Battlesにとって4月3日のSonarSound Tokyo 2011は、グループ結成時からの中心メンバーであるタイヨンダイ・ブラクストンがバンドを去ってから2度目となるライヴだった。正直、ライヴの完成度はまだまだという段階だったと思う。しかしながら、「今の3人でBattlesなのだ」という決意が伝わってきたし、その潔さは過去を引きずるよりもずっとプラスに働いている。そして、その未完成なライヴもこの先に大きな期待を抱かせるものであった。
タイヨンダイの脱退後、残ったメンバーであるデイヴ・コノプカ、ジョン・スタニアー、イアン・ウィリアムスの3人は、デビューアルバム『ミラード』(2007年)に続く待望の作品の完成に漕ぎ着けた。ボアダムスの山塚アイやブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノ、シンセポップの先駆者であるゲイリー・ニューマンの助力も得たニュー・アルバム『Gloss Drop』は、4月27日に発売される。先んじて聴かせてもらったが、これは素晴らしいアルバムだ。前作を印象付けていたストイックなまでに変則的かつ構築的なリズムセクションは健在ではあるものの、前作よりもサウンドにバラエティーがあり、フックのあるメロディがそこかしこに登場する。ライヴではまだ模索中であることを感じさせたゲスト・ヴォーカルの使い方もレコーディング作品の中では上手くはまっている。今回はライヴの翌日、アルバムを完成させたばかりのコノプカに、バンドに起きた変化、そして新作『Gloss Drop』について話を聞くことが出来た。
インタビュー&文 : 定金啓吾
ボアダムスのアイやゲイリー・ニューマンなど4名のゲスト・アーティストが参加した2ndアルバム
Battles / Gloss Drop
「すごくいい幅を持った作品になったと思う。短めの曲もあれば、よりポップな曲もあるし、完全なロックの曲や、これまでとは別世界の曲、強烈な曲も、ヒップホップ的なヴァイブを持った曲もある。すごく自由で、楽しくて、夏らしいアルバムだと自分では感じてるよ。完成させるまでに費やした数年は、すごくエモーショナルな時間だった。俺たちの音楽を、聴き手がエモーショナルなものに結びつけることはあまりないと思うけど、最初に聴いたときは生まれたての赤ん坊のように泣いてしまったんだ」
ーデイヴ・コノプカ(ギタリスト/ベーシスト)
デイヴ・コノプカ INTERVIEW
——まずこうした状況の中、日本に来てくれて有難うございます。今日はたくさんインタビューを受けてるんじゃないですか?
デイヴ・コノプカ(以下デイヴ) : こちらこそこういう困難な状況な中、来日することが出来て光栄だよ。朝9時からずっとインタビューで疲れてるけどね(笑)。(※このインタビューは20時ごろ開始)
——昨日はSonarSound Tokyo 2011にて新生Battlesのライヴを観させてもらいました。個人的には3人になってよりタイトに、そしてフィジカルになり、改めてBattlesは生演奏を基礎にもつライヴ・バンドだなと感じました。
デイヴ : とても良かったと思う。ライヴ・バンドとして力を証明できたんじゃないかな。まだ新作を完成させてからのライヴとしては2回目で結構ナーバスになっていたけど、上手くいったと思う。良いアルバムを作れたと思うし、もうこのバンドで8年もプレイしているけど、新しいバンドでの新しい挑戦だと感じてるし、今の状態をとても気に入っているよ。
——ご自身の印象はいかがでしたか? オーディエンスから良い反応は得られましたか?
デイヴ : そうだね、良いリアクションを得られたんじゃないかな。オーディエンスは新作から(先行シングルの)『アイスクリーム』しか聴けていないことをちょっと心配してたんだけどね。いわゆるヒット曲を聴きたかったとも思うんだけど、重要なのは新しいサウンドを紹介することだったし、新しい曲をプレイすることに僕たちも興奮してるからね。オーディエンスもまだ聴いたことない曲だけど良い反応をくれたと思うよ。
——まずこの4年間のインターバルを総括するとどのように表現できますか?
デイヴ : とにかくツアーして、それは上手くいって、大きな変化がバンドにあって、この作品のために準備をし、出来る限りよい作品を完成させることが出来た。一言で説明するのは難しいけど、ここまで来るのに本当に苦労したし、とにかく懸命に頑張ったって感じかな。
——今作の制作中に特にインスピレーションを受けた作品や楽曲、音楽シーンなどはありましたか?
デイヴ : またダンス・ミュージックを聴いてる。シャッフル・ビートものとかね。アフリカン・リズムのも気に入ってるかな。カニエ・ウエストも聴いてるよ(笑)。
——カニエ・ウエストの名前が出ましたが、アメリカの今のメジャー・シーンについてはどう思いますか?
デイヴ : メジャー・シーンはヒップ・ホップが中心だし、良いと思うよ。メジャー・レーベルがニッケルバックみたいなバンドをプッシュしまくってたころがあったなんて信じられないくらいだよ。キングス・オブ・レオンもビッグだけど個人的にはコネクトできないって感じだけどね。嫌いなわけじゃないけど。レディー・ガガもポップ・アーティストとしては優れてるんだと思うし。
——なるほど。ではアルバムに話を戻すと、まだ数回しか聴くことが出来ていないのですが、印象としては前作を一言で表すなら「ストイックでヒプノティック」だとしたら、今作は「カラフルでフィジカル」だという印象を持ちました。また前作の要素を引き継ぎながらもよりバラエティに富んでいるなと思いました。デイブ自身ではどんな感触を持っていますか?
デイヴ : すごく気に入っているよ。僕らにとってはこの作品が新たなスタートだし、『ミラード』よりも良いものを作ろうと思ってた。プレッシャーは大きかったけどそれを乗り越えたし、バンドに起こったネガティブな要素をポジティヴな力に変えることが出来たし、結果的にバンドが生まれ変わったみたいに感じる。自分が想像してたよりもずっと良いものが出来たと思ってるよ。とてもフィジカルなアルバムだし、前作よりも「ライヴ」なアルバムだと思う。レコーディング自体は前作と同じ場所、同じプロデューサーでやったけど、前よりも進歩したし、冒険も沢山含まれているし、遊び心も豊富で、楽しげな仕上がりになってるんじゃないかな。前作『ミラード』は「自分たちはどんなことでも出来るんだ」と証明したくて威勢を張りすぎたところもあったと思うんだ。でも今回はより多様性を実現できたし、純粋に楽しめるものにもなったんだ。
——もともと今作は制作に入る前に明確なコンセプトやゴールを定めていたのでしょうか?
デイヴ : 特に定めていたわけじゃないね。個人的にはループをもっと活用してサウンドに変化を与える挑戦をしたかったし、サウンドについてはいろんな実験をしてると思う。でもあらかじめ「こうなるべきだ」とか決めてたということではないね。
——前作よりも技術的なテクニックから解放されて、より音楽のなかで楽しんでいるようにも聞こえました。あなたたちはとても技術的なスキルが高いミュージシャンだと思いますが、それは音楽にとってどれくらい重要だと思いますか?
デイヴ : う〜ん、それほど気にしていないと思う。ギター・ソロとか嫌いだしね(笑)。テクニック的には優れたものであっても聴きたくないしね(笑)。テクニック自体は重要であるけど、それほど気にするものじゃない。テクニカルな音楽を作るより、魅力的な音楽を作るほうが大事だよ。テクニックは魅力的な音楽を作ろうとしたときの副産物なんだと思うな。
——前作がより構築的でリズムにフォーカスされていたと思いますが、今作からはサウンドのバラエティー、メロディックなフレーズが強く印象に残りました。これは意識的なアプローチの変化かそれとも自然発生的なものでしょうか?
デイヴ : たぶん自然にそうなったんだと思う。やっぱり前作よりももっとプレイすることを楽しんだし、よりエネルギーに満ちてからだと思う。それに前作に比べてカバーしているサウンドの範囲も広くなったと言えるだろうね。
——イアンはソフトウェアのableton LIVEを新たに用いたという話を聞いたのですが、Battlesの音楽において重要な要素である「ループ」の使い方において今作では明確な変化はありましたか?
デイヴ : そうだね、イアンはableton LIVEを使ってループを作っていったね。「アイスクリーム」なんかは3つのループが同時に使われてるいしね。ルートとループが行き来したり、ループ同士が互いに変化を与えたり、いろんなことを試してる。確かに前作とは違った使い方をしてるし、ネクスト・レベルに達した思うよ。
——制作のプロセスの手法において、前作と大きく変わったことはありますか?
デイヴ : レコーディング・プロセスに関しては前作と変わったよ。基本的には僕ら3人だけで素材をレコーディングして、エンジニアやプロデューサーはその素材を洗練させるのに力を貸してくれたという形だったんだ。その点に関しては以前よりも多くの助力を得たと思う。新しいプロセスを試したかったし、僕らだけで互いのパートを聴き合って、よりメンバーのやっていることを理解しようとしたんだ。
——ヴォーカルをどう使うのかはタイヨンダイが脱退したことで方向性が変わったとも思うのですが、ヴォーカルの楽曲における位置づけは前作と比べて何か変化はありますか?
デイヴ : そうだね、まずヴォーカルについてはタイが担当していたパートを変える必要があったから、ゲスト・ヴォーカリストを招いて曲に新たな命を吹き込んでもらうのがクールかなと思ったんだ。
——ボアダムスの山塚アイやブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノ、ゲイリー・ニューマンといったゲスト・ヴォーカルが参加していますが、どのような基準で彼らを選んだのでしょうか?
デイヴ : まずアルバム全編をイントゥルメンタルにはしたくなったのが第一にあって、間にヴォーカルを入れたいと思っていた。イメージとしてはガーリーでポップなヴォーカルとエクスペリメンタルなヴォーカルを試したかったんだ。だからエクスペリメンタルなヴォーカルはEYEがクレイジーなヴォーカルにエフェクトを掛けまくった音源をくれたから、その素材をチョップして使った。ガーリーなヴォーカルとしてはカズが提供してくれることになって、試したかったことが両方上手くバランスを取れたと思ってるよ。
——今までの話を踏まえると、Battlesは以前より明確に進歩したという実感があると言えますか?
デイヴ : 完全にね! (笑)レコーディングの途中でタイが脱退して、全て仕切りなおしてスタジオに寝泊りしながら、このアルバムを完成させた。とても満足しているし、その進化は全て彼が脱退してから起こったものでもあるんだ。3人でダークな時期を乗り越えて、新しいバンドに生まれ変われたという意味では感情的にもこのアルバムにとても思い入れがあるんだ。
——ネットの浸透によってオーディエンスがフラグメント化されて、以前よりも「リスナー」をイメージしにくくなってきていると思います。あなたたちは制作時に「誰が聞くのか? 」という点を意識はして制作に取り組みますか?
デイヴ : いや、意識しないな。基本的に全ての人が自分たちの音楽を聴いてくれることを望んでるしね。人は自分が興味をもったものを聴くものだし、誰が自分たちの音楽を気に入るか分からないのは当たり前だからね。でもそれを気にしすぎて音楽の中で自分たちを偽るようなことをするとそれはリスナーにバレるものなんだよ。「ああ、あいつらは音楽へのモチベーションを失ったな」ってね。重要なのは聴く人の興味を喚起して、音楽の中に気に入るところを見つけてもらって、それに対する解釈を別の人に広げてもらうことなんだと思う。
——では最後の質問です。ジャケットのデザインはあなたが手掛けたと聞きましたが、どのようなコンセプトで何を表現したものなのでしょうか?
デイヴ : まずあのピンクの模型を作ったんだ。『ミラード』とは違ったカバーを作りたかったし。もっとオーガニックでフェミニンにしたかった。それと同時に「非具象的*(*被写体が物理的性状で知られているものとは類似していないこと)」にしたかったんだ。この奇妙なピンクのオブジェクトがBattlesを象徴するものにしたかった。それを見た人が他の何か想像するんじゃなくてBattlesをすぐに連想するようにね。つまり「Battles? あ、あの"ピンクのやつ"だろ? 」みたいな風にしたかったわけ(笑)。
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INFORMATION
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開催日 : 2011年7月29日(金)~31日(日)
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PROFILE
Battles
2002年、タイヨンダイ・ブラクストン、ジョン・スタニアー、イアン・ウィリアムスとデイブ・コノプカの4人によって結成。ポップな商業音楽にシーン自体が深い傷を負った2004年にリリースされた彼等の初EP『EP C』は、暗闇でモールス信号をストロボで発光させたかの如とく突如現れた。メンバーの各々が音楽史に残るバンドで活動してきた彼等 (ドン・キャバレロ、ヘルメット、トマホーク、リンクス等) は幅広いスタイルの音楽から影響を受けており、それらを全てタイトなジャムに凝縮させて聴く者の脳裏を攻撃する。『EP C』のリリースの直後、再度、重量感のあるリズムに、迷宮のよう入り組み平行感覚を揺るがすテクスチャーを乗せたEP『Tras /Fantasy』をリリースし、圧倒的に当時の他のバンドと大きく差をつけた。この2枚のEPで、スタニアーの銃撃にも似た鋭いドラム、ウィリアムスの怒りに満ちたギター、コノプカの岩のように硬くソリッドなギター、そしてブラクストンによる鋭い集中力によりバンドはまとめあげられ、全ての要素が無視不可能な唯一蕪二のサウンド・スタイルが仕上がった。2004年末に彼等は更に『B EP』という3部作のフィナーレに相応しい1枚を発表する。2005年にバトルスはプレフューズ73こと才人スコット・ヘレンと出会い、一緒にツアーを回る事となり、世界で最もエキサイティングなライブ・バンドとして世界中の人々を魅了した。2007年に初のフル・アルバム『ミラード』(意味: (鏡によって)反射された)を<WARP>よりリリース。2010年、タイヨンダイ・ブラクストンが脱退し、残された3人によって、フル・アルバムとしては4年振りとなる2nd『Gloss Drop』を完成させた。