The xx INTERVIEW
ザ・エックス・エックスは「ダブステップ以降」を象徴するバンドとして、ポップ・ミュージックにおけるひとつの可能性を示している。これだけあらゆる音楽が試され尽くされている世の中において、懐古主義に陥ることなく、一聴して彼らのものと分かるほど記名性のある音楽を作ることに成功している点において。そして彼らの音楽は大いに評価され、大いに売れている。デビュー時には散々持ち上げるだけ持ち上げて、セカンド以降はコキ下ろす傾向の強い、かのピッチフォークも、新作からシングルカットされた『エンジェルズ』、『チェインド』共に「ベスト・ニュー・トラック」に選出しているほどの入れ込みようだ。
まぁ、ピッチフォークが何と言おうと最新作『コエグジスト』は傑作と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。基本的にはデビュー作の延長線上にありながら全体のレベルをきっちりと底上げしてきた印象。用いているサウンドにドラスティックな変化はないが、各パートのバランスは素晴らしく、音像の深みは桁違いに増している。これはプロデュースも兼ねるジェイミーの貢献に違いない。バンドのサウンドを強烈に特徴づけていた異様なまでの「音のスペース」は踏襲しつつも、ビートのコントラストがよりはっきりとし、ダンサブルなトラックが増えた。そして主に「喪失」にまつわるメランコリックでダウナーな感情を扱った歌詞はよりディープさを増し、ビートとのコンビネーションはボーカルのロミーもいつも影響を口にするエブリシング・バット・ザ・ガール(以下、EBTG)のそれに近いものになったという印象を受ける。
イギリスではちょうど彼らと同世代のジェシー・ウェアという素晴らしいソウル・シンガーも現れ、かなりの話題を呼んでおり、80年代のシャーデーやEBTGがリプリゼントした「ブリット・ソウル」の意匠をザ・エックス・エックスと並んで現代に継承してくれるのではという期待までしたくなってくる。まだ若い彼らのこと、これからより幅広い音楽エレメントを体得し、果てしない進歩を見せてくれるのではないだろうか。シーンのサイクルが早くセカンド・アルバム・シンドロームなどと言う前に存在を忘れ去られかねない昨今の状況下において、しっかりと楔を打ち込んだ充実のセカンド・アルバムになっている。
今回は、7月頭の来日時に行った新作プロモーション時の彼らのインタビューを掲載する。この時点では歌詞は手元になく、音源も1度しか聴けていなかったこと、そして彼らのコックニー訛りに筆者の英語力ではかなり苦戦したこともあり、今振り返るとかなり突っ込み不足な部分があることは否めないのは申し訳ない限りだが、是非読んで頂ければと思う。
インタビュー&文 : 定金啓吾
The xx / Coexist
アンニュイでメランコリーな独特の世界観を打ち出したデビュー作『エックス・エックス』で世界中を虜にしたサウス・ロンドン出身のドラムレスな男女混合3人組、ザ・エックス・エックスが世界に放つ静かなる第二の衝撃。2年半ぶりとなる大注目のセカンド・アルバム。
販売形式 : mp3、wavともに1500円
あくまでも人は自分自身に所属している
――忙しい中、時間を割いてくれて有難う。日本にはいつごろ到着したんですか? 取材ばかりで観光したりしている時間はないですよね?
ロミー・マドリー・クロフト(ボーカル/ギター)(以下ロミー) : 3日くらい前かしら。あんまり覚えてないけど(笑)。そうね、前回東京に来た時も余り時間が無かったし、今回もほとんど時間は取れてないわ。
――昨日のライヴにも行かせてもらいましたが、凄く良かったと思います。新作のダンスミュージック的なアプローチを巧くライヴ用にヒプノティックにアレンジすること成功していたと思います。自分たちではどんな感触でした?
ロミー : 私もとても良かったと思う。また(日本に)戻って来て、プレイできて楽しかったわ。
――ジェイミーはどう?
ジェイミー・スミス(キーボード/プログラミング/プロデュース)(以下、ジェイミー) : ヴェニューでプレイできたのは良かったね。… ここのところはフェスに出演していたから、それに比べると昨晩はサウンドをちゃんとコントロールできたし、楽しかったよ。
ロミー : 日本で前回プレイしたときもオーディエンスがとても静かだったけど、私たちにとってはそれはとてもプレイしやすいの。静寂が好きだから。みんなが叫んでる方が心地よいバンドもいると思うけど、私たちには静けさはプラスに働くと思う。
――やはり日本は他の国とは反応が違うものですか?
ロミー : 場合によると思うわ。他の国でもすごく静かなときはあるし、フェスであれば他のバンドが目当てだからみんな全然集中してないときもあるし。場所によって全然違う感じがする。
――新作を1度だけ聴かせてもらったのですが、デビュー作の延長線上にありながら、着実に進歩しているアルバムだと思いました。前作が「空間」を上手く活用していたのに対し、新作はよりリズム・パートの「静と動のコントラスト」がはっきりしていたように思います。アルバムに取り組むうえで意識したことは何かありますか?
ジェイミー : いろんな小さなパートを作りながらだったから、それをちゃんとアルバムとしてまとめなきゃなと思っていたよ。普段からダンス・ミュージックは沢山聴くし、DJもしてるからその影響というか、自然な発展だったと思うな。
――今作についてサウンド・メイクに関するチャレンジだった試みはありますか?
ジェイミー : ちょっとトリッキーだったのは、しばらくの間一人で取り組んでいたトラックをメンバーと合わせて形にしていったことかな。二人との共同作業を模索し直したというか、二人に助けてもらいながら、レコーディングされたとき、ライヴでプレイしたときにどんな曲になるべきかを話し合って、あるべき方向を見つけていったよ。それがチャレンジだったかな。
――あなたたちのホームページにアップしている、あなたたちが影響を受けた楽曲を見ていると、オーティス・レディングのスタンダードナンバーからハンサム・ボーイ・モデリングスクール、フォー・テット、そしてザ・ストリーツまで時代もジャンルもかなり幅広いですが、中でも今作を制作する上で最もインスピレーションになった曲やアーティストはいますか?
ロミー : 確かにとても幅広いし、ファーストを出してからの数年間でもよりテイストの幅は広まったかも知れないわね。ただホームページに上げているものは、本当に私たちが気に入ったものをランダムに紹介しているだけで、直接的な影響というよりは、ライヴ以外でのファンとのコミュニケーションのひとつの良い方法だと思っているわ。
――デビュー作と違い、今回は前作での成功や高い評価を受けて、「多くの人に聴かれること」を意識してしまう部分もあったのではないかと思うのですが、それが制作に影響した部分はありますか?
ジェイミー : そんなに影響はないと思う。前作のツアーが終わってから十分にオフが取れたんだ。ファーストを作ったときのように時間は十分あったし、自分たちのスタジオも手に入れて、音楽を作ることを楽しめる状態にあったと思う。
ロミー : オフが取れたのはとてもラッキーで、ファーストを作ったときの心理状態に戻ることが出来たし、周囲の雑音をシャットダウンして、忘れることが出来たから前回とそんなに変わらない状態で制作に迎えたわ。
――歌詞についてなのですが、私が聴き取れた範囲だと、今作も前作同様リレーションシップについて歌詞が多かったと思います。ただ特に「喪失感や未練、切迫した想い、そして諦念」といったよりディープなエモーションについての歌詞が顕著だったと思うのですが、これはどんな背景によるものなのでしょう?
ロミー : う~ん、正確には分からないけど、いろんな感情の幅を扱っていると思う。いくつかの曲ではすごくヘヴィだし、すごくライトなものもあるし。私はずっと悲しい曲が好きだったし、ハッピーな曲よりは悲しい曲に感情的にもコネクトしてきたと思う。あとは多分、ここ数年の個人的な経験によるものなんだと思うわ。
――同様のモチーフを取り扱った作品でこれまで個人的に特にインスパイアされた音楽は何かありますか?
ロミー : やはりエブリシング・バット・ザ・ガールね。曲だと「ミッシング」かな。幼い頃のお気に入りの曲の一つでもあるし。ダンサブルなビートにハートブレイキングの歌詞というコントラストがある曲が好きなんだと思う。新作でもその方向性は試していて、収録されている『サンセット』も同じようなコントラストを持っていると思う。基本的には悲しいバラッドなんだけど、同時にダンサブルでもあるから。
――歌詞の側面において、音楽以外の映画や文学作品などで、あなたのスタイルに特に強く影響を与えたものはあったりするのでしょうか?
ロミー : 明確な影響を見つけるのは難しいと思う。特定の作品や作家よりは、人々そのものとか、友人や知らない人たちの何気ない会話とかにインスピレーションを受けることの方が多いと思う。
――前作の際、ロミーはリリックの方向性が「より正直であけすけな方向」に向かっていて、オリバーは逆に、より「曖昧で謎めかすような方向性」に向かっていると言及している記事を読んだことがあるのですが、それは今作でもより顕著になっていますか?
ロミー : 二人の方向性がスイッチしたのは確かだと思うわ。オリバーはファーストのときは、主に自分が観察したことから歌詞を書いていて、私は自身の経験とか感情について書いていたの。今回のアルバムではオリバーもいろんな経験を重ねてより自分自身の経験とか感情について書くようになっているわ。私は変わらず自分の経験したことも書いているけど、より人々を観察して、そこからインスピレーションを得て歌詞を書くようになっていると思う。
――ロミーとオリバーの歌詞はあまり3人称の登場しない、親密な雰囲気の世界観を作っていると思うのですが、リリックのテーマとしてもう少し広いスコープを持った社会的なコメンタリーを歌詞に取り入れることに余り興味はない? 分かりやすい例で言えば、政治についての言及などがあると思うのですが。
ロミー : 私は音楽の役割をエスケーピズムだと考えているし、人々が音楽を聴くうえで、その作用を手助けできればと願っているの。だから、まだ社会的な歌詞にトライしたことはないし、余り考えたことはないし、どう扱ってよいかよく分からない。やはり歌詞について考えるときは「喪失」とか内省的なテーマについて考えていることが多いと思う。
――ザ・エックス・エックスはこれまでダブステップを始めとしたロンドン・アンダーグラウンドの先端のダンス・ミュージックからの音楽的インスピレーションを巧くバンド・フォーマット、ポップ・フォーマットに昇華してきたと思うのですが、例えばアメリカのインディ・シーンなど他の音楽シーンからの影響やレファレンスというのはどれくらいあるのでしょうか?
ロミー : どうかしら、アメリカのシーンのことは尊敬しているけど、全てのシーンをフォローすることはできないし、ロンドンだけでもいろんな音楽、シーンが影響し合って変化しているから。でも、ビーチ・ハウスは大好きよ。もちろん気に入ったものは色々聴いているけれど、影響ということでいうとよく分からないわ。
――次は少し音楽のリスニング・スタイルについて聞かせてください。二人ともiTUNES以降の世代ですし、周りにはCDやレコードではなくダウンロードで曲単位でランダムに音楽を聴く人も多いのではないかと思いますが、二人はいかがですか?
ロミー : 私たちは個人的にはヴァイナルは大好きだし、フィジカル・プロダクトを持つことを好んでいるわ。アートワークとかを含めて、どのようなものにするのかを考えるのも好きだし。すごく古いヴァイナルも含めて集めたりするわ。
――個人的にはデジタル化によって、どんなアーカイブもいつでもどこでも安価に聴くことができるのは素晴らしいことだと思うのですが、同時にやはり音楽の歴史性やその重層性が希薄になってしまうのでは危惧する部分もあるのですが、あなたたちはどう思いますか?
ジェイミー : みんな音楽は今でも好きだと思うし、その背景とかバンドが受けてきた影響にも興味はあるだろうから、今の時代の方がより簡単に他の音楽を見つけたりするのには良い環境にあるんじゃないかな…。
ロミー : 確かにダウンロードでしか音楽を手に入れない人たちはいるけど、音楽のもう少し深い部分に興味を持っている人もたくさんいて、ヴァイナルやCDが残り続けるくらいには十分なくらいそういう人はいると思うわ。
――では最後に新作『コエグジスト』を聴くのに最も適した都市や場所、シチュエーションだと思うところを教えてもらえますか?
ロミー : そうね… 人って特定の場所に縛り付けられたくないものだと思うの。東京とかロンドンとか都市ではなくて、あくまでも人は自分自身に所属しているというか、人間同士の関係性の中に生きていて、それってどこの場所に行っても同じだと思う。だから、どこへいるときでもこのアルバムを聴いて欲しいわ。
――ジェイミーはどう?
ジェイミー : 僕もロミーと同じ…。
一同 : (苦笑)…。
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PROFILE
Romy Madley Croft(Vo、G)
Oliver Sim(Vo、B)
Jamie Smith(Beat、Sample)
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