今年のフジロックではなにが起こっていた?!──渡辺裕也と定金啓吾が振り返る〈フジロック 2018〉
今年苗場開催20周年の〈FUJI ROCK FESTIVAL '18〉。台風の接近など不安もありながら、今年も無事に3日間開催されました! 今年は、N.E.R.D、ケンドリック・ラマー、ボブ・ディランといった超豪華ヘッドライナーが多くの話題を集めましたが、そのほかにも一部ライヴをYouTubeにてライヴ配信するなど、初の試みも(かくいうOTOTOYスタッフも3日間自宅でダラダラしながらライヴ配信を見ていました)。そんなこんなで、今年のフジロックはどんなフェスになったのでしょうか? OTOTOYでは音楽ライターの渡辺裕也と、同じく音楽ライターで1997年の第1回から毎年参加している定金啓吾による、対談形式のフジロック・レポートをお届けします。現地に行っていた方はもちろん、YouTubeで見ていた方も、興味はあるけど参加したことがないなんて方も、ぜひ現地の雰囲気をお楽しみください!
FUJI ROCK FESTIVAL '18
2018年7月27日(金)、28日(土)、29日(日) @新潟県 湯沢町 苗場スキー場
出演 : 国内外約200アーティスト
詳細 : http://www.fujirockfestival.com (オフィシャル・サイト)
レポート対談 : 渡辺裕也 × 定金啓吾
ヘッドライナー3組をはじめとした出演アーティストについてはもちろん、初のインターネット中継、台風の接近など、例年以上にたくさんの話題を振りまいていた今年の〈フジロック・フェスティバル〉。この賑やかだった3日間を総括すべく、今年も識者との対談をお届けします。対談の相手はライターの定金啓吾さん。〈フジロック〉には1997年の第1回から22回すべて参加。〈コーチェラ・フェスティバル〉をはじめとした海外フェスへの参加経験も多い定金さんとともに、今年の3日間を振り返りつつ、今後の〈フジロック〉について考えてみました。
文・構成 : 渡辺裕也
写真 : 大橋祐希
FUJI ROCK FESTIVAL '18
2018年7月27日(金)、28日(土)、29日(日)@新潟県 湯沢町 苗場スキー場
来場人数 :
7月26日(木)前夜祭 17,000人
7月27日(金) 30,000人
7月28日(土) 40,000人
7月29日(日) 38,000人
延べ 125,000人
今年のフジロックはどうでした?
渡辺裕也(以下、渡辺) : まずは3日間の率直な感想を教えてくれますか?
定金啓吾(以下、定金) : 2日目の豪雨を除けば天候が良かったので、圧倒的に身体はラクでした。昨年は3日とも雨でしたからね。台風も逸れてくれたし、概ね天気が安定しているとライヴにも集中できて良いなと改めて思いました。盛り上がりと集客も、僕が個人的に想定していたよりもずっと良かったです。
渡辺 : 公式発表によると、来場者は昨年とほぼ横ばいだったみたいですね。たしかに天候も昨年よりは恵まれました。それにしても、2日目深夜の雨風はすごかったですね。特にキャンプ・サイトは大変で、テントが倒壊した人たちの避難所として会場近くの体育館を臨時解放したりと、運営側も対応に追われていたようです。
定金 : ただ年々フジロックで思うのは、みんなが前に殺到してぎゅうぎゅうになるようなシチュエーションが、グリーンのトリに近いポジションでも昔より相当減ったなーと。ぎゅうぎゅうにならない方が楽だし、危なくもないから別に悪いことじゃないんだけど。たとえば1999年のレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとか、2000年のミッシェル・ガン・エレファント、2002年のレッド・ホット・チリ・ペッパーズのときの熱狂って、やっぱり凄かった気がするんですよね。それに比べると、近年は落ち着いたテンションを会場から感じます。
渡辺 : いまの〈フジロック〉の常連さんには、その1999~2002年あたりの〈フジロック〉を体感している世代が多いような気もします。実際、30~40代のお客さんはその当時よりもずっと増えてるわけで。
定金 : やっぱりそうなんですかね。年齢層が上がると熱狂度が落ちる部分はあるのかな、とは思ったりしました。
渡辺 : 〈フジロック〉は環境をアピールしながら固定客をどんどん増やしていったフェスでもあるから、ラインナップ関係なしに行く人も大勢いますよね。実際、ライヴを観ていた人のなかにはN.E.R.D.やケンドリック・ラマー(以下、ケンドリック)をよく知らない常連さんも少なくなかったはず。逆にサマソニはラインナップ次第で客層が毎年どんどん変わっていくから、そういうところでもライヴの雰囲気にちがいはあるのかも。
定金 : お客さんの年齢層が上がっていくなかで最新のトレンドを押さえたショーケースになるようなラインナップを組むのは、決してラクなことじゃないと思います。今年もEDMとしてのスクリレックスをあの位置においていること、そして彼のプレイへの反応を見ていても、日本はまだ「EDM>ヒップホップ」の構図なんだなと思ったし、その意味では欧米のトレンドをそのままフォローすればうまくいくほど簡単じゃないなと。
渡辺 : スクリレックスがYOSHIKIをステージに呼び込むという演出も、いろいろ象徴的な感じはしました。
N.E.R.D.とケンドリック・ラマーに見る、ライヴの魅せ方
定金 : そんな中でもケンドリックを呼べてきっちり盛り上がったのは、個人的にはなんだかホッとしました。それってSpotify以降、洋楽邦楽の垣根の融解とかタイムラグの融解というものが影響あるのかなと思ったりもしたんだけど、その辺はどうでしょう?
渡辺 : サブスクリプションの影響力についてはちょっとわからないかな。日本ではまだそこまでサブスクが一般的ではないし、やっぱりケンドリックが圧倒的だと感じました。あと、これはケンドリックに限らない話だけど、いまのラップ・ミュージックのライヴって、お客さんと一緒に歌いながらその空間を分かち合うっていうのがひとつの定型になってたりするじゃないですか。
定金 : ええ。その定型ではさほど盛り上がってないですよね。
渡辺 : もちろんそこには言葉の壁もあるし、日本ではそれが難しいんじゃないかっていう懸念は前々からありましたよね。じゃあ、それを踏まえて今回のライヴはどうだったかっていうと、N.E.R.D.とケンドリックではお客さんへのアプローチが違っていた。それがライヴの盛り上がりにも表れてたように感じたんですけど、いかがでしたか?
定金 : 巻き込もうとしたN.E.R.D.と「魅せる」に徹したケンドリックで結果に差はあったように感じました。あと、日本だとN.E.R.D.よりもファレル・ウィリアムスとしての認知の方が強いのもあって。N.E.R.D.名義での来日は毎回そこが難しいですよね。
渡辺 : 具体的に言うと、N.E.R.D.は海外でのライヴをそのまま踏襲してきた。ケンドリックは定金くんのいうとおり「魅せる」ライヴでしたよね。アジア諸国でのライヴを含めて、今回のツアーでは「ハンブル」をオーディエンスが合唱するのが恒例になってたけど、今回のフジではケンドリックが頭から歌って、とにかくパフォーマンスを伝えることに徹していた。日本のオーディエンスの傾向をあらかじめ把握していたんだろうなって。
定金 : ケンドリックは結果的にオーディエンスに歌わせる部分を少なくしてたのもあって、おそらく意図的にすれ違いがあまり起きない流れにしてましたよね。最後の「オール・ザ・スターズ」で皆がスマホのライトを掲げるっていうのも、日本にぴったりな締め方だったと思います。かなり前方にいたので周りは大盛り上がりでしたが、後方が気になって時々見てました(笑)。
渡辺 : 僕もけっこう前方にいたので会場全体の雰囲気がつかめていなかったんだけど、後方で観ていた人たちも完全に心を掴まれていたみたいですね。それこそレッド・ホット・チリ・ペッパーズのときみたいな、グリーン・ステージ全体を完全に掌握しているライヴだったって。
定金 : 一方でN.E.R.D.については、ファレルがすごい頑張ってオーディエンスを誘導してたんですが、けっこう空振りに終わってる部分もあったように見えました。
渡辺 : 今回のツアーで恒例になってるファレルのプロデュース曲のメドレーも披露されたんだけど、反応が大きかったのは「ゲット・ラッキー」くらいでしたね。セットリストも含めて本当に素晴らしいライヴだったんですけど、彼らのヒット曲がそんなに伝わってない感じがして、そこはちょっと歯がゆかった。
定金 : あと、「セヴン・ネイション・アーミー」(笑)。
渡辺 : ファレルとぜんぜん関係ない曲がいちばん湧いてましたね(苦笑)。初日ホワイト・ステージのトリを飾ったポスト・マローンのライヴはいかがでしたか? 僕も観ていたんですけど、けっこうシンガー・ソングライター的な感じでじっくりと曲を聴かせていくんだなって。ラップ・ミュージックを普段聴かない人にも、あれはとっつきやすかったんだろうな。
定金 : 彼は基本的に歌モノですよね。明確にフックのあるメロディがあるので、日本のオーディエンスと相性も良い気がします。なので単純にラップの文脈でN.E.R.D.やケンドリックとマローンの受容の比較は難しいですよね。
世界のポップ・ミュージックの動きを紹介するフェスとして
渡辺 : 実質的にヘッドライナーの時間帯を任せられたヴァンパイア・ウィークエンドも、今年のフジの目玉のひとつでしたよね。新作リリース間近と言われるなかで一体どんなライヴになるのかと。
定金 : ヴァンパイアは新曲もなく、前作からあれだけ時間が空いてるのに威風堂々とステージをこなしている姿に自信を感じました。きっと新作にも自信があるのかなと。ドラム2人編成と新しいギタリストの加入はプラスだったと思います。ライヴでの表現が難しい部分にうまくダイナミズムをもたらしてくれたなーと。割とライヴではポテンシャルが発揮できていない印象のバンドだったので余計に。
渡辺 : そのヴァンパイアを筆頭に、今年のフジはダーディー・プロジェクターズやMGMTといった2000年代後半の北米インディ勢が奮闘している印象もありましたし、スーパーオーガニズムのときも、レッド・マーキーに入りきれない人がたくさんいて。それこそ昨年や一昨年は1990年代のビッグ・ネームが目立っていたけど、実際はメイン・アクトの世代交代もすこしずつ進んでいるんだなと。
定金 : ただ、海外のポップ・ミュージックの最新、最大公約数をパッケージしたショーケースとしてのフェスだと、集客および盛り上がりという意味では安心できない時代になっていると思っていて。フジの客層に合わせるのか、海外のトレンドに日本のオーディエンスを同期させていくことを目指すのかっていう大きな二元論のときに、〈フジロック〉がどっちの舵を切るんだろうという興味はあります。
渡辺 : なるほど。
定金 : とはいえ、後者ってフェスだけがやれることじゃなくて、むしろ海外の音楽を扱うメディア全体が取り組むことじゃないかな、という気もしていて。
渡辺 : そうですね。実際、国内最大規模のフェスとして世界のポップ・ミュージックの動きを紹介していくという役割を、これまでずっと〈フジロック〉は担ってきたわけだけで。
定金 : 現状と歴史のコンテクストを伝える、ということに自覚的なフェスですよね。そんなフェスの先駆者だった〈フジロック〉が開催22回を数える間に、フェスも増えて、細分化・大衆化したなかで、改めて〈フジロック〉はどんな価値をオファーするフェスなのか? その問に解を考え直す時期は来ているんじゃないかなと、個人的には思います。
渡辺 : これだけフェスが増えて細分化していながら、定金くんのいう「現状と歴史のコンテクストを伝える」という役割については、ずっと〈フジロック〉に頼りっぱなしなところはありますよね。
定金 : 「現状と歴史のコンテクストを伝える」とか大仰なことを言いましたけど、僕はこの数年、そんなものに1ミリも興味のない人と一緒に〈フジロック〉に来ているんですが、その友人たちの感覚からすると、「フジロックってガチの音楽好きが集ってそうだし、高いし、遠いしで敬遠してたけど、なんか憧れはあった」と。それで試しに1日だけ来てみたら超楽しくて、それから毎年来ていると。洋楽邦楽も特に気にしてなくて。ライヴを観て「うわ、まっじすげー」となったら、翌日に温泉に行くときにSpotifyで聴いて余韻に浸る、みたいな感じで。
渡辺 : いいですね、そういうの。
定金 : なので、コンテクストとリリックの理解みたいな側面を一旦すっ飛ばして、「とにかくケンドリックのライブにやられちゃいました!」みたいな熱をもっと拡げることのほうがシンプルで重要だよな、とも思いました。そういうループをどれだけたくさん作れるかっていう。
渡辺 : 僕が思ったのは、それこそ今年の2日目にケンドリックを観にきていたヒップホップ、ラップミュージックが好きな若者たちって、たぶんこれまで〈フジロック〉とは縁遠かったんだろうなってことで。実際、彼らは折りたたみの椅子とかも持ってきてないし、そんなに立派な雨具だって持ってない。みんな普段とそんなに変わらない格好で、とにかく会場内を楽しそうに動き回っていて、その感じがとても印象的でした。ああいう人たちが来年のラインナップを見たときにまた行きたいなって思うものであってほしいなって。
定金 : 普段はフジに来ないヒップホップ・ファンがケンドリックへの半端ない盛り上がりを見せて、「ケンドリックってどんな感じなの? 名前はよく聞くけど」みたいな人たちを巻き込んでいくようなことがたくさん起きるといいですよね。1997年から行ってるおじさんからすると、10代のころは〈フジロック〉で、知らないジャンルに熱い人の背中を見て、「こういうところでこう盛り上がるんだ」みたいに学ぶ感じがありました。いまもあるのかな。いまはスマホもあるし、そういう熱狂の拡がりがどんどん広げやすかったりするとも思うんですが。
渡辺 : 今年がそのきっかけになったらいいよね。
定金 : ところでやっぱり渡辺くん的には、あくまでフジは海外の最新のパッケージとコンテクストを体現する場であってほしいんですか?
渡辺 : そうあってほしいと思ってます。高年齢化にラインナップを合わせていくと、それはそれで偏りもでてくるし。歴史を体現するという点でいくと、たとえば2001年の〈フジロック〉は当時最盛期だったエミネムと並んでニール・ヤングがヘッドライナーでしたよね。もともと〈フジロック〉はそうやって新しい時代の流れとレジェンドを組み合わせることに意識的だったし、ある意味今年のヘッドライナーの並びからはそこに回帰したような印象も受けました。ボブ・ディランのライヴ、定金くん的にはどうでした?
定金 : 僕はあのライヴを咀嚼して楽しむレファレンス・ポイントを持ち合わせてなくて、ぼーっと風に吹かれてしまいました(笑)。黒田隆憲さんがTwitterで「ディラン・バンドのライブは、ミキシングで表現するような繊細な抜き差しとかダイナミズムの調整をバンドの演奏でリアルタイムにやってるのが半端ない」みたいなことを言っていて、そういう解像度で聴けたらまた違っただろうなと、未熟さを感じました。そんなマニアックな話は別にいらないと思う人もいるだろうけど、対象への解像度があがったり、体験する視点をもらえると物事って楽しくなりますから。
渡辺 : ディラン、僕はとても感動したし、圧倒されました。それこそ現代のテクノロジーを介さず、ひたすらセッションを繰り返すことで築き上げた演奏力のすごさを見せつけられたというか。確かにあれは、いまなかなか体感できないライヴだったと思う。ちなみに、終了後のマスメディアの報道を見ていると、今年の〈フジロック〉最大のトピックはディランだったっていう伝えられ方がほとんどでしたね。3日目はディラン目当てに来た人たち、いわゆる団塊の世代が大集結してたと。
定金 : ケンドリックは日本のマスメディアはスルーな感じですよね、ラップ自体がまだメインストリームという認識じゃないので。
渡辺 : 今年は海外のメディアもけっこう入ってたみたいですよね。そもそもフェス自体にほとんど出ないディランが〈フジロック〉にでたのはインパクトがあったんだと思う。しかもそれが今年ピューリッツァー賞(注)を獲ったケンドリック・ラマーと並んでヘッドライナーだったのってすごい話だし、そこは日本のマスメディアでも強調されていい話ですよね。
ピューリッツァー賞
「ジャーナリズムの発展」を目指して開設された、アメリカでも屈指の権威のあるアワード。ジャーナリズム部門、文学、音楽の分野がある。
音楽部門でジャズとクラッシック以外のミュージシャンに授与されたのは、ケンドリック・ラマーが史上初となる。
ライヴ配信などの新たな試み、今後どのような影響が生じる?
渡辺 : あと、もうひとつの大きなトピックとして、今年ははじめてインターネットでのライヴ中継が行われました。厳密に言うと、2013年にナイン・インチ・ネイルズのヘッドライナー公演が中継されたことはあるんですけど。
定金 : ああ、そういえばありましたね。
渡辺 : 今年の中継、僕はまったく観ることができなかったんだけど、反響はどうだったんだろう? コメント欄が荒れたっていうのも話題になってましたよね。なかには〈フジロック〉やアーティストへの誹謗中傷みたいな酷い書き込みもあったと。
定金 : 何にでもアンチで煽る人たちはいますよね。でも長期的に見たら、中継をはじめたことはポジティヴな影響のほうが大きいと思います。
渡辺 : ポジティヴな影響とは、たとえばどういうことが挙げられますか?
定金 : 具体的には①知らない、知ってるけど行ったことがない人へのリーチ・宣伝による潜在需要の喚起、②行ったことがあるけど行かなくなった人への需要の再喚起、③海外への日本アーティストのアピール・チャンス、④海外への〈フジロック〉のアピール・チャンス、⑤視聴数が多ければ新たな広告媒体としてのフジにとってのマネタイズ・チャンス、みたいなところが挙げられるかなと。あといまふと思ったのは、中継を見てる人が「ヘヴンのステージがいま凄い! 」ってTwitterとかで発信してくれたら、会場にいる人がそれを見て行く気が起きるかもとか、そういう効果もあったりするかなと(笑)。
渡辺 : 中継の盛り上がりに現地の人が影響されるようなことも起こりうると。
定金 : そうそう。あるいは中継のバズを織り込んだタイム・スケジュールとかを考えたり、スマッシュ的にはまだそんな大きいステージに置けないけど自信があるアーティストを中継でアピールしたり、そういう現場以外の場所も使って、〈フジロック〉の魅力を幅広くアピールできる部分もあるんじゃないかなと思いました。
渡辺 : さっき定金くんが言ってた③海外への日本アーティストのアピール・チャンス、④海外へのフジ自体のアピール・チャンスにもつながりそうな話ですね。
定金 : 実際、〈フジロック〉はアーティストのバラエティが豊かだし、商業性だけで選んでない良さがあるので。そういう経済合理性に最適化している海外フェスが多い中で「フジロック・フェスティバルのラインナップはすごく考えられてるな。ヘッドライナーだけじゃないな」みたいに世界中から思われる可能性が存分にあるセレクトを、〈フジロック〉はこれまで20年以上してるんじゃないかな。
渡辺 : ライヴ中継が、改めて〈フジロック〉の独自性を海外にアピールする機会にもなりうると。
定金 : 日高さん(日高正博。株式会社SMASHの代表取締役社長で、〈フジロック・フェスティバル〉の創始者)の矜持を効果的に伝えるひとつの窓口になるポテンシャルはあると思います。その矜持に市場性がどれだけあるかは別の話ですが。
渡辺 : 欧米の人気アーティストばかりではなくて、南米やアジア、アフリカのミュージシャンを呼ぶことにも〈フジロック〉はずっと力を入れてきましたよね。それこそ今年はキューバやコロンビアなど、中米のアーティストがたくさん出てた。こういうバランスのラインナップを打ち出してるフェスって他にないし、そこをあらためて伝えるのは重要だと思います。
定金 : そうですね。
渡辺 : ネットといえば、今年はインスタグラムのIGTVでアーティストのインタヴューをどんどん配信してましたよね。海外のフェスでも、あそこまでガッツリIGTVを利用してるのはまだあんまり見たことなくて。そもそもあの機能が定着するのかどうかも俺にはわからないんだけど。
定金 : 僕はそれを観れてないんですが、IGTVはインタヴューとかに向いてる気がしますね。チャネル特性とコンテンツをうまくマッチさせたら、フジの魅力をいろんな層にいろんな側面でアピールできるのではと思います。新しいメディア、テクノロジーの活用は失敗も含めてがんがんトライすべきっていうのが私的な意見です。
渡辺 : 同感です。おもしろい試みだったと思う。
定金 : あと思うのは、これは〈フジロック〉に限らず、ラインナップだけで10~20万を動員すること自体、これからは相対的に難しくなっていく気がするんです。〈コーチェラ・フェスティバル〉だって「グローバルクラスのリア充によるリア充のためのリア充を追認する装置」としての機能がなかったら、あそこまで動員できないと思うし、ラインナップをひとりも発表せずに即完売するのも、アーティストだけで集客していないことの証左なのかなと。もちろん一定以上のラインナップは揃うという読みも、お客さん側にはあるでしょうけど。
〈コーチェラ・フェスティバル〉
コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル。
毎年4月中旬にロサンゼルス郊外のインディオにある砂漠地帯「コーチェラ・ヴァレー」で行われる、毎年約20万人以上の観客が参加する世界的に大規模な野外音楽フェスティバル。
近年流行のEDMはもちろん、ロック・ヒップホップなどのさまざまなジャンルのアーティストが参加しており、2018年のラインナップは、ザ・ウィークエンド、ビヨンセ、エミネムがヘッドライナーを務めた。
渡辺 : でも、定金くん自身はどう? フェスに行くかどうかはラインナップで決めない? それは〈コーチェラ〉とかも含めて。
定金 : 僕はもう本当に音楽だけで、他の楽しみはほぼ無い人間です(笑)。
渡辺 : 僕もそう。もちろんそれ以外の要素もフェスは大事だけど、ラインナップに関心がもてなければ普通にいかないと思う。でも、そういう熱心な音楽ファンばかりを相手にしていたら、商業としてなかなか成り立たないってこと?
定金 : 難しいんじゃないでしょうか。そもそも人口が減っているくことに加え、音楽に熱心な人の比率も上がらなかったら、そこから集客が簡単には伸びないと考えるのが妥当かと。
渡辺 : では、近年の〈フジロック〉のお客さんにはどんな傾向があると見ていますか?
定金 : これは俺の錯覚かもしれないけど、14~17年くらいに、頭にフラワーブーケみたいなものを乗せた、露出多めの女性がちらほらいたじゃないですか。でも、今年はいなかった気がしません?
渡辺 : あ、言われてみればそうかも。
定金 : でしょ? たぶんあれは〈フジロック〉を〈コーチェラ〉みたいな空間だと思っていた人たちが、違うってことに気づいたんじゃないかなと(笑)。
渡辺 : その視点はなかったな(笑)。
定金 : あとはアジア圏からのインバウンドが着実に定着した。ここも10年前とはまったく違う。無視できないボリュームだと思う。個人的には商業的な意味での規模を維持するなら、インバウンドという機会は無視できないし、活用すべきだと思います。
渡辺 : 今年はいつも同時期にやってる韓国の〈ジサン・バレー・ロック・フェスティバル〉が開催されなかったから、たぶんその影響もあったと思う。イギリスの移動遊園地「アンフェアグランド」が今年フジにきたのも、〈グラストンベリー〉が開催されなかったから実現できたんですよね。そのあたりを見ていくと、今年は特殊な年でもあったと思う。
定金 : なるほど。ともかく、アジア圏からのインバウンド層が一定規模定着しているし、それが今後増える可能性があるのは間違いない気がします。
22周年を迎えたフジロック、今後の課題
渡辺 : では、そのためには今後どんな課題があると考えていますか?
定金 : アジアの人が来たくなる要素はなんなのか? という問いはまずあるかなと。インフラ整備もあるし、フェス本体としてはアジア圏の人がわざわざフジに来ないと観れないラインナップを作れること。それはどういうラインナップなのかっていうところを考えるのもおもしろいなと。
渡辺 : それこそ韓国にも近いラインナップのフェスはあるわけだし。
定金 : そうそう。中国には欧米のラインナップを揃えるのができない事情があると思いますが(笑)。それこそ今後、他のアジアの国の経済力が日本を追い越していくなかで、アジアの音楽がどんどんおもしろくなっていくとしたら、アジアで一番イケてるラインナップにアジアの音楽好きな欧米人が一同に介すフェスみたいになるといいなーと、個人的には思ったりします。〈フジロック〉が〈コーチェラ〉みたいになるのはなんか違う気がしますよね。〈コーチェラ〉は、雑な言い方をすると誰もステージのほう向いてないですからね。ステージに背をむけてセルフィー撮るので(笑)。キャンプサイトでも女性は朝10時位から14時位までメイクと服のチェックを入念にしてるし。
渡辺 : へえ~。〈コーチェラ〉って、会場内はどんな感じなんですか? というのも、近年の〈フジロック〉はお客さんのマナーが低下してるという話題もありましたよね。以前は「世界一クリーンなフェス」を謳っていたのが、今年は「再び世界一クリーンなフェスを目指して」になっていたのも印象的でした。
定金 : 皮肉なのは、それなのに〈コーチェラ〉は本当にゴミひとつ落ちてないんですね。決してお客さんの特別マナーが良いわけじゃないと思うけど、業者が常に清掃している。裸足で歩く女性も多いので、怪我されても困るので、本当にきれいです。瓶も会場内に持ち込めないし。
渡辺 : 入場のチェックが徹底してるんだ?
定金 : 荷物は身ぐるみ剥がしてチェックしますね。つまり、欧米は仕組みで解決するんですよ。気持ちとか思いやりではなくて。キャンプも専門業者が最終的にショベルカーで一気に片付けるから、基本テント含めてすべて放置していってOK。トイレも高水圧車みたいなので頻繁に掃除されています。そこにはフェスが他の業態にお金を落とすという経済的な側面もあると思います。
渡辺 : そもそも日本と海外ではルールと価値観が違うと。ということは、このままインバウンドが増えていけば、以前のようにマナーを定着させるのはかなり大変ですよね。
定金 : 難しい気はします。もしそこに譲れない価値観があるわけじゃないのであれば、他の仕組みで「クリーン」を実現するほうが、僕はいいと思います。
渡辺 : 〈フジロック〉には環境問題への意識を高めるという目的もあるから、そこは譲れないところもあると思うんだけど、たしかにいままでのやり方でクリーンなフェスを目指すのは大変なのかもしれない。難しい問題ですね。
定金 : ところで話を戻すと、ナベちゃんは今後の〈フジロック〉の見立てはどんな感じですか?
渡辺 : さっき定金くんが話してた「アジアのイケてるラインナップ」っていうのは、確かに大事なポイントだと思いました。それこそ日本のインディーでは積極的にアジア圏をツアーしているバンドが増えてるし、アーティスト自身もそこに可能性を感じてると思う。それこそ国内だけではひろがりに限界もあると思うんです。一方、アジアには日本の音楽に関心をもってる人たちがたくさんいるわけで、その視点はラインナップを組む際に取り入れてもいいんじゃないかな。
定金 : 別に欧米だけで受けようとしなくていいですしね。いずれにしてもラインナップの再定義は必要だし、それは日本の音楽の活性化にもなると思います。
渡辺 : ネット中継も当然そこで活用できるわけだし。
定金 : んじゃ、アジアのイケてるラインナップと欧米のツボを抑えたハイブリッド・フェスでアジア全体から集客すべし! というのが今後の〈フジロック〉への期待という結論ですかね?
渡辺 : 簡単なことではないけどね。いまの社会の流れを見ていると、そこは見据えておいたほうがいいのかなと思いました。
出演アーティストの音源は下記から購入可能!!
7月27日(金)出演アーティスト
7月28日(土)出演アーティスト
7月29日(日)出演アーティスト
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フジロック事前特集
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事後レポート
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