@名古屋・今池HUCK FINN
2018年12月25日(火)@大阪・十三ファンダンゴ
スギム50歳を祝うワンマンライヴ!!!

クリトリック・リス 50th 生誕ワンマン
2019年4月20日(土)@日比谷野音
時間 : 開場 17時00分 / 開演 18時00分
チケット料金 : 前売り 3,000円 / 当日 3,500円
※雨天決行
※3歳以上要チケット
お問い合わせ
エイティーフィールド 03-5712-5227 ■Ticket info
PROFILE
クリトリック・リス
音楽経験のなかったサラリーマンが、行きつけのバーの常連客達と酔った勢いでバンドを組む。しかし初ライブ当日に他のメンバー全員がドタキャン。やけくそになりリズムマシーンに合わせてパンツ一丁で行った即興ソロ・パフォーマンスが、「笑えるけど泣ける」と話題となりソロ・ユニットとして活動を開始。過激なパフォーマンスでアンダーグラウンド・シーンの話題を集める。2016年には自身をモチーフとした映画「光と禿」で役者デビューし数々の賞を獲得。2017年47歳にして奇跡のメジャー・デビュー。