あの音はどこから──ミツメ、エンジニア、田中章義と語る、これまでと新作『VI』、そのサウンドの源泉
数曲のシングル・リリースやtofubeatsのリミックスをリリース、さらには直前には新機軸としてトラックメイカーのSTUTSをフィーチャーしたシングル「Basis」をリリースするなど、ある意味でリリース・ラッシュというか、なにかとここ1年動きのあったミツメ。そんな彼らが『Ghosts』以来、6枚目となるアルバム『VI』をリリースした。OTOTOYでは本作の配信とともにインタヴュー記事をお届けしよう。今回はその全ての作品でレコーディングを手がけてきたレコーディング・エンジニアの田中章義を迎えて、彼らの曲作りやスタジオワークの風景などなど、田中が一緒に作り上げるサウンドの源泉へと迫る、そんな内容となっている。
ミツメ2年ぶり、6枚目の新作『VI』
アルバム・リリース直前にリリースとなったSTUTSをフィーチャーした意欲作。
こちらは収録曲“トニック・ラブ”のtofubeats remix
INTERVIEW : ミツメ + 田中章義
ミツメの最新作『Ⅵ』には、このバンドのキャリアにおける重要な転機が刻まれている。2020年3月末日、ミツメがセカンド・アルバム『eye』以降の作品をすべてレコーディングしてきたスタジオ・〈グリーンバード〉が惜しまれながら閉館。今作には、そんな〈グリーンバード〉でミツメが制作した最後の音源が収録されている。同時に、このアルバムは彼らが〈グリーンバード〉以外のレコーディング・スタジオで録音した最初の一枚でもある。つまり、『Ⅵ』には10年間にわたってレコーディングを活動の主軸としてきたミツメの成熟と新境地が、どちらも収められているのだ。
そんな『Ⅵ』について、今回はミツメの四人とレコーディング・エンジニアの田中章義に話を聞くことができた。学生時代からの盟友であり、1st『mitsume』の頃からこのバンドのレコーディングを担当してきた田中は、いわば五人目のミツメ。実際、ミツメの制作において田中が担っている役割は極めて大きく、特に環境を変えた今作のレコーディングに関しては、エンジニアの彼こそがキーマンと言っても過言ではない。ということで、今回のインタヴューでは主に録音環境とエンジニアリングという視点から、ミツメの新作に迫ってみた。
インタヴュー・文 : 渡辺裕也
写真 : 西村 満
それ以前から最新作まで歴代のミツメ作品に関わるエンジニア
──ミツメと田中さんは、大学で同じサークルに所属していたんですよね?
須田 : そうなんです。当時は一緒にバンドもやったりして、レディオヘッドのコピーで章義がギターを弾いてるのを見た記憶もあります。
川辺 : 俺はそのバンドのエド役でした(笑)。
Nakayaan : 俺も章義さんと一緒にプライマル・スクリームのコピーやってましたね。
須田 : トータスとかモグワイも一緒にやったような…。
──当初は章義さんも演奏仲間だったと。章義さんはいつからレコーディング・エンジニアを志したんですか?
田中 : きっかけは中3の時でしたね。学園祭ライヴに大きな会社のPAが入ってるのを見て、かっこいいなと思ったのが始まりです。
大竹 : その話、はじめて聞いたよ(笑)
川辺 : じゃあ、最初はエンジニアよりもPAに興味があったってこと?
田中 : いや、当時はその違いもよくわかってなかったと思う。で、当初は専門学校への進学も考えてたんですけど、趣味でもできるかなと思って、彼らと同じ大学に入ったんです。そのサークルでは雅生と川辺と一緒にPA係もやってましたね。
川辺 : そうそう、僕らはサークル内の機材チームだったんです。
あの提案がなかったら、このバンドは続いてなかったと思う
──いつから職業としてエンジニアを意識するようになったんですか?
田中 : 大学3年の頃だったかな? 自分で友達のバンドを録るようになっていく中で、ミツメに「ちょっと(レコーディングの)練習に付き合ってよ」と声をかけたんです。たしか学校の中庭で洋次郎に「“クラゲ”録ろうよ」と提案したんだよね?
須田 : そうだったかも(笑)
田中 : そしたら、あれよあれよと曲が増えていって、それがミツメの1stアルバムになったんです。
──1stのレコーディングは、章義さんの提案から始まったということ?
大竹 : というか、そもそもつくる予定もなかったよね?
川辺 : うん。当時は「これからバンドどうしよう?」みたいな時期で、それこそ就活とか進路とか、いろいろ考えてた頃だったんです。そんなときに章義さんが声をかけてくれたので、それなら思い出作りとしてちゃんと録ってみようかなと。
須田 : とはいえ、録り下ろしは“部屋”の1曲だけで、それ以外の曲はリハスタで録っていた音源が既にあったので、「あれをまた録り直すのかぁ」みたいな気持ちも個人的には正直あったんです。まさか、そこからスタートして6枚もアルバムを出すバンドになるとは思わなかったな。
大竹 : 本当だね。あそこで章義のレコーディングの提案がなかったら、このバンドは続いてなかったと思う。
2011年の『mitsume』
──それほど章義さんと共に1stアルバムを録った経験は大きかったと。
大竹 : レコーディングってこんなに楽しいんだと思いました。自分たち4人で録ってた時はとにかく余裕がなかったけど、章義がマイクを立てたり、レコーダーを回してくれるおかげで、その間に「だったらこういう音も重ねてみよう」みたいな発想がどんどん生まれてきて。
須田 : そういえば、あの時のレコーディングで川辺が寝っ転がって歌わされてたような……?
田中 : あったね(笑)。「腹式呼吸ができてないんじゃないか」みたいな話からそうなったんだっけ?
川辺 : 違うよ(笑)。「デモみたいな気が抜けたニュアンスがほしい」という話から「だったら寝っ転がりながら歌ってみたらどう?」みたいな流れだったと思う。
須田 : そうそう。まず椅子に座りながら歌ってみて、「なんか違うね」みたいな話からだんだん川辺が横になっていくっていう(笑)
『eye』のレコーディングはめちゃくちゃ興奮した
──章義さんにとって、ミツメの1stアルバムはどんな位置付けの作品なのでしょうか?
田中 : 川辺と洋次郎がやってたミツメの前身バンドとかも録っていたので、当時はその流れで録った1枚という感じだったんですけど、アルバムの流通が決まった時は「録ってよかった」と思いましたね。
須田 : 実際、あのアルバムはエンジニアとしての就職の役にも立ったんでしょ?
田中 : そうだね(笑)。〈グリーンバード〉の面接に持って行きました。当時はリハスタでバイトしていたのですが、将来について考えていく中で、レコーディング・エンジニアを職業にしたいという気持ちが強くなっていったんです。
──どういう経緯で〈グリーンバード〉への所属が決まったんですか?
田中 : 学生の頃はずっと独学でやってきたので、ちゃんとしたスタジオでレコーディングを学ぼうと思って、いろんな求人広告に応募し始めたんですけど、どこも履歴書の時点で門前払いで。うまくいかないなーと思っていたときに、バイト先で知り合ったエンジニアさんが〈グリーンバード〉で録音をするというので、よかったらレコーディングを見学させてもらえませんかとお願いしたんです。その時に〈グリーンバード〉を紹介してもらえたのがきっかけですね。
──それが縁となって、2ndアルバム『eye』のレコーディングから、〈グリーンバード〉で行われたわけですね。
田中 : 『eye』のベーシックな素材は2~3日で録ったんだよね?
須田 : そうだったね。〈グリーンバード〉のスタジオマネージャーさんに相談してスタジオを使わせてもらえることが決まった時は、本当に痺れました。「こんなに素晴らしい環境でレコーディングできるなんて、これはとんでもないアルバムが作れるんじゃないか」って(笑)。そういう幸せなイメージだけを膨らませながらレコーディングに向かっていったのを、よく覚えてます。
大竹 : 僕もあの時はけっこう舞い上がってました。それまでレコーディングで使ってきたリハスタとは比べ物にならないほど機材が充実していて、いろいろ使ってみたくてしょうがなかった。ローズのエレピなんかも置いてあったり。
川辺 : それまでの僕らでは絶対にできなかったことをどんどん試させてもらいました。特にミックスは大きいですね。「cider cider」のミックスでも、その場にある機材のプリセットを使わせてもらったり。
大竹 : それこそ1stのミックスは章義の家でやってたんだから、環境でいったら1stと『eye』では比べ物にならないよね。あの時のレコーディングはめちゃくちゃ興奮したな。作業が深夜や明け方まで続くこともあったけど、みんなキャッキャしてたよね(笑)。
2012年リリースの2nd『eye』
拠点とも言えるスタジオ〈グリーンバード〉の閉鎖
──そんな〈グリーンバード〉が2020年3月に閉館となりました。ミツメはどう受け止めたのでしょう?
Nakayaan : もう、めちゃくちゃ寂しかったです。
大竹 : 単純に、ものすごく残念でした。とにかく愛着がある場所なので。
須田 : 僕らは〈グリーンバード〉以外のレコスタを経験したことがなかったから、そこがなくなるなんて想像もできなかったし、廣田さん(スタジオマネージャーの廣田哲也)にもずっとお世話になりっぱなしだったので、なんていうか、本当に悔しい気持ちでしたね。
川辺 : そうだね。間違いなく僕らがチョイスできる中で最高の録音環境だったので、これからどうしようかという気持ちでした。
──今回のアルバムに収録されている 「睡魔」「ダンス」「トニック・ラブ」が、ミツメにとってはスタジオ・〈グリーンバード〉でレコーディングした最後の作品となりました。つまり、この3曲は昨年の緊急事態宣言前に録ったということですよね?
須田 : はい。2月に〈グリーンバード〉でレコーディングしたので、ホント直前でしたね。なので、その3曲に関しては今まで通りのやり方で、倉庫に集まってパソコンと向き合いながらアレンジを考えました。で、緊急事態宣言が発令されてからはデータのやりとりでデモを作りはじめて。今まであまりやってこなかったやり方だけど、とりあえずやってみようと。
──同じくPCでの作業とはいえ、顔を突き合わせて行うのと遠隔でのデータ交換では、やっぱり各々のアレンジにも影響が出てきそうですね。
須田 : そうですね。普段のやり方なら他のメンバーが弾いている内容に反射するような感じでフレーズが練られていくのですが、今回はベースもなにもないところから考えなければいけなかったので、やっぱり思いつくフレーズが変わってくるんだなと。でも、そのおかげでバンドとしては新鮮味のある方向に進めたと思うし、それが『Ⅵ』の特徴になったんじゃないかなって。
──今回のアルバムを聴いて、洋次郎くんのドラムは本当に独特だなと改めて思いました。このリズム・パターンはどういう発想から生まれるんだろうと。
須田 : ミツメのドラムに関しては、僕個人の問題じゃないというか(笑)。それこそミツメ以外のレコーディングに参加させていただくと、こういう感じにはならないと思う部分もあります。やっぱり10年も一緒にやってると、なにか潜在的に意識が繋がってるようなところがあるのかなと。
大竹 : 「ストレートなことをやっても面白がってくれないだろうな」みたいなところはあるよね。
須田 : 確かに(笑)。「なんか笑っちゃう」みたいな感じがいいなっていうのも根底にあるかもしれない。
──一方で「システム」に関してはいつになくストレートな8ビートを叩いてますね。
Nakayaan : 「システム」はみんなで集まった時に作った曲で、まず僕が歪んだ8分のベースの刻みを入れたので、必然的に須田さんのドラムがシンプルになりました。
須田 : 「システム」は緊急事態宣言が明けたあとに従来のやり方で作ったんですけど、もしリモートでやってたら、また違うアレンジになってたかもしれないですね。
大竹 : そうだね。やっぱり実際にメンバーで集まると、その場でポッと出てきたものを面白がれるんだと思う。
──アナログシンセを多用していた前作(『Ghosts』)と比べると、今回はギター・サウンドに寄っている印象もありました。
大竹 : 確かに今回のアルバムは、前回ならシンセでやったことがギターに置き変わっている感じですね。僕自身、今回はギターをなるべく使っていきたいという気持ちだったし、自粛期間はギターを触っている時間が長かったので、そういう影響もあったと思います。
今回はデモを聴いた時点で方向性がはっきり見えた
──ミツメは作品ごとにサウンドの方向性が変わりますよね。彼らのスタンスを章義さんはどう見ていますか?
田中 : 『Ⅵ』はこれまで以上にデモの完成度が高かったですね。ミツメにしてはちゃんとしてるなと。
一同 (笑)
大竹 : 昔は章義にデモを聴かせると、「何をやりたいのかがわからない」とよく言われてました。
田中 : 初期のデモなんて本当にわからなかったもん。ただドロドロした演奏だけが聴こえてくるというか(笑)。なので、ミツメのレコーディングはいつも出たとこ勝負みたいなところがあったんですけど、今回はデモを聴いた時点で方向性がはっきり見えたので、僕も「OK。それならこういう感じにしよう」みたいな感じでした。
──それもメンバー個々で推敲する時間が長かったことの影響なのかな。
大竹 : そうなのかもしれないですね。四人で集まってやると、その場のノリ重視で進めがちだから(笑)。
須田 : 今回はリモートだったから、メンバー間でいつも生まれる「これ、なんかいいよね」みたいなやりとりがないぶん、お互いが説明的になってたのかもしれないですね。
Nakayaan : 各々が細かいところまで詰めてやった感じは、確かにあったかも。
大竹 : 今回はひたすら自分と向き合う作業だったから、自分がいいと思えるまでやり続けたことによって、結果的にデモの完成度が上がったのかもしれない。四人で集まったときのグルーヴみたいなものも、それはそれでいいんですけどね。
──章義さんが今回のデモから何を掴んだのか、もう少し細かく教えてもらえますか?
田中 : まずデモの段階でシンセがまったく入らないことはわかったので、今回は雅生がたくさんギターを弾くってことなんだろうなと。あと、ミツメはたまに川辺以外の3人だけでベーシックを録る時があるんですけど、そこで雅生の弾くギターがあまりに素朴すぎて、全体像が見えないことがあるんです。でも、今回はそういう時も動じなかったというか、「ここにあのフレーズのギターが重なっていくのね」みたいなイメージの補完ができたので、ベーシックを録っている段階で戸惑うこともあまりなかったですね。
──ソングライターの川辺くんは今回どんなことを意識していましたか?
川辺 : 今回は旋律やリズムというよりは、コード進行で曲を作っていくというテーマが自分の中にあったので、そのアプローチで曲ごとに試せることをやってみた感じですね。それもあって今回は歌モノっぽい感じが並んだかなと思ってます。
──そして、今作のレコーディングが行われたのは町田市の〈ダッチママ・スタジオ〉(以下〈ダッチママ〉)。ミツメにこのスタジオを提案したのも章義さんだったそうですね。
田中 : 自分が思う音の良いスタジオのひとつとして、〈ダッチママ〉を候補に挙げさせてもらいました。僕も遊びに行ったことは何度かあったんですけど、仕事として行ったことはまだなかったので、これはチャンスだなと(笑)。特にドラムの音はスタジオによって全然違いますからね。僕自分も今回のレコーディングをやってみて、やっぱりドラムの音がこれまでの作品とは如実に違うなと思ってます。
須田 : ミツメの場合はドラムにけっこう強めのミュートをかけて、あとは部屋の鳴りをどれくらい生かすのかってことを曲ごとに決めていくことが多いので、実はスタジオの鳴りがものすごく大事なんです。
──実際に叩いてみて、いかがでしたか?
須田 : 響き方を確認しながら叩いてみると、やっぱり違うものだなと思いました。章義からは事前に「明るい音がするスタジオ」と聞いてたんですけど、確かに鳴り方はそういう感じがしましたね。特に今回はけっこうファンキーな16ビートがあったり、「変身」なんかはちょっとラテンっぽかったりするので、作品との相性もよかったと思う。
──Nakayaanはどうでしたか?
Nakayaan : 実は〈ダッチママ〉で最初のレコーディング・セッションの時、いつも使ってるベース・アンプを忘れちゃって…。それでスタジオにあるビンテージのヘッドを使わせてもらえたら、ものすごく良い音でした(笑)。
田中 : 所持してるアンプの上位版だったからね(笑)。
Nakayaan : 〈ダッチママ〉は部屋の天井も〈グリーンバード〉くらい高くて、「今までと違う」みたいな違和感とかもぜんぜんなく、心地よくやれました。食事するスペースも、なんかリゾートっぽい空間だったし(笑)。
須田 : 確かにそれはちょっとわかる(笑)。
田中 : 音楽業界の景気が良い時代にできたスタジオなのもあって、ちょっと施設がラグジュアリーな感じだよね(笑)。
川辺 : 〈ダッチママ〉はコントロール・ルームがけっこう広いんですよ。ソファとかもあって、みんなのパーソナルスペースがしっかり確保できるので、そこも快適でしたね。〈ダッチママ〉は観葉植物もあるし(笑)。
──雰囲気がけっこう〈グリーンバード〉とは違うんですね。
田中 : そうですね。〈グリーンバード〉はいわゆる昔ながらのレコーディング・スタジオって感じなので。
須田 : 〈グリーンバード〉のコントロール・ルームは、宇宙船のコックピットみたいな感じなんですよ。めちゃくちゃ大きなミキシング・コンソールの卓があって、壁にもケーブルを刺す穴がいっぱいあって、80年代のレトロ・フューチャーなカッコよさがあるというか。
川辺 : 〈グリーンバード〉は地下2階、〈ダッチママ〉は1階なので、その違いもけっこう大きいよね。
田中 : そうだね。ダッチママは外の明かりが見えるから、けっこう開放感があるというか。
大竹 : 確かに今回のレコーディングとミックスの雰囲気はけっこう和やかだったね。〈グリーンバード〉は缶詰になる感じで、それがまた良いんだけどね。
須田 : そうそう。集中力を引き出してくれるんだよね。
Nakayaan : 〈グリーンバード〉でのレコーディングを思い出すと、徹夜の記憶しかないですね(笑)
田中 : 実際、アーティストによってはそういう建物の作りとか音以外の要素でスタジオを選ぶ人もけっこういるんですよ。1フロア占有のところがいいとか、外が見えるスタジオがいいとか、そういうのも作品には表れることもあるんじゃないかなと思います。
須田 : 確かに。レコーディングって実はコントロール・ルームにいる時間が長いから、そこの雰囲気は意外と作品にも影響してるのかもしれないね。宇宙船みたいな緊張感のある〈グリーンバード〉と、リゾート的なリラックス感のある〈ダッチママ〉。
今回のレコーディングではまた新しいものが見えてきた
──今回のアルバムでは二つのスタジオでレコーディングすることになりましたが、現時点で次回以降はどう考えていますか?
須田 : 今後のレコーディングについてはまだ話し合ってないんですけど、スケジュールさえ合えば、できれば次も〈ダッチママ〉にお願いしたいな。
仲原達彦(マネージャー) : ミツメって、まわりが思っている以上に保守的なところがあるんですよ。機材とかもいっぱい持ってそうなイメージありますけど、じつは全然そんなことなくて、ずっと同じ楽器を使ってるんですよね。
大竹 : 確かに僕らはハード面に関してめちゃくちゃ保守的だと思う(笑)。
須田 : 食事に行くお店とかもそうだよね(笑)。
仲原 : たぶん彼らは同じ環境で違うことをやるのが好きなんだと思う。できるだけ環境は変えたくないというか、そこで悩みたくないんだろうなと。
須田 : 確かにそうだね。僕らはいちど気に入ったところがあると、ずっとそこがいいってなっちゃうから。
川辺 : 慣れることにパワーを使いたくないんだと思います(笑)。
──ミツメの今後のレコーディングについて、章義さんはどう考えていますか?
田中 : そうだなぁ。いろんなスタジオを使ってみてもいいんじゃないかなーと思いつつ、他のところに行ったところでそんなに変わらないだろうな、とも思いますね(笑)。もちろん音は変わりますけど、ミツメの場合は高級なスタジオだろうが、小さなリハスタだろうが、作品の仕上がりとか雰囲気は変わらないと思う。それにミツメの場合、なにか提案しても僕の意見は半分も通らないので(笑)。
大竹 : いや、そんなことないよ。実際、章義は演奏やアレンジについての意見をけっこう出してくれるんですよ。
田中 : そうですね。「ここをこうするのはどうですか?」みたいな提案は、エンジニア視点の意見が許される現場では出しています。自分がミックスする時に「ここ、こうしておいた方がもっと良くなったかもな」みたいに思うのは嫌なので、思ったことはちゃんと伝えた方がいいかなと。アーティストやプロデューサーと相談した上でジャッジしてもらいます。
大竹 : そうだったんだ。すごいな。
田中 : なかでも、ミツメはやっぱり言いやすいですね。特に今回はけっこうギターを重ねてるので、そこを最終的にミックスで調整する以上はちゃんとジャッジしたかったし、それこそ歌録りは僕がディレクションしてるので、その延長線上で提案することもけっこうあったかな。
──それって作品の仕上がりにも相当影響してますよね。
川辺 : かなり大きいと思います。やっぱりテイク選びはセンスが大事だし、そこは章義さんの審美眼がすごく影響してると思う。
大竹 : ギターについても最近は章義にいろいろ提案してもらってますね。今回のレコーディングでも、フレーズや音作りで悩んだ時なんかはいろいろ相談したし。
田中 : そう言われてみると、確かに最近は雅生が相談してくれるようになったかも。「ここは指とピック、どっちがいいかな?」とかね。
大竹 : 僕はその場の思いつきで予定外のことをやることも多いので、それが客観的に聴いてアリかナシかとかは、章義にも結構意見を聞いてますね。
田中 : でも、昔は俺の提案なんて聞いてくれなかった気がするよ(笑)。「俺が出したい音はこれ」みたいなこだわりがけっこう強かったと思う。
Nakayaan : それだけ今は信頼関係が深まったってことですね(笑)。
川辺 : 昔ほどのトガりはなくなってきたのかもね。
田中 : そう思うよ。特に『eye』の頃はセルフ・プロデュースってことをものすごく意識してたと思うんだけど、その感じも最近ちょっと薄れてきたというか。それこそ"Basic feat. STUTS" みたいに他の人と一緒にやってみたことで、今回のレコーディングではまた新しいものが見えてきましたよね。ここからミツメがどんな方向にいくのか、僕も楽しみです。
──こうして話を聞いてると、ミツメの作品はすべて章義さんとの共同プロデュースと言っても過言ではなさそうですね。
大竹 : うん。本当にそんな感じだと僕も思ってます。
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PROFILE
ミツメ
nakayaan 大竹雅生 川辺素 須田洋次郎
2009年、東京にて結成。4人組のバンド。
オーソドックスなバンド編成ながら、各々が担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。
そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしています。
■ミツメ公式ウェブ
https://mitsume.me/
■ミツメ 公式Twitter
https://twitter.com/mitsumeband