15周年イヤーに放つ決意に満ちた新作「aranami」──tacicaの“はじまりの場所”札幌での活動を振り返る
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左から小西悠太(Ba)、猪狩翔一(Vo&Gt)
2020年4月5日にバンド結成15周年を迎えたロック・バンド、tacicaが新シングル「aranami」をリリース。表題曲の“aranami”はTVアニメ『波よ聞いてくれ』のOPテーマとして書き下ろされた楽曲だが、この作品の舞台は、tacicaの結成の地でもある北海道・札幌。そこで今回OTOTOYでは、15周年という節目となるこのタイミングで改めて、バンドとしての根幹が築かれることになった北海道での3年ほどの活動にフォーカスを当てながら、この決意に満ちた新作を掘り下げようと試みた。コロナ禍のなか、猪狩翔一(Vo&Gt)と小西悠太(Ba)のふたりにオンラインで行った取材の様子をお届けしよう。
新シングル「aranami」
INTERVIEW : tacica
バンドには、結成された土地の匂いが必ずついている。tacicaには、雄大な北海道の空気と、すばらしいバンド達が駆け抜けた軌跡が宿っている! 新型コロナウィルスで不安が増すなか、tacicaが生み出したシングル「aranami」は、とても力強く、我々に粘り強く進み続けるエネルギーを与えてくれる。そしてインタヴューの最後に放った猪狩翔一の「安心してください」のひと言に我々は救われるのだ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 鈴木雄希
僕らが常日頃感じるものに近くて、登場人物目線になれた
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──“aranami”がTVアニメ『波よ聞いてくれ』のOPテーマにもなっていますが、この作品は以前からチェックしていましたか?
猪狩翔一(Vo&Gt / 以下、猪狩) : もともと僕は作者の沙村広明さんのファンで。過去の作品も全部読んでいるし、“沙村広明の新作”ということで、『波よ聞いてくれ』は発売してすぐチェックしていましたね。
──猪狩さんはマンガを多く読むんですか?
猪狩 : そうですね、マンガ全般が好きで常にチェックしてます。
──小西さんは?
小西悠太(Ba / 以下、小西) : 猪狩が読んでいるというのを聞いてはじめて知りました。原作は少ししか読んでいないんですけど、アニメは見ていますよ。
──今回の2曲はいつ頃できた曲?
猪狩 : かなり異例の進行で、1年前から曲を作っていたので、“aranami”は去年リリースしたアルバム(『panta rhei』)をレコーディングした頃にはもうできていましたね。“象牙の塔”は音源を作るスケジュール的にギリギリのタイミングでできました。
──“aranami”はどのように作っていったんでしょうか?
猪狩 : 『panta rhei』をレコーディングしているタイミングだったので、しっかりとデモを作っている時間がなかったんです。でも「弾き語りでこんなの作ったんです」って話したら、勢いで「じゃあデモを作っちゃおうよ」となって。アルバムのレコーディングをしている期間だったので、そのレコーディング・スタジオで4人で一気に録りましたね。
─なんと! そのあと改めてレコーディングをしたんですか?
猪狩 : はい。ただ、本番のレコーディングをするようなスタジオでデモを録ったので、デモのクオリティがすごく高くて(笑)。結局改めてレコーディングしたときにちょうどいいハウリングが出なくて、そこはデモの音を使っています。
──そうだったんですね。“aranami”は『波よ聞いてくれ』をイメージしながら作ったんですか?
猪狩:完全にそうです。沙村さんの作品に出てくるキャラクターって、心理描写がすごくリアルなんですよ。人が生きていく上で抱えている葛藤みたいなものがリアルに表現されていて。『波よ聞いてくれ』の舞台でもある札幌は、自分たちも長く住んでいた街だったので、主人公や登場人物が抱えている思いなども、僕らが常日頃感じるものに近くて、登場人物目線になれたんです。自分がこれから生きていく葛藤のようなものを、曲でリアルに表現していけば、勝手に登場人物に近づける感覚があって。そこで作品とシンクロしている感じはありますね。ものすごく作品のことを考えていたんですけど、結果的に作品に寄っていった曲にはならなかったですね。
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── “aranami”の歌詞に関して、1年前に作っていた曲ではあるけれど、新型コロナウイルスの影響でまた意味合いが変わって聞こえるなと感じました。
猪狩 : 1年ぐらい前に書いている歌詞だから、もちろんいまのことはまったく想定していなかったんですよ。だけどいま改めて聴くと、自分で作った曲だけど沁みる感じはありますね。
──具体的に、いま聴いて沁みた歌詞はどの部分ですか?
猪狩 : アウトロが終わって1番最後の節は、Aメロと同じコードなんですけど、新しいメロディをつけていて。「新しい毎日と後悔が 代わる代わる押し寄せる 波の様な生活が ここで生きて行く証だ」という部分。この歌詞はもともとなかった部分だったんですけど、1番気に入っているし、1番沁みますね。
──僕もこの歌詞はとても印象に残っています。小西さんは?
小西 : 「今日より明日がどうとか」って歌詞もいまのご時世にぴったりだし、猪狩が言った通り、いま聴くとすごくハマる歌詞だと感じます。1年前に作った曲なのになんでここまでリンクするんだろう? って不思議に思いますね。
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僕たちは「北海道でスタートしたバンド」
──『波よ聞いてくれ』の舞台にもなっている札幌は、tacicaが結成した場所でもあります。新型コロナウイルスの影響もあり、札幌のライヴハウスも厳しい状況が続いていますが、改めて2人にとって札幌はどんな場所ですか?
猪狩 : 札幌は10代後半から20代前半にかけて住んでいて、バンドを結成したところでもあって。ものすごくいろんなことを吸収する時期に住んでいた場所なので、自分の中で振り返ったときに、密度や濃度がすごく高い場所である気がしますね。
小西 : 10代の頃は東京の専門学校に通っていたんですけど、猪狩とtacicaをやるために北海道に移動したんです。だからいろんなことがはじまった場所だなという思いが強いですね。
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──サウンドとしてtacicaと北海道を結びつけるものがあると思いますか?
小西 : LOST IN TIMEの海北さんからは「北海道っぽいよね」って言われましたね。自分たちで思っている以上に、なにかが出ているみたいで。
猪狩 : 北海道っぽさを出そうと思ったことはないし、自分たちではあんまりそれを感じることはなくて。ただ、すごく激しいことをやろうとしても“雄大感”みたいなものが消せない感じはあるかもしれないですね(笑)。
──たしかに(笑)。当時はどんなライヴハウスに出ていたんですか?
猪狩 : 最初の頃は札幌Bessie Hallや札幌COLONYに出ていましたね。他にもSPIRITUAL LOUNGEとかSound Lab moleにも誘われてよく出ていました。月に8本〜10本くらいライヴをしている時期もありましたね。
札幌Bessie Hall
tacicaが結成当時に頻繁に出演していた、すすきの駅近くにある老舗ライヴハウス。1986年のオープン以来、北海道で活動する若手アーティストも多く出演し、若手の登竜門的なライヴハウスとしても知られている。そのほか、全国ツアーを行うアーティストなど、さまざまなライヴに使用される。札幌Bessie Hallには前出のポスターもまだ飾られているので、もし足を運んだ際はチェックしてみては?
【INFO】
〒064-0804
札幌市中央区南4条西6丁目 晴ればれビルB1F
TEL : 011-221-6076
HP : http://bessiehall.jp/
札幌COLONY
2001年9月に札幌にオープンした、収容人数役180名のライヴハウス。メジャーからインディーズまで、数多くのバンドが出演してきた。新型コロナウイルスの影響で、2020年4月末をもって惜しまれつつも閉店することになった。
【INFO】
HP : http://www.colony6.com/index.html
──その当時はどんなアーティストと共演していたんですか?
猪狩 : サカナクション、モノブライト、未完成VS新世界とか、高橋優くんもいましたね。高橋優くんとは、一度札幌のAppleストアでアコースティックの2マン・ライヴをやったことがあって。そのライヴの主催が札幌COLONYだったんですよ。
──札幌COLONYは新型コロナウイルスの影響で閉店してしまうんですよね。
猪狩 : 札幌COLONYというハコ自体にも思い入れがあるんですけど、店長がすごく良くしてくれたんです。閉店が決まったときも店長から連絡が来て、思うところはあったけど、この状況が収まったらまた仕切り直ししてほしいですね。
──もしそれができたらとても勇気が出ることですよね。いまも北海道に帰ったら必ず行くところとかはあるんですか?
小西 : 音楽処というCD屋さんにはいつも顔を出しますね。
──そこはどういうところ?
猪狩 : 札幌PARCOの横にあったパルス21というCD屋さんが閉店するタイミングで、当時店長だった方が独立して作ったCD屋さんで。札幌のお母さん的な感じなんです。2007年にリリースしたファースト・ミニ・アルバム『Human Orchestra』もライヴ会場以外で唯一置かせてもらっていましたね。
音楽処
北海道で活動をしているミュージシャンに愛されるCDショップ。インディーアーティストのCDを中心に、さまざまな作品を扱う。tacicaは2007年に限定500枚で1stミニ・アルバム『Human Orchestra』をリリースし、音楽処でインストア・ライヴを開催した。
【INFO】
住所 : 札幌市中央区南1条西4丁目 4丁目プラザ7F 自由市場内
営業時間 : 10:00〜20:30
HP : http://www.ondoko.jp/
──たしか猪狩さんは当時コーヒー屋でアルバイトをしていたんですよね。
猪狩 : 宮越屋珈琲というところでアルバイトをしていたんですけど、そこでお世話になった店長が独立してcafe Lonというお店を作って。前に鈴井貴之さんとアルキタ(北海道のアルバイト情報誌)が組んでCMを作る企画があったんですね。僕らもCMに出たんですけど、そのCMにも宮越屋珈琲が映っているんです。
cafe Lon
札幌時代に猪狩が宮越屋珈琲でアルバイトしていた当時の店長、武田雅樹さんが独立して作った、自家焙煎のコーヒーや自家製のケーキを楽しむことができる珈琲店。15周年記念公演〈象牙の塔〉グッズのオリジナルブレンドコーヒーを作ったのもcafe Lonの武田さん。
【INFO】
住所 : 札幌市中央区南19条西15丁目−3−11
営業時間 : (火〜金)11:00〜22:00 / (土・日)10:00〜22:00
HP : http://monju.heteml.jp/lon/lon_menu.html
──少し話しただけでも、お二人の札幌に対する思いが強いことが伝わってきます。
小西 : そうですね。最近tacicaを知ってくれた人たちは、僕たちが北海道で結成したことを知らないと思うんですよ。だけど、個人的には「北海道でスタートしたバンドだ」という気持ちは強いので、特別なホーム感はあります。
「15周年やったから俺らはすごい!」ではなくて「ここからもっとやるぞ!」
──シングルの2曲目に収録されている“象牙の塔”はどうやってできたんですか?
猪狩 : 去年の夏以降から僕1人で弾き語りをはじめたんです。どうせ弾き語りをやるんだったらtacicaで発表していない曲をやりたいなと思って、曲を書きまくっていたんですね。“象牙の塔”もそのなかのひとつで。ひとりで歌うために書いていたので、tacicaとしてバンドで演奏することを想定しないで作った曲だったんです。
──なるほど。
猪狩 : いくつか弾き語りライヴをやったあとに書いたこともあって、この曲は特に聴き手を意識して作りましたね。そうやって弾き語りのために作った曲ではあるんですけど、tacicaでやったほうがよかったんですよ。改めてバンドの良さを実感できた曲だと思っています。“象牙の塔”は、結成15周年記念ライヴのタイトルにもなっているんですけど、自分の作ってきた曲の中で、15周年記念に臨む気持ちとリンクしている曲だなと思って、このライヴのテーマ・ソングという扱いにしました。
──“象牙の塔”の最後の歌詞は、完成したからそこで終わりにするのではなくて、それをどんどん潰してまた再構築することが大事だと歌っているのかなと。
猪狩 : そうですね。「象牙の塔」という言葉は、世間からあえて遠ざかって生活する人たちを隠喩するもので、基本的にあまりいい言葉ではないけれど、それも含めてしっくりきたんです。
──それは自分たちを律する意味もある?
猪狩 : むしろそれしかないかな。15周年を祝うことに意味があるのではなくて、自分たちからしたら15周年記念ライヴも、他のライヴとさほど変わらない。ただ自分たちを律するうえでの15周年という捉え方ができれば、また自分たちのなかでの意味も変わってくるんじゃないかなと。「15周年やったから俺らはすごいだろ!」ということではなくて、「ここからもっとやるぞ!」という意味です。
──弾き語りとバンドではなにが違かったんでしょうか?
猪狩 : 弾き語りは“全部自分でやらなきゃいけない”ということが大きいですね。弾き語りをやりはじめて、いままでいかに自分がベースとドラムに頼っていたかということを改めて感じて。ひとりでできることは限られていて、自分の持ち札だけでやらなきゃいけない。その手札を増やしていくことも必要だけど、それはすごく時間のかかることで、ステージ上で急に手札を増やせるわけじゃない。だからこそ潔さが必要になるなと。そういうことがわかりはじめて、自分がよりバンドが好きになっていると感じました。
──“潔さが合う曲”と“潔さだけではどうにもならない曲”があるなかで“象牙の塔”はバンドでやったほうがしっくりきた。
猪狩 : もちろん弾き語りの良さもあるけど「やっぱりバンドっていいね」と思ってもらえる曲なんじゃないかなと。最終的には、僕の弾き語りのライヴに来てくれているお客さんにも両方のうまみを感じてもらえる出来になったと思っています。
──なるほど、小西さんはいかがでしょうか?
小西 : 猪狩の弾き語りライヴを観に行っていたので、曲自体はもともと知っていたんです。それをいざバンドでアレンジするというときに、弾き語りで聴いていた感じを1回忘れて、バンドとしてベースラインを考えてアレンジしていきましたね。
──この曲のベースライン、僕はめちゃくちゃ好きです。
小西 : ありがとうございます。弾き語りの静かな雰囲気も大事にしたかったので、あまり派手にやらずにシンプルなほうがいいのかなと思いつつ……。改めて弾き語りの“象牙の塔”を聴くと「いろいろアレンジ変えちゃったんだな。ゴメン」って(笑)。
──猪狩さん的にはどうなんでしょう?
猪狩 : バンド・マジックなので問題ないです(笑)!
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──(笑)。最後に今後のtacicaを楽しみにしている方に向けて言いたいことがあればぜひ!
猪狩 : 僕ら自身は自粛期間に入ってから表立って動けていないんです。とはいえ、こういう状況でも、曲を聴いてライヴを待っていてくれる人へのアプローチはたくさん考えているので安心してください。
小西 : 自分たちはSNSも頻繁に更新するタイプでもないので、みんなが「こいつらなにやってるのかな」って思ってるかもしれないんですけど(笑)。でも相変わらず曲を作っているし、制作は止まっていないです。いまの環境が収まったら、無理せずにライヴに遊びに来てくれたらいいなと思います。
──曲も作っているんですね!
猪狩 : そうですね。どうしてもいまの状況に合わせてマイナー調が多くなっちゃいますけど(笑)。
編集 : 鈴木雄希
編集補助 : 東原春菜、安達瀬莉
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LIVE SCHEDULE
tacica TOUR 2020 “aranami”
2020年6月19日(金)@千葉・柏PALOOZA
時間 : OPEN 18:30 / START 19:00
2020年6月21日(日)@神奈川・F.A.D YOKOHAMA
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2020年6月25日(木)@京都・磔磔
時間 : OPEN 18:30 / START 19:00
2020年6月26日(金)@岡山・IMAGE
時間 : OPEN 18:30 / START 19:00
2020年6月28日(日)@福岡・INSA FUKUOKA
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2020年7月4日(土)@宮城・LIVE HOUSE enn 2nd
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2020年7月5日(日)@新潟・CLUB RIVERST
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
2020年7月10日(金)@愛知・名古屋 BOTTOM LINE
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
2020年7月12日(日)@大阪・心斎橋 Music Club JANUS
時間 : OPEN 17:00 / START 18:00
2020年7月19日(日)@東京・Shibuya WWW X
時間 : OPEN 17:00 / START 18:00
2020年7月23日(木)@北海道・札幌 cube garden
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
結成15周年記念公演「象牙の塔」
2020年8月17日(月)@東京・中野サンプラザ
時間 : OPEN 17:30 / START 18:30
※新型コロナウイルスの影響を受けた、4月5日(日)の中野サンプラザホール公演の振替。
※開場・開演時間が変更になっておりますのでご注意ください。
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://tacica.jp/live/
PROFILE
tacica (タシカ)
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2005年に札幌で結成されたロック・バンド。2007年リリースのデビュー・ミニ・アルバムが軒並みインディーズ・チャート1位を獲得し、2008年メジャーに移籍。
その後もメディア露出が無いにも関わらずシングル、アルバム共にオリコンTOP10入りを記録。「彼らの楽曲を自分の人生の歌、生きる指針として愛する」ような、深い部分で繋がるリスナーを増やし続けている。リリース・ツアー以外にも企画ワンマン・ツアーも不定期に開催し、2017年3月は新企画として〈TIMELINE〉と銘打ち、アルバム再現ツアーを東名阪で行い、全公演SOLD OUTを記録。
2018年春にはバンド初の「アコースティック×エレキ」ライヴを開催。2019年春にアルバム再現とアルバム『panta rhei』の先行再現を行う〈TIMELINE〉第2弾〈TIMELINE for “sheeptown ALASCA”〉を東名阪で実施。
そして、2020年4月5日に〈結成15周年記念公演「象牙の塔」〉のイベント計画立てるも新型コロナウイルスの影響により8月17日に延期予定となった。また、新シングル「aranami」のツアーが6月19日より開催を予定している。
【公式HP】
https://tacica.jp/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/tacica_official